嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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幻想以上の古きを知る紙芝居屋

オオスは1月2日の昼頃という大変忙しいときに稗田家に年明けの挨拶をしに来ていた。

訪問理由の大部分がオオスの個人的な感情からくる八つ当たりである。オオスは割と阿求に対してキレていた。

 

…オオスだってもうここまで材料を揃えられればわかるのだ。我慢の限界だった。

オオスはあの祠に関して自己催眠をかける予定だが、その前に阿求に一言言いに来ていた。

 

 

オオスは稗田家に三が日にも関わらず、いつものように乗り込んできた。

当然、オオスは稗田家の招待状も持参していない。オオスは顔パスである。

 

オオスに対してこんな糞忙しいときに来やがってと使用人はイラつきを隠さない。

オオスも使用人には悪いなと思いつつ、さっさと個室に案内するように急かした。

使用人とオオスはお互い慣れたもので、以心伝心であった。

二人は目線のみで会話していた。…使用人は阿求の控室にオオスをさっさと連れて行った。

 

 

「えっ…え?」

とある訪問客は正月早々、目の前の光景に驚いていた。

突然、招待状も無しに来た変な紙芝居屋が最上級の待遇を受けているように見えた。

 

その客人は外の現代知識により台頭してきた今年、正確に言えば去年、幻想郷に来たばかり外来人の男だった。

ここはあの稗田家だよなと目を疑った。…男は幻想郷という異世界で無双するはずだった。

この外来人はオオスをたかが紙芝居屋と見向きもしていなかった。…そのツケが来ていた。

 

今年のオオスは地獄へ行き来したり、月面戦争の裏工作等人里を離れることが多かった。

そのため、新進気鋭の外来人の若者はオオスをほとんど見たことがなかった。

外来人は嘘臭い話題の胡散臭い紙芝居屋程度しか、オオスのことを知らなかった。

 

一方、オオスはその外来人のことを知っていた。…見ていて危なっかしいと思っていた。

妖怪に根回ししないで台頭して、消されないかと心配しつつも忙しいので放置していた。

人里で外来人の急速な台頭は人里を纏める者の誕生と疑われかねない。…下手すれば死ぬ。

なお、外来人の男は人里を現代知識で纏める気でいた。…このままだと事故死していた。

 

オオスは初回で河童との取引を餌に射命丸文という大妖怪を釣って、自らを売り込んだ。

死ぬ覚悟で妖怪に喧嘩を売る。…そのくらい気概がないと人里で急速な台頭は許されない。

その外来人の行動はオオスから見て非常に危うかった。再来年には死ぬとオオスは思った。

忙しいオオスは来年、つまり今年に彼へ注意する予定だった。…まだ話もしていない。

 

男がオオスに関わりがないのは、オオスが人里から離れた所に住んでいるのも原因だった。

…外来人の男はオオスが海を作ったと聞いても程度の低い塩湖だろうと軽んじた。

オオスの海の現物を見れば一発でヤベい奴とわかるのだが、彼は現代知識に驕っていた。

妖怪や魔法も人里から出なければ関わる事はまずないことも男の驕りを助長していた。

外来人の男はまやかしの存在と妖怪を舐めていた。人里からでなければ良いと思っていた。

…男はほとんどの妖怪勢力から全会一致の人里で事故死するリストに入っていた。

 

突然の来訪者であるオオスの稗田家の格式も糞もない蛮行を周囲の誰も指摘しなかった。

…それを驚くのはその外来人のみであり、悪い意味で目立ってしまっていた。

 

「問屋の旦那、おめでとさんだねぇ」「ああ、蝋燭の。新年早々天気も良かったねぇ」

周囲の古参達は歓談を勝手に始めた。

古参達はオオスが来たから自分達は後だと諦めていた。

古参達はあのオオスがこういう行動を取る時は理由があると知っていた。

人里で一番ヤバい奴である。…オオスがこういう風に動いたら兎に角ヤバいのだ。

 

「博麗神社の巫女と紅魔館の吸血鬼が月にろけっとに行った件だろうかねぇ」

問屋の旦那は月に攻め込んだ件で何かあったのかと囁いた。

 

若者は耳を疑った。…幻想郷でロケットを作れる技術があるとか聞いていない。

紅魔館の発射式は悪魔の館ということもあり、一般的な里人は知りもしなかった。

阿求等、一部の胆力がある古参の有力里人が紅魔館のパーティに参加していた。

…今年来たばかりの若者ではそれを知らないのは無理もなかった。

 

