嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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名も知らぬ未知の脅威

初日の出を見たオオス達は取り敢えず一時の休息をとっていた。

信者達は急いで初詣に行く必要もなく、年明けを互いに祝っていた。

だが、オオスは別なことを考えていた。人里のことである。

 

オオスは年明けには妖怪達との交流よりも流石に人里の里人として振る舞う必要があった。

人里で里人として関係各所の新年のあいさつ回りである。オオスは毎年行っていた。

オオスは松の内、年神の依り代である門松を立てておく期間である7日頃までに毎年挨拶回りをしていた。

オオス自身は家に門松を立てないが、元旦を避けて7日までに挨拶回りをするようにしていた。

 

初日の出を見て早々忙しいが、オオスがいない間の有情地の扱いを皆に説明しておく必要があった。

オオスは新年の挨拶を妖怪達と交わしつつ、今後の有情地の解放についても話した。

 

そして、

「わかさぎ姫さん、有情地の扱いについてですが…」

オオスはわかさぎ姫には別のことを依頼しておく必要があった。

…今泉影狼のことである。

 

現在、影狼は山の妖怪と麓の妖怪達との戦争を回避するために奔走していた。

オオスとしても心配であったが、人里への挨拶回りの時期であった。

その為、オオスは不在の影狼についてわかさぎ姫と相談しておく必要があった。

 

だが、

「…早速、こういう形で使うことになるとは」

オオスはわかさぎ姫との会話を中断した。

 

弱小妖怪の一人、カシャンボの能力である音波の拡散をオオスは使用していた。

結果、オオスは影狼の位置を特定することに成功していた。

…オオスは魔術で影狼の位置を特定していたが、オオスは魔力が左程多いわけではない。

そのため、定期的な観測に留めていたが、カシャンボのお陰で継続して影狼を補足できていた。

 

それは、本来の能力者のカシャンボすら考えつかなかった能力の応用であった。

オオスの使う遠視等の魔法よりも遥かに燃費が良く対象を特定することができた。

影狼の音波をオオスは特定し、その周囲を遠巻きに囲んでいる者達を把握した。

 

オオスからすれば、カシャンボの能力は生命探知、ソナーとして極めて効率の良い能力だった。

言い方は悪いが弱小妖怪の妖術である。…妖力の燃費が物凄く少ないのだ。

 

カシャンボ本人は音を別の場所へ飛ばして、自分が逃げる為の囮として使用していた。

オオスが可能性を指摘した結果、カシャンボもソナーとして能力を使えるようになった。

オオスと弱小妖怪達、カシャンボの相互進化の典型例であった。

 

「…影狼さんが妖怪達から逃げようとしているようです」

オオスはわかさぎ姫に現状を説明した。

話合いが決裂したのだと、オオスは推測した。

 

…声や詳しい状況まで拾えるわけではないので大よそしかわからないが。

逃げきれないかもしれないと思ったのか、有情地に近づきつつあった影狼が止まった。

オオスは自分に迷惑をかけてしまうことを影狼が躊躇しているのを悟った。

 

どちらにせよ影狼は有情地から離れようか、若しくはその場で戦うつもりなのか。

影狼は止まった。オオスはカシャンボのソナー能力から影狼の変化を悟った。

 

だが、影狼の周りには五十近くもの妖怪達の反応があった。

影狼に攻撃等を加えている様子はない。

…これほどまで味方を集めた影狼の努力をオオスは敬意を評した。

そして、それでも戦争が止まぬことの非情さを悟った。

 

「…え、か、影狼が!」

わかさぎ姫がオオスの言葉に狼狽した。

 

オオスはわかさぎ姫に説明前にあることに気が付いた。

…影狼を追う者達の中に捜索系の能力をジャミングできる能力者がいた。

そして、オオスの探査に気が付いたようだ。

邪魔されたくないのかソナーの反応がズラされた。正確な位置が微妙にわからない。

 

