オオスは昼頃に自宅へ帰宅した。自宅前には清蘭がいた。
…どうやらずっと立って自分を待っていたらしいとオオスは確信した。
オオスは自分が怒り過ぎたと反省した。…清蘭が今の今まで立っていたのなら相当である。
「喧嘩は辞めましたか」
オオスは清蘭に尋ねた。自分はもう怒っていないということを態度で示しつつ言った。
「申し訳ありませんでした!この身に代えてお詫びを…」
清蘭は切腹でも言い出しそうな感じで謝罪し出した。
「いや、良いんですよ。反省してくれたのならば」
オオスは言葉を遮り、清蘭へ言った。
「月での任務を思い起こさせるようなことをして放置した私に原因があります」
オオスは自分の悪かった点を清蘭へ言う。
…清蘭がそこまで思いつめなくても良いと優しい口調で語りかけた。
「そんなことは…」
清蘭はオオスに悪いこと等ないと言いたげだった。
「あるんです。…そしてこの話は終わりにしましょう」
オオスはそれを遮り、話を打ち切った。
「…お互いに悪かったということで一旦、お昼ご飯にしましょうか」
オオスは清蘭に提案した。昼食の時間であった。
「は、はい!」
清蘭は随分お腹が空いていたのだろう。表情が良く、良い返事であるとオオスは思った。
…だから、それは違う。
清蘭達と昼食を取ったオオスはそれとなく身体能力向上について話したりした。
オオスは自分が糞雑魚であると認識していた。余りにも身体能力が弱すぎた。
大概、口上で誤魔化し、事前に相手を分析しているが、道具に頼り過ぎていた。
玉兎達からは仙果を食すると良いのではないかという話になった。
天界等で実る桃である。体を鍛える効果もあるらしい。
食べるだけで身体能力が上がるとのことだ。
…豊姫は桃ばかり食べていたと盗聴したがそういう意図だったのかとオオスは思った。
勿論月にもあるが、近くだと天界に多く実っているという話である。
冬でなければ山のついでに天界へ行ったのだが、今は冬だ。今にも雪が降れば危ない。
…オオスが地底に行きたいが行けない理由がそこにあった。
地底に行き来する存在がほぼ自分しかいないので地底までの道を整備する利が薄いのだ。
オオスは後日、月で仙果を購入することにした。月での芸で金はそこそこあった。
昼食が終わり、自宅待機組の自由枠が清蘭から鈴瑚に変わった。交代制であった。
オオスは鈴瑚に仕事を頼むことにした。
「塩屋敷へ行くのは伝えていましたよね?よしずと資料を持ってきて貰いたいのですが」
オオスは鈴瑚に仕事を手伝って欲しいと伝えた。
だが、
「…僭越ですが、閣下にお聞きしてもよろしいでしょうか?」
鈴瑚はオオスの、この手法に関して疑問だった。
…オオスは疑問があれば聞くようにと言っていたので鈴瑚は素直に聞くことにした。
「良いですよ」
オオスは鈴瑚の疑問を聞くことにした。
鈴瑚は情報管理という役職についていたこともあり機転が利くのだ。
オオスも疑問に答える事で参考になることが多かった。
「塩の抽出ならばもっと効率の良い方法があるかと存じます。
…何故このような非効率な方法なのでしょうか?」
鈴瑚としてはこれが疑問だった。
オオスはより効率的な方法を開発済みであった。
更に自分達の科学を用いれば外の世界に匹敵、或いは超える物の作成が可能だった。
「ああ、確かにイオン交換膜とかありますね」
オオスは鈴瑚の疑問に同意した。確かに方法は他にもあった。
「でしたら…」
鈴瑚は提案をしようとした。
しかし、
「でも、まだ早い」
オオスはそれを否定した。
…鈴瑚はどちらかと言うと神奈子に近い考えの持ち主のようだと悟った。
「ええと、どういうことでしょうか」
鈴瑚はより効率的な方法ではなく敢えて非効率的な方法を選ぶ理由が不明瞭だった。
「まだ幻想郷にはそういった科学を受け入れる土壌ができていないんです」
オオスは持論を説明することにした。土壌がまだない。
オオスとしては嫌だが、信仰という形での土壌すらない。
「魔法の類と解されてしまう。そうすると塩屋敷の主人も困ることになるでしょう」
