オオスと影狼が引き抜いた麓の妖怪達との話し合いは終わった。
結果、オオスは元旦早々、とんでもない戦力を手に入れた。
その際、オオスは新しい部下達から軽めに聞き取りを行っていた。
オオスは吾妻のような地雷がないか一応確認した。
…ちょっと種族の上位の家柄の息子、娘がいたくらいだ。何も問題なかった。
オオスはこの件について八雲紫に何か言われたらどうしようと考えた。
だが、よく考えたら言いくるめはオオスの得意分野である。何も問題なかった。
オオスは妖怪戦争というある意味一番の懸念事項が片付いたと開き直ることにした。
そして、美濃吾妻達がオオスの采配に納得しているので全て良しとした。
オオスは意思を尊重している。吾妻達が良しとしたからには、オオスは仕事を用意する。
なお、吾妻らをオオスが受け入れたら、また自分の妖力が増えた。
…これはオオスにとって不味かった。
弱小妖怪の能力をオオスは学んだばかりだ。
オオスは霊力を使った脳内シュミレーションにより、弱小妖怪達の妖術を使いこなせるようになったばかりなのだ。
欠かさずあらゆる場面を想定していたお陰で影狼達救出の際も問題なく即興で扱えた。
それが、こんなに急激に妖力が増えたらまた脳内シュミレーションをし直さなければならない。
使える妖力が増えたので、中妖怪くらいの朱鷺子達の能力の模倣も使えるだろう。
更に吾妻達の能力も聞き取りしてまた更に脳内シュミレーションである。
実地で経験を積む以前にキチンと自分の能力を把握するのがオオスの流儀である。
手札が増えても使えなければ死蔵である。
…オオスの強みは対応力、そして手数の多さなのだ。
下手に強い力を得てしまい、それに振り回されることはあってはならない。
オオスは強さを求めている。だが、その使用には細心の注意を払っていた。
その為にオオスは基礎鍛錬を日々欠かさず行っているのだ。
…ここまで急激に力を得たこと等オオスにはなかった。
オオスは真剣に妖力の使用について頭を抱えていた。
オオスに取ってこの膨大な妖力は使えるが使えないのだ。
戦闘になれば特にそれが顕著になる。しばらくは補助で立ち回り慣らしていくほかない。
…オオスはこれ以上妖力が増えないか不安になった。自意識過剰になっていると思った。
オオスは気持ちを切り替えた。オオスが考えても解決策が即座に思いつかない。
だが、オオスは吾妻達の加入により、安心して有情地を任せられると確信できた。
オオスの部下達ははっきり言って現状のオオスより強い。
オオスの強さは外付けがほとんどだ。オオスは自らの流儀により妖力の使用は控える。
そうすると最初から何でもありなら兎も角、何もない状態からなら普通に負けた。
…更に部下達にはバトル漫画的に強くなっていく系の素質があるのが何人かいた。
オオスは生まれつき人より弱いからこそ、相手の素質を見る眼を鍛えていた。
オオスの人生は邪神が週一くらいのペースで本気で殺しに来るのだ。
オオスが覚えている一番古い記憶は邪神の戯れで灰と化した自宅と両親である。
両親の顔に思わず手を伸ばしたら、灰は崩れた。…オオスは両親の顔を思い出せない。
その場で生き残る手段を分析し、邪神にはその場で相応の地獄を味わってもらった。
このようにオオスは相手を分析することだけは生まれつき得意だった。
オオスの分析能力は自身でも無理ゲ―と思うような状況下の実地で鍛えて来たものだ。
…オオスは本当のところそういう邪悪に立ち向かえる力が欲しかった。
だが、オオスの生まれは言い方を悪くすれば凡庸な家庭であり基礎能力は弱い。
オオスは敵を翻弄する技術や補助に特化するしかなかった。
もやしっ子がプロレス等に嵌るのと同じ理屈なのだろうとオオスは自己分析している。
この幻想郷においても力がないと困るのでオオスは必死であった。
話を戻して、有情地については問題ないと思いつつもオオスも暇を見て確認するつもりだ。
だが、吾妻達は理性的であり頭も良いので大丈夫だろう。
イーグルラヴィの玉兎達もいるが、そちらについてはオオスは少し気になる事があった。
玉兎達はどうも有情湖に設置した祠の参拝客の案内で忙しいらしい。
なお、有情湖の祠はオオスが梓の木を生やしたところに建てたらしい。
オオスは周囲の運気を上げて、更に邪気を祓い、風水や風情まで気を使った場所だ。
更に、有情湖は人と妖怪の境にあった。
里の人間にとってはある種の異世界、立ち入っていけないという境目、聖域であった。
