冬のある日、小高いところにある博麗神社は霧が出ていた。
山伝いに上昇した空気が急に冷やされて発生した上昇霧であった。
そこに博麗霊夢と見慣れない女性がいた。
…早朝であり二人以外参拝客を含めて誰もいなかった。
彼女は少し前から霊夢の手伝いをしていた。
…しなくても良い苦労をしていた。彼女は自身のお節介な性格により見過ごせなかった。
その女性は頭にシニヨンを被っており、右腕全体を包帯で巻いていた。
左手首には、鬼である萃香や勇儀と同じく鎖のついた鉄製の腕輪をつけている。
胸元に花の飾りがあり、服の前掛けの部分には茨の模様が描かれている。
冬のためかその上に濃い紫色をした、胸部と腕を覆うような服を羽織っていた。
彼女の名は茨木華扇。茨華仙という妖怪の山に住む仙人でもあった。
「…貴方には巫女としての自覚が足りないのではないの!?」
華扇は早朝から霊夢に説教をしていた。
…自分の不用意な発言で十日戎の福男選びを開催されることになってしまった。
そのため、華扇は霊夢を手伝っていた。…本来はしなくても良い俗界の俗事に構っていた。
だが、
「ちょっとくらい、仙人の術でちょっとするくらい良いじゃない」
霊夢は華扇の説教を前にしても謝らない。
華扇という仙人がいるのだから神社の客寄せに利用しない手はないと思っていた。
「そりゃあ、人間だから多少の欲は必要でしょうけど、仮にも貴方は…」
華扇は霊夢の開き直りを見て更に火に油を注がれた。華扇はもう単純にキレていた。
「神に仕える巫女なのよ!」
華扇は霊夢に巫女として仙人を見世物にするという発想自体にキレていた。
華扇から見て霊夢は根本が堕落している。
…多少とはいえ何故、博麗神社に参拝客がいるのかと華扇は不思議であった。
「いいじゃない別に」
霊夢は露骨に華扇から顔を逸らして呟いた。
「よくありません!」
華扇は腰に手を当てて霊夢を見下ろすように言い切った。
そこに第三者が突然入り込んできた。…華扇の説教に後ろから口を挟んできた。
「神に仕える巫女が堕落することは素晴らしいと思いますが」
喪服姿の男が華扇に言った。…オオスである。
オオスは自宅から転移して話を途中から聞いていた。
オオスは話を聞いていてどうでも良くなった。だが、オオスは素で華扇に喧嘩を売っていた。
「…げぇ」
霊夢はオオスの顔を見てあからさまに顔を顰めた。
…オオスのせいで参拝客が減った対策で華扇の説教を食らっていると思った。
霊夢は若干イラッときた。
「何ですか!?」
華扇は誰かも知らぬ第三者が口を挟んできたのにイラっとした。
…怒りの対象を霊夢からそちらに移した。華扇は振り返って声の主を見ようとした。
「話だけでは腹が張らぬ。…欲に忠実なのは大いに素晴らしい」
オオスは華扇の振り返るタイミングで転移し、華扇の目線を躱して霊夢に手を差し伸べた。
…オオスは華扇の説教等無駄だから堕落しろと霊夢に笑みを浮かべて言い切った。
「結構よ!」
霊夢はオオスの手を払い、自分で立ち上がった。
霊夢はオオスに乗せられている様で癪に障る。
だが、何もしないでいるとコイツの思い通りになると思うとそれはそれで腹ただしかった。
「やるわよ!十日戎!!」
霊夢は気合を入れなおした。霊夢は華扇の説教は効かないのにオオスの煽りに反応した。
華扇は何度言っても聞かない霊夢が、男の堕落への誘いを振り切って張り切り出したのを見た。
「…」
華扇は自分の労苦が意味のないように思えて何だかショックだった。
だが、
「人の欲望をコントロールできないとは…仙人として未熟なのでしょうか?」
喪服の男は背中越しに華扇を煽った。…男は初対面の華扇を相手に喧嘩を売っていた。
「何ですって!?」
華扇は激怒した。ショックで茫然としている場合ではない。
…この男は神を罵り、天に唾吐く男であると霊夢との少しの会話でも華扇はわかった。
大体、神社で喪服とは随分な恰好である。
華扇は目の前の男が参拝者ではないとはっきりわかった。
…霊夢の前にこの男を矯正してやる。華扇は決意した。
「…人の存在意義は、その利用価値や有用性によるものではない」
男は華扇の怒声を気にせずに立ち上がり、華扇へ振り返って言い切った。
華扇はその男の容姿を見て儚さを感じた。
…霧立ち込める雪景色にその男の容姿と喪服姿はあまりにも似合い過ぎていた。
「それは野に咲く花のように、何気なく、そして美しいものです」
喪服の男、オオスは華扇にそう言い切った。
オオスは自身の在り方を示した上で、華扇へ向かって優雅に礼をした。
それはファーストコンタクトであり、ワーストコンタクトでもある最悪な出会いだった。