嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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昔話

 

月夜で照らされた二人の男女。湖畔の館に映えるその光景は絵にでもなりそうである。

 

そんな中、オオスはイーグルラヴィの部下達へ帰りを延ばすように連絡した。

オオスは部下達の前で犬畜生の躾を見られたくなかったので人払いをしていた。

そこを華扇に強襲されたわけである。

オオスは善性の格上には弱い。真っ向からでは勝てない。

オオスはあの場から即逃げた上で、策を練り初めて対等になり得る。それも可能性である。

 

オオスとしては影狼の幼馴染を躾けと言いつつも惨い光景だったと自覚していた。

その為、オオスは華扇の勘違いによる暴行を甘んじて受け止めていた。

 

オオスは華扇の暴行に怒りや理不尽さを感じていなかった。

寧ろ、即座に駆け寄る善性を見出し感心した程であった。

だが、その後の、本命の相談については些か満足いくものではなかった。

オオスの求める男女のいざこざ。影狼へのアドバイスについては余り得るものがなかった。

 

「ふーむ…あんまり解決には至らないか」

オオスは少し肩を落としてそう言った。

オオスは華扇からそもそも影狼を知らないので一概には答えられないと言われた。

それはそうだとオオスは納得した。

 

犬畜生は華扇との会話の邪魔なので記憶を弄って麓の森にオオスが転移させ、捨てた。

当然、磔のままである。華扇もオオスから話を聞き、犬畜生の転移を止めなかった。

傷心中の影狼が出くわさないようにキチンと計算した気遣いをオオスは忘れなかった。

 

「私が言うのも変ですが、本当に大丈夫ですか?」

華扇はオオスに謝罪してもしきれないのを切り上げて、体の様子を心配していた。

華扇も気が付かないくらいオオスは平然として暴行を甘んじて受け入れ過ぎていた。

 

オオスは加減というものを知らない。それは自分自身にも当てはまる。

今回は霊夢に殴られても一撃で死なない体に鍛え上げたのが仇となった。

華扇はオオスを普通の人間とは思っていないので容赦なくぶん殴っていた。

オオスは本当に死の手前まで平然と華扇に臨み、限界を超えた当たりで漸く膝をついた。

 

なお、オオスから犬畜生の影狼の想いを利用した裏切りについて聞いた華扇は激怒していた。

自分の手柄にする為に、家畜を肥え太らせるよう、反乱分子を影狼を誘導し、纏めさせた。

弱い影狼なら切り捨てても自分に害は来ない。

途中で影狼の行為が発覚し、自分の誘導がバレても影狼は口を割らないと確信してのことだった。

犬畜生の冷徹な思考に基づいた自己の権力の糧としか思わぬ行為には、華扇も庇う必要性を感じなくなっていた。

幼馴染という立場を利用しつくした犬畜生はまさに外道に相応しい。

 

「そんなことよりも、丁度良いのでその腕の話でもしますか?」

オオスは話を変えることにした。華扇の右腕を閉じた扇で指し示した。

オオスが思う華扇の食いつきそうな話題である。

正直、これについては推測でも話したくないが華扇にこれ以上謝られても面倒くさい。

 

オオスは犬畜生について実験体として利用しただけで影狼とは無関係と思うことにした。

オオスもアレについて考えることの建設的な意義を感じられなかった。

そもそも優しい影狼が襤褸雑巾を見て喜ぶとは思えなかった。

オオスは自身の軽挙妄動を少し反省した。

 

「…やはり知っているのですね」

華扇はオオスの狙い通りに食いついた。否、それこそが華扇の行動原理と言ってもよかった。

オオスの話ぶりから華扇は期待を胸に秘め、聞き出そうと思考を切り替えた。

 

しかし、

「知らないですが」

オオスは手のひらを返すように言った。オオスも流石に千年前に封じられた腕の所在等知らない。

ましてや今は幻想郷にいる善良なる里人にして紙芝居屋である。

世界一の探偵と他称されていたが、流石に現状で見つけ出すのは困難だ。

…実は困難なだけで不可能ではない。オオスは可能ではあるがしたくなかった。

 

「ぐっ…」

華扇はオオスの物言いに苛立ちながらも先ほどの件もありぐっと堪えた。

 

オオスはそんな様子にお構いなく、茨木華扇という“人物”の本質を問うことにした。

 

「貴方は昔話についてどう思われますか?」

オオスは脈絡もなく、華扇に尋ねた。昔話で呼ばれた存在に問いかける。

最もこれに対しての答えは求めていない。

華扇から答えをこの場で聞ければ最上だが、オオスは理解して貰えるとは思えなかった。

 

