紅魔館の謁見室でオオスはレミリアに謁見という名の挨拶をしていた。
レミリアの側には咲夜が控えており、珍しいことにパチュリーも図書館から出て来ていた。
「今回は月に再度潜入して神々から巻き上げた金でお土産を買ってきました」
オオスは挨拶も早々にレミリア達へ究極の罰当たりを報告した。
そう報告するオオスの顔は実に晴れやかであった。
「…霊夢のことを聞こうと思ったけど、想定外過ぎてちょっと反応に困るんだけど」
レミリアはオオスの滅茶苦茶具合に流石に困惑した。
悪魔であるレミリアもオオスの行動に少し引いた。
オオスは霊夢の様子を見に行くという話、予測をパチュリーから聞いていた。
…だから、霊夢の様子を聞こうと思っていた。
パチュリーはオオスの様子を見たいということでわざわざ図書館から出て来ていた。
…パチュリーは何か嫌な予感がしたのだ。玉兎達を引き抜いたことはオオスなら仕方がない。
だが、この月面戦争がオオスに良くない影響を与えたように感じたのだ。
「でも、神から巻き上げるのは良いことだわ」
レミリアは喜びを見せて言った。…オオスと波長があってきたのは良くない傾向である。
レミリアはオオスに思考を汚染されつつあった。
「今回はちゃんとフランドールさんにもお土産があるんですよ。直接渡しに…」
オオスはフランドールにお土産を渡す許可をレミリアに取ろうとした。
「それは駄目よ」
レミリアは即答した。…オオスはオオスであるとレミリアは正気に戻った。
「…ちなみにどんなものなのかしら」
レミリアは即拒否は過ぎたかと思った。
…一応、どんな土産を渡す気なのかを尋ねることにした。いやな予感しかしないが。
「この冬、私忙しいので代わりに家庭教師をやってくれる人形を…」
オオスはレミリアの許可の元に説明を開始した。
オオスは未だに狂気の妹フランドールの家庭教師を諦めていなかった。
だが、オオスはこの冬大変忙しい。そこで月の技術を用いて、オオスの代役を作成したのだ。
「却下よ!…却下!却下!」
レミリアはオオスを妹に感染させるわけにはいかないと全力で拒絶した。
「Talking Doll In Lunatic Asylum。折角私が丹誠込めて改造したのに…」
オオスはがっかりした。フランドールの為だけにオオスは頑張ったのだ。
元になったのは、破損しても自動で修復される月の人形だ。
そして、中のAIにオオスの、善良なる里人の思考パターンを入力し作成したのだ。
「精神病院の会話人形…隠す気が零ね」
パチュリーはオオスへ苦笑いをした。
…オオスはフランドールを洗脳教育することを人形の名前からして隠す気がなかった。
「パチュリーには月の石を、精霊魔法の月に相応しい」
オオスはそう言って亜空間から巨大な月の石を取り出した。
オオスの横に突如、オオスより二回りは大きい月の石が出現した。
なお、月の石はオオスの夢の空間にまだまだある。
…それはオオスの研究資料用その他に用いる物だった。
「あら、ありがとう」
パチュリーはオオスのお土産を素直に喜んだ。
精霊魔法を使う魔法使いに取ってこれ程嬉しい土産はなかった。
「…ちょっと待って。ねぇ、今どこから出したのかしら?」
レミリアはオオスがまた新しい能力を開発したのかと恐怖した。
今日のレミリアはオオスから抜け出し、自身の正気を取り戻しつつあった。
だが、これは元々オオスの権能であった。
神奈子との戦闘では急造を強いられたので杜撰な形になり、ドレミーと出会ってしまった。
レミリアとの謁見室までには時間があったのでオオスはこういう形で取り出せたのだ。
オオスの能力は元からであり、レミリアの心配は遅すぎた。
「これは元々使用可能な私の収納空間です」
オオスはレミリアに言い切った。…月で異変を起こしたオオスはもう隠す気がなかった。
「私の空間を操るのとはまた違うわね…」
咲夜はオオスの能力の行使を見て呟いた。オオスの行使した力は咲夜の能力とはまた違う物だと悟った。
…咲夜は自らの能力で紅魔館を拡張していた。そのため紅魔館の外観に比べ内部が広く見えるのだ。
「もうパチュリーに気が付かれているようなのでぶっちゃけますが」
オオスはこの際、多少自分の能力を打ち明けることにした。
天魔と出会ったことによりオオスは方針を少し変えた。
自分の能力・技能を隠すのではなく、打ち明けることで学びになるのではと思ったのだ。
例えば、咲夜の時空間を操る能力は人の域を超える能力である。オオスも興味があった。
パチュリーは紅魔館にある広大な図書館を把握する程の様々な知見の持ち主だ。
…オオスの能力を向上させる方法を知っているかも知れないと思った。
それはオオスが紅魔館の面々を信頼しているからであった。
そうでなければこんなことはしない。
「私の空間は戦闘部隊が生活できる程広いのです」
オオスはイーグルラヴィの玉兎達をどこに隠していたのかを明かしていた。
そして、レミリア達も気が付いていた。オオスは自分達を心から信頼しているのだ。
…そして、何かがあった。誰かがオオスに影響を与えたと悟った。
パチュリーと咲夜は更に勘づいた。二人は永遠亭の輝夜とかいう前座とは違う強敵を見た。
「外では特殊部隊を隠して、いきなり戦地に出現させる等していました」
二人の内心等知らないオオスは自らの能力の、本来の運用法をレミリア達へ明かした。
…そして、綿月豊姫はオオスと同じことが出来るのだ。
