嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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月の石

幻想郷の境に存在する博麗神社。紅葉は失われ、雪白粉というような風景が広がっていた。

…季節は間違いなく冬になっていた。

 

まだ博麗神社に紅葉があった頃に住吉さんロケットは出発した。

住吉月面侵略計画であったそれは侵略部隊の全滅(死んでいない)により終結した。

 

その閑散とした博麗神社に箒にまたがった黒魔女然とした少女が訪れていた。

 

「…今日も来ていないみたいだな」

霧雨魔理沙は今日も霊夢が帰ってきていないことにガッカリしていた。

 

「何で月の都の連中は霊夢だけ帰さなかったのか…」

魔理沙は霊夢が拷問でも受けていないか心配だった。

そのため、暇があれば帰っていないか見に来ていた。

 

魔理沙が賽銭箱の上に腰掛けた時、一筋の風が舞った。

 

風は実体となり、実体を伴い男が現れた。

 

「…霊夢さんなら元気にしていましたよ」

男、オオスは魔理沙の悩みに答えた。

…魔理沙が心配しているだろうと忌々しい神の社を見に来てみれば案の定であった。

 

「…うお!相変わらず突然現れるのな」

魔理沙は考え込んでいたので突然のオオスの来襲にいつも以上に驚いていた。

 

そこにまた第三者が現れた。

「あれ?二人とも霊夢さんを訪ねて来たんですか?」

そう言って現れたのは白い冬服に身を包んだ守矢神社の風祝、早苗であった。

髪は纏めずにストレートにしていた。雪と相まって清純さを感じさせる姿であった。

 

「ああ、早苗か。分社の手入れか何かか?」

魔理沙は霊夢が小さく作った祠のような守矢神社の分社を見て言った。

 

「そうですね。霊夢さんもいないかと見に来たのもあります」

早苗は魔理沙の言葉に同意した。

霊夢を見に来たのもある。だが、霊夢は分社の手入れをしない。

そのため、早苗はそれとは関係なく定期的に分社を見に来ていた。

 

「この分社、博麗神社よりも祈る人多いですからね」

オオスは分社ができてから博麗神社に参拝する人間が増えた事実を指摘した。

オオスとしてはその事実は忌々しいが人里の為である。

 

「それは言ってやるなよ」

魔理沙は思わずオオスへツッコんだ。

 

守矢神社の御利益は風雨の守り神、五穀豊穣、武運等々あり、里人からも好評であった。

…御利益がコロコロ変わるよくわからない博麗神社より拝まれていた。

 

「そうだ。霊夢がどうしたって?」

魔理沙はさも思い出したかのように、だが、内心ではこれ以上ない程真剣にオオスへ尋ねた。

 

「ああ、そうだ皆さんにお土産を」

オオスは魔理沙の内心を慮った。

…何せ親友が月の都等という糞みたいな神々のいるところにいるのだ。

 

オオスは魔理沙を落ち着かせるため、お土産で場を和ませることにした。

 

「…なんだ?桃か?」

魔理沙はオオスから渡されたお土産とやらを見て言った。袋には桃が何個か入っていた。

 

「これは…もしかして」

早苗は思わず呟いた。この間話題に桃が出てきたのを思い出す。

最近、守矢神社の近所にいるある人物が桃について言っていた。

 

「仙果です。月の都で神々から巻き上げてきました」

オオスは極々ありふれたような口調で言った。

 

…魔理沙の悩みを一時的に消せれば良いなと思いつつ。

 

「…相変わらず滅茶苦茶なのな」

魔理沙は一瞬、霊夢のことが消し飛んだ。神々から巻き上げたとか無茶苦茶である。

 

「え、…え?」

早苗は情報が追い付かない。…オオスは一体何といったのか。

 

「神奈子さんなら喜ぶと思いますよ。なんせかつての怨敵から巻き上げたんですから」

オオスは神としてではなく、個人的な思いを共有できる存在として言い切った。

神奈子ならこのオオスの思いが理解できるだろうと確信していた。

 

…神奈子が忌々しい神であるのが気に食わないが。

 

「月の、いや、高天原の神々から巻き上げたと伝えてください」

オオスは神奈子にわかるように言った。神奈子にとってこれほど嬉しい土産はないだろう。

 

