新約聖書において『マモン』とは悪霊的な力を示す。
一方、古代アラム語において『マモン』とは富や財産を示す言葉である。
拝金主義をマモニズムという。オオスはそこまで考えて思考を辞めた。
…オオスは来年度に予測される最低限の収入を試算していた。
それによってオオスの計画も変わって来るからだ。
オオスは汽水湖がなくてもオオスの副業や塩取引等もあり確実に儲かった。
部下達の給金等に還元しているが、それでも有り余る程多かった。
オオスは金という魔物に取り憑かれる前にどうにかしたかった。
霊夢ならあればあるだけ散財するだろう。だが、オオスは計画的に使うタイプの人間だった。
こんなに金はいらない。…オオスは心から思った。
オオスは金を人里への教育に使うにも外の歴史を知っていた。
オオスの中では、金の使用について待ったがかかっていた。
…考えて使わないとオオスは外の世界の、歴史の過ちを繰り返すことになる。
例えば、17世紀から18世紀にかけて啓蒙思想なる物が欧州で流行った。
人間の理性の能力を磨き、世の中が良くなると言う思想だ。
オオスは人間とは理性だけではなく感情で動くものだと知っている。
それに気づいた先人はロマンに走った。これを19世紀に流行ったロマン主義という。
だが、ロマンは実現しないからロマンなのだ。
…現実に失望した先人達はニヒリズムという選択を選んだ。
オオスが紙芝居屋をしているのは里人の教育の為である。
同時に、自らの職業である紙芝居を理性と感情の両面を見つめる機会を与えるものだと自負していた。
急激なニヒリズムや破滅思考へ行かぬようにオオスは少しずつ人里への意識改革を目指していた。
形は違うが、月の民も外の世界と似たような状況にあるとオオスは感じている。
月の都は気温が一定で過ごしやすく、また自然に恵まれ、家財は壊れることがない。
…それが永遠近く続くのだ。
月の民が下賤な者達と見下す地上の民と何が違うのかとオオスは思っている。
オオスからすれば月の民も地上の民も本質は一緒だった。
オオスの考えは、神々からすれば暴言どころではない罰当たりな思考だった。
だが、月の民は安楽で、冒険もなく、憧れを持たない人間達だった。
一方、下賤な地上の民は、危険で、冒険を犯し、憧れを持つ人間だ。
オオスは欲望と資質は人間をどこまでも成長させると思っている。
…現実と理想の狭間で足掻く人間こそが本来あるべき姿だとオオスは考えていた。
だから、現世は美しく残酷で、そして儚いのだ。オオスはそれを風情と呼んだ。
オオスはそうした思考を辞めて、現実に戻した。
オオスは気分を変えて偶々近くにいた清蘭に話しかけた。
「清蘭。ちょっと聞いても良いですか?」
オオスは何気ない風を装って清蘭に話しかけた。
「なんでしょうか?」
清蘭はオオスに尋ねた。
清蘭は何げなく振舞いながらもオオスの言葉を一言一句違わず聞く気でいた。
「春に建設予定の宿舎なんですけど」
オオスは清蘭に確認を取った。冬に建設を依頼するのは危険過ぎた。
そのため、雪解けを待って宿舎の建築をオオスは依頼していた。
大工の棟梁には雪で家が壊れたりした里人がいればそちらを優先するように言っている。
「はい、閣下の下を離れるのは心苦しいですが…」
清蘭は素直に感想を言う。清蘭達はその季節が近づくと思うだけで胸が痛い。
オオスの家は広い。玉兎の部隊10匹が十分住んで余るほどの広さだ。
だが、オオスの地下は更に奥深い。
住んでいる玉兎達ですら未だにわからないくらいほど深いのだ。
清蘭もオオスしか入れない謎の部屋が何個もあると知っていた。
正直、宿舎を作らず、オオスの家に住み続けたいと清蘭を始めとした玉兎達は本心から思っている。
しかし、
「何かこう…自分達が住むことになる宿舎を予定よりも豪華にしたいと思いませんか?」
