嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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ズーグワイン

影狼の心の問題が片付いたオオスは博麗神社を訪れていた。

オオスの手にはズーグ族の作ったワインを持っていた。

オオスはこれを奉納しに来たわけではない。

 

このズーグワインとも言うべき酒は、宇宙より地球に落ちた種子により育った樹木よりできた酒である。

幻想郷の脅威になり得るある存在の判別材料、リトマス紙の代わりになるものであった。

オオスはそれが現れた場合、対処する霊夢に渡しに来たのだ。

 

だが、

「怨霊?…そんなの見つけたのならその場で退治すれば良いだけじゃない」

霊夢はオオスのワインをしっかり受け取ってからしれっと言い切った。

オオスがズーグワインについて説明し出したらこれである。

…先にこれはかなり美味い酒と言わない方が良かったとオオスは反省した。

 

「異界の酒とか良いな。…なぁ霊夢、今飲もうぜ」

魔理沙はオオスが語るワインの濃厚な豊潤さを聞き、興味深々だった。

 

魔理沙も怨霊については霊夢の言うとおりだと思った。退治すれば良いだけである。

力ある人間ならば怨霊くらいどうと言うことは無いと魔理沙も認識していた。

意志薄弱な状態なら兎も角、そこまで追い詰められるとは思えない。

魔理沙はオオスの心配を察しつつも行き過ぎた物と思った。

 

「ああ…」

オオスは察した。これはまた昨年春の、異変騒ぎの時と同じであると悟った。

オオスは怨霊の真の脅威について自分が説明して良い物か悩んだ。

 

…八雲紫が敢えて霊夢に伝えていない可能性があった。

怨霊が妖怪の致命的な弱点になり得る等、気軽に教えられる物ではなかった。

精神が強い鬼等の存在いる地底に怨霊が封じ込められているとは人間に教えにくい。

 

それに地底は地底の管轄と契約がなっている。オオスが気軽に口出して良い物ではない。

オオスが想定する最悪は魔理沙の思うように行きすぎでもあった。オオスも自覚していた。

永遠に地獄に閉じ込められている大罪人の怨霊が逃げ出すような事態は通常有り得ない。

このワインは怨霊の検査キット代わりになるのだが。

オオスは持って来た分を飲まれるのは良いと思った。

紫が冬眠から目覚めるまでは、パチュリーと研究するしかない。

無粋なことは言わずに小宴会にすることにした。

 

「無粋なことで失礼を。…飲んじゃいましょうこれ」

オオスは魔理沙の意見に賛同した。軽く飲んで今日は帰ることにした。

…たまの休みも良いだろうとオオスも思ったのだ。

 

しかし、

「待ちなさい!」

空気の読めない委員長タイプの仙人が待ったをかけた。

オオスは内心舌打ちした。今は飲む気分なのだ。今更出て来るなと思った。

 

「…怨霊に取り憑かれた者を即座に識別できるというのは本当ですか?」

華扇はオオスに詰め寄るように言ってきた。

…オオスは余りに近い華扇から避けるように遠のいた。

 

「ええ、本当ですが。まぁ、それだけですし、飲みましょう」

オオスは華扇に同意しつつも、半分無視して霊夢にワインを飲もうと言った。

オオスは後でこのワインの作用についてパチュリーと研究するつもりであった。

最終的に検査キットを別に作る気でいた。このワインは霊的な、魔術的な物である。

パチュリーの知識量なら再現は無理でも検査キットの作成はできると判断していた。

 

「…怨霊は人間の精神を蝕みます」

華扇はオオスの言葉を無視し、霊夢からワインを奪い取ろうとしていた。

霊夢は必死に抵抗していた。オオスは霊夢を応援していた。魔理沙も霊夢を応援していた。

なお、魔理沙もオオスもどちら共に直接霊夢を助けようとはしない。

二人とも心の中で霊夢を応援するのみである。

 

「人間の欲望を増幅し、怠惰の毒に犯され、死後人間を地獄に落とす」

華扇は怨霊の表面的な脅威について語る。

華扇はオオスの思う真の脅威よりも地獄と過去の自分を結び付けない為に必死だった。

 

「これは飲んではいけません!いざという時の為に取っておくべきです!!」

華扇はオオスに詰め寄って言い切った。

何を馬鹿なことをしているんだという目でオオスを見ていた。

オオスから見て、華扇の目は霊夢達を止めろと言わんばかりであった。

 

「ま、まぁ、見つけたら退治しておくわよ」

霊夢は人のためを思って言う華扇に気をされつつも、引き下がらない。

霊夢は完全に人の味方である直情的な華扇が苦手であった。

オオスと違い胡散臭くなく、かつ心の底から懸念を感じて言っているので押しきれないのだ。

 

「…異界の酒ですよ。美味いですよ」

オオスは華扇の正体、本能に対して唆すように言った。

華扇はそうはいいつつも飲みたいはずであるとオオスは確信していた。

何より、現在の幻想郷において、地底と地上は完全に隔離されていた。

…余程の馬鹿が馬鹿をやらない限り安全である。

 

オオスはそんな馬鹿はいないとこの時は思っていた。

一応、事故でそうなった場合に備えて霧雨商店から古美術品の類を用意していた。

それにオオスは怨霊の類を封じられる体制は整えていた。

…地下と地上を噴火させるような暴挙を仕出かしても一応の対策はできていた。

オオスはその対策を万全にしたくて霊夢にこのグーズワインを持って来た次第であった。

それに、オオスにとって影狼の問題を解決するついでに思いついた防疫策であった。

 

「…そんなに美味しいというからにはそうなのでしょうが」

華扇は揺れた。飲んだことのない酒であった。美味いと言われるとグラついた。

それに華扇も自分の心配が行き過ぎだとわかっていた。

 

「煩いことを言わないで、飲んじゃいましょう」

霊夢がオオスに加勢してきた。華扇が揺らいでいることが霊夢の目にも見えたからだ。

 

「つまみならひとっ走りでもってくるから飲もうぜ」

魔理沙は自ら労力を払う姿勢を見せることで華扇の心を揺することにした。

…当然、自分で持ってくるつもりはない。都合の良い男が目の前にいた。

 

「ああ、魔理沙さん。その必要はありませんよ。…これに合うチーズも持ってきています」

オオスは魔理沙の意図を汲み取り、それに乗った。

 

「う、うう…」

華扇は三人掛かりで無言の圧力と酒への誘惑に揺れた。

 

 

華扇は修行が足りないと反省し、自らを律する修行を一からやり直すこととなった。

オオスは他者の欲望を揺さぶることにかけて天災(誤字にあらず)である。

華扇が一流の仙人であろうとも問題が起こりえない状況では誘惑の方が上回るのは仕方がなかった。

 

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