紅魔館の謁見室に招かれたオオスはレミリア達に新年の挨拶をしていた。
新年ということで咲夜は勿論、パチュリーもいた。
オオスは門前の美鈴へ挨拶をした後になって、もう隠す意味が無いと思った。
その為、美鈴と別れ、謁見室まで歩いている中でオオスは気を緩めて力を少し解放していた。
悪魔的にも、オオス的にも嫌いな信仰による神通力と、その派生の妖力以外をあまり隠さず挨拶に臨んでいた。
とはいえ、魔法使いのパチュリーや類する能力の持ち主でないと気が付かないようにはしていた。
すれ違う妖精メイド達へ変な動揺を与えないようにというオオスなりの配慮である。
オオスはレミリアの運命を操る能力の詳細はわからないが気が付くかも知れない。
なので、咲夜以外は気が付くだろうとオオスは予測していた。
「あけましておめでとうございます」
オオスは優雅な礼をもって挨拶をした。
オオスは見る者が見ればわかった。
見た目は脆弱な人間のままだが、内包する力が漏れ出ていた。
「…何か変わったかしら?」
レミリアはオオスを見て気が付いた。
悪魔として、そして運命を操る能力を持つ者としてオオスの変化に気が付いた。
レミリアとパチュリーは毎年初明星、太陽に最後まで抵抗する悪魔の星を毎年見ていた。
夜の種族、レミリア達の時代の到来をルシファーの、年明けの明星に抵抗を見ることで占っていた。
初日の出の光に消される初明星の抵抗を見ているのだ。
神に祈らない悪魔や魔女、夜の種族の行う行事の一つだ。
人間達にとって初日の出を拝むものに近いものである。
…オオスからは悪魔としての直感と運命の能力がそれに近い気配を感じていた。
「挨拶は大事ですよ」
オオスはレミリアに窘めた。オオスは空気等読まない。先ずは挨拶からだ。
実際、オオスはダンテの神曲でいうルシファーが拘束されるという永遠の氷コキュートスにいた。それに加え、地獄の最果ての炎を自らの、精神体に浴びていた。
普通に悪魔の頂点すら耐えきれない。
それに耐えきる存在がいるわけがない。だが、オオスはそれを超越した。
ヘカーティア・ラピスラズリはだからこそ謎の男の偉業に絶句していた。
男の偉業は尋常じゃなかった。力の強弱関係なく地獄の女神が率先して探す程には。
…当の本人は来年もまたあそこへ行き、今度は興行も企んでいるとは誰も思わない。
「…」
咲夜は黙っていた。咲夜にはオオスの違いがよくわからない。
だが、変化があったということで昨年の十六夜を思い出していた。
「明けましておめでとう。魔力とか色々おかしなことになっているけどどうしたの?」
パチュリーはオオスが新年早々に何かしたと悟りつつも、挨拶を忘れない。
パチュリーはオオスのことをわかっていた。
「いや、忌々しいことに私を神にしようとする者達がいましてね」
オオスはもう隠す必要がないので素直に話すことにした。
オオスは共に魔法研究をするパチュリーへ自身の変化を真摯な姿勢で臨んでいた。
「…神嫌いのアンタを?」
レミリアは意味わからないと困惑した。オオスを神にして良いこと等ないと思った。
「私の行為の真意を理解せずに、神の偉業と勘違いした者達がいまして…」
オオスは忌々しいと隠さず言っていた。なお、本音である。
オオスとしては他者の意思を尊重するがそれはそれとして嫌だった。
「…それは気の毒ね」
レミリアはオオスに同情した。悪魔としてこれ以上ない程の屈辱だった。
…レミリアが同じことをされたら問答無用で暴れまわる。
レミリアは悪魔としてオオスの感情が痛い程わかった。
咲夜はオオスの神嫌いは本当であるのは知っているので沈黙していた。
…それで今度は何を仕出かしたのかとも思っていた。
「ありがとうございます。レミリアさん」
オオスは心からの感謝を述べた。
やはりオオスのような人間の感情は悪魔にしかわかって貰えない。
オオスは理解者に歓喜していた。なお、里人としては問題だらけであるが無視した。
「…それで何をしたのかしら?」
パチュリーはオオスに脱線し過ぎだと思わずツッコんだ。
オオスは本当に何をしたのかパチュリーにはさっぱりわからなかった。
「地獄へ行ってきました。万が一にも神にならぬように地獄の炎で身を清めました」
オオスは端的に述べた。…流石に地獄の最下層へ行ってきましたとは言えない。
オオスはレミリアが興味を持ったら少々ヤバいと思っていた。
オオスのようにゆとり教育を受けていないレミリアではキツイだろうと思っていた。
「地獄の業火!…新年早々随分な無茶をしたわね」
レミリアは自らの身を焼き尽くせないと内心対抗しつつ、オオスへ言った。
レミリアからして悪魔としてこれ以上ない程の苦行である。
…悪魔として神への怨嗟を忘れぬオオスの在り方を褒めたたえた。
「…無理は駄目よ」