オオスは鯛灣の能力を使用した。

鯛灣は申の方位をどこにいてもわかる能力を持つ。申の方位にいると力が増すらしい。

鯛灣は逃げきれない時、戦闘等を選択し、自分に有利な方角を割り出すのに使用していた。

オオスは方位魔術、陰陽道等の一部を鯛灣に教えた。

自分にとって幸運の方位を割り出せば、逃げることが容易になった。

 

オオスはカシャンボのソナーがズレた辺りに陰陽術の八卦を使用した。

どこにいても申の方位がわかれば、その特定から八卦で遠隔で占えた。

オオスは影狼達の現在位置を占おうとしていた。

…オオスはジャミングを突破し、影狼とその仲間達の位置を特定した。

 

「今から遠隔で皆さんと同じような妖怪達をここへ転移させます!下がってください!!」

オオスは皆に下がるように叫んだ。わかさぎ姫には目線で安心するように伝えた。

わかさぎ姫に影狼は今から助けるとオオスは宣言した。

 

オオスは自身の持つ奥の手の一つ。…霊力の消費が多い術を使用することにした。

仙果を毎日食しているお陰でオオスは霊力の消費に気を使わなくて済んだ。

オオスの日々の努力が影狼達を救う上で役に立っていた。

追手にここ、有情地を悟らせず、目立たずに影狼達を救助できた。

…戦闘力は相変わらずだが、オオスは日々の努力に感謝した。

 

「閣下!お手伝いすることは!」

鈴瑚がオオスに尋ねた。オオスの焦り具合から何かあったと悟って声をかけた。

 

「…カシャンボさんのソナー能力と鯛灣さんの方位特定で大人数が把握できました!

 正確な人数はわかりませんが、大急ぎで数十人単位の介抱の用意を!」

オオスは鈴瑚の言葉に反応して、指示を飛ばした。

そして暗にカシャンボと鯛灣に感謝の言葉を述べた。

 

オオスは彼女達の能力で数十人の妖怪が救えるのだ。

 

「…!」

青い衣を着た子供のような容姿のカシャンボはオオスの言葉に歓喜した。

赤い服が基調の少女の妖怪、鯛灣も同様であった。能力が役に立ったと聞き歓喜していた。

そして、鈴瑚を中心とした玉兎達の手伝いに加わった。

 

「皆さん!水と食料の用意を!」

鈴瑚が同志達へ伝達した。

オオスが転移させるという場所から少し離れたところに食料等を集めるように指示を飛ばす。

いつでも迎えられるとオオスに行動で示した。

 

「…!」

オオスは鈴瑚に感謝を述べたかったが、急いで術式を完成させる必要があった。

オオスもまた行動で示すことにした。

 

オオスが行うのは戦国時代の陰陽師が使用していた『奇門遁甲』。その変則だった。

本来は悪しきものとの絆を断ち切り、元の時空に送り返す術だ。

逆に言えば、絆さえあれば逆に迎える術に変則転用可能であった。

 

オオスが新たな使用法を外で千年生きているという陰陽師に伝えたことを懐かしんだ。

…オオスは自らを囮にして対象を呼び出して現代兵器でフルボッコにした。

戦国時代でもこんな馬鹿な使い方をした奴はいないと陰陽師に言われたことを思い出した。

 

カシャンボのソナーから纏まっている影狼達を補足し、絆という名の繋がりを掴んだ。

オオスは仙果のおかげで自らの霊力を気にせず大き目の転移陣を作成できた。

 

「…行きます!」

オオスはそれだけ叫び、影狼達を転移した。

 

 

 

オオスが奇門遁甲を使用する少し前まで時間を遡る。

影狼は五十人以上の妖怪達に山の妖怪との戦争を辞めることを説得できていた。

…だが、全員が全員影狼の味方ではなかった。内通者、裏切り者が一人だけいたのだ。

 

「影狼…悪いな。これは戦争なんだ」

影狼が真っ先に声をかけた幼馴染の人狼の男はそう言った。

 

「…まさか、あの臆病者がここまで集めるとな」

人狼の長が影狼の行動力に呆れながらも敬意を評した。

…長としては影狼を逃がしてやりたい。だが、引けぬ事情があった。

 

