嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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我儘なお子様

美鈴とオオスの立ち合いが終わり、オオスは紅魔館のシャワー室を借り、体を洗った。

パチュリーのいる図書館に自身の汗の臭いを持ち込みたくなかったのだ。

オオスはマナーを重んじていた。

オオスは香水を振りかけ、匂いを消して身だしなみを整え、パチュリーの元へ向かった。

 

今日は実験ではなく、魔法理論について論争し、ある物を作ろうとしていた。

オオスが月から持ち帰った物品を元にパチュリーと月を超える物を作るのが目的だった。

 

だが、その日の二人の予定は紅魔館の主の我儘で中断されることになった。

 

「月の海を再現したい?」

オオスはレミリアの言葉を繰り返した。…海なら自分のところにあるがと思った。

 

「そうよ。アンタのところの騒がしい妖精達とかわからない植物がいない静かな海よ」

レミリアはオオスの言葉を肯定した。だが、レミリアの作りたいのは月の海であった。

オオスの意味不明な領域と化した海ではないのだ。

 

「なるほど、それは私の出る幕はない…」

オオスはレミリアの言葉の真意を理解した。…要するに霊夢達の礼のつもりなのだ。

月の海を再現して、遊びに誘うつもりなのだろう。

 

この時期にレミリアが行ったのはオオスとパチュリーが色々していたせいだろう。

レミリアとしても言いにくかっただろうとオオスは思った。

なので、オオスは自分が手伝いできることを考えた。

 

「パチュリー、塩分の問題大丈夫ですか?…幻想郷に岩塩はほぼないですよ」

オオスはパチュリーに尋ねた。塩分が一番面倒である。

月の海を再現するのに塩分は必須だが、幻想郷で塩は希少だ。

 

…河童が尻子玉を抜くのも塩分補給の側面があった。

オオスは人への被害を少しでも防ぐために河童とも交渉をするつもりだった。

塩分はオオスが何とかするという取引だ。無意味な被害を防ぎたい。

河童の本能から尻子玉被害は零にすることは不可能だろうが、多少なりとも減らしたい。

 

「そうね…悪いけど塩だけ貰えないかしら?」

パチュリーはオオスの手伝いたいという意図を読み取りお願いした。

実際、塩分の確保は今からでは大変だった。

 

霊夢はもうすぐ帰って来るとオオスは予想していた。

パチュリーはオオスに頼る他ないと判断した。

オオスがいないと連日連夜の徹夜のデスマーチを行うことになる。

 

「良いですけど、どれくらいの量が必要かにもよります」

オオスは先にどれくらいの広さの海にするかにもよるので尋ねた。

 

なお、オオスは臼を凄まじい勢いで回しても全く瘴気が発生しなかった。

それを見ていた鈴瑚は塩屋敷での臼の瘴気を思い出し、気が気でなかった。

 

オオスは悪戯半分で膨大な塩を作成した。それを夢の世界に保管していた。

塩屋敷の主人の経営が成り立つまでという量を遥かに超える量だった。

 

「そうよねぇ…。レミィ、どれくらいの広さのつもりなの?」

パチュリーはレミリアに尋ねた。

オオスの滅茶苦茶を知らないパチュリーはオオスの労苦を考えて聞いていた。

 

「パチェのいる図書館にうーんと広く作るのよ」

レミリアは子どものように大きく手を広げて言った。

 

咲夜の空間拡張、パチュリーの魔法による拡張で凄まじい広さの図書館である。

それを一杯に作れとのことだった。霧の湖よりはないがそれに準ずる。

 

…レミリアの我儘は滅茶苦茶な注文だった。

 

「…ごめんなさい。そこまでは頼めないわね」

パチュリーはオオスに謝罪した。

臼の存在を知らないパチュリーはオオスの海の塩分濃度が変わりかねないと思った。

 

パチュリーはオオスの海の実物を見ていないので知らない。

オオスの海は鬼の四天王勇儀が長い期間かけた力で押しつぶされた物だった。

そのため、海底が異常に深い。ぱっと見はわからないが外のバイカル湖並みにはあった。

 

「パチェ、無ければ作るのよ、私達はずっとそうしてきたわ」

レミリアはそう言い、実に楽しみだと笑みを浮かべていた。

 

自由気ままな紅魔館の我儘なお子様だとオオスは思った。

月の次に新しい玩具を思いついた顔だった。

レミリアの中では月はもう終わったことなのだろう。切り替えが早いとオオスは思った。

 

「作って来たのは私よ」

パチュリーはレミリアにツッコんだ。

 

今回のロケットといい、レミリアの我儘に答えて作ったのは自分だった。

だが、レミリアの我儘に付き合うことで新しい発見があるのも事実だった。

 

「創造にかかわる人々は生涯子どもの部分がその作品をつくる」

オオスはそう呟いた。誰にも聞こえないような声量で。

オオスがレミリアの子ども染みた無茶ぶりとパチュリーの関係性を見て感じたことだった。

 

二人は親友であり、それ以上に相互の無意識により成長している。

オオスは大魔法使いパチュリーの源泉を見た気がした。

オオスが風情を楽しむように、パチュリーはレミリアの無茶ぶりを楽しんでいるのだろう。

 

だが、オオスは無粋と思いながらも今からは無理と判断した。

 

「塩についてはどうにかなりますので任せて貰えませんか?」

オオスは塩についてはどうにかするからそれ以外の面はパチュリーに任せることにした。

 