「は、はぁ」

早苗は今一つオオスの意図がわからないので、困惑しながら桃を受け取った。

 

「…それで霊夢がどうしたんだ?」

魔理沙は落ち着いて霊夢についてオオスに尋ねた。

…オオスは無茶苦茶をすることで自分を落ち着かせたのだと理解した。

 

「月の都で神降ろしさせられていました。それ以外は豪勢な生活でしたよ」

オオスは霊夢が罪人とは思えない程の歓待を受けていたのを思い出して言った。

…オオスは幽々子達も探していたのだが、見つけられなかった。それが心残りだった。

探すこと自体無粋だとも思ったので、結果的に良かったのかもしれない。

 

「恐らくですが、後一週間程度で帰って来ると思います」

オオスは霊夢の行動を予測し、言い切れた。そのため、帰って来た次第だった。

最低限の仕事というか確認はできたのだ。

サグメにも挨拶しようと思ったが、逃げ切れない可能性を零にできなかった。

サグメの能力は厄介なので対策が少し難しかった。次行くときは会えるようにしたい。

 

「本当か!嘘じゃないよな!?」

魔理沙はオオスの言葉に食いついた。

落ち着かせていたので何もないが、下手したら首元を掴んで左右に振り回していただろう。

 

「私が嘘ついても利はありませんよ」

オオスは魔理沙を宥めるように言った。

 

だが、

「…オオスさん、月に行き来出来るんですか?」

早苗がオオスの発言に食いついて来た。…オオスも想定外の食いつきようである。

 

「ああ、そうか。早苗は知らないのか」

魔理沙は早苗にあったのはロケット発射式が最後であった。

…何も知らないのも当たり前かと思った。オオスの無茶苦茶を、だ。

 

「こいつ一人で月に行き来できるみたいなんだ。…どうやってるのかは知らんが」

魔理沙はオオスが月を行き来できることを説明した。

 

…同時に犯人オオスが現場に戻った挙句、潜伏して良く捕まらないなと思った。

魔理沙が月の都で会ったのはあの姉妹だけだが、滅茶苦茶である。

 

「す、凄いじゃないですか!」

早苗は感動していた。月に自由に行き来出来るというのは早苗の琴線に響きまくっていた。

 

「…そんなに食いつくことか?いや、凄いけどさ」

魔理沙は早苗の食いつき具合に困惑して言った。

…依姫からは紫も月へ行き来できると聞いていたから早苗ほどは驚かなかった。

 

「だって、アポロ17号以来40年以上成し得ていない有人探査ですよ!?」

早苗は大興奮で魔理沙に話しかけた。…オオスは魔理沙にそれは伝わらないとツッコんだ。

 

「神からカツアゲしたとかはツッコまないのにそれには食いつくのな」

魔理沙は早苗の言うことはわからない。

だが、オオスの行為を思い出して、巫女としてそれで良いのかと思った。

普通、食いつくところが違うのではないか。

 

「それよりも早苗さん、何で仙果に反応したんですか?」

オオスは早苗の反応で気になる事があった。

…早苗を落ち着かせるためにも話題を変えようと言う意図もあった。

 

「正直、あんまり神社に関係ないと思うのですが…全くではないけど」

オオスは仙果に食いついた理由が微妙に気になっていた。

 

しかし、

「月かー…行ってみたいなぁ」

早苗は夢心地である。オオスの発言を聞いていない。

 

「聞いてないぜ」

魔理沙は呆れて言った。…早苗は自分の世界に逝ってしまった。

 

「…月の石あげましょうか?」

オオスはぼそりと呟いた。そして懐から月の石を取り出す。

 

外の世界でおなじみの月の石である。オオスは表の月も探索し、ついでに採取してきた。

パチュリーへの土産であるが、食いつき具合から早苗にもあげることにした。

オオスは夢の世界に手当たり次第、放り込んだのでかなりの量もあった。

 

「良いんですか!?」

早苗は現実に即座に戻って来てオオスに迫った。…というか石を掴んで離さない。

 

腕が痛いとオオスは思った。…月の都で仙果を大量に食してこの痛さである。

多分、仙果を食べていなかったら腕が千切れる程痛かったに違いないとオオスは思った。

 

