嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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力み過ぎ

冬の博麗神社にて華扇とオオスは口論になっていた。

華扇が神仏を敬わないオオスに対して苦言を呈するとオオスはこんなことを言い出した。

 

「信仰も何もない私は恥を知るべき…ということでよろしいでしょうか?」

オオスは華扇の言い分を要約した。

オオスは華扇の説教に少々ウンザリしていたがそれは表には出さずに真摯に聞いていた。

 

「…堕落した最近の若者にしても。貴方は特に、あまりにも目に余ります」

華扇は相槌を打ちつつ要点を纏めたオオスの問に肯定した。

…オオスはそれをわかっていながらわざとやっているのが華扇からすれば目に見えていた。

華扇はオオスの太々しさが、実に腹立たしいがこれでこの男が道を誤らないように反省すれば良いと思っていた。

 

ちなみに霊夢は関わりたくないので遠目で二人の喧噪を見ていた。

 

だが、

「人間の運命は人間の手の中にある」

オオスは華扇へ自論を展開することにした。

…自分に対して堕落した若者との物言いは、実に失礼極まりないとイラっとしたのだ。

 

オオスは運命という物言い自体あまり好きではない。

しかし、オオスは華扇へ向けて敢えて強調して言うことにした。

 

それはオオスにとって自身に神が不要であることへの哲学的な回答でもあった。

 

「そして、人間の真理とは、実践や行動によって論証しなければならない」

オオスは月へ喧嘩を売ったり、華扇を挑発するようなことになっても辞めたりはしない。

…霊夢がオオスから離れているので、拳がない事を良いことにオオスは言葉を改めない。

 

「故に、神等という存在は本来不要である」

オオスは暴論を吐いた。要するにオオスの華扇への回答は、神なんぞいらねぇである。

真理への探究が人間の意思のみで成り立つ以上は神は不要である。

…それがオオスの答えであった。

この答えを他人に強要する気はオオスにはない。

しかし、オオスはこれを曲がりなりにも神の社にて吐いていた。華扇への宣戦布告も同然である。

 

霊夢はオオスの発言に大分イラっときたが関わりたくないので無視した。

 

「…何なんですかこの人!」

華扇は思わず霊夢に叫んだ。オオスの答えは凄まじい暴論であった。

…だが、華扇はオオスへ反論しようにも何だか言いくるめられそうな感があった。

 

要するに華扇は正面からオオスと対峙したくなかった。

華扇は無意識のうちにオオスと直接関わるのを避けていた。

 

「そいつは面倒だから相手にするだけ無駄よ」

霊夢は華扇の叫びを躱して言った。

 

ついでに華扇の様子を見て、普段の自分はこういう風に見えているのかと思った。

オオスはまともに相手にしようとしてはいけない。霊夢は改めて確信した。

 

「というか、何しに来たのよ。用がないなら帰りなさい」

霊夢はオオスを見てシッシッと追い払うような仕草で言った。

なお、霊夢はいつの間にか縁側で茶を飲んでいた。

霊夢は華扇のお説教が長いので自分だけお茶を飲んでいた。

 

「用があったのですが、どうでも良くなったので帰るのもありかもわかりませんね」

オオスは霊夢の発言に肯定した。

オオスは華扇が極悪非道な存在でないことをほぼ確信したのでガッカリしていた。

 

オオスは茨木童子が極悪非道なままであることを願っていた。

思う存分ボコれるからである。オオスの能力上、相手が邪悪判定ならば一方的にボコれた。

霊夢の拳で死ぬオオスとしては茨木童子に対して、ストレス発散のため鍛えていたという側面も少しはあったのだ。

その目標が失われたオオスの喪失感は計り知れないものがあった。

 

オオスは凄まじく自己中心的な八つ当たりができないことに気落ちしていた。

 

「…用ってなんなのよ」

霊夢はオオスへ尋ねた。なお、オオスの気落ちは無視である。

霊夢もそこそこ付き合いが長くなったのでオオスの気落ちを何となく察していた。

しかし、その気落ちは碌でもないことだと霊夢の勘が言っていた。

なので、オオスへの対処は放置一択であった。

 

だが、霊夢はオオスの物言いは聞いておかないと後で面倒になると経験則で知っていた。

だから、霊夢はオオスの用件だけ尋ねることにした。

 

「この仙人様?が持っているという百薬枡をお借りしたかったのですが…」

オオスは河童の秘蔵酒の作成に成功する前までに求めていた物を告げた。

だが、実はオオスにとって百薬枡あまり必要ではない。

オオスが再現に成功した河童の秘蔵酒は阿求に対して特効だった。

 

故に華扇には仙術の稽古を頼みたいが、今は面通しが叶っただけで良いとオオスは判断した。

 

「今でなくてもまあいいかなと」

オオスは霊夢に平然と返した。

 

