嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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蛍雪の功

雪が積もり始めた日、その日の昼頃、オオスは人里にある貸本屋『鈴奈庵』を訪れていた。

オオスは稗田家にはないような本を探していた。

阿求のことである。オオスの求める物、そういった類の書籍も探してくれるだろう。

だが、オオスはその前に自身の知識をおさらいしておきたかった。

 

「雪が新しいせいか外がまぶしいね」

オオスは季節の話題を店番の小鈴に言う。

 

雪の反射が美しく風情があり、良い光景だ。…いよいよ冬本番になってきた。

オオスはこの冬の間にどこまで強くなれるのか考えていた。

霊夢もそろそろ帰って来るだろう。オオスは力を欲していた。

 

「蛍雪の功でしたっけ、あれは夜ですけど」

小鈴はオオスの言葉にそれらしい言葉で返した。

 

今のオオスにとっては小鈴の言葉は言い得て妙だった。

小鈴は意図していないだろうが、オオスは感心した。

 

「…それで今日は道教に関する本ですか?仙人にでもなるんですか?」

小鈴はオオスの新刊を受け取りつつ、オオスの依頼を再確認した。

 

オオスは今年の紙芝居の内容を纏めた本を小鈴に渡していた。

…昨年より本の依頼が遅れたのは月面戦争のためだった。

 

それを知らない小鈴は忙しい時期に仕事を増やされた怒りをオオスに暗にぶつけていた。

人外扱いされるのをオオスは嫌がるからである。仙人だろうが、オオスは嫌がっていた。

 

だが、

「別に仙人になりたいわけではないんだけどね」

オオスは小鈴の怒りを涼しい顔で流していた。自分に非があるし、仕方がないと思っている。

 

「むぅ…」

小鈴はオオスが思ったような反応をしないのでイラっとした。

 

「仙人の記述で有名どころだと『抱朴子』の内篇。それによれば師に仰ぐことが大切とか」

オオスは自らの知識を元に仙人について語る。明師が必要と何度も強調していた。

 

オオスは独学で仙術が使えるので、抱朴子は著者の葛洪の視点が含まれていると思った。

…神仙術に関する諸説を集大成、メジャーな本である。軽んじているわけではない。

 

例えば、仙人の有名どころの術である猛獣の類を操る術はオオスにはできない。

サメとか一部の例外はあるが、動物を意のままに操る事はできない。

だが、オオスは狂気を相手の脳に直接送り込みショックを与えることはできる。

これは鈴仙の能力と同じである。これを応用すれば、猛獣すら調教可能だろう。

だが、オオスはそんなことをしたくない。普通に動物虐待で可哀想だからだ。

 

なお、魔法の森で飼っている人食い朝顔等にはオオスは躊躇なくやる。犯罪者等にも同様だ。

ルナチャイルド等、妖精達はオオスのそういう姿を見ているので彼を人間扱いしていない。

何度でも繰り返すが、オオスが妖精達から人間扱いされないのは自業自得である。

 

そんな些細な内心を隠しつつ、オオスは小鈴に話を振った。

 

「要するに独学では厳しいということらしいんだ」

オオスは独学でできないからできれば師が欲しいと小鈴に漏らした。

これくらいならば小鈴に溢しても大丈夫だろうという信頼もあった。

 

「オオスさんが誰かを師として仰ぐのが想像できないんですけど」

小鈴はこれ幸いとオオスへ言った。今の、忙しい時期に仕事を増やした仕返しである。

 

「あははは、こやつめ」

オオスは笑いながら小鈴のおでこにデコピンをした。

 

子どもだろうが言って良いことと悪いことがある。

特に小鈴は普通に悪い子だからこれくらいはしても良いとオオスは思っている。

小鈴が店の金を使い込んだ挙句にオオスを利用し、妖魔本を集めたのをまだ許していない。

 

「痛い!地味に痛い!」

小鈴は本当に地味に痛いデコピンに転がりまわる。

 

オオスは小鈴の眉間の中央部分にあるツボの一つ、印堂にデコピンをした。

霊力も込めて撃ち込んだので小鈴はこの冬、余程無茶をしない限り風邪を引かないだろう。

…その分痛みはあるがオオスにとっては些細なことである。

 

「どちらかというと仙人の身体能力の方が気になっているんだよ」

オオスは小鈴の反応を一切気にせずに言葉を続けた。仙人は普通に強いのだ。

妖怪退治を生業とする者が仙人になることもある。

地獄から定期的なお迎えが来るので幻想郷に仙人はそこまで多くないが。

なお、仙人の肉体は鋼並みに硬い。…オオスの貧弱さとは大きな違いである。

 