オオスはそうした清蘭達の思いを汲み取れずに話を振った。
オオスは建築予定の宿舎を豪勢にしようと考えていた。
…オオスは金があり過ぎて考えが迷走していた。
「具体的にはサウナやゲーム、室内スポーツ会場、宴会場等の各種娯楽施設を作るとか」
オオスは清蘭に割と真剣に提案していた。
オオスの家にはそんな物はないが、部下達の慰労施設として作るのだ。
そうすればこの忌々しき金が減る。
オオスは自分のこと以外で金をどうやって減らすかを追求していた。
正直、オオスは自分のことは最低限で良かった。粗食でも何でも良い。
守矢さえちゃんとしていれば河童の取引で金余りなどということで悩まずに済んだ。
オオスは守矢神社に八つ当たりしていた。
というか、全て守矢が悪いのではないかとオオスは最近思い始めている。
だが、
「…閣下、それはどういう意図なのでしょうか?」
清蘭はオオスが正気じゃないことを悟った。
オオスは稀に考えすぎてこうなると一緒に住んでいる清蘭達は知っていた。
早苗と共に守矢神社へ転移した時もオオスは似たような状態だった。
オオスは帰還方法がないにも関わらずその場のノリで転移した。
稀にオオスは考え無しで馬鹿をやるのだ。
…その取繕いを思いつくのが早く、そしてその思考の切り替えが滅茶苦茶早いだけである。
慧音に深酒で寝入ったことを注意されて以来、オオスは外とは違い偶にはっちゃけていた。
「…あまり深い意味はないですね」
オオスは清蘭の言葉で少し正気に戻った。…ちょっと論理が飛躍し過ぎたと反省した。
だが、宿舎を多少なりとも豪華にしようとオオスは決めた。
少なくとも部下達の宿舎はオオスの家より過ごしやすい環境にするのだ。
「閣下、私からも申し上げたいことが…」
清蘭は躊躇いがちにオオスへ言った。あざとい計算を清蘭はしていた。
「何でしょうか?」
オオスは清蘭に話を促した。
…部下と上司の関係なので清蘭から感じる邪念はオオスの気のせいだと一蹴した。
部下の悩みか提案に比べれば、オオスの金の悩みなど些事である。
オオスは冷静さを取り戻した。
…オオスの脳内はクリアになり、清蘭の話を真剣に聞き入った。
「私達はここに住む事は駄目でしょうか?」
清蘭は上目遣いでオオスに言った。
射命丸文がここにいればあざとく汚い兎と罵倒するレベルの行為を清蘭はオオスへ実行した。
清蘭はオオスが正気でない今を見計らって言ってみた。
…宿舎等止めて一緒に住めないか暗にオオスへ尋ねた。
「…」
オオスは沈黙した。正直、どう返せば良いかわからなかった。
なお、清蘭の上目遣いはオオスに全く効いていない。
今は正気に戻っている上に、そもそもあの蓬莱山輝夜の魅了すら無効化する男である。
清蘭の行為は無慈悲な事に無意味であった。
しかし、オオスは清蘭の問に対して、簡単な解決策を思いついた。
オオスの要らぬ金の使い道にもなる。まさに一石二鳥のアイデアだった。
…それでも金が余り過ぎているが、オオスは一旦棚上げした。
「清蘭」
オオスは清蘭の目をだけを見て言った。オオスの表情は真剣そのものである。
「は、はい!」
清蘭はオオスに返事をした。…清蘭はオオスの真剣な表情に思わずドキッとした。
「新しく作る宿舎と私の家を繋げるように作れば全て解決します」
オオスは清蘭へ穏当かつありふれた解決方法を提示した。
オオスは内心清蘭の望みを叶え、有り余る金の使い道にもなると自画自賛していた。
「…はい!」
清蘭はオオスの話を理解するのに反応が一瞬遅れた。
しかし、春になっても実質一緒に暮らせると理解し、歓喜した。
オオスは清蘭の反応を見て、清蘭の喜びもオオスは嬉しかった。
だが、どう計算しても余りまくる金の使い道を一つ思いついたこともオオスは喜んでいた。
…風情もへったくれもない地上の下賤な成金がそこにはいた。
このオオスでは月の民のことをとやかく言う資格はなかった。