嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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オオス式ゆとり教育 第一期生

オオスと慧音は暇があれば酒を飲み交わす間柄である。

そして、慧音は毎回生徒の授業態度についてオオスに毎回愚痴っていた。

オオスは自宅に寺子屋を再現した部屋を作る程、慧音の愚痴を真面目に聞いていた。

だが、慧音はいつもオオスに愚痴るだけであった。

 

…オオスは慧音の愚痴にややうんざりしていた。なので、もう無理やり介入することにした。

オオスは自己鍛錬の休み時間をまずは確保した。スケジュールに余裕を作った。

オオスは偶にはっちゃけてはいた。だが、今冬のオオスはほぼ鍛練のみの日々を送っていた。

 

そして、オオスは寺子屋の慧音の授業を二週間に一度だけ乗っ取った。

冬の寺子屋は雪が降り積もることもあるため、夕方は危なくなる。

そのため、午前中のみ授業をすることになっていた。オオスもギリギリ都合がついた。

慧音は二週間に一度ならと許可した。…慧音はオオスの迫力に負けて思わず頷いていた。

それにオオスの学識は豊富なのは人里で明白であり、保護者の誰からも文句は言われないと慧音も確信していた。

 

慧音はオオスに日頃から授業について愚痴ばかり溢していた罪悪感があった。

…だが、慧音はオオスの授業を決して覗かないようにという言葉だけが気がかりであった。

 

 

そして冬のある日、ついにオオスは自らの教鞭の為に寺子屋まで赴いていた。

それは生徒達にとって滅茶苦茶な授業であった。

オオス先生の授業は読み書き算盤等教えない。…やるのは徹底した実学であった。

 

オオスは寺子屋の黒板の前に立ち、まずは生徒達へ挨拶をした。

 

「こんにちは。…特別講師として招かれたオオスです」

オオスはにこやかな顔で生徒達に挨拶をした。

紙芝居屋のオオスの授業ということもあり、生徒達の大部分は期待していた。

慧音先生の睡眠導入剤ではない楽しい授業を期待していた。

 

だが、

「初めに言っておきましょう…私の授業は今の君達には役に立たない」

オオスは最初にぶっちゃけた。…オオスの授業は今の生徒達には役に立たない。

否、そもそもオオスは寺子屋の授業という体裁すら考えていなかった。

オオスにあるのはこの生徒達に如何にして慧音の読経を聞かせるようにするかであった。

 

「…それじゃあ、もう帰ってもいいですか」

生徒の一人がオオスの言葉に反応し、そう言った。

オオスは生真面目そうなその生徒を、空気の読めない生徒と脳内にメモをした。

 

この生徒としては紙芝居屋の授業が身の為になると思わなかった。

…要するにオオスを教師として舐めていた。

 

「今の君達には役に立たないと言いました。座りなさい」

オオスは帰るのを制するように言い切った。話は最後まで聞けとした。

 

「今、帰ったら教師の権限で君は素行不良であると親御さんに納得させます」

オオスは教師の権限を生徒に振りかざした。否、教師以上の権力を行使した。

 

「えっ…」

真面目な生徒は絶句した。

慧音から真面目で優秀と評される彼は素行不良等とは無縁であった。

オオスの滅茶苦茶な言葉とその職権乱用に言葉を失った。

 

「私の、優しい教え方で楽しい授業を期待していたとしたら…皆さん大馬鹿です」

オオスは空気の読めない生徒の暴走を食い止めたことを確認し、生徒達へ言い切った。

 

「「ええー…」」

何人かがオオスの授業をそのように思っていたため、思わず声を漏らした。

 

「この世の中は複雑怪奇。誰もが森羅万象一切合切全てわかっているわけではない」

オオスは先ず勉強したとしても、何でもわかるわけではないと生徒に言い切った。

…生徒が言いそうな屁理屈の芽をオオスは予め摘み取っていた。

 

「そういう時の世の中のわからなさを減らすのは、人への信頼です」

オオスは言葉を続け、美辞麗句の綺麗な幻想を言う。

だが、オオスはそんなことを考えたことは無い。

 

「君らも先生や親が言っていることは信頼するでしょう?」

オオスは虹の先はどこへ行くのかと大人に教えてと言う年齢の子ども達へ言い切った。

 

「それで済むのならば、本来ここで学ぶ必要はないはずとも言えます」

オオスは子ども達が多かれ少なかれ持つ、この寺子屋で学ぶことへの疑問を言葉にした。

 

