オオスは天魔の術により自宅前に転移されていた。
それは一瞬であったが、かつて小野塚小町が行使した能力とはまるで別物であった。
…天魔の術を直接体験することができたオオスはそれを理解した。
問答無用であり、それこそ神の権能に等しい術の行使だとオオスは分析した。
再現不可能だろうと直感が言っていた。…あれは本当に天狗になりでもしないと不可能だ。
「…経験は学問に優るな」
オオスはそう呟いた。
オオスは古代天狗語の文献にも存在しなかった天魔の術の粋を体験した。
恐らく、今の幻想郷で誰も見聞きしていない奇跡の類だとオオスは確信していた。
オオスが体感した限り、天魔の権能はあらゆる移動系の能力や術を超えていた。
天魔はその気になれば月でも銀河の果てにでも行けるのだろう。それも一瞬で、阻害もできない。
天狗の頂点としての振舞いからそれをする気がなく自らに枷や制限をしているだけだ。
…オオスが天魔と同じことができればあらゆる行為が可能だった。
天狗の頂点である天魔。…オオスは自分の想像の上を行くものを見て、そして体験した。
「経験なき学問は、大きな確信を与えない。…私は知った気でいた」
オオスは自らの驕り、慢心を口に出し反省していた。
オオスは天魔という存在から大きな物を学んでいた。…オオスが求める力の在り方だ。
仙果を食し、オオスは霊力を持て余しているのはある。それを無駄にするのは勿体ない。
それ生かす術の類の習得や修行は勿論必要だった。
妖怪の山の中腹にある大きなケヤキの木の仙界。冬が空けたらそこへ訪れるのは変わらない。
忙しい冬の鈴奈庵にも訪れる必要がある。阿求の知識や文献を借りる必要もあるだろう。
…だが、それと同時に自らの力を先鋭化させる方向も目指す必要があるとオオスは思った。
オオスは人間である。普通は天魔のような力の行使は無理だろう。
オオスは人間の可能性を信じてはいるが、現実も見ていた。
尖った能力は強い。だが、対策も容易でもあることがほとんどだ。
オオスは研鑽によって使える術や技術は多い。
それにより汎用性あるが、基礎性能が弱過ぎた。
仙果を食すようになる前、つい最近までオオスは霊夢にワンパンで殺される程度には弱かった。
今でもワンパンで殺されることはなくても、近いだろう。…何と虚しいことであろうか。
反面、自分の権能に該当する存在は神であろうが何だろうが問答無用で無効化できた。
正確に言えば、オオスは条件を満たせば善の存在も無効化できる。
例えばではあるが、オオスは聖徳太子等の存在を問答無用で無効化できた。
…聖徳太子は人から崇められている善の存在であるが、オオスは無力化可能であった。
オオスが鈴瑚に語ったことは本当であった。
だが、オオスのは強さではない。ただの後天的な能力、権能であった。
要はオオスはピーキーが過ぎるのだ。使えるのは限定的に過ぎない。
その為に、オオスは月の民に条件を満たさない限りは絶対に勝てない。
天魔の基礎性能は天狗の頂点であり、神に準ずるとオオスは推察した。
そして、その能力は特化し、神をも超えるだろう。さらに汎用性がある天狗の術が使える。
これこそオオスが求める強さだった。オオスは目標となる存在とその指針ができた。
オオスは天魔に感謝していた。…自身の研鑽の道標になった彼女には万感の思いである。
オオスも知らぬことであるが、天魔の権能である導きは『求める力』に反応してしまった。
…オオス自身の根本的な、四季映姫が問うた課題の解はまだ先になりそうだった。
オオスの帰宅を感知した清蘭は即座に光学迷彩を解き、オオスへ駆け寄った。
清蘭が最後に月から盗んできた装置の一つを用いてオオスの生命反応を検知したのだ。
オオスが清蘭の装置を阻害する気がないから検知できるのだが。
「閣下!ご無事でしたか!?」
清蘭はオオスの無事を知らせる念話を勿論受信していたが、心配で気が気でなかった。
