嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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現代の御伽噺

オオスは自身による自身のための月面戦争が終幕した。

オオスは妖精達が去ったその日のうちに人里へ向かって行った。

イーグルラヴィの部隊を一時的に預かって貰っていた稗田家、阿求に会いに行った。

 

 

オオスは人里で最も有力なお屋敷稗田家の一室に案内されていた。

今回は来たのはいつものお叱りではない。…共犯者としての報告を阿求へしていた。

 

「本当に海を作ったんですね…」

阿求は呆れたような、疲れたような顔をしてオオスへ言った。

 

「当然です。全てが万事計画通り行きました」

オオスは高らかに宣言した。相手を神と思わなければ会話もギリセーフだった。

月の民は全体的に地上の民を汚らわしいと関わりたくもないというのが多い。

今回、オオスはそういう類をなるべく無視していたので問題なかったと自分では思っている。

 

「私は月の戦闘部隊を連れて来るとか聞いていないんですが」

阿求はそう言ってオオスの後方で控えている鈴瑚と清蘭を見て言った。

阿求はオオスの共犯者ということもあり、イーグルラヴィの玉兎達は阿求へ礼節を尽くすよう振る舞っていた。

 

阿求は玉兎達の話を聞く中で気が付いた。大抵の玉兎は平和ボケで戦う前に逃げる有様だという話であった。

…鈴瑚達はそんな中で穢れを躊躇せずに危険な任務を熟してきたエリート達だった。

阿求はそんな存在を部隊ごと引き抜いて来たオオスの行為に呆れたし、驚いた。

鈴瑚達はオオスという絶対者が君臨したことにより、玉兎特有の職務に対する責任感のなさが一切なくなっていた。

 

月に攻め込んだレミリア達も鈴瑚達を見れば種族からして違うと見間違うに違いない。

月面戦争を見ていない阿求ですらそれを確信していた。

 

「何か問題でもありましたか?」

オオスは阿求の様子を見て尋ねた。

鈴瑚達が粗相をするとは思わないが何かあったのだろうかとオオスは思った。

 

「稗田様に粗相がありましたら、イーグルラヴィを代表して私達が謝罪を…」

鈴瑚はそう言って阿求へ謝罪しようとした。清蘭もそれに続いていた。

 

「いや、問題ないのですけど…」

阿求は世界観が違う存在を見ているようで困惑していた。

…鈴瑚達は隙のない月の超科学を有するエリート部隊と化していた。

 

「ああ、そうか。すみません」

オオスは阿求が鈴瑚達のような存在に慣れないのだと漸くわかった。

 

オオスが外の世界に居た頃は特殊部隊に関わることが多かったので気づかいを忘れていた。

…悪いことではないのだが、ちょっと気負い過ぎであるとオオスも思った。

 

なお、二人がオオスの護衛みたいになっているが、偶々である。

他のメンバーはオオスが斡旋した職業体験等に従事して貰っていた。

オオスとしては出来る事なら自分の仕事を手伝ってもらいたいと言った。

オオスも幻想郷に慣れた玉兎達に仕事を手伝って欲しかった。

…オオスは仕事を引き受け過ぎていた。自分の時間が少しだけ欲しくなったのだ。

 

オオスにはとっては何気ない一言だが、本気の本気で玉兎達は取り組んでいた。

…月にいる玉兎にはない凄まじい執念と熱意があった。

鈴瑚達からオオスの本心を聞いたから尚更である。オオスは客観視が足りていなかった。

 

更に、玉兎達は脱走前に月の技術や各種支給品を詰め込めるだけ詰め込んできていた。

オオスは玉兎達が思い出の品でも詰めているのかと思っていた。

それを聞くことは無粋なことだと思っていたので聞いていない。

…オオスはまだその事実を知らない。

 

「二人とも下がって貰って良いですか?阿求さんはどうも二人で話したいようなので」

オオスは少し申し訳なさげに二人へ言った。

 

「はっ!」

鈴瑚達は即座に下がっていった。実に見事な礼節を交えた振舞いであるとオオスは感心した。

 

鈴瑚達は阿求から稗田家直伝の作法を学んでいた。

普通の玉兎には欠ける礼節を踏まえた振舞いも可能となっていた。

…月の民も驚くこと間違いない。同じ見た目でも種族が違うと間違うだろう。

 

「すみませんね。…阿求さんはこういうのは慣れていませんでしたか」

オオスは阿求に謝罪した。オオスにとってかつての日常であったので素で言っていた。

 

「…外の世界ってとんでもないことになっているんですか?」

阿求は鈴瑚達の、忠義の姿勢を見ても左程動じていないオオスを見て尋ねた。

 

「いや、そんなことないですよ。平和ボケ大国なんて自虐ネタがあるくらいですし」

オオスは笑って否定した。実際、日本は一部を除いて極めて平和な国だった。

 