「…しかし、君達はここ寺子屋に通って学んでいる。それは何故でしょうか?」

オオスは親に言われて仕方なく来始めた子ども達に質問した。

…今では慧音に寺子屋自体に愛着もあるだろう。

それでも学問については考えたことのないだろう子ども達に勉強する意味を聞いた。

 

「…」

子ども達は沈黙した。

親から言われて仕方がなく来ていたと正直に答えられる胆力のある子どもはいない。

まして、オオスは最初に真面目に授業を受けている生徒すら素行不良だと言い切っていた。

 

「質問には答えてください。正直に言ってください。…これは特に大事です」

オオスはそれでも子ども達へ答えを求めた。

 

「…わかりません。正直、勉強しなくても良いと思います」

生徒の一人の少年が何とか絞り出して言った。少年にとって正直言ってわからない。

その生徒は学ぶことが将来役に立つと言われても、手に職ならいくらでもあると思っていた。

 

しかし、この答えは怒られる。…少年はいつも親から怒られていた。

勉強しろと言われても何故しろというのか親に聞いても答えてくれるどころか殴られた。

 

だが、

「素直でよろしい」

オオスはその少年の答えを受け入れた。やれと言われてやっているのが大概なのだ。

…お国の為等という、イデオロギーを叩き込む時代は終わっていた。

それはそれで教育法として有効な手段ではあった。しかし、それはゆとりがない。

 

…幽々子ならばそう言うかもしれないとオオスは思った。

幽々子はああ見えて愛国者であった。しかし、教壇に立つ幽々子を想像できない。

オオスは思考を戻した。目の前の生徒に応えるのが先生の務めである。

 

「それについては、私なりの答えの一つ例をあげましょう」

オオスはその生徒が望む答えの一つを例としてあげることにした。

…この生徒は勉学を手段としてとらえている。

 

この少年の考え自体について、オオスは間違いであるとは思わない。

…アメリカ等では聖書に反する進化論を教える学校に行かせない大人もいるくらいである。

だが、それは学んでから出す答えであるとオオスは思っていた。

 

「それは…勉強しなければ、人を信頼するだけの生き方を送ることになるからです」

オオスは勉強をしなければ信じるしかなくなると言い切った。

…オオスにとってこれは危険極まりない生き方だった。

 

大学生になっても、善意ある不勉強が引っかかるテロリストへの入り口でもある。

オオスは実例を知っているが、子ども達に話す内容ではないので脳内で修正していた。

 

「どういう意味ですか?…全く悪いこととは思えないのですが」

今度は別の、最初に教室から出て行くという発言をした生真面目な生徒が質問した。

…生徒からすればオオスの言っていることは勉強するなと聞こえた。

信頼する生き方とは正しそうな、聞こえが良いものであった。

 

「素晴らしい!」

オオスは生徒の自発的な質問に賞賛の声を挙げた。

 

「…皆さん。今日の所は一々挙手なんて気にしないで彼のように質問してください!」

オオスは先ほどとはうって変わってその生徒を褒めたたえた。

オオスはこういう質問を望んでいた。

 

生徒達は唖然とした。オオスは貶して脅したと思ったら今度は褒めだした。

生徒達は気が付けば、オオスの一挙手一投足に目が行ってしまっていた。

 

「コホン…では、何で人を信頼するだけではいけないのか」

オオスは恥ずかしさを誤魔化すフリをして、説明を再開した。

…オオスは生徒達の注目を掌握できたと悟った。そして、勉強の大切さを説くことにした。

 

「…それは詐欺師が君達に付け入るからです」

オオスは彼等に悪を教えた。…本来、子ども達に教える内容ではない。

慧音も言わない類である。

 

だが、オオスは子どもの頃から誰かが言わないと引っかかると確信していた。

良い大学を出て、良い企業に入った者程、簡単に引っかかるのだ。実に面倒臭いことに。

オオスは大学生どころか高校生にもなれないままにこちらに来たが。

 

オオスからすればとゴシップ紙を読み込んで、その内容を馬鹿にしている連中の方が世渡り自体は上手いと思っている。

悪を知り、悪を征す。オオスの基本的な思考回路であった。子ども達に教える内容ではない。

だから、慧音を言いくるめて授業中に来させなかった。

慧音に途中で止められたら誤解したまま生徒達は帰ってしまうからだ。

 

