オオスは阿求のところに行った結果、その場に居た大多数に挨拶回りをした。
稗田家の後、霧雨商店等にも行ってきた。オオスの人里の挨拶回りは一日で完了した。
オオスは軽く吾妻達や玉兎達に挨拶をし、自らの力を高める儀式を行うことにした。
一本松の女の能力である松の成長促進、それの混成術をオオスは既に行っていた。
あの忌々しき祠の近くにある梓の木を一気に育てたような儀式魔法である。
春季光星と冬季清浄、方位術と農作物の祝福を使った。
結果、オオスの海は松の木々で覆われていた。
オオスは塩害に強い植物を海の周りに植えたと玉兎達に言い訳をし、自身の海に松林を作っていた。
木を隠すなら森の中。オオスは特殊な松の木を大量に用意する必要があった。
一本松の女の能力のお陰でオオスはこれ以上ない程、作業効率が上がっていた。
オオスは松の樹皮を薄くかつ大量の紙状にし、松から漏れ出る松脂も回収していた。
仙人になる方法論の一つに松脂等を食するというのがある。
オオスは仙人にならないが、これから行う儀式には仙術も使用する。…松脂も必須だった。
松の木の何本かが丸々無くなったが、オオスの松林は左程変わったようには見えない。
玉兎達にも気が付かれずにオオスは作業の第一段階をクリアした。
オオスは何本分もの元松の木を収納空間に持ち込み、自宅にある地下の一室に向かった。
そこは玉兎達も知らないオオスの部屋の一つであった。
その部屋は地底、旧地獄でも未だ稼働中の地獄の環境を再現した部屋だった。
その部屋はオオスが作成した中で最も地底に近い部屋だった。
…玉兎達は穢れを嫌う月の生まれである。オオスはこの部屋の存在を公開していない、
清蘭はこの間、オオスの家に皆で住んでいたいと言っていた。
…オオス的にはこういう部屋の存在が危険なので玉兎達から離したいところがあった。
オオスはその部屋で新年の書初めをしていた。…能力向上の儀式の準備を行っていた。
オオスは自らの力を先鋭化させることも目標としていた。これはその一環であった。
オオスはその部屋で松の樹皮に言霊を唱えながら、権能を強化する文言を書いていた。
一本松の女の能力とオオスの儀式魔法により浄化した紙になっていた。
それを地獄に近い環境で書く。…地獄そのものだとオオスの浄化を上回るので意味が無い。
「無有錯謬以所衆生有種種性種種欲種種行種種憶想分別故欲令生諸善根以若干因縁譬諭言辞種種説法…」
オオスは自らの血でもって書初めしていた。書く内容を唱えていた。
なお、オオス的にNGな神仏は意図的に省いてある。…というか無視である。
オオスは彼の経典を自らの力のみで達するという風に改竄していた。
個人個人の欲望と行動、思いが衝突を生む。それを己の諧謔を用いて収めることを誓う。
オオスが今唱えて、書初めしている文言の意味はそんな感じの内容である。
これから行う行為を言霊にて、個人の中で疑似的なラグナロクを再現し、争いを収める。
オオスは他にも色々凄まじい速度で書初めを行っていた。
他に易、五行、風水、陰陽道、仙術、西洋占星術のハウス、錬丹術、アルス・マグナ、ゲマトリア等使えそうな物はオオスが知る中で使えそうな物は全て書いていた。
エノク魔術やアブラメリン魔術等、オオスが嫌う天使系統の魔術すら書いていた。
オオスは己が力の裾野を広げる努力をしていた。…それが邪法だろうとも構わない。
そうしてオオスは作業の第二段階をクリアした。
オオスは書初めが完了したので外にでた。
なお、玉兎達には予めオオスを見かけても無視し、離れるように言ってある。
書初めが散らばらないように仙術により加工し、松脂や霊符によって包み込んである。
…オオスはかなりの滅茶苦茶な混成呪術をこれから敢行する。
それは年一回しかできない手段であった。
そして、これはオオスが出来る限りの知識の集大成であった。
オオスは『方位術』で運気を上げたところを探し出した。