「アレじゃないか?…妖怪のバザーで異変起こして、妖怪と巫女に喧嘩売ったろう」

夜の光、蝋燭を扱う店主はそう言った。

彼は以前からオオスらしからぬ行動のことに理由があるのではないかと推理していた。

オオスは何か裏で暗躍していたのだろうと問屋に囁き返した。

 

「…」

外来人の若者は完全に周囲の話題に取り残された。…男はここで人脈を築く予定だった。

だが、幻想郷においてオオスは常識であり、非常識であった。何かあった時の話の種である。

オオスのことをほとんど知らないということは商売人として不味いことであった。

 

 

 

このようなやり取りは兎も角、忘れがちであるが、稗田家は幻想郷一の名家である。

オオスはそんなことを気にせずにホイホイ来ている。

だが、普通は案内がなければ敷地に近づくことすら許されない。

 

阿求の友達である本居小鈴すら阿求の案内がなければ入れないのだから相当である。

それ程、稗田家は格式高くて畏れ多い。…あの魔理沙すら多少気後れする程である。

人里には花屋の娘というオオスから見ても見事な胆力の持ち主がいるがそれは例外である。

 

オオスは人里で最も有力なお屋敷稗田家の一室に案内されていた。

 

「今、物凄く忙しいのですが、わかっていますよね?」

阿求はオオスに対して挨拶も早々に言ってきた。

阿求は多数の客人が来る大変忙しいときにわざとオオスが狙ってきたことを確信していた。

 

「明けましておめでとうございます。めでたい日に天気も晴れやかなのは喜ばしい」

オオスは阿求の都合なんざ知ったことじゃねぇと暗に行動で示していた。

振舞いは礼儀作法を重んじたものだが、阿求から追及は完全に無視していた。

 

「…明けましておめでとうございます」

阿求はオオスの対応についにアレがバレたと悟った。

…オオスの事だから気が付いても無視すると思っていた宗教団体のことである。

 

阿求はこの時、まだ有情湖の存在も祠のことも、塩屋敷の主人の鳥居設置も知らなかった。

 

「私も阿求さんに文句を言ったら記憶を消しますが、一言文句を言いたくて」

オオスは玉兎達の暴走よりも阿求がオオスに内緒で手をまわしていたことにキレていた。

あそこまでやられてはオオスもキレる。…自分を本気で神にする気かこの娘と思っていた。

 

「記憶を消すのなら勝手に消してくれれば良いのに…」

阿求は思わず呟いた。…オオスは文句だけ言って帰る気なのなら何故来たのかと思った。

 

「…私の計画が大幅に前倒しになってしまった」

オオスは神化以外の方法を前々から模索していた。…河童との取引もそれが狙いだった。

オオスは阿求へ記憶を消す前に話して置くことにした。神を人間のまま超す方法である。

 

「えっ…」

阿求は言葉を失った。

…オオスが自分だけに記憶を消す前に話を持って来た。

阿求はそれが何なのかわからないが驚きと嬉しさが混ざり合った感情を抱いていた。

 

「…阿求さんには私にあの宗教について隠していた責任を取って貰いたい」

オオスはそう言って懐からあるものを取り出した。

 

これこそがオオスの計略の第一歩であった。

仙人に教えを乞うのも、神化を拒むのも、あらゆる知識を集め、力を求めているのも。

そして、月へ攻め込み、仙果を集めたのも、全てだ。オオスは全てを計画していた。

現実から目を背けつつも、逃げない。…オオスは初めから人間の意思を貫く決意をしていた。

 

「これは…何ですか?」

阿求はオオスに尋ねた。…小瓶に入った何かの液体であった。

 

オオスが阿求へ渡したのはオオスの計略の始まる予定だったものだ。

…その中身をオオスは阿求へ飲ませる。それが阿求にオオスが求める責任である。

そして、オオスが一度記憶を消すことを覚えているただ一人の人物への対価だった。

 

オオスは四季映姫すら気が付けない、全てが解決する秘策を練っていた。

オオスは今後の計画の為にもあの宗教を“今”は自分の脳内から消す必要があった。

 

「その中身について言う前に私は敢えて名乗ります」

オオスは意図的に阿求の問を無視した。

 

そして、オオスは宣言した。オオスは人間としての意地を示す。

…それは神を超え、幻想によって全てを超越する者の姿であった。

 

「私の名はオオス。善良なる人里の民。そして、幻想以上の古きを知る紙芝居屋」

オオスは阿求に敢えてそう名乗った。…オオスは『人間』として昔話で超越するのだ。

 

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