嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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十六夜

オオスは紅魔館図書館の海開きを断り、自分の一日を過ごしていた。

…実験の成果のデータを纏める等作業があったからだ。

そう自分に言い訳して、オオスはその日を終えようとしていた。

 

夜には部下達とも一時離れ、オオスは一人自宅の屋根で月を眺めていた。

今日の月は、満月の次の日の月である。昨日は幽々子と月見酒と雪見酒をしたのだった。

今日は、十六夜の月をオオスは一人で眺めていた。

 

「十六夜咲夜…名としてはこれ以上ない程、月が似合う」

オオスは咲夜の名と今の月を眺めて語って誰かに聞かせるように言った。

 

十六夜の昨夜、つまり満月である。

…実に風情ある偽名であるとオオスは彼女へ感心していた。

 

「そう思いませんかね?咲夜さん」

オオスは自宅屋根にいた咲夜に声をかけた。

…オオスは咲夜が何の用で来たのか勘付いていた。

だが、その夜、その場に至って漸くだった。

 

オオスの月面戦争、咲夜だけは全てを推理できる材料が揃っていた。

オオスに完全犯罪者の犯人役を熟すのはまだ難しいようだと思った。

 

だが、それを解ける咲夜は意外に探偵の才能があるのかも知れない。

…或いは犯人の才能か。オオスは咲夜の才能が後者だと察していた。

彼女の素性も大よそ察していた。

だが、それは過去のことであり、オオスには関係なかった。

 

「…驚かそうと思ったのだけどバレてたのね」

咲夜はオオスの様子を見て言った。

 

そして、オオスが時間対策までするというのは本当だったと今更ながら咲夜は悟った。

咲夜は確かに時間停止していた。…ここに来るまで誰にも見つかっていない。

 

だが、オオスは下にいる配下の者達を少し前に自分の周囲から排していた。

咲夜が時間停止しても未来を対策されればどうにでもなることを暗にオオスは示していた。

 

オオスがどうやってこの事態を予期したのか咲夜にはまるでわからなかった。

…犯人の才能を持っていても探偵の才能は咲夜には欠けていた。

 

「今宵は忌々しき聖なる日、月を見て神への怨讐の炎を滾らせるのです」

オオスは12月25日という聖なる日に月を見上げてそう言った。

 

オオスはいつものように神への呪詛を吐いていた。

オオスは活き活きとして罰当たりの言葉を述べていた。

 

だが、

「それは嘘でしょう」

咲夜はオオスへ言った。咲夜はオオスの嘘に気が付いていた。

 

…月の都でオオスから貰った銀のナイフを使った感触からまさかと思っていた。

先日の美鈴との立ち合いを見て、美鈴から見たオオスの本質を聞いていた。

そして、今日図書館の海で暖房替わりに使っていた剣を見て、咲夜だけは悟ったのだ。

 

今しか聞けない真実をオオス、否、彼に問いただすために咲夜は屋敷を抜け出していた。

 

「貴方は神を恨んでいない。憎んでもいない」

咲夜はオオスに向かってそう言い切った。

 

咲夜はオオスの在り方が矛盾に満ちていることに気が付いた。

…それはレミリアやパチュリーですら気が付いていない事実だった。

 

奇しくも祟り神の頂点もオオスの在り方に違和感を覚えていた。

それは咲夜とはまるで違う形であった。祟り神としてオオスの違和感に気が付いていた。

 

「…」

オオスは沈黙で持って返す。

 

今回の月面戦争で咲夜にだけ、オオスは自身の力の塊である銀のナイフを渡していた。

それでこういう形で咲夜はオオスに、否、自分へ聞きに来たと理解した。

 

十六夜咲夜、その名の通りにこの月の日に。

真実を名で隠す同類に思うところがあったのだろうか。…彼はそう思った。

 

「私は神を信じていないからわからないけど、貴方は矛盾しているわ」

咲夜はオオスではなく、彼に直接何かを言いに来ていた。

 

神の力を持つ男に神を否定するのは何故か問いに来ていた。

神を嫌悪する姿勢に嘘はない。神を憎悪しているのにしていない。

…咲夜も言葉にできないのだが、オオスは『何か』がおかしかった。

 

「…私の名は偽名です」

オオスは自身の名を語ることにした。

それはパチュリーに言っただけではない部分を含めてだ。

 

「…気が付いていたわ。何となく」

咲夜はオオスの偽名にとっくに気が付いていた。

 

咲夜はパチュリーと春季光星を作成していた時の二人の振舞いから察していた。

その事実を察しつつも従者としての振舞いを崩さないためのは咲夜の矜持であった。

 

だが、今は違う。咲夜は彼に答えを求めていた。

月の都で彼の力を感じ取った。…それは今しか聞けないと咲夜は直感していた。

 

「私の名はオオス=ナルガイ」

オオスは改めて名を名乗る。

…名をこうして名乗るのはチルノ以来かも知れないとオオスは思った。

 