「君らが信頼しているから物を買う時に多めにお金を取られても気が付かない。

 信頼しているからお金を貸すが、相手は全く返さないどころか法を逆手に踏み倒す」

オオスは子ども達に聞き覚えがあるだろう具体例をあげた。

 

子どもは大人たちの会話を一部聞いてしまう。

ここ幻想郷ならだまし、だまされたなんてよく聞く話である。

…富豪が詐欺にひっかかった笑い話等は悪意なく一気に広がる。

 

「…信頼することしかしない。どんなに厳格に取り締まろうとも、抜け目を狙う。

 いつの世もそういう類の詐欺師は存在しています」

オオスは間を置いてから言葉を続けた。

 

子ども達が思い当たる節があるという顔を確認できたので、具体例は敢えて挙げない。

思い思いの考えが、記憶の定着に繋がるのだとオオスは知っていた。

 

「大人達は黙っていますが、どんな世にも悪はあふれているわけです」

オオスは寺子屋でやる話ではない悪の話を子ども達に伝えた。

 

生徒が親に報告してクレームが来てもオオスには言い返す自信があった。

…慧音に被害が来ないように、オオスは最初から悪い先生を演じていた。

 

「…わかりました」

質問した生徒はオオスの言葉にうなずいた。

だが、生真面目な生徒は勉学に勤しむからこそ善を信じていた。

その為、オオスの言葉にどうしても納得がいかなかった。

 

「納得いっていないようですね。では、続きをお話します」

オオスは真面目な生徒の為に回答することにした。

 

「今あげた詐欺師よりも厄介なことがあります」

オオスは指を一本立てて、生徒達の注目を集めさせた。

オオスは挙動で生徒の興味を誘導していた。

 

「…それは本人が騙しているつもりがなく、それを信じている場合です」

オオスは本当に面倒臭い存在を例に挙げた。

 

「…すみません。意味がわかりません」

別の女生徒がオオスの言葉に本気でわからないという顔をして言った。

本当に意味がわからなかった。騙しているのに信じているという矛盾で頭が痛くなってきた。

 

「素晴らしい。わからないというは大切なことです」

オオスは女生徒を称賛した。そして、皆が理解に苦しむ様を観察した。

 

オオスはそこで一旦、間を置いた。

…それはほんの少しの気が付かれないような間であった。

 

オオスは生徒達も気が付かない程度にストレスをほぐした。

人間はわからなさの許容値を超えると思考が空になる。

オオスはそのタイミングを完全に把握していた。

 

…オオスはそこで話を楽しい方向へ変えた。

生徒達にとっては常識であり、オオスにとっては非常識というか認めない奇妙な例である。

オオスは不愉快だが、授業の為としてその感情を割り切った。

 

「例えば私は神がいることを認めないが、皆はどうだろうか?」

オオスは神のいる幻想郷で神を子ども達の前で堂々と否定した。

 

「…いや、神様は偶にそこら辺を歩いていますが」

女生徒は思わずオオスへツッコんだ。

 

偶にとはいえ人里で野良神を見かけるくらいには幻想郷にあふれている。

幻想郷の住民、子ども達にとってすら神は身近であった。

 

「その通り。だが、私は認めない」

オオスは女生徒のツッコミを認めながらも、神の存在を否定し出した。

 

「「ええ…」」

皆は困惑した。…オオスの目が本気だからである。

オオスが嘘をついているようにはまるで見えない。

…神が今も人里を歩いているかもしれないのに、だ。

オオスの言動は現実と乖離しまくっていた。

 

「皆には滅茶苦茶だろうが、私がそう確信している。…それは詐欺にはならない」

オオスは確信し、断言した。神なんざいらねぇ。オオスの一切ブレることのない主張である。

だが、同時にオオスはそれを他者に強制したこと等一度たりともない。

 

「…これは無害な例だが、本気で悪意なく悪を為す人間くらいはいそうだろう?」

オオスは自分という実例を教材にして、そういう存在の一例を証明して見せた。

 

流石のオオスも子ども達に善意を装った新興宗教や暴力団体の解説は出来ない。

実際、動いている末端は善意で本体は真っ黒等いくらでもある。

だが、それは大人となって見つける物である。それも取り込まれる前に。

オオスは紙芝居を通して教訓としてこっそりと伝えていたことをこの場で言語化した。

 