「我らの同胞を引き抜いた奴を、その胆力で見逃がすとかいうたらお主達から殺す」

妖怪猿の長が人狼の長の言葉の敬意を察して言った。

 

河童達の永遠の敵である妖怪猿はこの機に河童を滅ぼす気であった。

その為の策となるには人柱が必要であった。臆病者でも使い捨ての駒になるのだ。

 

「…わかっている」

人狼の長は影狼に内心謝罪しつつ、戦争を止められぬ事情を沈黙で影狼に伝えた。

影狼達がこの場から消えでもしない限り、影狼達を逃がすことは不可能であった。

そして、そんな奇跡があるわけがないと人狼の長は悟っていた。

 

「ん?何だこれは」

頽馬の長が微弱な探査の術を察した。頽馬は魔性の風の妖怪であった。

風を司る天狗とは犬猿の中であった。

 

「影狼とか言ったか?何者かの助けの見込みがあったようだが無駄だぞ」

頽馬の長は探査の術を混乱させた。それは魔性の風の持つ能力であった。

 

「…!」

影狼はオオスが自らを心配して自分を探っていたのを悟った。

皆を連れて逃げていたが、足が微妙に止まった。

 

「…影狼、気にするな」

影狼の話に乗った妖怪猿の一人が言った。

彼は自らの長に嫌気がさしていた。

戦争を回避、最悪逃げようと誘ってくれただけで感謝していた。

 

「皆!我らが逃げるのではないことを示してやろうぞ!」

頽馬は自らの魔の風に声を乗せて叫んだ。自らは逃げるのではない。

非戦派の中で最も賢い彼女はここで自分達が犠牲になれば戦争は止まると計算していた。

 

「…ちっ!」

妖怪猿の長が自らの策を看破した頽馬に舌打ちを隠さない。

元々賢いから自らの軍師として使おうとしたが、非戦派の軍師に成り果てた。

やはり同胞しか使えないと妖怪猿の長は思った。…それは使い捨てというものだった。

 

「皆…」

影狼は皆の覚悟に涙した。…自分のせいでこうなったのに皆が影狼のことを怒らない。

その思いに感謝の涙であった。

 

だが、彼はそんな空気を読まない。

…滅茶苦茶な力が、光が影狼を中心として広がった。

 

「ば、馬鹿な!?儂は探査を斥けたのだぞ」

頽馬の長は動揺した。天狗に喧嘩を売るだけあり、長にはそれ相応の力があった。

目の前の滅茶苦茶な力よりも、それを斥けて影狼を補足した力が何なのかわからなかった。

 

それは弱者の力を組み合わせただけだった。方位がわかるだけの妖怪との合わせ技だった。

 

「…皆!この光を受け入れて!!」

影狼はオオスの助けとわかり、皆に叫んだ。

 

そして、影狼を中心に非戦派50人の妖怪達に光が迸った。

 

「…消えたな」

人狼の長が呟いた。影狼達は光と共に消え失せた。…これは神の奇跡だと長は思った。

 

「さ、探せ!その辺に…」

妖怪猿の長が影狼達を探すように発破をかけた。

 

だが、

「無駄だ…」

頽馬の長は妖怪猿の長にそう言った。

頽馬の長は影狼達の背後にいる強大な何かの存在を認識した。

 

「待ってください!今から全力で探せば!!」

影狼の幼馴染であった人狼の男は叫んだ。

 

昔馴染みを殺すというのにそこには微塵も躊躇も何もなかった。

…彼は畜生に落ちていた。影狼が知らぬ間に外道と成り果てていたのだ。

 

「山に喧嘩を売る前に皆、死にかねない」

頽馬の長はそう言い切った。…それほどの脅威がいると頽馬の長は悟った。

50人を一気に転移させ、自らの力から更に補足しなおした。

少なくとも自分よりも圧倒的格上と判断するには十分だった。

 

「では、解散だな」

人狼の長はそう言って翻した。人狼の長は元々戦争にどちらかと言えば反対だった。

それ程の脅威がいるとわかった以上引く。…誰が何といおうともだ。

 

…人狼の長は名も知らぬ未知の脅威に感謝した。

 

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