「突然そう言われましても…」

華扇はオオスの問の意味がわからず困惑する。

…多少苛立ちを覚えるがオオスがそういう人間であると華扇は理解し、諦めた。

 

「まぁ、夢を語る不思議な話です」

オオスは外の世界での常識で語る。ここ幻想郷ではありふれており、何より尊い在り方を。

 

「そして、最良の芸術。太古から何代も絶えず紡がれて来た物語と言っても過言ではない」

オオスは人々が後代の為に紡いできた物語に敬意を評する。

…そして、悪しき目を背けるべき邪悪をも思い出す。

しかし、その有り様はオオスとしても認めざるをえない。

 

「…それと私の腕と何の関係が?」

華扇はオオスの脈絡もなく、迂遠な言い回しに対し、指摘した。

華扇もオオスが真剣な姿は伝わっていた。だが、何かを伝えたいのはわかるが遠回し過ぎた。

 

「結論を急ぐと先ほどの様になりますよ」

オオスは華扇を窘めるように言った。

 

オオスは華扇に自分のことを知って貰うために話していた。

非情に回りくどい上に面倒臭いが、オオスはそういう人間であった。

無論、直言のような形で会話もできるが、今回は例外であった。

華扇の現状をオオスの推理と重ね、事実であった場合、衝突が不可避であった。

 

「…」

華扇は先ほどの負い目もあり追及できない。オオスの話をなるべく黙って聞くことにした。

 

「話を戻しましょう」

オオスは華扇の様子を見て、自論を展開することにした。

博麗神社の時のような神云々ではなく、オオスの、個としての在り方を述べる。

個を重視する妖怪のように、オオスも個を重視する。

オオスは人間としての集団性も尊重している。

だが、妖怪と基本は似た価値観を共有できると考えていた。

…それは目の前の存在だろうがそれは変わらない。

オオスは華扇を仙人や妖怪などではなく個として尊重し、話しかけていた。

 

「昔話は子ども達に良く物事を見ること、正しく考えること、美しく話すことを教えてきました」

オオスは昔話を言い聞かせる、紡ぐ価値観の共有こそが人間の有り様だと考えていた。

そこに妖怪との違い、人間の特異な集団性を見出すこともできる。

 

華扇はオオスの言葉は寿命が短い人間ならではの価値観であると思った。

死神すら恐れる必要のない華扇からすれば理解はできても共感はできない類の物であった。

 

オオスは華扇の様子を見て、一拍置いた。ここからは華扇とオオスが相容れない部分となる。

 

「子ども達からそれらを取り上げるということは——魂を奪うに等しいと私は考えます」

オオスは華扇の目を見て断言した。

…華扇が共感できないところにこそ人間の本質があるとオオスは考えていた。

人との繋がりの断絶、それが意味するところには人間にとっての特異性を失うであろう。

 

華扇が目指す道が人と共にある道、或いは類する物であれば。

…それはオオスの思想とは相容れない定めであった。オオスとは思想の根幹が違う。

オオスは人の弱きところに価値を見出し、華扇は正しさに価値を見出すだろう。

 

それは似て非なるもの、相反する思想であった。

 

…そして、それは悲しきかな、今回の件でオオスは確信してしまった。

華扇は正しい、善を優先させて甚振られる人狼を救おうとした。

オオスにはその思考はない。弱肉強食の理を優先させる。

イーグルラヴィやわかさぎ姫と影狼等、例外はあれども華扇とオオスとでは根本が違う。

それは人間と人外という差ではなく、根底にある行動原理の差であった。

 

「故に、私はそれを生業としていますが…例外もある」

オオスは華扇に人の連続性に重きを置く存在だと改めて宣言した。

…そして、例外を述べる。

それは華扇にとっても例外であり、オオスにとっても例外であった。

 

「想像力の源泉が全て有意義なものであるとは限らない」

オオスは全てが全て真理等ないと言わんばかりに例外を述べた。

つまるところ、オオスは華扇の腕という邪悪な鬼の源泉を例外としていた。

 

「つまり、貴方は…」

華扇は理解した。オオスは鬼の腕を見つけたら処分すると断言していた。

華扇にとって人の不幸を望むわけではないが、それは、それだけは例外であった。

華扇は言葉に詰まった。オオスの言うことは『正しい』のだ。

…華扇の行動原理に反する例外をオオスは指摘していた。

 

「…最後まで言わせてくださいな」

オオスは華扇の心情を慮り、遮るように自分の話として続けることにした。

 