オオスはあそこに神を祀る事自体が霊験あらたかであると断言できた。
…余程変な神でない限り、あそこに祠があるだけで神格が勝手に上がっていくはずである。
オオスとしては見も知らぬ神の力が底上げされると言うことは実に忌々しきことだ。
だが、部下達のためにオオスは本気で頑張ったし、耐えたのだ。
もはやわざとやっているようにしか思えないがオオスは全く気が付いていない。
…オオスは気が付かない内に自分の首を自分で絞めていた。
そして、祀ったばかりの祠に何故か早くも人間の参拝客がそこそこ来ているようなのだ。
…妖怪達も参拝しているので衝突しないかオオスは心配であった。
オオスは有情湖の管理人だが、祠の管理には携わらないと宣言している。
どこからか話を聞きつけた塩屋敷の主人が自分も拝んでいる神だとかで立派な鳥居を用意していた。
良く聞けば、オオス達が食べた年越しそばを用意してくれたのも塩屋敷主人だったという。
…オオスは塩屋敷の主人も忙しいだろうと多少の無礼を承知で年明けの挨拶を済ませた。
その時、塩屋敷の主人は何かを隠しているとオオスは悟った。
だが、祀っている神のことだとオオスは確信した。オオスは関わりたくないのでスルーした。
あの祠に祀っている神が何かわからないが、祠どころか神社にする気ではないか思った。
オオスは部下達に関与しないと言った。部下達と話して決めてくださいとだけ伝えた。
こういう経緯もあり、オオスは祠に関して問題が起こらない限り知らないし、本気で関わりたくない。
勿論、有情湖で何か問題が起きればオオスが責任は取ると部下達に断言していた。
しかし、オオスは神に関わりたくなかったので丸投げである。
オオスは松の内、つまり1月7日までの人里の挨拶回りに集中できる。
オオスはこれからも問題なく善良なる里人として振る舞えるはずである。
…オオスはよく考えたがやはり問題ないなと思った。
その為、元旦は新しく来た吾妻達や朱鷺子等の弱小妖怪ではない妖怪達と話すことにした。
新しく力をオオスは欲していた。そして、知識もである。
オオスは冬季清浄とヲロシアという弱小妖怪の能力を使い、氷の屋敷を作成した。
ヲロシアは雪風の妖怪である。ロシア系の白髪の美少女のような容姿だった。
オオスが可能性を指摘した結果、ヲロシアは防砦を構築できるようになった。
…第一次世界大戦くらいなら通用するとオオスは思った。
なお、ヲロシアは自分の能力の発展に絶句していた。
オオスも何故かは知らないが、ヲロシアは戦争系の才能が弱小妖怪とは思えぬ程あった。
ヲロシアは心優しい妖怪である。オオスは意思を尊重していた。
これ以上の能力向上は辞めないかとオオスはヲロシアに提案した。
だが、ヲロシアは懸命に自身の能力を鍛え始めた。…それも意思としてオオスは尊重した。
才能と感性が合致していなかっただけでヲロシアはヤバい妖怪なのではないかと思った。
そして、そういう弱小妖怪がオオスの見た限り何人かいた。
能力と感性が合っていない強力な弱小妖怪達がいた。…風見幽香とは逆である。
春明けになる頃には妖怪達の間で下剋上になるかもしれないとオオスは思った。
…人間のオオスは関係ないし知らないが。
そして、オオスはヲロシアの能力と冬季清浄の力が加わえた結果、氷の屋敷を一瞬で作れた。
…オオスの能力行使に吾妻達は絶句していたが、オオスも驚いていた。
「では、先ずは誰から話しましょうか?」
オオスは平然とした佇まいを崩さずに提案した。
オオスは新しい部下達に力を示すことができたので良しとした。
妖怪は基本的に力こそ正義だとオオスは知っていた。…これで良いのだと言い聞かせた。
なお、オオスは神扱いなのでそんなことは関係ないのだが、オオスは知らない。
「…私からよろしいでしょうか?」
吾妻はオオスという神の力に驚きながらも名乗り出た。
吾妻は、オオスは妖力を得たばかりで妖術も弱小妖怪から教わったと同志から聞いていた。
なので、目の前の光景に思わず絶句してしまった。…そして、考えるのを辞めた。
オオスは滅茶苦茶であると吾妻を殺そうとした同志である清蘭が言っていた。
確かにオオスは滅茶苦茶だと吾妻は納得した。
「わかりました」
オオスは吾妻の名乗りに優雅な仕草で答えた。
吾妻は氷の屋敷の中に入った。…氷の屋敷は溶ける事はなく、思ったより寒くなかった。
「今、温めますね」
オオスは『カタエリンの熱波』という呪文を唱えた。