このように発言が嘘ではないのがオオスの厄介なところである。

客観的に見て嘘には見えないし、オオスも嘘ではないので堂々と言えるのだ。

霊夢の勘にも引っかかるようなことはない。

霊夢の勘に引っかかってもオオスならば誤魔化せた。

 

百薬枡は今では不要とは言わない。前は必要だったし、求めていた。

オオスは想定外に早く茨木華扇に遭遇できた。冬明けにこちらから出向くつもりであった。

後で交渉するにしても予定、計画通りにこの冬は魔力や妖力等の鍛錬に時間を費やして良いとオオスは判断できた。

 

「…ふーん」

霊夢はオオスが自分ではなく華扇に用事があったのかと知り増々興味を失った。

適当な相槌を打ちつつも、霊夢は無意識に拗ねたような表情をしていた。

 

しかし、

「…私が百薬枡を持っているとは誰から聞いたのですか」

華扇はオオスに淡々と尋ねていた。

華扇は幻想郷で知人や友人以外、人間に秘宝の存在を知られてはいなかった。

何故、オオスが自分の秘密を一方的に知っているのか。

 

華扇は事と次第によっては行動しなければならなかった。

 

「ちょっと…」

霊夢は剣呑ならぬ華扇の様子を見て少々狼狽しつつ止めようとした。

 

だが、

「外の半妖の陰陽師から聞きました」

オオスは隠す気が無いので華扇の問に答えることにした。

元ネタは外に住む年齢詐称半妖陰陽師に聞いたのだから間違いない。

 

「京の都の若作り隠居の世間話で百薬枡は知りました」

オオスは花山天皇のことで未だに愚痴る半妖を思い出した。

ついでに渡辺の何某が持って来た鬼の腕を封印した武勇伝等も聞いていた。

オオスはその詳細までは知らないが、今では華扇に関係しているだろうと思っている。

 

「…外の半妖の陰陽師?」

華扇はオオスの発言からオオスが百薬枡の存在を教えた何者かを考えていた。

 

そして、華扇は有り得ない答えが浮かんだ。

…それは既に千年も前に死んでいる筈の空前絶後の陰陽師であった。

 

「まさかとは思いますが」

華扇は動揺を隠しながらもオオスにその者が生きているのか尋ねようとした。

 

だが、

「霊夢さん。私は協力しませんが、十日戎やるなら天候に気を付けてくださいね」

オオスは華扇の考え込んでいる隙に霊夢と話していた。

 

「アンタになんか頼らなくても大成功間違いなしよ!」

霊夢はオオスの素の上から目線の発言にイラっとして言葉を返した。

 

「それならよろしいですが」

オオスは霊夢の様子を見て安心した。そのため、オオスは帰る事にした。

 

オオスは今回、敢えて華扇へ種を撒いた。…それが芽吹くのは春であろう。

それまでは計画通りに自己鍛錬をすることを決意した。

 

「ちょっと待ちなさい!」

華扇はオオスに聞きたいことがあるのに帰ろうとする様子を見て止めようとした。

 

しかし、オオスは華扇に『自分』を印象付けた後の行動で彼女を見定めるつもりであった。

オオスは力を求めながらも茨木華扇という仙人を知らなかった。

軽く話してみたが華扇は、邪悪でない上にオオスとは考えが相反するようでもあった。

オオスは彼女の道とは相反する生き方とする存在であった。

そのため、オオスは華扇にわかりやすく説明した。要するに無礼を働いた。

 

そのうえでオオスを受け入れられるか、或いは譲歩を引き出せるか。

それを判断するには冷却期間を設けなければならないとオオスは判断した。

そのため、オオスは華扇の静止を無視して自宅へ転移した。

 

 

残された華扇は呆然としていた。…突然現れた狂人が華扇のことを知っていて放置した。

更には失われた腕まで知っていそうである。

オオスという存在が齎した情報過多に華扇の脳はパンク寸前であった。

 

「…」

華扇は考えていた。

今までは俗世に少し関心が薄かったが、これからはより関わっていくべきだと華扇は思った。

そうすればオオスという異常存在からより話を聞き出せると冷静に判断した。

 

しかし、

「よーし!やってやるわよ!!」

考え込んでいる華扇は何だかやたらエネルギッシュな霊夢の雄たけびに我を取り戻した。

霊夢は相変わらずのオオスの姿勢に腹が立ち、十日戎で見返してやると意気込んでいた。

 

「力み過ぎよ。落ち着きなさい」

華扇は張り切り過ぎている霊夢を落ち着かせようと思った。

 

華扇から見て霊夢は危なっかしくて放っておけない。

あのわけのわからない狂人よりもまずは目の前の巫女を導かなくてはと華扇は思った。

…華扇は大分お人よしだった。

 

 

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