紅魔館の地下図書館で二人の男女がテーブルを挟んで向かい合い紅茶を飲んでいる。
文字にするとデート中のカップルか何かだが、当然違う。
そこには甘い雰囲気等ない。オオスはパチュリーに怒られていた。
「流石に今回はレミィに対して酷いと思うわ」
パチュリーはそう言って苦言を呈する。
パチュリーはオオスに対して怒るのは今回が初めてだ。
「はい。自分でも今回は酷かったなと思います」
オオスは全面的に非を認める。
オオスも今回は錯乱してやり過ぎたと反省しきりなのだった。
「かといって謝ると返って面倒になりそうよね。何があったの?」
パチュリーはオオスの様子を見て余程のことがあったと察する。
そして言外にレミリアは大して気にしてないだろうことを伝えた。
「全て天狗が悪いのです」
オオスはそれだけ言った。パチュリーにはそれだけで通じると思った。
できれば自分の口から言いたくなかった。
「…何というかひょっとして見たままの年齢だったりする?」
パチュリーは天狗と脳内で検索して『天狗攫い』というものにたどり着いた。
普通に目のある子どもを攫い、その間に修行をつけたりする等色々ある。
なお、性的欲求を満たすために人里で美少年を拉致するということもあるらしい。
…大体衆道の犠牲者になるという。パチュリーは男天狗の犠牲になるオオスを想像した。
「魔法使いとかではないですから。普通の里人ですから」
オオスはパチュリーにまで人外扱いされていたことにショックだったようだ。
思わずと言った感じで言う。
「…察したわ。ごめんなさい。レミィには悪いけどそれは仕方がないわ」
パチュリーはオオスを大いに同情した。なお、パチュリーは天狗を男と仮定している。
射命丸文だと知れば違う意味で激怒し、文をぶちのめしに行く。
「…ありがとうございます。しばらくお世話になります」
オオスは文が本気でヤバい目をしていたのでしばらく会いたくなかった。
ところ変わって紅魔館の従者控室。
オオスは妖精たちに挨拶しつつ、彼女達のボスを尋ねていた。
「というわけでメイド長。私がやることはありますか?」
オオスは流石にレミリアにやり過ぎたので働くことはないか尋ねる。
ネズミ(魔理沙)捕りでも良かったのだが、パチュリーに止めてあげてと言われてしまった。
パチュリーに提案した内容が96点オーバーキルという判定を頂いた。
100点じゃないから精進したいとオオスは思っている。まだまだ甘かったようだ。
「…困るわねぇ」
咲夜はオオスが真面目に働くつもりなのがわかったが、扱いに困った。
「自分で言うのも何ですが、お茶の給仕から使用人の管理運営まで何でもできますよ」
オオスは外の世界でも執事技能を叩き込んでいた。
探偵業務で潜入することもあり今でも衰えてはいないと自負していた。
「だから困るのよ。貴方に何を頼んでもお嬢様が警戒するわ。
何か余計な事企んでいるのではないかって」
咲夜は超一流のメイドだ。
メイドとしてなら紅魔館の妖精メイドの全員分を超える仕事が能力なしで可能だ。
更にそこに能力を使うので彼女に敵うメイドはいない。
だから、オオスの滅茶苦茶な発言と行動を無視すれば所作だけで判別がつく。
自分には及ばないにしろかなりの従者としての能力がある。
オオスがオオスでなければ自らスカウトしていたことだろう。
「余計なことなんてしませんよ。更に言えば業務上知り得たことは守秘義務が生じます」
オオスは“仕事”ならば手抜かりしない。プロだという事を自負していた。
だから、レミリア相手だとしても全く問題なく業務を熟せる自信があった。
「…本当に仕事に関しては信用できそうなのが逆に困るわぁ」
咲夜もそれがわかるので本当に惜しそうな顔をしてしまう。
本当にオオスがオオスでなければ良いのにと嘆いてしまう。
「ええ…じゃあどうすれば良いのですか?妹さんの相手でもしますか?」
オオスは本当に悔しそうな顔をする咲夜を見て悩んでから提案した。
それがフランドールの世話というのがオオスのオオスたる所以だった。
「フラン様は閉じ込められているのに勝手に入ってはダメよ」
咲夜はオオスに紅魔館の常識を説く。
咲夜ですらフランドールに対しては能力で時間を止めてお世話をしている程なのだ。
「妹さんは閉じ込められているのではなくて自主的に引きこもっているだけですよ」
