嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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悪足掻き

オオスは一日で全妖怪から話を聞くのは無理だと最初からわかっていた。

なので、彼等に聞いたのはほんのさわりである。主に軽い身の上と能力等だ。

 

最初の吾妻には例外的に話の時間を多く割くつもりでいた。

吾妻を通せば話が早いとオオスは確信した。

影狼も傑物を引き抜いたものだとオオスは感心した。

吾妻はオオスから見ても実に頭が良いし、機転も効く。

 

なお、能力は自分の弱点をも晒すことになりかねないので聞くのはどうかとも思った。

だが、オオスの面談の際、彼等はオオスの求めに応じてくれた。

なので、オオスはその礼に弱小妖怪達と同様にアドバイスもした。

 

強い彼等をこれ以上強くするのもどうかとも思った。

しかし、恩には礼をもって返すのがオオスの流儀である。

…結局はオオス自身の為にもなるので良しとした。情けは人の為ならずである。

 

そして、吾妻達と弱小妖怪達と違う点が一つ、彼等にはあった。

…自らの能力、妖術の体系化だった。

これこそオオスの欲しい知識の一つであった。

 

だが、それを根掘り葉掘り聞いていては一人で一日が終わってしまう。

 

最初にオオスが面談をしたのが吾妻なのが幸いだった。

吾妻はオオスにそういった知識を皆から纏めておくとオオスに言ってくれた。

 

オオスは吾妻の厚意に感謝した。

だが、無理やり聞き出すようなことは避けるように言った。

飽くまでも自分の意思での協力をオオスは依頼したかった。…何せ知識とは力である。

 

「私は頽馬や妖怪猿、人狼等の言語何かも興味があるのです」

オオスは強欲な人間らしく吾妻に漏らした。オオスの言葉には様々な思惑があった。

 

「それだと…かなりの時間がかかると思われますが」

吾妻はオオスの言葉の裏を察した。

 

…オオスは我々の文化的背景を配慮して仕事を振るつもりなのだ。

無論、自身の興味関心も嘘ではない。吾妻はオオスと会話して改めて気が付いた。

例えば、オオスは数少ない時間の中でカシャンボと妖怪猿は会わせて大丈夫か聞いていた。

カシャンボは河童の亜種である。オオスは妖怪猿と河童の因縁の昔話を良く知っていた。

…吾妻はオオスの行為は全て複数の意味があると確信していた。

それが例えどんなにふざけていても、だ。吾妻は自らの頭脳でそれを看破した。

 

例えば、オオスの人里での職業にしてもそうだ。

オオスは紙芝居屋という職業という隠れ蓑に妖怪や神々のことを調べていた。自然体に。

そして、教訓を通して人々を啓蒙し、妖怪への注意喚起もしていた。

…オオスの紙芝居から人々は妖怪を恐れている。観客も知らない内に伝えていた。

幻想郷が成り立つ、人と妖怪の関係性をオオスは紙芝居屋という仕事を以て貢献していた。

吾妻も知る妖怪の賢者、八雲紫がオオスを消さないだろう。…吾妻は八雲紫を警戒していた。

…妖怪の恐ろしさも伝えるオオスは紙芝居をするだけで幻想郷に貢献していた。

 

自らの仕えることになった神の慧眼を吾妻は畏怖した。

オオスの行為は最初から全て計算づくであった。オオスはそれを強欲と自嘲している。

…吾妻はこれほどまでの計略を練れる存在を見たことがなかった。

そして、自らの行為に『遊び』を加えることで精神の均衡をオオスは保っている。

それがオオスの純粋な子どもの部分なのだと吾妻は理解した。

吾妻はオオスという人間を僅かな会話で理解した。

吾妻はそれもまたオオスの計略だと理解していた。…どこまで本当かわからない。

 

「文字の読み書きを通して、妖魔本の類を読めるようになりたいのです」

オオスは吾妻には割と何を言っても大丈夫だと理解した。なのでベラベラ喋っていた。

オオスの真意も看破しているだろう。深読みもあるだろう。だが、それで良かった。

 

「…閣下の時間さえいただければ可能かと存じます」

吾妻はオオスの求めに応じることにした。…オオスは麓の妖怪達をまだ警戒していた。

オオスの頭脳をもってすれば彼等の暗号文章等、一瞬で看破できるだろう。

オオスはその前提となる知識、各種族の文字の読み書きと文化的背景を知りたがっている。

 

「お願いしても良いですか?できれば現状を踏まえた物が欲しいのですが」

オオスは吾妻がオオスの意図をどんどん看破していくので楽しかった。

つい口が滑ったが、問題なかった。

 

「…はっ!」

吾妻はオオスに遅れて返事をした。

オオスは現状、つまり現在の妖怪内部の力関係まで欲していた。

…吾妻はオオスがその気になれば幻想郷を手中に収めることも可能だと思った。

吾妻はオオスが何故それをしないのか少し気になった。

 

「風情が無いからしないのですよ」

オオスは吾妻の遅れた返事に含まれる感情を看破した。

鈴瑚と塩屋敷の主人の件で会話していた時と似た反応だった。

 

「…風情とはなんでしょうか?」

吾妻はオオスに聞き返した。自らの心を読まれたが、それは不快ではなかった。

寧ろ、吾妻は自らの主の偉大さに身を委ねたくなる誘惑に駆られた。

…オオスはそれを望んではいないと知っていたので吾妻はその誘惑に耐えた。

 

「謙をもって者に接し、善をもって自らを守る者です」

オオスは吾妻にあった風情の回答をした。

オオスとはまた少し違うが、吾妻の風情はこうなのだろうと会話の中で悟った。

 

「謙虚であり、善良な行動をもって正しく生きる…それが最終的に自らの身を守る」

吾妻はオオスの言葉に自らを振り返った。…オオスの風情はまた違うと思った。

だが、吾妻はこれこそ自らの真理ではないかと思った。

 

「鵜呑みにしてはいけません。それが正しいか悩むこともまた風情の理解になるでしょう」

オオスは吾妻に風情の楽しみ方を伝授した。

オオスもまた常に悩んで風情を理解しようと試みている。

…オオスからみて西行寺幽々子は風情を楽しむことに関しての体現者であった。

 

「…ありがとうございます」

吾妻はオオスが吾妻の悩みを看破して面談してくれていたことを悟った。

知識が欲しい、力が欲しいそういうのも本当だ。だが、オオスは吾妻だけを見ていてくれた。

…吾妻はオオスが本当はわかって言っていると悟った。風情がないので口には出さない。

 

「どういたしまして」

オオスは吾妻の感謝に応えて言った。

それが人の為になるのであれば許容できる。

だが、オオスは足掻くのだ。人間らしく悪足掻きをする。

 

オオスは玉兎達や吾妻達の望みを叶えるわけにはいかない。己が己であるためにも。

…オオスは別の解決策を模索するために足掻いていた。

 

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