オオスはイーグルラヴィの希望もあり、オオスの自宅の近くに宿舎を建てることにした。
鈴瑚からの提案だったが、オオスも渡りに船だった。
…オオスの海を荒らしたりされると困るからだ。
オオスはかなり行動範囲が広くなったので色々手が回らない。
職業体験に従事していた玉兎達もオオスが月から帰還したので戻ってきていた。
玉兎達の話合いの結果、宿舎が出来次第当番制で監視するという話だった。
玉兎達は色々体験したが、やはり月の餅屋を営むとのことだった。
一番慣れていてかつ自信があるからだという理由なのでオオスも納得した。
他は塩屋敷の主人の従業員との折衝や海の監視等するとのことだ。
妖精達が海に遊びに来ても、オオスの客人として穏便に対処するとのことだった。
元々彼女達は穢れを躊躇しないにしても随分急に大丈夫かオオスは心配した。
妖精は月の住民にとって生命の塊であり、穢れそのものである。
…月に妖精がいないのも穢れを避けるためであった。
だが、結局は本人達の意思を尊重することにした。オオスは何であれ人の意思を尊重していた。
どんな選択だろうとも決して彼女達を見捨てはしない。…自分が不要となるまでは。
翌日の朝、オオス家にて鴉天狗、射命丸文がやって来ていた。
「…本当に海だわ」
文は言葉を失った。幻想郷になる前に見た海だった。
形は塩湖だが、磯の香までする気がする。…かなり薄いが確かにした。
文はこれがどうやってできたのかを知らない。
オオスの家にいきなり湖ができたというので文は取材を兼ねて見に来ていた。
文はオオスが個人的に暗躍するのでしばらく帰ってこないと聞いていた。
そのため、文はこの異常に気が付くのが遅れていた。
オオスの家は人里から妖怪の山の反対にあるのだ。言われるか来なければ気が付かない。
オオスは文々。新聞を一旦止めていた。
…本気で月に喧嘩を売るつもりなのでいつ帰るのかオオス自身もわからなかったのだ。
そのため、毎日留守であり、自宅にオオスはいなかった。
…文としても留守を知っていて通うのは空しかったのだ。
そして、文の知らない新しい存在がオオス家には待機していた。
「『こちら清蘭、不審な妖怪を発見した』」
清蘭が文を狙撃できる体制を整えていた。
清蘭は月の光学迷彩に身を包み無線にて仲間に伝えた。
「…!」
文は勘で清蘭の殺気交じりの視線に気が付き高く飛んだ。
幻想郷一早い文の動きを清蘭は捉えきれなかった。
しかし、
「『対象が急速に上昇。殲滅を図る』」
清蘭は月から掠め取って来た生命探知機により文の位置を特定した。
素早く動く文に対して弾幕射撃で応戦しようとした。
その時、屋敷の主人が異常に勘づいた。
「やあ、射命丸さん。おはようございます」
オオスが文を見上げて自然体で朝の挨拶をした。
…清蘭に敵ではないことを暗に示した。
人の家に妖怪が来ればそうなると今更ながらオオスは反省した。
「…何か凄まじい殺気を感じたのですが」
文はオオスに指摘した。雰囲気は異質ながらかなりの手練れであると感じた。
負けはしないが、厳しい戦いになっていたかもしれない。…何せ相手が見えないのだ。
平和ボケしつつある河童のようなら兎も角、実戦を摘んだ猛者の気配を文は感じていた。
「すみません。まだ、こちらに慣れていない子達でして…」
オオスは上司として部下の失態を詫びた。文が来てもおかしくなかった。
自分が入るうちで良かったと内心ホッとした。
「…清蘭。ここはもう戦場じゃないんだからそれ辞めてください」
オオスは呆れたようにスナイパーと化した清蘭へ言った。
オオスに月の光学迷彩は効かない。直に清蘭の目を見て辞めろと言った。
「申し訳ありません!閣下のお客様とは知らず…」
清蘭は光学迷彩を解除し、屋上からジャンピング土下座をした。
…凄まじい身体能力だとオオスは思った。やはり自力では勝てない。
オオスは道具に頼り、小細工するしかない現状に焦りを覚えた。
上司が弱いままでは、部下の手前よろしくないと思っていた。
オオスは思考を止めた。清蘭は気にし過ぎであるとオオスは思った。
…言っていなかったオオスが悪いのだから。
「いや、良いんですよ。射命丸さんだし」
オオスは清蘭にそこまで気にしないように言った。文だからセーフだ。
「私の扱い酷くないですか!というかこの女誰ですか!?」
文はオオスの首元に掴みかかって揺らすようにして問い詰めた。
…第三者から見てその光景は浮気の現場を目撃したような感じになっていた。
「私が月でスカウトしてきた元月の調査部隊『イーグルラヴィ』の清蘭です」
オオスは文に説明した。月でスカウトした人材だと言う。
「部隊…部隊って言いましたか?…大奥か何かですか!?」
文はオオスから聞き捨てならないことを聞いたので再度詰め寄った。
文は錯乱していた。オオスの家に女がいた。こんなこと今までになかった。
なお、実際はオオスが客人を招くような機会に恵まれなかっただけである。
以前、妹紅を招こうとしたことがあったが、危険物塗れの時期だったので辞めてた。
それよりもオオスは聞き捨てならないことを文が言ったことに気が付いた。
「それはセクハラだぞ!邪推は辞めろ!」
オオスは文に激怒して言い返した。
…上司の権限を利用して部下に言い寄る等セクハラ以外の何者でもなかった。
「宿舎ができるまで閣下の家に交代で宿泊させていただいています」
清蘭は文に平然と、だがどこか余裕の笑みで言い切った。
オオスは月の民にもセクハラの概念がキチンとあって何よりだとホッとした。
…違う。そうじゃない。
「糞!…私も部下になれば良いんですか!?」
文は戯言をほざいた。なお、文は半分本気である。
オオスは文が錯乱していると判断した。実際、文は錯乱していた。
「海の監視役なんですよ。まだできたばかりなので見て貰っていたんです」
オオスは淡々と説明した。邪推も甚だしいと暗に言った。
だが、文の耳から脳に入る過程で情報が錯誤を起こしていた。
射命丸文の脳内の変換機能は一時的に壊れていた。
「月から何盗ってきているんですか!?」
文はオオスに向かって叫んだ。
…自分は今まで入れなかったのにこの妖怪兎は入れるのかと激怒していた。
「ああ、面倒くさい!」
オオスは本心から叫んだ。本当に面倒臭かった。
「閣下の邪魔をするならば排除する」
清蘭は文を排除しようと戦闘の構えを取った。
清蘭は本気であった。妖怪ならば、まして主の邪魔者なら容赦しないとの姿勢を見せた。
「ああ、もう面倒だ」
オオスはもうキレた。この二人には何を言っても無駄であると確信した。
「…私は出かけてきますからその間に喧嘩していなさいな!」
オオスはそう叫んで、黄金の蜂蜜酒で転移した。
オオスの予定は決まっているのだから両者ともに邪魔であった。
「ああ!…おのれ久しぶりの再会に水をさし…」
文は清蘭にブチ切れた。再会を邪魔した無粋な兎に対して本気で戦闘の構えを取った。
しかし、
「何という失態を…」
清蘭は地に手足をつけてそう言った。
…今にも切腹でもしそうな雰囲気を醸し出している。というかしてしまいそうだ。
「…」
文は漸く自分の思っているようなふしだらなものではないと悟った。
…オオスはオオスだったのだ。
文は何となく清蘭に同情した。取り敢えず肩に手を置いた。
文を見上げる清蘭に首を横に振って応えた。