綿月姉妹は地上からの侵略者と不可解な神々の召喚から月の都から疑われていた。
…もっともそれ以上の劇物、オオスの名が月の都中にいつの間にか轟いていた。
その為、綿月姉妹の疑いも隠れつつあった。だが、無くなったわけではない。
霊夢は月の往来でその日も神降ろしを行っていた。
「まだこんな事をしないといけないの?」
霊夢はもう良いのではないかと依姫に言った。
もはや月はあの馬鹿の話題で月が持ち切りなのだから良いのではないか。
霊夢はオオスが一体何をしたのかわからない。
だが、いつのまにかオオスの名は月の都でまるで恐怖の大王である。
…霊夢からすればあいつはぶん殴れば黙るのだが。喋る前に殴るのが最適解である。
「…まだまだ回るところはあります」
依姫は霊夢の言外の意図を読み取った。なので、一瞬言葉に詰まった。
だが、自分達の疑いを晴らすために必要な行為である。辞めるわけにはいかない。
今日来たここは特によろしくない区域なので依姫としては好きではなかった。
しかし、依姫は月の都の全域で神降ろしができる霊夢を見せつけて回る必要があった。
そのため、依姫もしかたがなくこの場所へ来ていた。
…早めに帰りたい気分なのは理由こそ違えども霊夢と同じだった。
「それに貴方は私に文句を言える立場ではありません」
依姫は霊夢に言い切った。敗れた者にあれこれ言わず働けと命じる。
「…しかし、今日は見物人が少ないわね」
霊夢は月の都にいつものように玉兎や月の民が集まらないことを疑問に思う。
「嬢ちゃんの神降ろしは凄いけどよ。今、49人連続勝ちの玉兎の棋士が月人と勝負してんのよ」
年老いた玉兎の一人がそう霊夢に言った。
「玉兎が月人に?」
依姫は玉兎と神とでは基本的に勝負にならないだろうと言った。
あるにはあるが滅多にない。
「それが、もう神様の何人かもやられていまして…」
老兎は月人、神である依姫に遜るように言った。
…自分はあまりよろしくないところに居る玉兎である。
玉兎は月の都の治安を維持する綿月依姫に目をつけられたくなかった。
だが、
「アー!…糞!糞が!!」
誰かが往来で罵倒していた。男の声であると霊夢はわかった。
「この声は…」
依姫は呆れた。声の主は知り合いの神だった。
素行の悪いので矯正施設行がほぼ確定している神である。依姫としても正直放っておきたい。
こんなところで何をやっているのかと思った。それだから矯正施設行なのだと依姫はため息をついた。
「ちょっと見に行きますよ」
依姫は霊夢を引き連れて行った。元々ルール違反をしそうな神である。
ここは勝負や賭け事がルールの特別区域だ。神であろうとそれを破る事は許されない。
依姫は勝負に勝ったであろう玉兎を守ろうと急いだ。
…正直、依姫も気は進まないがこれも仕事であった。
だが、依姫の予想とは異なる光景がそこにはあった。
例の、その玉兎は神を神と思わないかのような堂々たる態度でふんぞり返っていた。
「フフフ…。さあ、約束通り仙果百個。…耳を揃えて頂こうか」
玉兎は誠意を見せろと言わんばかりの態度で神に迫った。
「糞!…無効だ!インチキだろう。お前!」
月人は思わず玉兎に掴みかかろうとした。…それはこの場ではルール違反であった。
「やめなさい!」
依姫は月の都を守護する者としてルール違反の神を止めようとした。
だが、
「誠意を見せろというのだ!」
玉兎はふんぞり返って言い切った。
そして、神の足を払い、転ばした挙句にいつのまにか神を縛り上げていた。
…あれは手慣れているとしか思えない。
依姫はあれはただの玉兎じゃないとほぼ確信していた。
「…あんな月の兎もいるのね」
霊夢は心の底から驚いて言った。…兎風情が神をも恐れぬ暴挙である。
「…いるわけがないでしょう!」
依姫はあからさまに不信な玉兎を捕まえようとした。
…恐らく神の戯れか何かで玉兎に化けているのだろう依姫は思った。
だが、
「ふむ。待って下さいな。綿月殿」
玉兎は堂々たる態度で言った。…あの綿月依姫を一切恐れていない。
玉兎達はざわついた。命知らず。玉兎の希望の星等と遠巻きに騒いでいた。
…これだからここは嫌なのだと依姫は思った。
月の都でもこの一帯は無法地帯一歩手前なのだ。
