1月のある日の朝、いつものようにオオスの家前にて射命丸文と話していた。
「…博麗神社主催で十日戎ですか?」
オオスは文々。新聞の記事を見て呟いた。
十日戎とは、年の初めに商売繁盛を祈願する祭である。
…オオスは霊夢らしからぬ発想だと思った。
「誰の入れ知恵ですか、この福男選びって?」
オオスはもう直接文に尋ねることにした。
普通に発想は良いとオオスは思った。
記事の内容を読む限り雪を掃いた滑らない人里で行う中距離走のようである。
安全性を確保した上での行事というか神事らしい。
…オオスは行事自体を知っていたが指摘も発想もできない類である。
十日戎は東日本では知名度はほぼない。
だが、西日本では七福神の恵比寿を祀る祭りとして有名である。
その祭りのイベントでもある西宮神社の『福男選び』の知名度は高い。
オオスも外に居た時にテレビで何度か見た。新年早々福男の称号をかけて全力で走るのだ。
だが、この行事が一般化したのは昭和である。
…更に言えば神事と化したのは昭和天皇崩御からである。
「私も霊夢さんらしからぬとは思っているのですが…」
文はオオスの問に対して答えを持っていなかった。
文が見た限り霊夢はこの行事に対して自信満々であった。
なので、文としては妖怪等から聞いたわけではないとは思うがわからない。
「気になりますね」
オオスは真剣な面持ちで文へ言った。
この話を持って来たのは外から来たもしくは、行き来できる存在の入れ知恵だと看破した。
だが、守矢神社ではない。守矢神社の神事ではないし、商売敵に入れ知恵する程甘くはない。
「…もしかして参加します?」
文は正直この件を取材するが積極的に記事にする気はなかった。…文は絵面的に醜いと思ったのだ。
他にネタがないなら兎も角、新年なので幾らでも記事のネタはあるのだ。
だが、文としてはオオスが参加するのならば話は別である。
もしかしたら、購読者の間で大好評だった昨年の、妖精戦争調停の記事の再来だった。
寧ろオオスには参加して欲しい。…新聞の為にも自分の為にも。
しかし、
「しませんよ。そもそも幸福とは自らの手で掴み取る者です」
オオスはきっぱりと否定した。…神から施される幸福等勝ち取っても嬉しくもない。
「ですよねー…」
文は落胆を隠さずオオスへ言った。
文としてはオオスがこの件に裏から手をまわしたのではないかとも思っていた。
だが、オオスの反応からしてどうやら違うようである。
では、誰の入れ知恵かと文は気になった。
「まぁ、健康的ではあると思いますよ。転ばないように再三注意をしているようですし」
オオスは本心からそう言った。
オオスから見ても冬の運動不足には丁度良い健康的な行事だと思った。
だから、霊夢に入れ知恵をした者は善良な存在だとほぼ確信していた。
…そして、霊夢が受け入れるような善良な存在を連想していくが思いつかない。
少しばかり探りを入れようとオオスは思った。
善良な仙人ならば短期間で霊夢に取り入れるかも知れない。
だが、これは同時に特定の外来の知識を持つ者への撒き餌である可能性もある。
この神事は幻想郷が博麗大結界に包まれた後の行事なのだ。
これが自分への挑戦状ならば受けて立つとオオスは思った。
…もしそうでないのならばうっかりにも程がある存在になるともオオスは思った。
「そうですか…健康的なのかちょっと見に行きましょうか」
文は自然体でオオスを攫おうとした。完全に不審者が行う拉致の構えを見せていた。
そこへ銃弾が飛んできた。文はとっさに躱したが躱さなかったら脳天に直撃していた。
「危ないじゃないですか!?」
文はウザったい兎に向かって叫んだ。…今日の当番は誰かと辺りを見回した。
「ありがとう。清蘭」
オオスは月の技術で隠れ潜んでいる清蘭の目を見て感謝の言葉述べた。
…玉兎達の言う通り文は撃ち殺しても良い不審者かも知れないとオオスは思った。
「それと、少しばかり人里の方へ行ってきます」
オオスはそう言って即座に転移を実行することにした。
もう使いこなせるようになった実体と霊体で霊視を行い、空間のつなぎ目見つける移動法である。
隙さえあれば文にも清蘭にも止められないオオスの瞬間移動であった。
戦闘には使えないが、文の注意はあからさまに逸れたので余裕で転移できた。
人里に行く言いつつ、オオスは博麗神社へ行くつもりであった。念話で清蘭達に伝える。
文に偽の情報を掴ませて逃げる方便でもあると玉兎達にだけ伝えた。
「…行ってらっしゃいませ」
清蘭はオオスの言葉を聞き、礼をもって見送った。
オオスがいなくなり、文と清蘭の二人だけになっていた。
「ああ…逃げられた!?」
文はまた逃げられたので思わず叫んだ。
…文は今日のオオスは霊夢のネタに食いつくと確信していた。
そのため、自然な流れで拘束できるはずであった。
「また邪魔してくれましたね!」
文は激怒した。彼の暴虐邪知な兎を懲らしめなければならぬと決意した。
文はオオスを見送る声の方角から清蘭の現在地を特定した。
文は清蘭に狙いを定めさせないよう、攪乱の為に高速飛行を開始した。
「またというのはこちらのことですよ。…鴉風情が」
清蘭はオオスに付きまとう不審者へ吐き捨てた。
清蘭は自分の当番で良かったと思った。
…この無礼千万な鴉天狗を今日こそ内密に始末しようと決意した。
人気のない早朝の、人里から離れたオオス宅前にて本気の弾幕ごっこが始まった。