「私は身体能力ないので」

オオスは心の底からの本音を言った。思わずため息が出た。

それに比べて、自分は何て弱いのだろうと思った。なんせ霊夢の拳で死ねるのだ。

 

「今のデコピンは結構痛かったんですけど…」

小鈴はオオスの内心等知らずに痛みを訴える。

乙女の自分へなんてことをしやがると顔に書いてあった。

 

「美鈴さんに教えを乞うのもまた違う。…仙人に教えを乞う方が合理的だ」

オオスは小鈴の反応をまた無視して、言葉を続けた。

 

小鈴は最近、オオスに遠慮が無くなって来た。自分が16歳と言った辺りからだろうか。

それなら小鈴はただの悪い子である。多少は雑に扱うのがマナーだとオオスは思っている。

 

「美鈴さんって誰ですか?」

小鈴はオオスがまた女性の名を出したので食いついた。

…この痛みの恨みは噂で晴らしてやろうかと思った。

 

「ああ、そうか小鈴ちゃんは知らないか。美鈴さんは紅魔館の門番で太極拳の達人」

オオスは小鈴の問に答えた。紅魔館の門番までは知らないだろうと説明した。

 

そして、オオスは小鈴の企みを看破した。小鈴は本当に遠慮が無くなって来た。

オオスが女・子どもは磔にしないと思っているようだが、場合にもよる。

小鈴のような本当に心根が悪い子にはオオスは割と容赦しない。…磔まではしないが。

 

「…その人も妖怪なんですか?」

小鈴は紅魔館と聞いて、オオスに聞いた。

下手に噂を流したら妖怪から復讐されないかとぞっとした。

人里において妖怪は恐怖の対象である。…小鈴は怖かった。

 

「そう。妖怪」

オオスは小鈴の問に答えた。

…小鈴もこういえば変な噂を流さないだろうとオオスは確信していた。

 

「…師匠候補として妖怪があがるのはどうかと思うんですけど」

小鈴はオオスに苦言を呈した。…暗にオオスを妖怪扱いした。小鈴は懲りない、省みない。

 

「四十八式太極拳とか独学で試してみたんだけど、武術は私に合わない」

オオスは小鈴の意図を看破し、またもや無視して言った。

…小鈴は雑に扱えと己の心のマナー本に記載されていた。

 

「…無視ですか」

小鈴は呟いた。

小鈴は最近、本当に自分の扱いが雑になってきたオオスに対して思うところがあった。

小鈴自らの責が多分にあるのだが、小鈴はそれを自覚していない。

 

「一応、合気は妖夢さんにも通じたんですが、結局ゴリ押しで負けるし」

オオスは妖夢との立ち合いを思い出して言った。

ある程度は体術も通じるがやはりオオスでは無理だった。

 

「…あの妖夢さんって剣持った半霊の方ですか?」

小鈴はオオスに確認するように言った。偶に人里に来る剣士だ。

刀をもっておっかないと小鈴は思っていた。

オオスはああいう類とも関わりがあるのかと思った。

 

「ああ、そちらは知っているんだ。そうそう」

オオスは小鈴に同意した。

妖夢は月でキチンとやれているだろうか。オオスは幽々子のことを案じた。

幽々子なら全く問題ないだろうが、心配であった。

 

「あの人は人里に偶に来ますからね」

小鈴はオオスに見知ってはいると言った。詳しくは知らないが。

 

「前に立ち合いを願ったんだけど力量に差があり過ぎて勝負にならなかったよ」

オオスは立ち合いで卑怯な手も使ったが、及ばなかったことを思い出して言った。

 

オオスは今ならもう少しまともな立ち合いができるかシュミレーションした。

…手を知られているので三合で負けた。立ち会い時の妖夢なので、今なら更に強いだろう。

オオスは加速するインフレについていけないモブキャラの気分だった。

 

だが、その瞬間、オオスは新しい訓練法を思いついた。衝撃だった。

…こんな頭の悪い訓練法があるとはオオスは知らなかった。

 

オオスは今、霊力で脳を活性化させることでシュミレーションできた。

オオスは何気なく脳内模擬試合をやれた。

 

…毎日これをやれば相当な訓練になる。オオスは確信した。

具体的には食事中も風呂も会話中もずっと脳内訓練をやるのだ。

 

オオスは何げない会話から新たな訓練法を思いつき歓喜した。

…霊力を使うことにより、霊力鍛錬にもなる。全てが無駄ではなかった。

先程の小鈴への前言を翻して、美鈴に立ち会いを希望したいと思った。

美鈴がどれくらい強いのかオオスは測れていない。

 