「そういう時にこそ、自ら考える力が大切となる」

オオスは自分のことを全力で棚に上げて生徒達に注意喚起をしていた。

…そんな怪しい奴に騙されるなと言いつつ、その怪しい奴が教鞭をしていた。

 

「…」

生真面目そうな生徒はオオスの喩えに理不尽だが納得した。

 

オオスのこの言葉は間違っていない。何でもかんでも信用したら不味いことはわかった。

…だが、教師がその実例だというのはどうなのかと思った。

 

「君らはその神とやらが妖怪の山にある滝の近くで今、みたらし団子食べていると知っている」

オオスは突然素っ頓狂なことを言い出した。

…オオスはさり気なく自己の精神体を飛ばしていた。同時にリンクさせることで遠視していた。

 

「しかも、飛びながら食べていたのでたれが手にかかっている。…ああ、必死になって手を嘗めている。…なんて意地汚い」

オオスは観測した神の具体的な行動を例に挙げた。

 

オオスは遠視で庭渡久侘歌という異界関所の神が山の滝で団子を食べている光景を見た。

オオスが一方的に知っている神の一柱である。妖怪の山の滝に良く出没する鶏の神である。

 

「いや、知りませんが…」

偶に神が人里に来ることを知る女生徒が全生徒の言葉を代弁した。

妖怪の山のこと等知らない。大体、オオスが何故そんなことを知っているのかとドン引きした。

オオスの発言は不敬を通り越して罰当たりである。

…というかその言い方ではオオスは神の存在を認めていないかと皆が思った。

 

「…信頼という言葉は素晴らしいが、思考まで停止してはいけない」

オオスは子ども達の緊張が取れたことを確信し、更に自分のことを棚に上げて言い切った。

 

「それは先生が間違っているだけではないですか?」

女生徒はオオスにまたしてもツッコんだ。もう滅茶苦茶であった。

 

「私は神がその辺で団子食ってようが、空飛んでようが絶対にその存在を認めません」

オオスはガチの目をして女生徒に言い切った。傍から見て完全に頭がおかしい奴である。

 

「「ええ…」」

生徒達はオオスの発言にガチで引いた。だが、オオスの言葉が身を以て理解できていた。

…オオスはこれを本気で言っている。生徒達は皆それを確信した。

 

「それ故に、君達は信じ込んでしまうこと、考えることを辞めてはいけないのです」

オオスは自らを教材とすることで手本を示した。

オオスは神を認めないが、それはそれとして必要ならば思考を柔軟に現実に合わせていた。

 

「最初に言いましたが、信頼し過ぎるなというのは勉学をする意味の一つの例です」

オオスは話が逸れ過ぎたということで元に戻した。

 

「…本来は皆さんが考えるべき答えです」

オオスは一人一人納得できる答えを用意はできる。

だが、オオスにはそんな時間はないし、普通の大人も答えられない。

だから、自分で考えることが大事なのだと説いた。

 

「それは…無責任ではないですか?」

生真面目そうな少年がオオスに対して言った。

…まだ、例として挙げた物を信じろと言われる方が納得できた。

しかし、自分で勉強する意味を考えろというのは大変な作業である。

 

それを考えている内に勉強が手につかなくなる可能性すらあると少年は断言できた。

 

「でしたら、私に勉強しない理由を言ってください。採点してあげます」

オオスは少年に言い返した。…勉強しない理由を挙げることも逆説的に難しいのだ。

 

「それは…」

少年は言葉に詰まった。オオスの言葉は卑怯だと思ったが、理性的に言い返せない。

 

実際、オオスの言葉は詭弁も良いところであった。

だが、オオスを言い負かせる者がいたら勉強をする必要性は薄い。それだけで食っていける。

オオスはその自信と確信があるからこそ問題なく堂々たる態度で言い返せたのだ。

 

「手に職をつければ…」

最初にオオスの質問に勉強しなくても良いと思うと答えた少年が言い返そうとした。

 

だが、

「最初に言ったでしょう。学なくして手に職つけても、無学ならば何らかの形で騙されますよ」

オオスは少年に指摘しなおした。繰り言になるが、確認の意味も込めていた。

 

「大工でなら…」

少年はなお、食い下がった。少年はそれだけでは納得いかなかった。

 