何せ、あのオオスすら想定外の事態になったということだった。
…オオスが月へ再潜入するという話の中でも想定外という言葉を用いたことはなかった。
「すみません清蘭。…心配をかけたたようで」
オオスは清蘭の様子を見て、心配をかけたと心から謝罪した。
…自分の考え無しの馬鹿が原因と知ったら清蘭達はどう思うだろうと本当に反省していた。
「皆も心配しておりました。…本当に良かった」
清蘭は心からオオスを心配していた。
…自分達がオオスを止める事は不可能でも心配だったのだ。
昨日はイーグルラヴィ玉兎達や人里に住む隠れ信徒達、弱小妖怪の皆で祈りを捧げていた。
オオスは自分が好き勝手にやればやる程、自分へ信仰が集まっていることに気が付かない。
オオスは人里の近くに海まで持って来た。それ以外にも冬を春にし、様々な芸に長けていた。
…迷信深い人里の里人じゃなくても、神に近しい存在と崇められるのに十分過ぎた。
河割異変や博麗神社に直接晴れにするという蛮行のせいで、弱小妖怪にまで信者がいた。
…鈴瑚を始めとした玉兎達はオオスにバレないように教団を設立していた。
オオスが夢の世界に自分達イーグルラヴィを匿っていた間に教団の中身を練っていた。
オオスが月へ潜伏している間等家を空けている時。
それ以外にも自分達の休みがあればオオスの隠れ信者、つまりは自分達の同士を見つけて保護していた。
元イーグルラヴィの玉兎達の行為は、オオスにバレればそれは激怒するだろう。
だが、信仰とはどんな弾圧があろうとも抑えられない物であると鈴瑚達は悟っていた。
その為、信仰をどうしても抑えられない選りすぐりの信心深い同士達を玉兎達は集めていた。
…しかも、オオスに祈れば実際に加護があったのだ。オオスはやはり神だったと信者達は確信していた。
前にオオスは塩屋敷の主人を訪れた際、臼の瘴気に鈴瑚がよく耐えているなと思っていた。
だが、それはオオスの加護による物が大きかった。鈴瑚達はオオスの神としての加護を検証した。
玉兎の、月の科学的な手法を用いて、オオスの加護を論理的に導き出していた。
オオスの加護は瘴気等の狂気への耐性と盗人等犯罪に対する保護等だった。
オオスの加護があれば魔法の森を問題なく歩けるし、犯罪に遭うのが激減した。
弱小の妖怪は勿論人里の里人にとっても有益な加護であった。
鈴瑚達もまだわからないが、それ以外にも加護があると思われる。
…オオスにバレないように検証しているので不明なところが多かった。
オオスは他者の宗教に口出ししないし、部下の休みに干渉することは控えていた。
そのため、どんどん自体が悪化し、教団が大きくなっていることをオオスは知らない。
月に潜入工作し、魔法の森、紅魔館、妖怪の山等々オオスは人里にいないことが多すぎた。
冬の間は紙芝居をしないと決めているのでなおのことだった。
…善良なる里人が聞いて呆れるくらいオオスは滅茶苦茶であり、自業自得でもあった。
「今日はもう家に居ようかと思います。正直、気疲れをしてしまって…」
オオスは清蘭に言った。気が付けば夕暮れになっていた。
だが、そう言いつつもオオスは守矢神社で観測した妖怪の山の鳥観図等の情報を纏める。
天魔の術の一端を検証する等、様々なことをする気満々だった。
清蘭達もオオスが家にいるというのは、家で研究や研鑽をするということがわかっていた。
「はい!…では、お茶を入れておきますね」
清蘭はオオスへ言った。その姿は客観的に見て実に健気なものだった。
清蘭達はもはやオオスに無粋なこととして、オオスの研鑽を指摘することはしない。
だが、出来得る限り、オオスの助けになるように動いていた。
それは、オオスの望みとは大分離れていた。しかし、それは完全に善意から来るものだった。
オオスは善意による攻撃に弱い。今朝、神奈子が天狗を呼んだ時と同じであった。
…オオス自身の根本的な、四季映姫が問うた課題の解はやはりまだ先になりそうだった。