…レミリアの海の要望に応えるのは塩だけでは足りなかった。オオスは月の海を解析済みだった。

しかし、その部分は無粋としてオオスは敢えて関わらないことにした。

 

「…ありがたいけど、レミィの要求だと貴方の海の生態系が壊れないかしら?」

パチュリーはオオスの提案を有難く受けた。同時に心配していた。

 

…塩分はどうにもならないとパチュリーも悟っていた。

レミリアが望むであろう、霊夢が帰ってくる前までには間に合わない。

 

「大丈夫です。というか塩だけならば無限に出せます。…内緒ですよ?」

オオスはしれっと無限に塩が作れることを明かした。

 

某魔法少女が皆には内緒だよと言わんばかりの仕草であった。

そのオオスの振舞いが似合っているのがレミリアはイラっと来た。

 

「…私が言うのも何だけど、アンタ相変わらず滅茶苦茶ね」

レミリアは思わずツッコんだ。

幻想郷で塩を無限に出せるとかどうなっているんだと思った。

 

「人里の塩業者と取引の話を聞いていたけど。…課題は解決済みだったのね」

パチュリーはオオスの言葉に納得した。

…塩が何れ尽きるかもしれないのなら解決策も用意していたのだと悟った。

 

「はい。私の月面戦争は万事が上手く行ったので」

オオスは塩屋敷の主人も含めて解決した自身の月面戦争を誇るように言った。

 

オオスは月面戦争の成果を活かす目標も出来た。この会話をしながらもしていた。

妖夢との剣術、美鈴との武術、外の冒涜的な異形の者達と立ち合いを霊力で活性化させた脳内でずっと繰り広げていた。

オオスは凄まじい勢いで経験を積んでいた。何せ脳内なら死んでも問題ないのだ。

オオスが鈴奈庵で思いついた霊力の使い道は素晴らしかった。

 

勿論、脳内だけでなく、実際の鍛錬や立ち合いも必要になる。

妖夢も早く帰ってこないかとオオスは考えていた。また立ち合いを望みたい。

オオスが挑んでも普通に負けるだろうが、今の妖夢の力量を知りたかった。

オオスは自身の脳内シュミレーションの精度を上げたかった。

 

「そうと決まれば、パチェ!すぐに取り掛かりましょう」

レミリアは塩の問題が解決したということなら、取り掛かるようにパチュリーに急かした。

 

そして、妖精メイド達に図書館に海を作るための空間を用意するように指示を出していた。

図書館にある膨大な本をよけてスペースを作るつもりの様だった。

 

咲夜は美鈴と話があるらしく、今は外にいたが、いずれ戻されて手伝わされるだろう。

妖精メイド達の指示は咲夜が一番だった。美鈴も力仕事で手伝わされるかもしれない。

 

「私は塩を用意しますが、必要な量を言って貰えますか?明日迄には用意します」

オオスはパチュリーに尋ねた。

 

パチュリーの頭脳ならば、海の大きさを測定し、必要な塩の量を一瞬で導き出せるだろう。

…オオスも図書館には何度も来ているがやはり余所者なので、正確な所がわからないのだ。

 

「…後、二、三日で一週間ですしね」

オオスは思わず呟いた。霊夢が返って来るのならばもうすぐだろう。

誤差があっても4日以内には帰って来るとオオスは確信していた。

 

「悪いわね」

パチュリーはオオスも何かしたいと感じ取り、素直に頼むことにした。

 

「いえ、最近特にお世話になりっぱなしなのでこれくらいは」

オオスはパチュリーに気にしないように言った。

実際、今日の美鈴との立ち合いといい世話になりっぱなしだった。

 

「あっ、そうだ。当日、春季光星置いて行きましょうか?寒いですよ絶対」

オオスはついでと言わんばかりにパチュリーに提案した。

 

レミリアは吸血鬼だから意識していないが、霊夢達は人間である。

今は冬だ。どう考えても寒い。泳ぐどころか風邪を引く。

 

「それもお願いして良いかしら?…魔法で暖を取るにしても足りないわ」

パチュリーも魔法使いなので、余り意識しなかったが、折角だから依頼することにした。

春程度まで温まれば、夏並みに暖かくなると計算できた。

 

「ええ、アレは人を楽しませる道具です。本来の使い方になるでしょう」

オオスは喜んで引き受けた。人を楽しませる道具として作ったのだ。

 

春季光星は神器として作ったのではない。春季光星は置いておくだけで春の暖かさになる。

中の菖蒲が直接当たるわけではないので、レミリアに害もないはずである。

 

「…貴方も来る?」

パチュリーはオオスに聞いた。断るだろうと思ったが、念のために。

 

「お誘いは嬉しいですが、行きません」

オオスはきっぱり断った。即答である。

 

「私は男ですよ。居たらセクハラです」

オオスはパチュリーに呆れたように言った。行くわけがない。

 

オオスは暗にレミリアには春季光星が効くことは無いと断言した。

 

「…セクハラというのはわからないけど、言いたいことはわかったわ」

パチュリーはオオスの言葉の裏も含めて了承した。

 

「このお礼はまた今度するわ」

パチュリーはオオスの答えに気を良くして言った。

 

「…断るのもまた無粋ですね。では、お礼を楽しみにしています」

オオスはパチュリーにそう言って優雅な礼をもって答えた。

 

パチュリーが微笑みを浮かべている理由がわからない。

だが、オオスはパチュリーの言うお礼を純粋に楽しみにすることにした。

 

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