嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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良き隣人

かつて、港町インスマスの海岸から約1マイル半沖にある悪魔の岩礁の下に海底都市『ヰ・ハ・ンスレイ』が存在した。

かつて人類の総力を挙げて壊滅させたその街は、恐怖と狂気を忘れた時代に再建されていた。

そこに住まう異形の者達、Deep Ones。

和名で表すのならば『深き者ども』。彼等を止められる者等もういない…はずであった。

 

 

男は冒涜的な異形の造物主を象った像とその向こう側の門を見つめていた。

人間が入る事はできず、入れたとしても脳裏に刻まれた恐怖によって存在自体が保てない。

生臭いという表現すら生温い冒涜的な嫌悪を感じさせる空間に男、オオスはいた。

 

オオスは直径2mのガラスのような玉の中にいるように見える。

これはオオスの魔法であり、『水晶の世界』という。海底だろうが月だろうが窒息することなく動き回れる魔法である。

欠点としては強い衝撃が加わると割れてしまうことだが、オオスにとってこの魔法はブラフである。

 

オオスは予め『黄金の蜂蜜酒』の一種である海の蜂蜜酒を飲んでいた。その為、海底だろうが問題なくオオスは動ける。

だが、生臭いのは嫌なのと、水晶を割るようなことがあれば交渉決裂ということにしていた。

 

「…無駄なことを」

オオスは冒涜的な門を見て愉悦の笑みを浮かべて一蹴した。

…敵ながら中々の対策具合であると感心していた。

 

ここの連中がこうまでして隠れるのは、自分の前に、人類に負けたせいだろう。

旧約聖書の英雄、サムソンの子孫を恐れているのだろうとオオスは思った。

オオスは自らが嗾けた巫女を思い出した。…オオスにとっては霊夢の方が余程恐ろしい。

 

「Ph’nglui mglw’nafh Cthulhu R’lyeh wgah‛nagl fhtagn」

オオスは門の中にいる者共に敢えて彼らの流儀に合わせて答えてあげた。

そして、異形の門が開かれた。…中から漂う異形の気配にオオスは一切動じない。

精々、挨拶なしで水晶が割れでもして生臭いのがついたら嫌だなと思う程度だった。

 

「新ヰ・ハ・ンスレイの皆さんこんにちは」

オオスはいつものように喪服姿で彼等に、深き者どもに挨拶をした。

…日本語だが、彼等には問題なく伝わるだろう。

オオスは何度も日本語で彼等に挨拶をしてきていた。

 

だが、

「Y-y-you must die, b-b-b-because I have told lies in the LORD's name!」

深き者どもの一人がオオスの姿を認識して叫んでいた。

…よりにもよってそれは聖書からの引用であった。

 

「ゼカリヤ書ねぇ…私は預言者ではないのだよ。口に気を付けなさい」

オオスはその言葉に軽くキレた。

 

なお、深き者の言葉を訳するとこうなる

『お、お、お前は死んでなければならない。し、主の名において偽りを述べたことになる』

 

オオスは目に見える、見えない範囲も含めて全てを対象に呪文を唱えた。

キラキラと光る塵が集まったような雲が現れて、塵が対象にひらひら舞い落ちる。

 

「今ここで全滅したくないのなら、今から言うものを三十分以内に用意してください」

オオスは体に塵が付着し、声にならない叫びをあげてのたうち回る深き者どもへ言った。

 

そして、

「夢見るままに待ちいたり…ということはわかっていますね?」

オオスは一番賢そうな言葉を最初に述べた無礼者の首をつまみ上げて言った。

 

「I will do it right now!!」

深き者は今すぐやらせていただきますと心から叫んだ。

この黒い男は自らの種族の天敵であった。

…あの悍ましいサムソンの子孫達よりもこの、たった一人の男に全部族が恐怖した。

自分達はこの男が寿命で死ぬまで海底に沈むことを決めるしかないとしていた。

 

…それが死んだと聞いても安堵できずに燻っていたら、あちらの方からやって来た。

この男が死んだ等と嘘の報告をした者を呪い殺さんばかりに心の中で呪詛を吐く。

…この男の要望が何であろうが言うことを聞かねば今すぐに死ぬ。最早、自分達には後先考えずに了承する他なかった。

 

「素晴らしい!理解があることは幸福ですよ」

オオスは理解ある良き隣人に恵まれたことに感謝し、そう言った。

 

 

 

所変わって、オオスは紅魔館のレミリアに謁見室で謁見をしていた。

レミリアはオオスに対して呆れたような、困惑したような、要するに理解不能な顔をしていた。

 

「…これは何かしら?」

レミリアはオオスの持って来た4m近い冷凍された巨大魚を見て呟いた。

 

「冷凍クロマグロです。本当は私の海で飼いたかったのですが…流石に大きすぎまして」

オオスは残念極まりないという表情を隠さずにレミリアに言った。

 

良き隣人はオオスの期待以上に用意してくれた。

オオスは海で飼う魚を用意したかった。

だが、オオスが良く考えもせずに博麗大結界を抜けて外に出てしまうと、幻想郷に帰って来れる伝手がなかった。

その為、わざわざ良き隣人を夢伝いで辿り、転移して頼んだのだった。

 

オオスは良き隣人の働きに感謝した。オオスの海は海の魚で満たされていた。

だが、このクロマグロだけは扱いに困った。…どうしても大きすぎたのだ。

なお、オオスは良き隣人へまたその内来るのでよろしくと伝えて帰って来た。

サムソンの子孫が怖いのか、関係ない友好的な自分に対して終始彼等は怯え過ぎであった。

 

「咲夜さんの能力で解凍すれば鮮度抜群の状態でマグロ祭りができますよ」

オオスは咲夜か輝夜の能力を使えば瞬間冷凍マグロを最適な状態で解凍できると確信していた。

オオスはお世話になっている紅魔館の方を選択した。紅魔館でマグロ祭りでもできないかと考えていた。

 

「さくやー。いるかしらー?」

レミリアは考えるのを辞めた。取り敢えず、咲夜を呼んでから考えようと思った。

…自分一人でオオスを対応するにはまだ早かった。

レミリアはパチュリーの忠告を聞かなかったことを後悔した。

 

 

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