嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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月見酒

満月の出る日の夕暮れ、オオスは一人で冥界まで足を運んでいた。

オオスは白玉楼へ向かう階段を積もった雪で滑らないように踏みしめて登って行った。

特に持ってきていた酒と肴を転んで落とすことがないように気を付けていた。

 

「さて、忌々しき聖なる前夜祭。今宵は満月、月見酒っと」

オオスはそう言いいつつ、気を付けながら階段を一段一段ずつ登って行った。

 

オオスはこの満月の日に幽々子と妖夢が帰って来ると確信していた。

満月の夜に行き来するのが一番簡単な月の都への行き方だからだ。

 

そうして風情ある光景を楽しみながら、階段を登っていった。

冬の白玉楼は美しい雪化粧。オオスは一人で風情を満喫していた。

 

 

白玉楼に着き、オオスは白玉楼の手入れをしていた。しばらく屋敷の主人がいなかったのだ。

このままでは約束の、風情ある月見酒も何もないだろう。

オオスは雪掻きをしつつも、月が映えるように雪を敢えて残すようにした。

…千利休が庭に落ち葉を敢えて残したように風情ある光景をオオスは望んでいた。

 

そして、オオスは白玉楼内を丁寧に掃除していった。

幽々子達のいない間に溜まった埃を払って纏めていった。

かつて春雪異変の時に、幽々子の屋敷に居た時期があった。オオスは勝手を知っていた。

 

満月になる頃には、白玉楼は主人を迎える準備が出来上がっていた。

肴の用意もある程度済んだ。妖夢に後は任せることにしようとオオスは思った。

オオスが全部してはいけない。少しは妖夢の仕事を残す必要があった。

無粋なのもあるが、全部オオスがしてしまうと勝手が変わってしまう可能性がある。

…翌日に訪れるだろう紫を幽々子が招いた時に妖夢が粗相をする可能性があった。

 

だから、今日の酒宴はまさしく前夜祭なのだ。…今日、12月24日は聖者の前夜祭でもあった。

 

そこへ空間が歪んだ感覚を悟った。オオスは最近増々鋭くなった感覚で気が付いた。

オオスは門前で待つことにした。風情あるこの屋敷の主人との約束を果たすために。

 

 

オオスが門前に来てしばらくし、白玉楼の階段を幽々子と妖夢が登って来た。

 

「あら、屋敷の雪かきは終わったのかしら?」

幽々子は彼が先んじて待っていてくれたことを喜びつつ、尋ねた。

 

「フフフ…。私の身では雪掻きは無理でした」

オオスは自らの非才を詫びるように幽々子に優雅に礼をする。

 

だが、

「え、何でお前が…」

妖夢は混乱していた。満月の夜に帰って来たらオオスが白玉楼の門前で待ち構えていた。

…何か企んでいるのかと考えていた。

 

「月見酒には丁度良いわね」

幽々子は妖夢を無視して言葉を続けた。彼は約束を果たしに来たのだろう。

月夜に雪見、風情のあるように整えてくれているはずである。

 

今、丁度良いお酒が手元にあるのだが、これはまだ空けられない。

幽々子はここまでしてくれた彼に申し訳なく思った。

 

「ええ、沈魚落雁、閉月羞花。…貴方の前には及びませんが」

オオスは幽々子が何らかの言えないことがあるのだと看破した。

…雪見酒よりもこの席の主たる幽々子の方が大切であると前置きした。

 

「…月夜に夜仕事。勤勉な事も考え物ね」

幽々子は扇で口元を隠して自らの感情を隠した。

…満月の下での雪見酒よりも幽々子の方が尊いと言われたのだ。

流石に言葉が過ぎると彼に暗に伝えた。

 

「天行は健なり。その通りだと私は思います」

オオスは自然の変化、天の運行のように自明の理だと幽々子に返した。

何か気に障るような、おかしいところがあったのかとオオスは首を傾げた。

 

「いや、幽々子様?何故、こいつがいるんですか?」

妖夢は主人である幽々子がオオスのいる理由を知っているようなので尋ねた。

もうわけがわからなかった。

 

「…やはり雨月の心はわかりませんでしたか」

オオスは妖夢の様子を見て、少々呆れた。

再会に妖夢との立ち合いは無粋である。

それは勿論後日だが、その前に家庭教師を願い出たいとオオスは思った。

 

「それもまた風情じゃないかしら?」

幽々子は思わぬ形で自らの感情を隠すことになった妖夢を見て言った。

…余計な言の葉を紡ぐよりも妖夢を見ている方が面白い。

 

「…私も未熟なようです。屋敷の方は済ませました」

オオスは幽々子の返しに感嘆した。自らの失策を妖夢に置き換えてくれた。

幽々子の機転に無粋なことは言わないで、本題を口にすることにした。

 

「約束の月見酒を誘いに来た次第です」

オオスは幽々子と最後にあった約束を果たしに来たのだ。…満月の夜の雪見酒だ。

 

「それは丁度良かったわ。…でも、これはまだ早いわね」

幽々子は彼の言葉に手に持つ物を見て悩んだ。これは紫との約束みたいなものだった。

…それを今空けてしまうか迷う程、彼は幽々子を待っていてくれた。

 

「…ああ、貴方はやはり美珠が深くに沈むような方だ」

オオスは幽々子が何をしたのか、ここに来て漸くわかった。

本質を一番捉えている。真理が一番深い所に隠れていることを幽々子は知っていた。

 

オオスのような無粋な者は彼女の後追いしかできないだろう。

…オオスの月面戦争には実利が絡み過ぎていた。

 

「私の方で酒と肴は用意しておきました」

オオスは先に用意していたと幽々子に宣言した。幽々子が悩まぬように今ここで話す。

 

「…格は落ちますが、今日はこれで月見酒と行きましょう」

オオスはそう言って幽々子に優雅に、だが、いつも以上に深い礼をした。

自らに風情を悟らせてくれた礼だった。

 

「良いのかしら、そこまで甘えてしまっても?」

幽々子は彼の言葉に甘える形になったことに、思わず尋ねてしまう。

本来、無粋だとして言わなくて良い準備をしたことを彼は口に出した。

…幽々子は自分が月で何をしたのか彼がわかったのだと確信した。

 

「抜け駆けの功名を私は好かないのですよ。…明日は明日でどうぞお楽しみを」

オオスは幽々子の月面戦争を抜け駆けする気はなかった。

オオスは満月でない明日来るであろう紫との楽しみにしておくと良いと返した。

 

「そう…ありがとう」

幽々子は心からの礼をオオスへ言った。

 

「妖夢、早く酒席の準備をして頂戴」

幽々子は未だにオロオロしている従者に発破をかけた。

彼を待たせるのは失礼だろうと幽々子は妖夢を叱咤した。

 

「…え?わ、わかりました」

妖夢は幽々子が具体的な指示を出したのでそれに従うことにした。

深く考えずにオオスの用意していた物を元に酒席の準備を始めた。

 

「下手の考え休むに似たり、か」

オオスは幽々子の妖夢の扱いを見て、思わず呟いた。

自分の行為は無粋なのかもしれない。幽々子と妖夢の主従関係を見て改めて思った。

 

その日、オオスと幽々子は風情ある満月の月見酒を楽しんだ。

無粋な話題、月については一切触れずお互い、純粋な風情を楽しんでいた。

 

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