「貴方の言葉だとどうも信じ切れない…」

阿求はオオスの慣れすぎの姿勢から微妙に疑いつつも納得した。

阿求が見聞きしてきた他の外来人達は本当に平和ボケとしか言えない者達だったからだ。

 

阿求はロケットの祝賀会兼打ち上げ会で最近来た外来人、東風谷早苗とも会話した。

だが、少しズレているだけでオオス程ではなかった。

その際、早苗からオオスと他の外来人を比べてはいけないと言われた。

…阿求が早苗に聞いた話によれば外でもオオスは何かやらかしたらしい。

聞きたいが聞きたくないという相反する感情が阿求の中で渦巻いていた。

 

「月の調査部隊『イーグルラヴィ』の引き抜き、二つの異変、海の一部拝借」

オオスは阿求の様子を無視して今回の月旅行での成果を淡々と述べた。

 

「他にもありますが、これは聞かない方が良いでしょう」

オオスはそう締めくくって共犯者阿求へ報告した。

具体的には月と敵対したときに備えた数々の物だ。

月への特効兵器やばら撒いたある種の地雷、月へいつでも侵入可能な門の存在等である。

 

「…もう十分聞かない方が良かった部類の話を聞いてしまったと思うのですが」

阿求は心の底からオオスへ言った。…やると決めたのは自分なので後悔はしていないが。

 

「いやあ、月は酷いところでした。神々や天人が住んでいるなんて本当に碌でもない」

オオスは本心から言い切った。

神がいるだけでも碌でもないのに地上の民を道端のゴミ程度にしか思っていない。

 

「いやいや…それのどこが碌でもないんですか」

阿求はオオスの罰当たりな発言を戒めるようにツッコんだ。

 

「だって、あいつら基本的に地上の民をゴミ程度にしか思っていないんですよ。

 地上の民を全滅させる話とか大人気。そういう類の本が飛ぶように売れていました」

オオスは本当に碌でもない月の都での思い出を自然体で語った。

オオスは事前の潜入工作で月の都を何度も行き来していた。

 

「…聞かなければ良かった」

阿求は幻想をぶち壊されたショックで打ちひしがれた。

 

「…嘘ですよね?」

阿求はオオスに縋るように言った。だが、嘘はつくなとオオスに目で言っていた。

 

「…本読みますか?私何冊か買ったのですが」

オオスは阿求に残酷な真実を直接言わないことにした。真実は本に書いてあると言う。

 

オオスは月に行ってちゃっかり月のタブレット端末を購入していた。

月のベストセラーが数百冊程度入ったタブレットである。

オオスは月人に変装して自らの芸で稼いでいた。

 

オオスの芸の中では、能の『黒塚』が好評だった。

能の始まりは室町時代なのでオオスなりにアレンジした芸であったが。

黒塚は、親切心で修行僧を助けたのに鬼という理由で恩を仇で返された話だ。

月の民達は鬼風情が悟りを得て成仏したいなど甚だ滑稽だと笑っていた。

 

オオスは腹が立ったが自分の正体をバレるわけにはいかなかった。

なので、そいつらを磔にする程度で我慢した。何も問題なかったとオオスは思っている。

 

なお後日、この事件を知った綿月姉妹はこれがオオスの仕業だと看破した。

綿月姉妹はオオスが本当に月へいつでも行ける技術力があると悟った。

同時にオオスにせめてもう少し隠せ、非常識にも程があると思った。

だが、月の民に詳しく聞き取りした結果、そうされても仕方がないとも思った。

 

「結構です!…これ以上幻滅したくない」

阿求はオオスの遠回しな真実を聞かなかったことにした。

 

「…それと、塩屋敷の主人から貴方に渡すものがあるとのことです」

阿求は気分を変えてオオスへ報告した。

 

「…わかりました。後日取りに行くと伝えてください」

オオスは塩屋敷の主人があの『臼』を渡すと悟り、ホッとした。

 

オオスは流下式塩田の資料と道具を塩屋敷の主人へ持って行くつもりである。

よしずを使い海水を濃縮し、取り出す技術だ。オオスの家の周りの海で塩を取り出すのだ。

慣れるまで試行錯誤する必要があるだろうが、その間は臼で作成した塩を渡すつもりである。

 

あの臼があれば海の塩分が無くなる事は取り敢えずない。それ以外にも使い道がある。

止め方は昔話のやり方であっているはずだし、そうでなかったら最悪海に放り込めば良かった。

 

「何か聞いても良いですか?どうして塩屋敷の主人に声をかけたのかを」

阿求はネタばらしでオオスに教えろと迫った。…共犯者の特権である。

 

「ああ、あれは…」

オオスは阿求が知っても問題ない範囲で何故異変を起こしたのかを語った。

 

阿求はオオスの語る現代の御伽噺を興味津々に聞いていた。

オオスの話は無茶苦茶であり、滑稽で…何より優しい物語だった。

 

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