「大工仕事で得たお金の管理ができますか?お金を誤魔化されていないかわかりますか?お客さんとの間の言葉遣い、文字を書類にするのはどうですか?」

オオスは少年へ続けざまに捲し立てた。どれも最低限の学力がないといけないことである。

…特別な才能があれば別だが、オオスは少年にそのような才能がないことを知っていた。

事前に出来得る限り生徒一人一人の情報と能力を把握するのも教師の仕事だった。

オオスは慧音から聞いた。慧音は生徒から親しまれている先生だった。…ただ、睡眠導入剤なだけだ。

 

「うう…」

少年はオオスに問い詰められて泣きそうになった。

 

「そこまで食い下がれるのは素晴らしい。ですが、あと一歩足りませんでしたね」

オオスは少年をフォローせずに客観的に評価し賞賛した。

実際、自論があり、最後までオオスへ反論しよう試みた姿勢は評価できた。

少年をフォローすることもできるが、それをするのはオオスの教師像としては駄目だった。

 

「…勉強しない理由の厄介なところは簡単に答えが見つけられるように感じるんです」

オオスは勉強しないで生きていけると思っている生徒へ言った。

 

「勉強したくないから勉強しない理由は簡単に思いつくのです」

オオスは間接的なフォローをすることにした。オオスは皆に語り掛ける。

オオスは先ず、勉強嫌いの言い訳を切り捨てることにした。

 

「それが、勉強をする理由となると中々出てこない」

オオスは大人達が本来導かなくてはいけないことを子ども達へ言って聞かせることにした。

 

「…精々将来の為にとかね」

オオスは大人からよく言われるだろうことを挙げた。

泣きそうになっていた少年は親から言われた言葉そのまんまのことをオオスが言ったので耳を傾けた。

 

「将来の為…それは自分の将来の為に勉強は果たして必要なのか?そう簡単に反論できてしまう」

オオスは先ほどの少年の反論を下地に話を続けていく。

…さり気なく先ほどの少年の顔を見て言葉に耳を傾けていることも確認した。

 

「勉強をしないで済む職業が存在することは兎も角、それ以外の日常で勉強が必要になるとまでは考えが至らない」

オオスは子どもに将来の夢やその為の勉強と言っても思いつかない、できない子どももいると思っている。

オオスからすればそれは大人の子どもへの願望の押し付けである。

オオスはムカつくのでやり返す為に勉強した。…それと自分の精神安定の為であった。

 

「しかし、君達には疑問は山の様にあるはずです」

オオスは勉強の意義を暗に示した。

…勉強とは何もわからないからこそ勉強しなければならない。

 

「この寺子屋で勉強することで身につく知識は、何かわからない時に自らの考える手がかりとなります」

オオスは改めて勉強の意義を最初に持って来た。

 

「私の授業は今の君達には役に立たない。私は最初に貴方達へ言いました」

オオスは冒頭で述べた言葉を繰り返した。

 

「本来は私の、この授業はいらないんです。…それは何故だかわかりますか?」

オオスはその場にいる慧音の生徒達に聞いた。

 

「…」

先程、オオスに大工等の例を挙げ、泣きそうになっていた少年が恐る恐る手を挙げた。

 

「はい。どうぞ」

オオスは無意識に笑みを浮かべて少年を指名した。

 

「ここは…勉強をする場だから?」

少年はおっかなびっくりで答えた。

オオスの授業は強引に纏めれば、最初から最後まで勉強しろということであった。

ならば、オオスがいる寺子屋ではいらない授業であった。

…今の学んでいる自分達には本来不要な授業であると思った。

 

「そう、そうです」

オオスは少年の言葉を認めた。

本来、学ぶことの大切さを教える授業など、会議の為に会議をやるようなものである。

…現実には割とよくありがちなのだが、現実には必要だったりもする。

故に、オオスは最初に今の生徒達には役に立たないと言い切ったのだ。…必要がないとは言えないが。

 

「それ故に、君達はここで学ばなければならない。…自らの力で生き抜くために学びなさい」

オオスは慧音の寺子屋で学ぶように少年少女達へ語りかけた。

 

「…はい。以上で今日の私の特別講義の内容は終わります…」

慧音の生徒達に言葉が届いたのを確認したオオスはこれで授業を辞めることにした…

 

「が!」

オオスは生徒達の気の緩んだ瞬間に活を入れた。

オオスの授業はまだ内容しか終わっていなかった。

 

「私のこれからの授業についての説明が、まだ終わっていません」

オオスは子ども達へオオスなりのやり方を示しただけである。

 