「他の二柱はキチンと私に納めるものを納めたのだ」
玉兎は依姫にそう言って後ろを親指で指し示した。
その先には玉兎の言葉に頷いている神二柱がいた。
…この神も道連れだと言わんばかりであると霊夢は思った。
霊夢は随分毛並みが違う地域だなと感じた。
…そして霊夢はこの玉兎にデジャヴを感じていた。
「それなのに、この神だけ払わないのは筋が通らん」
玉兎はそう言って、他の玉兎から用意された椅子に深く腰掛けた。
更に、他の玉兎からの飲み物の差し入れを受け取っていた。
「ありがとう。同士よ」
勝者たる玉兎は差し入れをした玉兎へ礼を言った。
そして、受け取った飲み物を一気に飲み干した。
…何が入っているのかわからないものを、だ。
月の都を守護する綿月依姫の目の前でこんな暴挙をする玉兎はいなかった。
依姫は玉兎の矯正施設と化している自らの宮殿にいる覇気のない玉兎達を思い出した。
情けないが、これくらいの覇気のある玉兎でも入ればあの兎達も気が引き締まるのではないかと思った。
「さて」
玉兎は依姫の目を見ながら改めて仕切り直しとして会話を再開した。
「綿月殿ともあろうお方がここでの勝負に口を挟むのは筋違いでは?」
玉兎は神より偉そうに宣った。堂々たる態度でこの場のルールを述べた。
…霊夢の勘が囁くがやはり何なのかがわからない。
「…くっ!」
依姫は滅茶苦茶怪しいが、この玉兎の言う通りなのを認めざるを得ない。
…依姫は引き下がざる負えなかった。
下手に捕まえれば周囲の玉兎達…何より負けた二柱の神が騒ぐだろう。
今の時期は綿月家が疑いがまだあった。…騒がれて面倒な噂を流されたくなかった。
「さあ、誠意をみせてくださいな…神様!」
玉兎は自らに敗北し、縛られて地べたに転がる神へ言った。
「畜生…畜生!!」
敗北した神は勝利者である玉兎に屈した。
…仙果百個とか今月どう暮らせば良いのかと心の底から嘆いていた。
綿月依姫は霊夢と共に自分の宮殿へ帰宅していた。
「あんな月の兎もいるのね」
霊夢は依姫に心底驚いたように言った。
「…あの辺りは月の都の賭博場なのです。…ある種の治外法権なのよ」
依姫は月の治安を守る者として悔しそうに言った。
…あの場でのルール上は玉兎が正しかった。
そのため治安を維持する依姫は引き下がざるを得なかった。
「神の国にもそんなところがあるのね」
霊夢は意外だと言わんばかりに依姫に言った。
この宮殿の住民であるもう一人の月人が突然現れた。
…依姫は能力を使ったのだと分かった。
「逆よ。神の国だからあるのよ」
豊姫は霊夢にそう言った。
「お姉様!盗み聞きとは感心しません」
依姫は盗み聞きしていた姉に注意した。
「ここは神の国。だから色んな神がいるのよ」
豊姫は霊夢に説明した。神と言えども良き神ばかりではないと言った。
賭博の神等もいる。八百万と言うからに月の都も様々なのだ。
…とはいえ非情に少数派であり、何かあれば捕まって処罰される神であった。
「あそこはあそこで必要なのよ」
豊姫は融通の利かない妹に指摘した。
あそこがなければ存在を保てない神もいるのだ。
「へえー…」
霊夢は神様も神様で大変なんだなと思った。
「でも、月の兎に縛られてカツアゲとかありなの?」
霊夢は純粋な疑問として豊姫に尋ねていた。
「…それ本当?」
豊姫は心底驚いて言った。
…あの場の必要性を認識している豊姫からしても有り得ないどころの話でなかった。
「本当です。口が達者な兎でして…」
依姫はあの地帯でなければ捕まえてやると玉兎の顔を覚えていた。
…具体的には綿月家で矯正してやるのだ。
「…あー。多分、彼が貴方に会いに来たのね」
豊姫は玉兎の正体を確信した。
「…彼って誰かしら?」
霊夢は玉兎に知り合いはいないし、まだ月に滞在して数日であると思い言った。
「鈍いわね…依姫も何で気が付かないのかしら」
豊姫は思わず指摘した。そんな玉兎がいるわけがない。
依姫はあの地帯の大枠しか知らないので不審な玉兎としか思っていないのかもしれない。
豊姫は姉として妹依姫に、その玉兎の正体を教えてあげることにした。
…それを聞いて依姫が怒り狂ったのは言うまでもない。
あの男、どこまでも神を馬鹿にし過ぎである。