オオスは魔が人里で受け入れられていない現状を玉兎達へ伝えていた。
魔法に関わったとなれば、塩屋敷の主人が困るとオオスは言った。
海から塩を採って来たのならギリギリセーフだとオオスは考えた。
「それにこのやり方ならば人手がいる。…雇用問題も解決できる」
オオスは塩屋敷の主人が気にしていた雇用の問題を解決するために考えていた。
「勿論、科学を受け入れる土壌ができたら清蘭の言うようなことをします」
オオスは鈴瑚のやり方はもう少し後にすると説明した。
順番は違うが鈴瑚の言う通りであると認めていた。
「その際に余った人手は別の仕事をできるように考えています」
オオスはそう締めくくった。科学の発達は雇用を奪って来た歴史がある。
それを防ぐのもまた科学の役目であるとオオスは考えていた。
反省は科学に先行するというのがオオスの考え方だった。…無論状況によりけりだが。
「そこまでお考えとは…失礼致しました」
鈴瑚はオオスの考えを理解し、了承した。
「…そこまで畏まらなくて良いですよ」
オオスは稗田家で礼儀作法を学んだとは聞いていた。
だが、常に自分へ敬意を払い、礼儀を崩さない玉兎達に少し無理をしていないか心配だった。
「では…このままだといつか海の塩が枯渇すると思うのですが」
鈴瑚はオオスの心遣いを汲み取り、敢えて少し崩して聞いた。
…そちらの方が好みならという打算もあった。
「あの塩屋敷の主人は塩を無限に生成できる臼を持っているのです」
オオスは敢えて言っていなかった事実を述べた。
…鈴瑚ならば漏れる心配はないと確信しているので言う。
「え、なんでそれを手放す必要があるんですか?」
鈴瑚は塩屋敷の主人が何故そんな便利な物を手放すのかと思い、思わず声を挙げた。
「止め方がわからなくてコントロールを失っているんです」
オオスは塩屋敷の主人の現状を述べた。人の欲望を加速させる恐ろしい道具である。
世界中の昔話に似たような『臼』の存在があった。
…幻想郷に来ていると確信していた。実際、塩屋敷の主人はそれを暗に認めていた。
「欲望をコントロールできないと人は心を病みます」
オオスは暗に自分は止め方を知っていると鈴瑚に言った。
「あの方は理性的だ。コントロールできないならできる者へ渡すべきだと考えていた」
オオスは塩屋敷の主人に敬意を払い言った。実際、中年過ぎの男性で年上である。
「ですが、代替手段がなかった。…そこで私の出番というわけです」
オオスは塩屋敷の主人の為にも自らの海を解放するのだと宣言した。
「…正直、閣下がそこまで気を使う必要ないと思うんですけど」
鈴瑚はオオスが気を使い過ぎているのではないかと思って言った。
オオスは人の為に働き過ぎであると鈴瑚は幻想郷に来て思った。
…自分のことを大分後回しにするのだ。睡眠時間すら三時間であった。
自主鍛錬もしているようだが、趣味ではなくオオスは義務感でやっていた。
塩屋敷の主人の自業自得にそこまで気を使うことはないと鈴瑚は思っていた。
「…無粋なことを言えば塩屋敷の主人は人里でも有力者に位置します」
オオスは鈴瑚の考えを否定しない。だが、自分に利があるのだと言った。
「恩を売っておいて損はない。それにその臼は使い道がある」
オオスは鈴瑚に合わせた回答をし、理解を求めた。
…それに臼の種類によっては塩以外も出せたりする。
塩しか出せなくともそれだけで宝物だった。
「…はい。わかりました」
鈴瑚はオオスの考えを理解した。
オオスはあれこれ理由をつけているが、塩屋敷の主人を心から心配していた。
「閣下はやはりお優しいのですね」
鈴瑚は誰に対しても優しい自らの主へ笑みを浮かべて言い切った。
主人が無理をしないように自分が力になれるように努力しようと改めて心の中で誓った。
…オオスはそれを言うと気に病むだろう。…鈴瑚は内心に留め置く。
「…私は欲深い人間ですよ」
オオスは鈴瑚の笑みに気をされつつ、自分は聖人君子等ではないと否定した。