パチュリーは新年早々オオスへ呆れた。
…パチュリーは地獄の業火に耐えきれば力を付けられるかもしれないと思った。
神の力を削ぐことも場所によっては可能かもしれないとも思った。地獄は出鱈目に広い。
パチュリーはオオスの肉体にはあまり変化がないと感じた。
恐らくオオスは魂のみで地獄旅行をしてきたのだと推理した。本当に無茶苦茶である。
パチュリーからして何故、オオスが生還できているのかわからない。
「…」
咲夜はとんでもない解決法を実行してきたらしいオオスを殴りつけたかった。
十六夜の、月夜に思った感情を返せと思った。
…同時にオオスの根本的な解決になっていないのではないかとも思った。勘でしかないが。
咲夜は探偵ではなく、犯人の才能に長けている。なので、言語化して推理ができなかった。
「ですが、私は欲深きまま。…これからも今まで同様に生き続けることができるでしょう!」
オオスは人間として生きれる素晴らしさをレミリア達に語って聞かせた。
オオスは力が上がった原因を詳細を省きつつ、レミリア達へ説明できたと確信していた。
「ええ、今年もよろしくね」
レミリアはオオスに喜ばしい表情で言った。
レミリアは神への怨嗟を忘れず、欲深き悪魔として生きるオオスに新年の挨拶をした。
「…今年もよろしくお願いしますわ」
咲夜はオオスの滅茶苦茶に内心頭を抱えつつ、取り敢えず主であるレミリアに続いた。
「今日は遅いけどまたよろしくね」
パチュリーはオオスへ魔法研究以外も含めて改めて新年の挨拶をした。
「…よろしくお願いいたします」
オオスはレミリア達へ挨拶を返した。優雅な振舞いを崩さず心を込めて。
そして、
「ああ、そうだ。…実はお土産がありまして」
オオスは懐からあるものを取り出した。
そして、それを咲夜へ渡した。
「…何かしら?酒瓶みたいだけど」
レミリアはオオスの土産を咲夜が受け取ったのを見て尋ねた。
「これが例の研究成果かしら?」
パチュリーはオオスに紅魔館に海を作った時に言っていた研究を思い出して言った。
「フフフ。これは流霞という酒です」
オオスは酒の名を言った。
オオスは製造した河童の秘蔵酒の一つをレミリア達と飲もうと思ったのだ。
「はちすの種と真菰の若葉等と蓮葉に受けた霞水を醸して造るもので、酔い心地絶妙」
オオスは製造法と効能を言う。はっきり言えば悪酔いしないだけの良酒である。
オオス以外に作ることはできないが、それは言わない。
「端的に言えば珍しい酒です」
オオスは珍しい物好きのレミリアにそう言った。これは変な物ではない。
本当にただのオオス以外再現不可能なだけの、良酒であった。
「珍しいのは良いんだけど…何か他にないのかしら?」
レミリアはオオスらしからぬ、言っては悪いが普通の土産に疑問をそのまま言った。
「申し訳ありません。本当にただの珍しい酒です」
オオスはレミリアの望みに答えられぬ己の未熟さを詫びた。
オオスの愚痴を聞いてくれるのは悪魔であるレミリアくらいなのだ。
…もう少しとんでもないものを持ってくるべきだったかと反省した。
だが、もう片方の効能が本当にヤバい酒は阿求に渡してしまったのだ。
「そうなの…。でも珍しいのね!」
レミリアは少しガッカリしつつも、オオスの謝罪を見て気にしないように言った。
だが、
「ねえ、このお酒は誰にとってなら一番価値があるのかしら?」
パチュリーはオオスに尋ねた。パチュリーは酒の希少性を聞いていた。
パチュリーはオオスがただの酒を研究するわけがないと看破した。
「…強いて言えば、河童にそれを見せれば無条件で何でも依頼できると思います」
オオスはそれくらいの価値しかないと嘆いた。…本当にそれくらいしか価値がないのだ。
「お嬢様、このお酒を空けてよろしいでしょうか?」
咲夜はオオスの発言に驚かない。咲夜はレミリアに皆で飲まないかと尋ねた。
咲夜もパチュリーと同様にオオスがただの酒を持ってくるわけがないと知っていた。
「…」
レミリアは絶句していた。
さらっととんでもない劇物を何でもないように渡してきたオオスに声が出ない。
「レミリアさん飲んじゃいましょうよ。美味しいですよ。伝説通り」
オオスはレミリアに急かした。
オオスは研究の副産物を死蔵するのは勿体ないので一緒に飲もうと誘いに来ていた。
なお、玉兎達とは既に試飲した。オオスは河童の取引の為にこの酒は大量製造していた。
もう一つの酒は作成も再現も少量しかできなかった。だが、流霞はオオス家に大量に眠っていた。
オオスは交渉材料として使えそうな昔話を再現していた。他にも研究中である。
オオスは本当に力を求めているのだが、こういう類の研究ばかり成功していた。
オオスは本心からの愚痴を聞いて貰いに紅魔館に来ていた。…滅茶苦茶であった。