「こんな石ころに何で食いつくんだ?私みたいな魔法使いでもないだろうに」

魔理沙は早苗の反応に困惑して言った。

 

魔理沙からすれば魔法使い以外にとってはただの石ころである。

それも一部の魔法使いである。大方、パチュリー辺りの土産だろうと魔理沙は思った。

精霊魔法を使うパチュリーならば、月の魔法の増幅効果は間違いないだろう。

 

「外の世界ではこれ一つで国の威信が示せる程の価値があるんですよ」

オオスは魔理沙へ説明することにした。

実際、某お米の国は大阪万国博覧会で国威をかけて月の石を展示したことがあった。

 

「マジか」

魔理沙は絶句した。見た目こんな石ころに外ではそんな価値があるのかと思った。

 

「本当ですよ。…ありがとうございます!やった、やった!」

早苗は魔理沙に同意して、ぴょんぴょんと兎のように跳ね回って喜んでいた。

 

「すげえ喜んでいるな…」

魔理沙は早苗の喜び具合に引いた。喜び過ぎである。

 

「あんな石ころですが、こちらの価値に換算すると四千円くらいです」

オオスは魔理沙に説明した。こちらの金銭に換算すると結構な邸が建てられる。

 

「え…マジか」

魔理沙は再度絶句した。外の世界の価値観の相違をここまで感じたことはない。

 

「魔理沙さんもどうぞ。大量に採取してきたので」

オオスは魔理沙にもあげることにした。パチュリーにもあげるが魔理沙も喜ぶだろう。

 

「…やっぱり無茶苦茶だな、お前。有難く頂くけど」

魔理沙は外での月の石の価値を聞き、それを平然と扱うオオスに呆れつつ受け取った。

 

「どういたしまして」

オオスは魔理沙へ優雅な礼をもって返した。

 

「あ、そうだ。すみません早苗さん。戻ってきてください」

オオスは早苗に聞きたいことがあったと思い出し、言った。

 

「あ、はい!何ですか?今なら何でも言うこと聞きますよ!?」

早苗は本気でそうしそうな程喜びを表して言った。何せ月の石である。

…早苗にとって夢が叶ったも同然だった。

 

「そういうことを年頃の女性が言うもんじゃありませんよ…」

オオスは心底呆れたように早苗に言った。

早苗は見目麗しい。…もし、自分が本気にしたらどうすると思った。

 

「そういうところは常識的なんだな」

魔理沙はオオスの非常識さと比して紳士的な側面を見て言った。

 

「当たり前でしょう。外ならセクハラですよ」

オオスは心底失礼なことを言うなと思いつつ、魔理沙に忠告した。

 

「むー…割と本気だったんですが」

早苗はこの感動を共有できないことを惜しんだ。

 

…実際のところ、オオスは早苗の感動を結構共有できる。何だかんだで価値がわかっていた。

早苗が現人神でなければ一緒になって騒いでいただろう。

 

「それよりも」

オオスは早苗の問題発言を流した。

 

「おい」

魔理沙は思わずツッコんだ。…男として枯れ過ぎでないかこの男と思った。

 

「何で、早苗さんが仙果に反応したのかなって気になりまして」

オオスは再度聞き返した。あんまり興味なさそうだと思っていた。…神奈子なら兎も角。

 

「…ああ、そう言えば守矢神社の近くに仙人様がいたんですよ」

早苗は山の仙人を思い出して言った。神秘の存在である。

早苗も敬意を持って接していた。その中で仙果の話にもなったのだ。

 

「へえ、仙人なんていたのか」

魔理沙は早苗の話に仙人なんていたのかと興味をもった。

…何か珍しいものをもっていないかと思った。

 

「そうなんです。片腕の仙人様なんですが」

早苗は仙人の特徴を思い出すように言った。

 

「…片腕?」

オオスは反応した。…仙人ならばオオスが見逃していたのかもしれない。

 

オオスの捜索の対象外だった。妖怪の山はそこまで頻繁には入れない。

オオスがこれまで見逃しても仕方がない。

 

「早苗さん。その話詳しく聞かせて貰えませんか?」

オオスは目的の存在がようやく見つかったかも知れないと思った。

…同時に、その仙人が改心していないことを願っていた。

 

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