そして、その場所で先ほどの書初めを火宅…要は焼いた。
オオスは完全に灰になったのを確認し、その灰を一つたりとも残さず飲み込んだ。
…自らの血で書き上げることにより、自らに強引に染みこませる。
オオスが陰陽道を軽く習った千年生きたという半妖の、その宿敵が行っていた術を真似た。
オオスは邪法を行った。…あらゆる概念の集合体。相反する善と悪をオオスは飲み込んだ。
オオスは炎につつまれた恐ろしい光景を幻視した。だが、それを強引に抑え込んだ。
オオスは滅茶苦茶な方法で自らの力を高めていた。…完全に狂人の所作である。
全てが完了し、オオスは途切れそうな意識を強引に繋ぎ止めていた。
「ふう…ふう」
オオスは息が切れ、ふらついていた。
オオスが行ったことは自身の持つあらゆる才能の向上である。
これからの計画に使えそうな物全て詰め込んだ。…恐らく不要な物の方が多かった。
オオスは地獄の最下層の氷と灼熱の炎を幻視した。
オオスは精神体とはいえ人の身でありながら、三つの身体を持つ地獄の女神すら全力で忌避する行為を体験していた。
そんな滅茶苦茶をしたオオスは真面目にその時、死にかけていた。
しかし、
「だが、死なん!」
オオスはそれを気合で乗り切った。
幻視だけなら現実で死なないと、オオスは心を空にして耐えきった。
神奈子の暴風を耐えた時の様にオオスは心を完全なる無にした。
そして、耐えきった。オオスは自身の実験の成功に歓喜していた。
この夜、オオスは偉業を達成した。…オオスも気が付かない内にである。
オオスの存在すら知らない地獄の女神はオオスを広大な地獄で本当に偶々観測した。
ヘカーティアはその日、地獄の中でも最下層に行くことで新しい地獄を思索していた。
そしたら、地獄の炎、それも最下層で敢えて焼かれていく馬鹿者を見つけた。
自殺希望者かと思い、ヘカーティアは何となく眺めていた。
…その男は苦しみのたうち回っていた。当たり前である。
一体どこの神か悪魔かとヘカーティアは後日、笑い話にしようとその存在の近くまでやってきた。
だが、ヘカーティアは驚いた。…その男は途中から慣れた様子で平然としていた。
そして、その馬鹿者、否、超越者は耐えきったと思ったらさっさとどこかに消えて行った。
ヘカーティアの存在すら気が付かないで、『用が済んだからもう帰ろう』とだけ呟いて地獄から消えた。
彼のヘカーティア・ラピスラズリが絶句する偉業をオオスは気合だけで成し遂げていた。
そんな女神の存在等気づきもしないで文字通り地獄から帰還したオオスは歓喜していた。
「やったぜ」
オオスはそれだけ呟いた。そして、オオスは自宅に戻って行った。
オオスは流石に疲れたので今日はもう寝ることにした。
…それでも三時間だけしか寝ない。
オオスは自身の行為が持つ本質を全く理解していなかった。
オオスが持つ知識と経験で可能だと思ったから行った。
なお、ヘカーティアはあの男がどこの誰か、その存在を全く知らないので大慌てで地獄を探していた。
実力主義の地獄では、オオスの偉業は彼の女神の目に留まるには十分過ぎた。
ヘカーティアは神としてその馬鹿者を引き抜こうとした。
ヘカーティアはしばらくその馬鹿者がいるであろう辺り一帯の地獄に喧嘩を売りまくることになる。
地球数千個分の範囲内を捜索した。隠してないで出せと脅した。
だが、地獄のどこにもいるわけがなかった。その馬鹿者、オオスは幻想郷にいた。
ヘカーティアの行為は地獄の女神として改めて恐れられるだけであった。
オオスからすればその行為の意味など知らなかった。
オオスは力を手に入れるのにこれが一番手っ取り早かった。
それだけの理由でしただけであった。
思ったよりか普通に耐えきれたから来年もこっそりまたしよう。オオスはそう思った。
虫取り少年が夏の夜に予め樹皮に蜜を塗り、目的のカブトムシを翌日の早朝に捕まえたような感覚で喜んでいた。
…端的に言ってオオスは大馬鹿だった。