今のオオスの海は厳密には塩湖となっている。
自然な状態だと蒸発する水分が多く、最終的に塩湖であるオオスの海は消滅してしまう。
それを防ぐために川と海を繋ぐというのはそもそもの計画にあった。
河童との取引もその水に関する知見が欲しいと言うのもあった。
…オオス一人で行っては技術力を見せつけるような、神奈子のような方針となってしまう。
河童にとっても汽水湖をコントロールできれば植物プランクトンが増え、豊かな川となる。
汽水域となる汽水湖を作成することでプランクトンを餌にする魚等が増えるのだ。
そこに河童が漁業権を確保すれば、河童にとっても有益な取引となるはずだった。
オオスも目立たずに済む一石二鳥の計略だった。
だが、守矢神社の神徳で強くなった山の妖怪により発生した諸問題が発覚した。
オオスは河童との取引を急遽取りやめた。そもそもアポなしである。
河童に利益しかない取引なのだからオオスは特に事前連絡等入れていなかった。
…オオスは計画そのものを繰り上げることにした。
弱小妖怪達を取り次ぐわかさぎ姫とオオスとの連絡を円滑に行う為、そしてオオスの海の水分蒸発を防ぐために今日工事を行うのだ。
河童との取引による漁業権等の話合いは無しである。
この汽水湖は作成者のオオスが管理・運営することになる。
これの実務は玉兎達に任せる余裕があった。オオスだけが仕事が増えると言うことは無い。
オオスはこれ以上お金はいらないし、何より目立ちたくなかった。
しかし、オオス達だけで工事をするのに河童に利益を与えるわけにはいかない。
オオスは計画を早める原因となった存在を恨んだ。おのれ守矢。
…オオスは自身の、本来のやり方ではなく、守矢神社の、神奈子のやり方を選択した。
科学を魅せつけるやり方となってしまう。…理論なき科学は科学でなく奇跡だ。
オオスが用いるはずだった河童という都合の良い功績の押し付けがいない。
だが、これ以上時間をかけて手をこまねくのは妖怪にとっても人にとっても害になる。
オオスは別に信仰が欲しいわけではない。というかいらない。
科学がまだわからない人里へ、この奇跡をどうやって誤魔化すかオオスは頭を抱えた。
適当にやったら偶々上手く行きましたでどこまで通じるかオオスは考えていた。
反省は科学に先行するというオオスのやり方に反するが、場合による。
妖怪と人里の問題は一刻を争う。この冬以内である。…これは例外だった。
オオスは冬空の中玉兎達へ指示を出しながら、川と海の間に新しい湖、汽水湖を作成していた。
オオスは汽水域といったが、厳密には海と川を繋ぐ新しい湖、汽水湖を作るのだ。
「汽水湖における課題は底層の貧酸素化だが」
オオスは自らが主担当の汽水湖の課題を確認していた。
汽水湖は、塩分を含んでいることから、その上下層の密度が塩分の違いにより異なる。
要するに下層に最悪、汚物が堆積してしまうのだ。
オオスはそれを計算に入れて作成しなければならなかった。
上下層の回流が起こるように自然に汽水湖を作成するのだ。
「…上手く行きそうですか清蘭?」
オオスは清蘭に尋ねた。オオスは水路を確認していた。
清蘭の異次元から弾丸を飛ばす能力で、突貫で川と海を繋ぐのだ。
「はい!いつでもいけます!」
清蘭はオオスに返事をした。他のイーグルラヴィの玉兎達のパワーも借りていた。
清蘭はオオスに一撃で川と海を繋げる威力の弾幕が出せると断言できた。
「…わかさぎ姫さんと影狼さんは衝撃に備えてください!」
オオスは工事現場に立ち会っているわかさぎ姫と影狼に大声で叫んだ。
「は、はい!」
わかさぎ姫と影狼は返事をした。衝撃に備えていた。
…何が起きるのかわからないが、オオスが見ろというので二人は立ち会っていた。
オオスとしては妖怪ならばと力を示す必要があると思いデモンストレーション感覚で呼んでいた。
「では、発射5秒前!」
オオスは清蘭に声を飛ばした。弾幕を解き放つように指示を出す。
「はい!」
清蘭とイーグルラヴィの玉兎達はオオスの期待に全力で答えるように返した。
「4、3、2、1、発射!!」
オオスは点呼を取りつつ、清蘭へ地面を抉る弾幕の発射を指示した。
次の瞬間、清蘭の弾幕がどこからともなく現れた。
それは地面を抉りながら川へと向かって飛んで行った。
…わかさぎ姫と影狼は絶句した。それは滅茶苦茶であった。
イーグルラヴィの玉兎の一人、鈴瑚は弾丸が飛んでくる川の中腹辺りに飛んでいた。
「あーあ…清蘭気合入れすぎ」
鈴瑚は思わず愚痴った。他の玉兎達の後押しもあり、地面を抉りながら弾幕は進んでいた。
…オオスの指示よりも強力な弾丸だった。
「閣下が私に待機を命じていて良かったよ」
鈴瑚は団子を頬張りながらオオスの先見の明に誰にもいないのに頷いていた。
オオスは団子を食べる程に強くなる鈴瑚に清蘭の弾幕が強すぎて周囲に被害が出そうなら止めて欲しいとお願いしていた。
勿論、鈴瑚が危険なら逃げるように言っていた。
だが、
「じゃあ、私も本気を出しますか!!」
鈴瑚もまた本気でオオスに答えていた。
鈴瑚は団子を腹が張れるまで食べて備えたフルパワーで清蘭の弾幕をぶん殴って止めた。
…わかさぎ姫と影狼はまたも絶句した。川の方からとんでもない力で清蘭の弾幕が消し飛ばされた。
それはどうみても滅茶苦茶であった。
オオスは清蘭達と鈴瑚の働きが想像以上だったので驚きつつも平静さを保っていた。
「素晴らしい!!」
オオスは心からの称賛をここにいるイーグルラヴィの皆へ送った。
「…後は私だけですね」
オオスは抉れた地面と海と川、両方から流れ込んでくる水を見て呟いた。
「まあ、これは三番煎じなんですが」
オオスはそう言って河割、海割の応用で『分かれの砂』により水の侵入を拒絶した。
両端の水路から流れ込む水は止まり、だが溢れない。
まるで水路の水が割れたようになっていた。
…わかさぎ姫と影狼はもう達観した。やはりオオスも滅茶苦茶であった。
規模で言えば清蘭と鈴瑚の作った水路に流れ込む水を両面から止めたことになる。
凄まじい勢いで両端から来た水をオオスは一瞬で堰き止めたように二人には見えていた。
そんなつもりはないオオスは計画通りことが進んだことに歓喜していた。
そして、守矢へ呪詛を吐いた。おのれ守矢。
「皆ありがとうございます!」
オオスは声を魔法により拡張して感謝の言葉を玉兎達へ述べた。
「後は設計図通りに汽水湖に加工して、装置を取り付け組み立てるだけです!」
オオスはそう言って、皆に集まるように指示を出した。
後はもう流れ作業だった。
オオスが水気を絶った地面を弾幕で抉り、予め用意していた物を組み立てるだけだった。
そうして本当に、オオスと玉兎達は一日で海と川を繋いだ。
正確にはその間に新しい湖が出来た。そこはプランクトンが多く生息する汽水湖であった。
後にこの汽水湖は魚達の楽園となり、釣り人の聖地となる。
それが幻想郷に新しく誕生した。
…オオスは科学ではなく、神秘を、奇跡を見せつけることになった。
これも守矢のせいであるとオオスは断言できた。おのれ守矢とオオスは内心呟いた。