「まぁ、私は貴方を見定める必要があったわけで」

オオスは華扇を茶化すように言った。オオスとしても避けて通れない問題だ。

だが、こういえば華扇は感情を負の方向に持って行かないだろうと判断した。

 

「うっ…」

華扇は最初の暴行を思い出して顔を顰めた。オオスへ話も聞かずにやらかした。

オオスの狙いとは外れ、華扇は別の意味で負の方向に思考が偏っていた。

 

オオスは華扇の様子を見て本題を切り出すことにした。これ以上は無駄であると判断した。

 

「かつて有らんとした存在意義を奪われ、物語を奪われた貴方は何を望んでいますか?」

オオスは昔話の存在に、アイデンティティを喪失した茨木童子に有り様を聞いていた。

 

「…私は腕を欲しています」

華扇は素直に答えることにした。華扇からすれば今回のオオスの言葉には理があった。

故に、華扇は答えざるを得なかった。

 

記憶を消す等と言う曖昧な態度はオオスには通用しない。

華扇は力技で捻じ伏せることは先ほどとは違いできない。

そうすればオオスは今度こそ本気で逃げ出すだろう。

そして、手段を選ばず華扇の妨害をすることは間違いない。

華扇は弱者に追い詰められていた。目を背けられぬ現実をこの男は叩きつけて来た。

 

「仙道とは捨てることにも似ています。貴方はその腕をどうなさりたいのでしょうか?」

オオスは言葉を緩めない。

華扇に対して己の欲望で動く有り様を仙人の真似事かと問いただす。

 

華扇は沈黙した。そして、秘めたる想いを口にした。

それは千年経ち変わらざるを得ない有り様を悔いることなく生きるための我儘であった。

 

「…私は、死が分かつように、かつての私を」

華扇は本音を吐露しようとした。

 

だが、

「貴方は腕が封印されているということでよろしいでしょうか?」

オオスは華扇の言葉や想いを遮って口にした。それは華扇に対して確認するようであった。

 

「…鎌をかけたのですか?」

華扇はオオスの態度に沸々と怒りが込み上げて来た。

…誰にも言わず秘めていた想いを吐露することの重さをこの男はわかっているのだろうか。

 

「違います。…いや、ある意味正しいとも言えます」

オオスは華扇の怒りを正面から受け止めて真摯に答えることにした。

オオスは華扇に鎌をかけたわけではない。

しかし、華扇自身の認識、封印の本質がわかっていないと理解した。

 

オオスは封印した者達の時代を、昔話を思い出した。…当事者の半妖も知っていた。

だからこそ、オオスは華扇の悩みの根源を作った悪辣な封印の真意を理解できた。

 

「それはどういう意味ですか?」

華扇はオオスが悪意あって遮ったわけではないことを悟り、聞き返していた。

 

「…人間というのはですね。残酷なんですよ」

オオスは黙秘することにした。

華扇が知ったところで推測であり、賢人の行いは愚者にも劣る。

オオスは華扇自身が知ることを望んだ。その上で任せることにした。

…霊夢には悪いがいざとなれば奥の手を使い、オオスは霊夢だけでも必ず助け出す。

 

オオスは新しく例外を設けることにした。…茨木華扇という例外である。

 

「先程から迂遠な言い方を辞めていただけませんか?」

華扇はオオスの言葉にイラつくように言い出した。もう先ほどの暴行は帳消しである。

オオスは元気な様子である。…華扇も遠慮しなくて良いと思い始めていた。

 

「…私はズールハーネを意図せずとはいえ作ってくれた貴方に感謝をしています」

オオスは無理やり理屈を作り出した。自分を納得させる強引な理屈である。

 

茨木華扇という例外は人里の為になるという屁理屈である。

その為、オオスは外来語をそのまま言うという失態を犯した。

ズールハーネでは意味が伝わるはずもない。

 

「…ずーるはね?」

華扇は案の定オオスの言葉を繰り返していた。聞き覚えの無い、脈絡のない単語であった。

 

「男性の運動会みたいなものですよ。弾幕ごっこは中々一般的な里人には難しい」

オオスは十日戎を霊夢に提案し、補助してくれたことに感謝の意を示した。

そして、それがオオスが捻くり出した“例外”の根拠であった。

 

「…だから、迂遠な言い方は辞めて欲しいと言いましたよね?」

華扇はオオスの真意が読めずに再度、この際オオスの直言でもいいので断言を求めた。

 

