オオスが住んでいる場所は人里から離れた場所である。
魔法の森と迷いの竹林の間くらいに流れる川の近くだ。
今ではオオスの有情湖やら海やらできたが、迷いの竹林の近くにオオスは住んでいた。
オオスは幻想郷に来た当初、人里の貸家に住んでいた時期があった。
そして、隣には独身の男性が住んでいたりした。
射命丸が家に押しかけて来るのを血の涙を流し睨んできたのは今でもオオスの記憶に残っている。
話は逸れたが、それくらいオオスは人里に馴染んでいた。
今でも人里には結構な頻度で顔を出すし、里人と普通に挨拶もする。
オオスは普通の人間と自分の感性がほんの少しだけ違うことを知っていた。
幻想郷に来た当初、オオスは手本となりそうな人物を見つけて自分を修正して馴染んだ経緯があった。
酒屋の森岡はそんな時期のオオスに絡まれた人間の一人である。
オオスは森岡が知らない酒の知識を吹き込み、興味を引き出された。
…いつの間にか無理やり森岡が酒を造らされて、森岡がオオスへその酒を献上するような関係になっていた。
森岡は感情の浮き沈みの激しいオオスの機嫌に一喜一憂していた。
森岡の店、森岡酒造はオオスのお陰で魔改造された。
それに追随するように他の酒屋も発展し、人里の酒の品質は競う様に向上した。
結果、新酒が作られる直前の酒に混ぜ物をして誤魔化すようなことをせずとも良くなった。
オオスがワインやビール等のあらゆる酒類の製造、醸造法や保存法等をばら撒いたのだ。
それに伴う材料となるホップ等はオオスが貧困層が耕作できるように手配していた。
なお、ホップの和名は西洋唐花草というあからさまな外来種である。
普通ならば八雲紫が幻想郷に外来種を持ち込むなとクレームを入れる場面である。
だが、オオスはその畑以外ではホップが枯れるように魔術を施していた。
オオスは紫のクレームを想定して手を打っていたので紫もこれを黙認していた。
これはあからさまな外来種による人里の貧困層への救済である。
しかし、オオスは人里を支配したいわけではない。対策も万全である。
…紫としてはギリギリ許容範囲内であった。
その為、幻想郷では日本酒以外の様々な酒が一般里人にも楽しめるようになった。
勿論、前々から梅酒等あったが、多種多様な酒が楽しめるようになったのだ。
本来ならばこのようなことをすれば年数が浅い酒造りにはあくどい業者、悪酒が混ざる。
だが、オオスは人里の権力者に取り入って規制基準を設けた。
その利益供与として高品質の酒を確保する等の割とグレーな取引もした。
これらオオスの行為に意図する物はなかった。
…全てはオオスがただ単に酒を飲みたいからである。
そして、オオスの行った政治的駆け引き全てを直で見せられた森岡はオオスに逆らえない。
紙芝居ができないという理由で天へ行き、何となくムカつくので月に喧嘩を売る。
とんでもないのだが、人里ではオオスだからとかいう名状しがたい理由で済んでいる。
だが、森岡はオオスがわかってやっているのを知っていた。…森岡からすれば本当に怖い。
そんな森岡だが、十日戎で仮初の幸運を手に入れ歓喜していた。
厳冬期である寒の内に汲む水を『寒の水』という。
この寒い時期に仕込んだ酒は旨いのだ。
森岡は自身の造る吟醸酒に使う水は迷いの竹林の水にするといつも決めているのだ。
森岡は職人気質であった。…それ故にこだわってしまう。
その日、森岡は酒の仕込みを始めていた。勿論、水は一番こだわる部分である。
…何を差し置いても、だ。
森岡はその為だけに死を恐れずに毎年、冬の迷いの竹林に足を運んでいた。
何より、今年の自分は福男である。いつも以上に森岡は張り切っていた。
だが、
「森岡さん…迷いの竹林の寒の水欲しいですよね?」
森岡は目の前が真っ暗になった。悪魔以上の悪魔が森岡の前に鎮座していた。
オオスは森岡に危険がないかと毎年いつも心配していた。
一般里人が冬の迷いの竹林に足を運ぶ等、ガチで死にに行くような物である。
それに毎年生還する森岡の幸運は凄まじいが、いつ死んでもおかしくない。
一応、オオスは森岡の身に何かあれば即座に反応できるようにしていた。
だが、目に見える頼れる部下ができたオオスは迷いの竹林の案内役として任せられると確信した。
オオスは森岡に部下を共に連れて行くように提案した。オオスの森岡に対する行為は全て善意である。
オオスがあれがしたいこれがしたいと世話になっている森岡の身の安全を心配してのことであった。
その年から森岡は絶対の安全と引き換えに毎年新興宗教の狂信者数名を伴う羽目になった。
…これが福だと言うのならば最早、神はいない。
森岡は来年から十日戎の福男選びには出ないことにした。