部下達にも恥を承知で立ち合いを希望したいが、どうしたものかオオスは悩んだ。

経験が不足している以上、このまま脳内訓練を行えば偏ってしまうとオオスは思った。

経験がオオスには足りていない。外ではやるしかない時しかしていない。

 

「…よく生きていますね」

小鈴はオオスが真剣な表情をしているので本気で殺し合いでもしたのかと思った。

 

実際はオオスがいるのが鈴奈庵ということもあり、脳内訓練をガチで想定していたからだ。

 

「真剣じゃないよ。言い方が悪かったけど竹刀だから」

オオスは明らかにここで考える事ではなかったと小鈴に訂正した。殺し合いではない。

 

「…要するに強くなりたいんですか?」

小鈴はオオスの表情や発言から察した。オオスは強くなりたいようだと確信して尋ねた。

 

「そうそう。私は弱いからね」

オオスは自身が本当に弱いので本心から言った。

 

「うーん…」

小鈴は何と言って良いか悩んだ。答えに窮した。

…小鈴は別な会話を振ろうとして、思考が飛躍してしまった。

 

「どうしたの?」

オオスは小鈴の様子が少し変なので尋ねた。…ツッコミとかそういう雰囲気でもなかった。

 

「いや、なんでもないんですけど、阿求が色々しているみたいで」

小鈴は阿求が秘密裏に何かしていると察していた。

…まるで自分が子ども扱いされているようで嫌だった。

 

「ああ、それで会えなくて寂しいとか?」

オオスは小鈴に尋ねた。

そして、オオスは小鈴の友達を自分の都合で振り回したせいかと内心反省した。

 

「違います!…何か阿求もそうですけど子ども扱いしているような気がして」

小鈴は否定しつつも、本音を吐露した。除け者のようで嫌だった。

 

「実際、子どもじゃないか」

オオスは小鈴に指摘した。あんまりしんみりした会話は好ましくない。

こういえば小鈴の反応をオオスはわかっていた。

 

「オオスさんはあんまり年変わらないでしょう!?」

小鈴はオオスの想定通りにツッコんだ。阿求のことなど消し飛んだ。

 

「ハハハ…。まぁ、私は人の意思を尊重するから」

オオスは笑いつつも、真剣に小鈴に向き合うことにした。

 

「人の意思に年は関係ない。…望むのならば世界にすら喧嘩を売ろう」

オオスは小鈴に宣言した。伝わらないだろうことをオオスは述べた。

 

…妖魔本を扱う小鈴が妖怪化した場合の策だ。

オオスは霊夢から小鈴を守る方法を考えていた。

 

「だから、小鈴ちゃんも妖怪になりたいとかいうのなら前もって相談してね」

オオスはそんな内心を見せることなくふざけた様子で言った。

しかし、オオスの内心は真剣であった。小鈴は言っても辞めない。オオスでは止められない。

 

「なるわけないじゃないですか!?」

小鈴は激怒した。…オオスはふざけ過ぎであると心の底から思った。

 

「…妖魔本は扱いを間違えるとそうなるからね」

オオスは小鈴の怒りを無視した。否、受け止めていた。

 

オオスは彼女に今の内に宣告することにした。

 

「深淵を覗くとき、その深淵も貴方を覗いている」

オオスは小鈴だけを見ていた。オオスは小鈴を子ども扱いせずに真剣に向き合っていた。

 

「…」

小鈴は自分だけを見るオオスに他の、阿求からすら軽んじられる物がないものを感じた。

小鈴は自分に向き合ってくれる男に…

 

「じゃあこれで失礼を!…道教関係の本だけ借りていくよ」

オオスは先ほどまでの雰囲気をぶち壊した。

オオスは店番小鈴を無視して借りる本を纏めてさっさと帰ることにした。

 

「…ああ、いつの間に!」

小鈴は何かを思う前にオオスが勝手に店の商品を弄ったことに憤慨した。

 

「ちゃんとお金は置いてあるよ。…期限までには返すから!」

オオスはそう言って会計は済ませたと本当に帰って行った。

 

 

 

オオスが帰った鈴奈庵で小鈴は黙々と作業をしていた。

 

「…」

黙々と他の客の返却や貸出等の作業を小鈴は熟していた。

 

そして、小鈴に真剣に向き合う姿勢を一時的とはいえ見せたオオスのことを考えていた。

 

霊夢も阿求も小鈴を子ども扱いする中で、初めて向き合ってくれた。

…それがどんな形であれ。そのことに対して何かを思うことがあった。

 

小鈴にはそれが何かまだわからなかった。

子ども扱いされたくない小鈴は黙々と鈴奈庵の仕事、作業を熟し続けた。

 

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