「つまり、貴方は人間の味方で、私も人間の味方という確信が得られたわけです」

オオスは自身と華扇との共通事項を宣言した。

 

「…」

華扇はオオスの意味するところがわからず考え込んでいた。

オオスは今更何を言い出すのかと思ってさえいた。

 

「…腕については外にあるでしょう。推測ですが」

オオスは華扇が求めている物の一部を漏らした。

 

「話をあちこち飛ばすのを止めてもらえませんか!?」

華扇はオオスに対して激怒した。

…急にオオスは華扇に協力するかのような妄言を言い出したかのように見えたのだ。

 

「今、私の推理を話しても伝わらないのです。物事には順序というものがある」

オオスは華扇に言質を取られるわけにはいかなかった。

華扇を見逃すにしても限度や譲れない一線がオオスにはあった。

 

人里や…何より霊夢に危険が及ぶ可能性がある。

オオスがそれを許容するのはできない相談である。

その為、オオスは積極的な協力はしないがヒントを迂遠な形で与えざるを得ないのだ。

 

「それに…私は推理が事実とすれば貴方とは相反する立場を取らざるを得ない」

オオスは華扇に大妖怪の腕という強大でかつ邪悪なものを見過ごせないと敢えて口に出した。

 

華扇は沈黙を持って返した。オオスの言うことは正しい。

腕を欲するのは華扇の我儘に近い物である。だが、譲れない一線であった。

 

「ここで私から推理を引き出して腕を見つけ出したとしましょう」

オオスは仮定の話をした。今それができるが、それはするなと華扇に言外に示していた。

 

「その時、貴方の目的は果たされない。…私がそれをさせないから」

オオスは華扇に断言した。自分から聞き出せばそれを妨害せざるを得ないと態度で示した。

 

「…貴方は色々できるようですが、私を止められる程の力はない」

華扇はオオスに対して牽制するように言った。華扇から見てオオスに勝ち目はない。

ここで力ずくで引き出すことも可能だと言外に示していた。

 

「止めるとか止めないとかそういう話ではありません。不可能なのです」

オオスは華扇の圧力を苦ともせずに言い切った。華扇がわかっているであろうことを言う。

オオスは勝てないが負けないことができる。華扇から逃げ出して先回りすら可能である。

 

「…交渉の余地は?」

華扇はオオスという手掛かりに問うた。交渉の余地がないかどうしても確認したかった。

 

だが、

「ないです」

オオスは華扇に言い切った。

人里で問答無用で暴れまわる存在を許容できる程、華扇に入れ込むことは不可能だった。

 

「…今、貴方を排除すればとは思わないのですか?」

華扇はオオスを脅すように言った。本気になればどうかわからないと言外に示した。

華扇がオオスの出来ることを把握していないように、オオスも華扇の能力を把握しきっているわけではなかった。

 

しかし、

「思いません」

オオスは華扇に言い切れた。

 

「どうしてかしら?」

華扇は消沈を隠しきり、オオスへ尋ねた。

 

「だって、貴方はそういう人ではありません」

オオスは華扇という個を見て言い切った。

そもそも華扇にそれができるのならば先の人狼を無視して自分の都合を優先していたはずである。

 

「…」

華扇は思わず言葉を失った。オオスからは華扇に対する絶対の信頼を感じ取れたのだ。

ここまで断言されると華扇もオオスに片寄ってしまう。

 

そして、

「私は全力で貴方を見逃すのでその間に探してください」

オオスは華扇を例外として見逃すから探すように言った。

言外にオオスが見つけたら華扇の手元に行くように見逃すと言ってもいた。

 

「何故、そうするのですか?」

華扇は思わず言葉を漏らしていた。

…オオスが受け入れられない範囲まで譲歩しているのは明白だった。

華扇に対して良い印象を持っていないであろうオオスがそこまでする理由が思いつかない。

 

「貴方の言い方から察すれば先回りして回収くらいするはずです」

華扇はオオスの言外を敢えて言葉に出して聞いていた。

無粋とわかりつつ大罪人とも言える過去を持つ華扇に何故そこまで肩入れするのかと聞いた。

 

「貴方が私の好みだからです」

オオスは華扇に対して正直に答えた。

 

オオスにとって華扇は確かに相容れない考えであるし、華扇から教えを乞うのも諦めてすらいた。

だが、その足掻く在り方をこうして話してみることで理解できた。

オオスにとってそれは正しく“人”であり、オオスはそういう人物を好んでいた。

 