オオスは咲夜の目を見て、高らかに偽名を名乗った。

 

「…これはクラネス王が創造した永遠の都、セレファイスがある渓谷の名です」

オオスは地名を偽名にしたと答える。永遠の都を名乗りに挙げたと咲夜に教える。

 

その名に込めた真意は彼だけの秘密だった。誰にも言えない心の内だ。

 

蓬莱山輝夜にだけは一度溢したことがある。…輝夜はそれに何を思ったのかは知らないが。

永遠を自分に語って聞かせる姫にオオスは、彼は思うところがあったのだ。

 

「そして、十六夜咲夜という名。これは十六夜の昨日、満月ですね」

オオスは、彼は咲夜に問いかける。

 

十六夜咲夜、そちらの名前も偽名だろうと看破して外の探偵は断言した。

そして、彼はそれでは謎は解けないと咲夜に暗に言っていた。

…己の真実を自白させるには咲夜にはピースが足りなかった。

 

「…ええ、そうよ」

咲夜はオオスの言葉に肯定した。…十六夜咲夜の名は偽名だった。

 

咲夜はオオス、彼に答えを尋ねる資格が自分にはないとここに来て悟ってしまった。

 

「まだ語る時ではありません。お互いに今日は引きませんか?」

彼、オオスは答えを追求すべきでないと提案する。互いの為に引くべきと暗に示した。

 

「…そうね。そうかもしれないわ」

咲夜は頷くしかなかった。

 

…これは咲夜だけの問題ではなかった。

レミリア・スカーレットと誓ったのだ。十六夜咲夜として生きることを。

だから、オオスの提案を飲むしか咲夜には選択肢がなかった。

 

だが、

「でも、これだけは言わせて」

咲夜はここまで来た。だから、せめて一言だけでも彼に残したかった。

 

後、一歩まで来たと咲夜は確信していた。だが、その資格には自分にはない。

…そして、それを誰かに譲りたくない。咲夜の我儘で最後に彼に爪を立てた。

 

「誰が何といおうとも貴方は貴方なのよ。…私にも何を言っているのかわからないけど」

咲夜は彼にそう言った。オオスという名であろうとも彼は変わらない。

 

咲夜は彼へどうしてもそれだけは伝えたかった。どうあろうとも変わらない物がある。

咲夜はオオスへそれだけは言いたかった。

 

沈黙が場を支配する。咲夜は彼の気に障ったかと思った。

自分だけ名乗らないで相手にだけ名乗らせようとしたような物だ。

それを更に、言の葉で爪を立てたのだ。咲夜は何と言って良いかわからなかった。

 

「ありがとう」

彼はそれだけ咲夜に言った。万感の思いを込めて、ここまで来た少女へ礼を言った。

 

「…えっ?」

咲夜は思わず言葉を漏らした。怒りこそすれ感謝されることはないと思っていた。

咲夜は、思わず耳を疑った。

 

だが、

「だけど、それを私は…」

彼は感謝の後に苦悶の表情で言葉を述べていた。

咲夜には彼が何を思っているのかわからない。

 

そして、

「…いや、俺だけは認めるわけにはいかないんだよ」

彼は心からの本音を述べた。それだけは認めるわけにはいかなかった。

 

咲夜の答え合わせは彼、オオスに取っては禁忌だった。

しかし、それでも彼となる前の『少年』が歓喜していた。

オオスの中で複雑な感情が混ざり合っていた。

しかし、窮愁の孤独に苛まれつつも、それを咲夜へぶつけない。

オオスはそれを自分自身で完結させた。…あの時からの覚悟を今更曲げはしなかった。

 

「…」

咲夜はオオスの様子を見て何かを察した。それが何かが咲夜にはわからない。

だが、咲夜は自分が彼の支えになれない事実に悲哀を抱いていた。

 

「今日は良い月だ。明日は立待月。月の出を立ったまま待っている月だ」

オオスは月を見上げて、咲夜に語るように言葉を紡ぐ。

 

オオスは咲夜の様子を見て、いつものように振る舞っていた。

オオスの気持ちは完全に切り替わっていた。

…最早先ほどまでの雰囲気はそこにはなかった。

 

「また明日、紅魔館でパチュリーと魔法研究しに行くのでよろしくお願いします」

オオスはそう言って、咲夜に優雅に礼をした。いつものようにまた明日と咲夜に言った。

 

「ええ。…待っているわ」

咲夜はオオスへそう返した。

立待月が月の出を立ったまま待っている月だとすれば、十六夜の自分はどうだろうかと考えた。

 

十六夜の、月が出るまでぐずぐず待っている月であって良い物か。

咲夜は十六夜咲夜の名の様にオオス、彼をいつの日か満月の昨日に戻すことと己に誓った。

 

それは、十六夜の月夜のことであった。

 

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