オオスは咲夜の意見に反論する。紅魔館の常識が誤っていると訂正する。
「どういうことかしら?」
「フランドールさんは何でも壊せるのだから閉じ込められるわけないじゃないですか。
妹さんは私からみれば理性的な部類ですよ」
オオスは閉じ込めることすら無意味だと説く。偶に出て行っているのが何よりの証拠だと。
現に霧の事件後は魔理沙ですら稀に見かける程度には脱獄していた。
なお、魔理沙はフランドールを見かけたら即逃げ、オオスはフランドールに偶に逃げられる。
「…あなたが言うと一理あるわね」
フランドールすら逃げる選択をすることがある危険人物の言葉に咲夜は同意してしまう。
「でしょう?だからレミリアさんに妹さんの家庭教師をして良いか聞いてきてくださいよ」
オオスはどうせならフランドールにきちんとした教育をつけるべきだと思っていた。
オオス本人は心からの善意で言っている。
「念のため聞いてくるわ」
そう言って咲夜は姿を消した。時間を止めてレミリアの元へ向かったのだろう。
咲夜はすぐ戻って来た。その能力を考えても本当に早かった。
「駄目だって。というか大人しく図書館に引っ込んでいて欲しいみたい」
レミリアは妹に対する悪影響を、オオスに感染したらと本気で止めた。
それは咲夜がちょっとオオスのフォローをしようかと考えたくらいの拒絶だった。
「皆して人を腫れ物のように扱うなんて…」
オオスは嘆いた。何故こんなにも真摯な思いが届かないのかと。
オオスは客観視が足りなかった。
「買い物も頼めないし、お嬢様の見えないところで仕事となると…
お料理とかできるかしら?」
咲夜はオオスに尋ねた。
「和食から中華、フランス料理にイタリアン。デザートから精進料理まで作れます」
即答だった。オオスは余程自信があるらしい。
「…そこまで言うのならお願いしてみようかしら?」
あまりのオオスの自信に咲夜は頼もうかしらと思ってしまう。
「妖精メイド達用ですかレミリアさん達用?
吸血鬼用だと人間の血を使うのは不慣れなので味がわかりません」
さらっと人間の血まで材料に入れる辺りオオスのなりふり構わなさが出てきていた。
「…不慣れで済ませるのね。意外だわ」
咲夜はオオスがそういう行為に忌避感を抱く人種だと思っていたので驚きを隠せない。
一応、人間の血はパック保存なのを確認したからオオスが発言したのに気が付いたが。
「一応、人間の血のスープなら得意ですよ」
オオスは何度も作ったかのような口調で言う。過去に何があったのか咲夜は気になった。
「じゃあ、試しにスープだけお願いできるかしら?」
咲夜はそこまで言うのならと頼んでみた。
昼食後、咲夜はオオスの下へ来た。
「…美味しいとのことでしたわ」
咲夜はレミリアの感想を伝えた。
「その間が気になるのですが」
オオスは咲夜の言外、沈黙を気にして言った。
「貴方が作ったと言った途端、お嬢様が毒を盛られたかのような反応で…」
レミリアが大絶賛の後、オオスが作ったと何気なく咲夜が言ったらの反応だった。
レミリアがその後で自己嫌悪になる程パニックになっていた。
「あー…」
オオスは本気でショックのようだ。今後はもう少し優しくしてあげようかと一瞬考えた。
「悪いけどもう図書館にいてくれないかしら?」
咲夜はこれだけの人材を死蔵させるのは惜しいと思った。
普段何もしないパチュリーより意欲も能力もある分惜しい。
「…パチュリーに何か作って持っていきたいのでキッチン借りても?」
オオスは見るからに落ち込んでいた。最低限何かしたいようだと咲夜は思った。
「まぁ、それくらいなら問題ありませんわ。私は他に仕事がありますので」
咲夜はオオスの願いを聞き入れ、自分は仕事に戻った。
「完璧だ」
オオスが作り上げたそれは一種の芸術だった。
ガラス製のパフェグラスに紅白をモチーフにした苺ジャムと生クリームが何層にも重なり合いそれが見事に調和していた。苺の王冠に生クリームがデコレーションされており、頂点の苺の下を良く見ると何とバニラアイスクリームが土台となっていた。
「パフェね。パティシエにでも成れるんじゃないかしら?」
咲夜も思わず見とれる程のオオスの作品に感嘆した。
咲夜は途中からこっそりオオスを見ていたが洗練されたパティシエの技術であった。
