オオスは人里からギリギリの土地、有情地にて妖怪達から妖力を使った妖術を学んでいた。
オオスは妖怪達と過ごしている内に自動的に妖力が増していることに気が付いた。
妖力のきっかけである人食い朝顔は弱小妖怪達が食べる分に回したかったのでオオスとしては有難かった。
…流石に自身の力の為に他者の回復を阻害するような真似はオオスはしたくなかった。
妖力の増大は妖怪達の信望か何かが自分に集まっているのかもしれないとオオスは思った。
これは神化でないし、オオスは自らの異常については完全に無効化できるので全く問題はない。
人里でもこれまで通りに振る舞えるし、あの霊夢の目の前に行っても気づかれることは無い。
しかし、オオスとしては段々人間を辞めかけているようで少々複雑であった。
実はオオスは神化こそ拒絶していたが、その派生による物は信仰以外拒絶していなかった。
オオスは信仰を神化と同義として無意識に拒絶していた。
だが、妖怪達の信仰に伴う妖力の増加まではオオスも計算外だった。
オオスの妖力の急激な増加はその信仰と密接しているのだが、オオスはそれに気が付かない。
オオスは妖怪達から様々な妖術を学んだ。オオスが求めているような直接的な力こそあまりない。
しかし、弱肉強食の世界で生き抜いて来た弱小妖怪の知恵と工夫をオオスは得ていた。
それは、オオスより下手すれば数百年間は生きたオオスと同じ弱き者達の叡智の結晶であった。
例えば、河童の亜種の青い服の少女、カシャンボからは姿くらましや音波の拡散を学んだ。
赤い服が基調の少女、鯛灣からはどんな状況でも申の方位がわかる方位学を学んだ。
垢嘗からは妖術による汚れ落としを学んだ。流石に直で嘗めないらしいとオオスは知った。
黒服に身を包んだ少女、あすこここからは手足の一時的な増殖を学んだ。
一本松の女からは松限定ではあるがその成長促進等々である。
オオスは弱小妖怪が如何にして今まで生き残って来たのかという経験知の集大成を学んだ。
…一つの事を極めた武術家からその武術を学んだに等しいとオオスは認識していた。
一方の妖怪達はオオスが自分の愚痴を真摯に聞いてくれた。
更には自分の今後について具体的なアドバイスまでしてくれたオオスに、神に感謝していた。
…妖怪達はオオスを信仰したことにより、その加護を、自らの力の成長を既に自覚していた。
オオスも弱小妖怪達も知らないが、他の神を信仰した場合はその神の特色が出る物である。
しかし、オオスはその人の意思を、言うならば妖怪の個性を尊重する。
オオスを妖怪が信仰した場合、純粋にその妖怪一人一人の個性となる力を尊重することになる。
つまりは、妖怪が本来持つ力そのものが強化されることになるのだ。
オオスのアドバイスという名の直接の教えを守り、より信仰を深めれば更に強化される。
弱小妖怪は中妖怪くらいまでは一気に力が強化されることになる。
妖怪にとってオオスを信仰することは純粋な妖怪として力の底上げになった。
…他の神の場合、その信仰を辞めれば、当然その神徳もなくなる。
だが、オオスの場合、自身への信仰を辞めても妖怪の力の大部分は変わらず自らのものとなる。
オオスは人の意思を尊重する。…オオスは無自覚にだが、自らから離れる意思も尊重していた。
これら神徳の恩恵はオオスが神化を拒絶しているため、信仰者も相当な信仰心が必要となる。
基本いい加減な性格の妖怪にとっては、本来ならば無茶苦茶な前提条件がついていた。
…この前提条件を満たせるのであれば、妖怪達はオオスへの信仰を決して辞めることはない。
オオスが八雲紫にも気が付かれずに一大勢力を持つことになるのはこうした背景があった。
まだ宗教勢力の誰もがオオスの脅威に気が付かないし、気づけない。
…オオスの神嫌いは宗教関係者なら周知の事実であるからだ。
だが、弱小妖怪等、妖怪のオオスへの信仰、つまり救済対象の餞別はオオス側に決定権がある。
そのため、幻想郷においては無尽蔵にオオスの信者が増えることはなかった。
…そもそもオオスは自分の信者じゃなくとも助ける必要があると判断すれば勝手に助ける。
そんな妖怪に取ってみれば凄まじい神徳を神嫌いの自分が持っている等とは全く知らないオオスは年明けを皆で迎えようとしていた。
自らが救済した玉兎達や弱小妖怪達、朱鷺子等の力を持つ妖怪等と共に年越しを過ごしていた。
「…初日の出を気にしたことは今までなかったな」
オオスは思わず呟いた。
オオスは何であろうが神への信仰を拒絶する。
そのため、今までオオスは一人で年明けを行っていた。
初日の出等は風情を感じても、神への祈りになりかねない。
オオスは初日の出を見に行くこと自体、避けていた。…筋金入りである。
「閣下!月の兎の年越し、餅蕎麦です。どうぞ!」
鈴瑚はそう言ってオオスへ年越し蕎麦を渡してきた。
「ありがとう」
オオスは素直に受け取った。
玉兎達はさり気なく他の妖怪達の分をどこからともなく用意していた。
…玉兎達と妖怪達は随分仲が良いとオオスは感心していた。
同じ神を隠れて信仰する同志として、これ以上ない程の結束力があることをオオスは知らない。
「年明けには餅つきです!」
清蘭はオオスに笑顔で言った。
…餅&餅の生活がしばらく続くとオオスは確信した。別にオオス的には問題ないが。
「後、皆さんは有情湖の祠で初詣しましょう!」
鈴瑚はしれっとオオスの目の前でオオスの祠に初詣しにいくことを宣言した。
鈴瑚の言動を聞いて、大胆にも程があると他の信者達は鈴瑚を畏怖した。
鈴瑚はオオスがそれを怒らないと確信しているので言えた。
情報を扱う鈴瑚はオオスが他者の信仰についてどう思っているのか誰よりも理解できていた。
そのため、オオスの目の前でこんな大胆なことを告白できるのだった。
「私は皆が何の神を信仰しているのかは知りませんが、私は祈りませんからね」
オオスは一応、鈴瑚に念を押した。
皆の空気を壊すことになるだろうが、何が何でも忌々しき神にオオスは祈らないと宣言した。
…他の信徒達はオオスが何も知らないで自分自身を初詣することがあっては流石に罪悪感で持たない。
なので、オオスに対して申し訳なく思いつつもオオスのこの宣言に皆がホッとした。
オオスは皆の反応に違和感を覚えつつも、初日の出を見ることにした。
オオスは日の出を、神を、決して拝まない。
オオスは今までしたかったが、できなかったことをその日初めて経験していた。
風情の極みである初日の出を皆と共に見ることができた。
オオスは年明けの、改まった気持ちで見る朝日に歓喜した。
その年明け特有の力強い光は、オオスの心に強く印象に残った。