幻想郷に来て初めての冬の季節が過ぎ、3月・4月となっていく。
まだ冬であった。雪が続いている。
今までこんなことがあったのか里の人々に聞いてもなかったという。
…オオスは激怒した。これは異変だと確信した。
大切なことはオオスが紙芝居屋であることだ。
冬が明けて春から紙芝居を再開すると宣言した。
…これはオオスに喧嘩を売っているも同然と考えた。
断じて許してはならぬとオオスは思った。
オオスは一週間かけて五種の霊薬を集め、煮込み醸造した。そして、とある物を作成した。
それは射命丸から逃げるときに使ったオオスの『奥の手』の一つだった。
人里には慧音に伝言をし、紅魔館にもしばらく行けないと伝えた。
射命丸にはポストにしばらく出かけると張り紙をした。
冬支度を整え雪の進軍である。たった一人の戦争だ。
オオスは初めて幻想郷に現れた場所、『霧の湖』に来ていた。
今回オオスはチルノ達、妖精を訪ねていた。菓子を持参して。
ある目的で作成中の秘薬の余りで作った蜂蜜入りのべっこう飴等だ。
「チルノさんたち冬が続いていますが、何か知りませんか?」
オオスは妖精たちに菓子をやったりしてそれなりに仲良くなっていた。
幽霊の亜種、人間擬きとしてそれなりに受け入れられている。
何故か皆人外扱いだが、もうオオスは訂正するのは辞めていた。
「知らないわ」「知らないね」「あたいもわからない」
皆して知らないそうである。オオスは妖精とは良好な関係を築いている。
つまり彼女達が原因ではない自然に発生したことでないことになる。
「ありがとうございます。わからないことがわかりました」
オオスは妖精達に感謝を述べた。
「レティなら知っているかも?」「あたいが知らないのに知るわけないわ!」
緑の妖精が言うレティというのは冬妖怪のことであろう。
オオスもチルノの意見に同感だった。
「うーん。暖かい場所とか知りませんか?」
オオスはそう言いつつ妖精達にヨモギ餅を与える。
細かく喉に詰まらせないように小さく切って加工したものだ。
前来た時も手土産として持ってきたことがあった。
「喉に詰まってキュウってならないからこれ好きだわ」「あたいにも頂戴」
妖精はどうも人里等から餅を盗んで食べて喉に詰まらせて死ぬようだ。
オオス以外で餅を与える物好きはいないだろう。
新しい妖精の生態を知ったオオスは心の中でメモを取る。
「それはいいんですけど、普段暖かくないところで暖かい。みたいなのありませんか?」
オオスは妖精が全部食べ切る前に質問する。
食べ切ってから聞くと勝手に散っていくのだ。
妖精達は悪気が無く覚えていないことが多いのでその場で聴くのが一番だった。
「うーん。河童のところ?」「人里!」「あたい知ってる。上よ!」
妖精達はそれぞれ答える。
河童は自らの技術で温めている。人里も同様だ。
チルノが良いことを言った。オオスは答えを見つけた。
「チルノさん。上とは?」
オオスはチルノに確認した。
「この間あたいたちどこまで高く飛べるか遊んでたんだけど、それで大ちゃん烏にやられて…」
妖精の話もチルノの話も大概脈絡がない。
だが、これで話を遮ってはいけない。
オオスはチルノの話を全部聞き、その上で要点を頭の中でまとめていた。
オオスの手法は『司法面接』と呼ばれるものだ。
質問を繰り返すと情報が質問者の意図に歪んでしまうことがある。それが冤罪の原因になったりすることもあるくらいだ。大人でもそうだが、子どもだとそれが顕著である。
事件被害者等の子どもに対して事件そのものではなく、その日何があったのかという大枠で聞くことで質問の繰り返しによる情報の歪みを極力少なくする手法だった。
チルノの話を纏めるとこうだ。
「高く飛んでいたら何故か暖かくなった。普通は高いと寒いのに」
オオスは上に異変を起こした元凶がいることを確信した。
「皆さん。ありがとうございます。残りは全部食べて貰って構いません」
オオスは妖精達に礼を言う。最早、元凶はすぐそこだ。
「いいの!?」「やった!」「話がわかるー!」
「オオス大丈夫?あたい何かする?」
妖精達は素直に喜んでいるがチルノは何か気が付いているらしい。
だが、オオスとしては危険な行為に復活する妖精とはいえ巻き込みたくはなかった。
「大丈夫です。私も暖かくなりたかったので。ちょっと暖かい場所が知りたかっただけですから」
オオスは嘘をついた。
「…さて、嘘をつくのは嫌な気分になる。とりわけ子どもに近いとなると」
オオスは気分を切り替えて雪で釜倉を作り、その中で考えを纏めていた。
周りには妖怪除けを撒いている。人里から離れて夜になったが問題なかった。
寧ろ、夜こそ元凶の真骨頂だろう。
夜中となり、オオスは当たりをつけて蜂蜜酒を取り出した。
それは『黄金の蜂蜜酒』と呼ばれる物であった。
これは理論上、宇宙の最果てまで行ける秘薬だった。
この幻想郷でも効果は実証できていた。奇しくも文のお陰である。
「宇宙に行くわけではない。『冥界』は広いという。ならば理論上は可能なはずだ」
オオスは自分の理論を口に出す。幻想郷の上、すなわち冥界だ。
オオスはこれまた永遠亭で実証できた結界破りを自分の全身にかけた。
どこが冥界と現世の境界かわからないためだ。
黄金の蜂蜜酒は理論上結界すら突破するはずだが、試せなかったための保険だ。
「では行くぞ!!」
オオスはそう叫んで空高く飛ぶ。
そして、オオスは冥界の扉を突き抜けた。