豊姫はどこにでも大軍を転移可能であった。
豊姫は空間転移という点でオオスの上位互換である。
今回の月面戦争がオオスの想定する最悪の、本格的なものならば、月の精鋭が突如幻想郷へ出現しただろう。
最悪、豊姫の妹依姫等の特記戦力達との交戦を強いられることになった。
オオスはそれが起きないか不安であり、紫の安全な月面戦争に乗っかったのだ。
外で冒涜的な怪異から隠れながら一人で進んでいたオオスからしたら豊姫はチート過ぎた。
しかし、オオスはイーグルラヴィを生活させることが可能だ。
オオス的には豊姫に負けていないと思っている。
…オオス本人の基礎性能が糞雑魚なので能力の前に素で負けるとも悟っていた。
だから、月面戦争時には、オオスは言葉と月への異変で、豊姫を月に追い返したのだ。
「何それ!チートじゃない!?」
レミリアは思わず叫んだ。紅魔館の長として、吸血鬼の頂点として脅威がわかった。
…オオス一人いれば戦争が変わる。何せオオスは認識不能に、消えることが可能なのだ。
レミリアはそのような事実を明かしたオオスに衝撃を受けた。
…どれ程信頼しようとも普通は明かさない能力の類であった。オオスの変化に絶句した。
「外では狂気が効かない私が一人で突貫していました」
オオスは淡々と自らの過去を明かす。
オオスの権能は自らの正体を隠しつつ、行使することが可能だった。
味方すら十にも満たないような子どもを酷使していたと気づかない程完璧な隠蔽だった。
それで裏切られたのだ。それもいとも簡単に。…正体不明の恩人を彼らは裏切った。
「…部隊が狂気を直視せずに火力の一斉掃射で戦局を変えることが可能です」
オオスは苦い外での思い出を思い返して気分を悪くした。
…自分で言いながら辛くなってきた。
「…大丈夫?」
咲夜は従者としての振舞いを崩してオオスを心配した。
…それくらいオオスはおかしかった。
「何があったのか知らないけど、言いたくないなら言わなくて良いのよ」
パチュリーはオオスの心境の変化が急激過ぎたのだと悟った。
…隠すことより明かす方が良い方向であり、傾向である。だが、オオスはいつも極端過ぎた。
そして、
「…私は貴方を利用したりしないわ」
レミリアはオオスの目を見て断言した。オオスの過去をレミリアは知らない。
だが、言い切った。レミリアはオオスをそのような形で利用しない。
…そこには紅魔館の主とか、吸血鬼以前に、個人としてのレミリアがいた。
「…失礼を」
オオスはレミリア達の反応を見て、自らを取り戻した。
ここまで心配させるとは何たる醜態かと己の不甲斐なさを恥じた。
「…考えがあったのですが、我ながら極端が過ぎました」
オオスは思わず言葉を漏らした。
自らの力のなさと求める力の差が大きすぎた。…オオスは自らの心を悟った。
オオスは月へ霊夢が連れ去られる形となるこの月面戦争に衝撃を受けていた。
紫の策がわかった瞬間、オオスは自らの力のなさを心から悔いていた。
霊夢の神降ろしを月に露見させる作戦は綿月姉妹の性格を熟知している紫にしかできない。
オオスならばそんな、霊夢を危険に晒すような策を採れなかった。
だから、永琳との問答で、この月面戦争を手に爆竹を握るような物だと溢してしまっていた。
…オオスは月へも八つ当たりをしていたと漸く悟った。
「私は力がない。…どうやってもない。それを得る為に一人で悩んでしまっていた」
オオスは自ら明かした。それは心からの本音であった。
「申し訳ありません。我ながら醜態が過ぎました」
オオスは心から詫びた。…レミリア達を利用して力を得ようとしたと暗に述べていた。
「…霊夢のことならアンタのせいじゃないわ」
レミリアはオオスへ言った。…オオスは霊夢のことを悔いているのだとわかったのだ。
秘密主義者が奥の手を開示する程、急に過激な程に力を求める原因等それしかなかった。
「…」
咲夜も黙ってしまった。オオスはどれだけ自分達を心配していたのかを悟ったのだ。
オオスは滅茶苦茶ではあった。
だが、彼なりにできる範囲で努力しても届かぬ物を求めてしまったのだと感じた。
「蝋で出来た羽で太陽を目指しても落ちるだけよ」
パチュリーはオオスに諭すように言った。…紙芝居屋ならばこの喩の方が良いと思った。
「…そうですね」
オオスはその言葉で自らを取り戻した。今の自分は×××××ではない、オオスだ。
幻想郷の、善良なる里人にして紙芝居屋のオオスなのだ。…オオスはそれが嬉しかった。
「では、咲夜さんへのお土産を紹介したいと思います!」
オオスは急激に回復して咲夜の土産を紹介することにした。
「…だから、極端なのよアンタは!」
レミリアはオオスに思わず叫んだ。…オオスはいつもツッコミが追い付かない男であった。
「これは外の世界でいうならばル〇バ。自動掃除機です」
そう言ってオオスは円盤状のルン〇を取り出した。月の特別製だった。
「これさえあれば掃き掃除は勿論、拭き掃除も可能な優れものです。
そして、侵入者の掃除も可能!…まさに万能掃除機です!」
オオスは声高らかに自動掃除機〇ンバの解説を始めた。
「掃除機ってそういうものじゃないでしょう!」
レミリアはオオスへツッコんだ。
オオスのことである客人まで迎撃するように仕込んでいるに違いない。
だが、レミリアは楽しげな表情をしていた。
「それは良いわね」
咲夜は主であるレミリアとオオスの土産の掃除機の、両方に対して感想を述べた。