オオスは1分ほど詠唱し、オオスと吾妻の周囲だけ暖かくした。
これで氷の屋敷でも寒くないとオオスは確認した。
「…閣下は何でもできるのでしょうか?」
吾妻は何でもありなオオスに聞いた。
…自らは暖かくなったが、氷の屋敷は解ける気配がない。
「何でもはできません。小手先の術は得意なんです」
オオスは本心から言った。オオスを神か何かだとでも思っているのだろうかと思った。
もしそうなら失礼極まりないのだが。
「申し訳ございません。…驚いてしまいまして」
吾妻はオオスが神として扱われることを嫌うと思い出して謝罪した。
「いいです。…私は小手先の組み合わせが得意で、そういう風に見えたかもしれない」
オオスは吾妻がやたら真剣に謝るので、自らの非もあると言った。
実際、オオスは新しく手に入れた力で少々浮かれていた。
戦闘でないから良いと思い簡単に力を使い過ぎたと反省した。
「…ところで閣下、質問をよろしいでしょうか?」
吾妻はオオスに尋ねることにした。あの時と同じ質問を、だが、含まれる意味は違うことを。
「どうぞ」
オオスは吾妻に質問を許可した。
…そう言えばオオスのことを何故、皆して『閣下』と呼ぶのだろうか。
その呼び方は神みたいで嫌だとか玉兎達へ言いまくった記憶はオオスにはあった。
だが、本名とか渾名とかあるだろうにとオオスは思った。
「…私共を使って何をしようというのでしょうか?」
吾妻はオオスに尋ねた。如何様にしても構わない。
…だが、吾妻としても聞ける機会に聞いておきたいことであった。
吾妻は無礼を承知で聞くが神は吾妻の意図を読み取ってくださると信じていた。
「正直、貴方達を助けたのは私も計算外でした」
オオスは吾妻の意図がわかったので本音を言うことにした。
あんまり深読みされても困るのでオオスは弱みとなるようなことを溢した。
「…」
吾妻は黙って聞いていた。
…神にとって自らの地を危険に晒してまで自分達を保護してくださった。
そのことに吾妻は改めて神へ感謝と忠誠を誓った。
「それはもう言った通り問題ありません」
オオスはあんまりなことを言って失望させたくもないので一応訂正もした。
オオスに取って吾妻達を引き抜いたことはもう問題なかった。
「ですが…私は知りたいのです」
オオスは端的に述べた。…オオスが求める知識と力を吾妻達は持っていた。
弱小妖怪達との対話で得られた物はオオスにとって大きかった。
最初から強い吾妻達とは違い、弱者から、基礎から妖術を学べた。
オオスは基礎研究こそ重要だと思っている。
昨年末、当初の予定だった河童との交渉で使うはずの二種の秘酒は使わなかった。
だが、あれは二年かかりの基礎研究の末の成果であった。
オオスはあの知見を応用して更なる研究を重ねるつもりである。
「知りたいというのは…?」
吾妻はオオスの子どものような無邪気さを見た。
オオスは誰よりも優しく思慮深い。…そして無邪気な子どものようだと吾妻は感じた。
「私は学者肌で、かつ力を求めています」
オオスは端的に自身の目標を話した。あらゆる分野で幻想郷に力を求めていた。
だが、
「私は強欲な人間なんです。どこまで行っても」
オオスは笑みを浮かべて吾妻に言った。
オオスはもはや吾妻に取繕わない。自分をどう思われてようとオオスは知らない。
オオスは自身の好奇心が湧き上がって仕方がないのだ。
…オオスは知らないことが嬉しかった。知らない人間はどこまでも進化できる。
欲望と資質は人間をどこまでも進化させる。我が身の葛藤すら糧に乗り越えて見せる。
乗り越えた先にまた更に課題を見つけて乗り越えるのだ。…オオスはそれを止められない。
「…」
吾妻は思わず沈黙した。だが、オオスの笑みに惹かれつつあった。
そして、オオスが何故神として在りたくないのか、吾妻はその一端を理解した気がした。
…神とはオオスにとって終わりなのかもしれない。吾妻は何となくそう思った。
「だから、あなたのことを教えてくれませんか?私は貴方のことを知りたいのです」
オオスは吾妻の、美濃吾妻の目だけを見てそう言い切った。
…オオスは目の前の『人』だけを見て言った。
「…私のことでよければ何なりと」
吾妻は一瞬言葉に詰まった。そして、オオスの求めに応じた。
…単純に自らを求められたことが嬉しかったのだ。
吾妻はオオスが神等とは関係なく、その一点の穢れもない無邪気な求めに応えたかった。
…端的にいえば吾妻はオオスに魅了されていた。