「一時的に“なった”こともありますからね」
オオスは過去を懐かしむように言った。そして冷蔵庫からもう一つ全く同じものを取り出した。
「二つあるけどあなたの分かしら?」
咲夜はオオスに問いかける。
オオスの過去の職歴が気になったがそれは敢えて気にしないようにするためでもあった。
「はいどうぞ」
オオスは咲夜にパフェの片方を差し出す。
「…私に?」
咲夜は驚いたようだ。表情を隠せない。
「今回、余計な仕事増やしましたからね。今丁度時間あるのでしょう?」
オオスは仕事をしたいと無理に頼んだことの謝罪の意味もあり咲夜の分も作っていた。
「良くわかるわね」
咲夜はオオスを偶に見張るようにレミリアに言われていたこともあって時間があった。
最もオオスが問題行動を起こさないこともあってレミリアに『問題ありませんわ』と報告する時報のようになっていたが。
「観察は得意なんです。それで?食べますか、食べないのですか?」
オオスはそういった諸事情を無視して食べないのか咲夜に尋ねた。
「いただきますわ」
咲夜はオオスからパフェを受け取った。
場所は再び地下図書館に移る。
オオスはパフェをパチュリーに渡して自分は紅茶を飲んでいた。
「というわけで追い出されました」
オオスは何があったかを大まかに話した。
レミリアに家事手伝い禁止、家庭教師禁止等々と色々言われたことも含めて。
「仕方がないわね」
パチュリーはオオスに同情したようだ。
大分空回りして戻って来たなとパチュリーは思った。
そして、オオスの想像以上のやる気に少々驚いていた。
「あら、このパフェ美味しいわ」
パチュリーはオオスに感想を伝える。本当に美味しいので言葉がそのまま出た。
「ありがとうございます。…ん?」
オオスは良く考えたら小悪魔の分も作っても良かったかなと思った。
そして、胸ポケットに違和感を覚えて見てみる。
『ご馳走様。ありがとう』
そう書かれたカードがそこにはあった。誰かは明白だった。
オオスは自分が時間対策し忘れていたことに気が付いた。
紅魔館にいて気が抜けていたようだ。
とはいえ、今回は身一つで出てきたため時間対策はできそうにない。
「口で言えば良いのに」
オオスはポツリと呟いた。
「どうかしたのかしら?」
パチュリーはオオスの様子を疑問に思い尋ねた。
「いえ、何でもないです」
オオスはカードを胸ポケットにしまい、パチュリーと歓談を始めた。
数日後、オオスが違和感なく紅魔館に居つき始めた頃。
「妹様がまた暴れたと思ったら貴方が出て行っていったら大人しくなったわね。
貴方、何したのかしら?」
パチュリーが雨を降らそうとしたらオオスがまたフランドールの下へ行って帰って来たときの会話だった。パチュリーはオオスに怪我はなくホッとした。
そして、咲夜からフランドールが大人しくなったと報告を受けて何をしたのかオオスに尋ねた。
「普通に会話していただけです」
オオスは何でもないように言った。
「あー。なるほど…」
パチュリーは適当な相槌を打って答える。
「納得していただけたようで。今度は別のデザート作って持っていきます」
オオスはそれを理解したと受け止めてまたキッチンへ向かった。
今度は小悪魔と門番さんの分も作ろうかなと考えつつ。
「…目には目を、ってことなのかしら」
パチュリーはそう呟いた。
一週間後、烏対策を万全にできたオオスは紅魔館を去ることにした。
「では、一週間お世話になりました。レミリアさん」
そう言ってオオスはレミリアに礼をする。
それは世界中の従者がお手本とする程美しいものであった。
「…何も起きなかったわね」
レミリアはこの一週間オオスが何も問題行動を起こさなかったばかりか自分の妹の不始末まで解決したので拍子抜けしたようだ。
「お世話になっているのに変なことするわけないでしょう?
私はそんなに非常識に見えましたか?」
オオスはレミリアにやや首を傾げて尋ねる。
「…失敗したわ。下僕みたいに扱き使えば良かったのね」
レミリアは日頃の恨みをこの一週間で晴らせば良かったと思った。
「では、お世話になりました。安心してください。今度はいつものように遊びに来ます」
オオスはそう言ってレミリアに笑顔を見せて去って行った。
「来るな!」
レミリアは思わずオオスに向かって叫んだ。