オオスは三が日の最後の日、何故か予定が空いたので自らの計画を更に繰り上げた。
オオスは昨日の文字通り地獄を体験した成果を一人、人払いをした個室で確認していた。
「重生する者は、独り道を得たるの人にして、死して復た生き、尸解する者のみ…」
オオスは『太平経』に記された尸解仙について暗唱した。
オオスはあの地獄を体験する前に、奥の手の保険をかけていた。
…オオスがあそこで万が一死んでいた場合、尸解仙として復活した。
仙人になるのすら凄まじく嫌だが、まだ部下達をおいて死ぬわけにはいかなかった。
そして、オオスは生還した。…賭けに勝ったのだ。元々勝算はあの時のオオスはあった。
オオスは尸解仙を、仙人の最下層であるが、それを人間のままで超えることに成功した。
…肉体的には遠く及ばないが、魂の格では上回った。
オオスは仙人とはまた違う『概念』を創造した。
オオスは四季映姫の言葉から仙人でも神化でもない新しい概念を創造することを考えていた。
オオスが目指すのは人間のままでその新しい概念を加えただけの存在になることだった。
最終的に神をも超越することを目標にしていた。オオスは昔話を元に新しい概念を作るのだ。
オオスは今回の行為で新しい概念を創造し、魂の格を上げることに成功していた。
四季映姫の言っていた神化は増幅した魂の隙間に入る。…オオスは神には絶対にならない。
だが、それすら超えて見せるという解を四季映姫の言葉から結論づけた。
オオスは四季映姫の言葉から、忌々しい神化すら利用することにした。
幻想郷でオオスを信仰している輩はいない“はず”である。
オオスにはそのような記憶がないし、阿求ともキチンと話して確信した。
オオスは阿求を疑ったことへの謝罪としてあの河童の秘蔵酒を渡したのだ。
今回、玉兎達からオオスが神格化されていたと確信してしまっていた場合、オオスに取って非情に不味かった。
端的に言えば、あの地獄では彼女達の信仰を意識してしまい心を無にできないのだ。
あの地獄は、地獄の最下層の炎だった。そして、ダンテの神曲で言えば最下層コキュートス、永遠の氷だった。
矛盾しているが同じ概念を内包した空間だった。オオスは昔話がどちらも正しかったと理解した。
その空間において、オオスは本当の意味で心を無にしなければならなかった。
ヘカーティア・ラピスラズリは有り得ない偉業を成した男を探していた。
しかし、自らの名を以てしても中々出てこない無礼な男に対し、イラついてきていた。
だが、ヘカーティアも男が地獄の者ではないという発想はなかった。
生きた人間があそこに行く等、大馬鹿どころの話ではない。…狂人よりも狂っていた。
その為、ヘカーティアは地獄をしばらく無駄に探し続ける羽目になる。
そんな四季映姫すら超える存在に目をつけられたことを知らないオオスは他のことを考えていた。
忌々しいが有り得る自らへの信仰について考えていた。
オオスは自身への信仰を意識していた場合、あの地獄に耐えられなかった。
…オオスはあの地獄の底を体験してそれを確信した。
かつて無知無盲の神を直視したオオスですら耐えきれない。
…人の想いを完全に否定できない。
もし、信仰されていた場合、あの地獄でオオスを信仰する者達の思いを否定することになる。
…あの地獄で心を完全なる無にするためには、オオスは何もかも捨てなければならなかった。
そして、オオスがどれ程嫌であろうとも、彼女達の厚意をオオスは完全には否定できない。
…玉兎である彼女達にはオオスの自分ですらどうにもならない神への嫌悪を理解できない。
オオスは玉兎達の信仰を理解はできなくとも、人の意思を尊重する。…オオスの矜持であった。
オオスの計画が成功した今ならば、自らへの信仰すら受け入れられるだろう。
その条件は嫌がらせの様に高く設定する。
…オオスはそれくらい信仰されるのすら嫌である。
オオスは神ではないと胸を張って言えた。
…オオスは一部条件付きで自らの信仰すら納得する余裕ができた。
このオオスの考えは自意識過剰も甚だしいものだった。
阿求との会話でオオスの勘違いだとわかったからだ。
だが、今の段階で自らへの信仰を確信し、それを意識していた場合。
オオスは地獄で死んでいた。…想いをどうやっても否定できないとオオスは自覚していた。
新しい概念を創造した今ならば、気が付かない内に信仰されていたとしても問題ない。
オオスのこれからの計画に支障はないのだ。
オオスは今ならば凄まじく嫌である神という可能性すら考える余裕ができていた。
もし、信仰があろうとも、自らの行為に対して申し訳なく思いつつ、あの地獄に耐えられる。
オオスは既にあの地獄にて心を無にした経験があるのだ。それを再現するだけである。
というか楽勝である。何なら誰か見物人がいたら見物料をせびろうとオオスは思った。
地獄の底の炎芸だ。大道芸である。オオスはきっと賑わうことだろうと自画自賛した。
なお、あのヘカーティア・ラピスラズリでも正直近づきたくないのが地獄の底である。
オオスの大道芸の興行は大失敗になること間違いない。オオスは頭がおかしかった。
オオスは客観視が足りなかった。
…自分ができるのだから、地獄の住民共ならきっと問題ないと思っていた。
オオスは賑やかな脳内をリセットした。次の計画、超える魂の壁があった。
「…妖怪の山に住む仙人は地仙のはずだ」
オオスは自らの推理を述べていた。オオスは次に地仙を知る必要がある。
正直、尸解仙になるのは世界中の文献や怪異を知っているオオスからすれば余裕だった。
オオスは仙人の次の段階、天人をも超える必要があった。人間の可能性の追求だ。
神ではない新しい概念をオオスは創造するのだ。
オオスが大好きな『人』であるのならばどこまでも欲深く、どこまでも進化できる。
オオスの研究はまだ始まったばかりである。…オオスの道を阻む障害は最早ない。
「もしかしたら、妖怪達の中に私を神と思っている者もいるかもしれない」
オオスは人が居ないので、あからさまに顔を顰めて呟いた。
可能性として今なら考えることができた。
「だが、これからは神ではなく別の存在であると言える…問題なくそれを受け入れられる」
オオスは心の底から安堵して独り言を言い切った。
神でさえなければセーフだ。オオスは何も問題なかった。
「…問題は肉体的には全然弱いままなことか」
オオスはそう呟いた。
オオスは未だ霊夢に殴られ続ければ死ぬ我が身の弱さを嘆いた。
…神でも妖怪でも仙人でもない未知の概念である『人間』は糞雑魚のままだった。
オオスは肉体面では地道に努力していく他なかった。
オオスが地獄に行って超越したのは精神体であった。
しかし、新しい概念になり、時間は気にしなくて良くなった。
…オオスはそれを人間と定義した。
創造した者が自分を人間と言い張る以上、それを誰も否定できなかった。
オオスは要するに自分は神ではないという完全な言い訳の論拠を欲していた。
オオスは滅茶苦茶な強引な大義名分の為に考え、行動していた。
…オオスは真面目に馬鹿をやっていた。真面目な馬鹿である。