「なっ…」

華扇は狼狽した。

…オオスがそういう意図を持って言ったわけではないのは華扇にもわかる。

だが、こうも堂々と言われると流石に華扇も動揺を隠しきれない。

更に、華扇は普段なら有り得ない程の心の隙間とも言うべき虚無感があった。

故に、オオスの言葉は華扇の心に響いてしまう。

 

「貴方の求める道は私とは相反しますが、それを否定する資格は私にはない」

オオスは華扇の狼狽に含まれる意味に気が付かずに話を続ける。

 

「私は貴方を尊重します」

オオスは華扇の在り方を認めていた。

 

…華扇が今最も欲している言葉をオオスは無意識に投げかけていた。

華扇の誰にも言えない秘した過去を、オオスはそれすら認めていた。

オオスは華扇の為に自らを曲げてまで手助けすると宣言していた。

 

「どうか神秘的な世界を発見し、想像力を磨いてください」

オオスは紙芝居屋として昔話の存在にそう締めくくった。

 

そして、

「…」

華扇は完全に動揺していた。オオスにそういう気がないのはわかり切ってはいる。

だが、華扇は今までここまで自らを知った上で認められた経験がなかった。

ましてや非道なる過去すら受け入れる存在等いないと思っていた。

華扇は動揺を隠しきるだけで精いっぱいだった。

 

 

オオスは華扇の動揺を急に方針転換した自分をどこまで信頼できるかを測っているのだと考えていた。

…確かに合っているのだが、そこに含まれる感情はオオスには読み解けない物であった。

 

「実に有意義な会談でした」

オオスは沈黙したままの華扇を置いて、感想を述べた。

茨木童子という偏見でオオスは茨木華扇を見ていた節があった。

だが、違うのだ。オオスは自らの至らなさを反省していた。

 

「ああ、でも影狼のメンタルケアは…まぁ、私なりに済ませておけば良いか」

オオスは大事なことを忘れていた。

しかし、影狼がうじうじしているのはどうかと思った。

オオスからすれば犬畜生は許せないが、経験上あれくらいは些事である。

もうオオスなりのやり方で済ませることにした。

 

「そろそろ部下達が戻ってきます。…面倒になる前にお帰りください」

オオスは沈黙を続ける華扇に帰るように言った。

オオスは華扇について説明するのが面倒であった。

 

だが、

「…貴方は口が、そう随分上手いようですが、行動が非人間的過ぎる」

華扇はオオスを敢えて挑発した。…華扇の心の中で整理がついた。

 

「…何だと」

オオスはものの見事に華扇の挑発に乗った。…華扇の思惑通りに。

 

「少しはきちんとした人間になれるようにしないといけないわ」

華扇はオオスに呆れたように、そして本音で話していた。

…オオスをこのままにしては不味い。色々な意味で。

 

「失礼な!私のどこが非人間的だと言うのですか、模範たる善良な里人でしょう!?」

オオスは激怒した。かの暴虐邪知な仙人の戯言だろうと許せぬと叫んでいた。

 

「善良な里人は妖怪を拷問にかけたりしません」

華扇は断言した。オオスの異常な振舞いを指摘した。

 

だが、

「拷問じゃなくて躾です。犬畜生を躾けただけです」

オオスは完全に開き直って華扇に言い切った。

 

「あの程度なら些事です。躾の範疇。誤差の範囲内です」

オオスは自らの非を認めないと言わんばかりに捲し立てていた。

…それが何よりの証拠なのだが、この時のオオスは怒り狂っていた。

 

「…その混沌とした頭の中をどうにかしないといけませんね」

華扇は本当に、心の底からオオスという人間を矯正しなければならないと決意した。

 

「無視ですか」

オオスは華扇が自己完結している様を見てそう言った。

 

「今日は遅いので引き下がりますが…」

華扇はそう言ってオオスに背を向け、帰ることにした。

 

そして、

「…また来ます」

華扇はオオスに振り返って目を見て言った。

 

しかし、

「え…来ないでください」

オオスは本心から華扇へ言った。

オオスからすれば認めはしたが、華扇に来られると迷惑であった。

 

「また来ます!!」

華扇はオオスの戯言をかき消すように叫んだ。そして、怒りながら去って行った。

 

「…面倒なことになったなぁ」

オオスは思わず呟いた。華扇の腕の件さえどうにかなれば来てもらって構わないのだが。

オオスは茨木華扇を認めたし、全てを受け入れるが来て欲しいかはまた別だった。

 

オオスは華扇に仙術を教われるかもしれないと思い、気分を変えてイーグルラヴィの面々を迎える準備をすることにした。

 

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