「え…」「これから…?」

生徒達はオオスの言葉に動揺した。最後は良い話で終わるかと思ったら何かがおかしい。

 

「私は上白沢先生から今冬の間、二週間に一度、皆さんに講義する権利を貰いました」

オオスは慧音にオオスの特別授業があるとだけ伝えるようにとしていた。

その上でオオスの評判が悪ければ、それの後は取り消して良いと伝えてもいた。

 

「え、えっ?」

女生徒は特別授業と聞いていたので一回だけだと思って思わず動揺の声をあげていた。

皆も同様の反応を示していた。

 

「特別授業と言いましたが、私は一回だなんて言っていませんよ」

オオスは生徒達に考える力、ゆとり教育をここで実践することにした。

…二週間に一度でならオオスもギリギリ時間が確保できた。

 

フランドールへの家庭教師も実績さえ見せればレミリアも納得のいくこと間違いない。

必ずや実現させる妖夢やフランドールへも行う(オオス的に)優しいゆとりある授業である。

 

「そう、私の授業は『考える』授業です。題材は慧音先生の授業から私が適当に考えてきます」

オオスはあの催眠術師、慧音の授業を生徒達へ強制的に聞かせるように誘導していた。

慧音の愚痴も減ることだろう。

なんせ、オオスの授業を受けることは慧音の授業を聞かなければ対策ができない。

 

そして、このオオス先生を批判することは、生徒達が慕う慧音先生を傷つけることになる。

…オオスは生徒達が大好きな慧音先生を人質に取った。

オオスは自らの授業を学ばせる為に、自分に逆らうことを生徒達にできなくさせた。

 

「上白沢先生の授業をキチンと勉強していれば答えや質問が思いつくはずです」

オオスは自分の授業ができないのは慧音先生の話を聞かない生徒達の責任だとした。

オオスは慧音先生が悲しむぞと生徒達に暗に繰り返し言い聞かせていた。

 

「私の講義では皆さんの真の知能が試されます」

オオスは太々しく言葉を続けた。

生徒達は知能も糞もなく、オオスの授業の対策の為に慧音の催眠術と団結し戦うしかない。

 

「そして、この授業は私への質疑応答により点数が決まる。試験等という無粋な物はありません」

オオスは生徒達に試験等ないから安心して欲しいと笑みを浮かべた。

 

「ただし、私がつける採点は全員零点か百点のみ」

オオスは生徒達の連帯感を高める為に修羅の道へ叩き落とした。

 

「…勿論、不自然な形での欠席等は減点対象です」

オオスは全員が団結しなければ、皆纏めて零点にしてやると宣言した。

勿論、オオスは陰ながらフォローはするがガチでやる。オオスは零点卒業式まで考えていた。

 

「皆さん…どうか再来週もよろしくお願いしますよ」

オオスは悪辣な笑みを浮かべた。

そして、生徒達が呆然とする中、オオスはさっさと立ち去った。

 

 

オオスが帰って数分後、慧音はオオスの様子を見に来ていた。

オオスは授業中来るなと言っていたが、授業後については何も言っていない。

慧音は自分の為に、オオスがしてくれたというのがどうしても気になっていた。

だが、生徒達はまだ残っているが、オオスはもう帰った後であった。

…慧音は少しだけがっかりした。

しかし、慧音は教師として責務を思い出した。

慧音はオオスが生徒達に何か良からぬことをしていないか不安だった。

 

慧音は身だしなみを整えて不自然ではないように装って教室へ入室した。

 

「皆、まだいるかー?」

慧音はそう言って笑顔で生徒達へ声をかけた。

 

だが、

「せ、先生」

慧音が何かを言う前に生徒の一人…特に不真面目なので慧音が毎回注意していた少年が声をかけて来た。

 

「ど、どうした?」

思わぬ形で出鼻を挫かれた慧音は生徒にどもりつつも聞き返した。

 

「俺、いや俺達、勉強頑張ります!!」

少年は慧音にそう言い切った。

 

「え…」

慧音は絶句した。…この生徒からこのような言葉が聞けるとは思わなかったのだ。

 

「そうか…そうか!」

慧音は素直に喜んでその言葉を聞いてうれし涙を流しそうになっていた。

 

「おう!やるぞ、皆!」

成績優秀者の真面目な生徒が声をかけて皆を震えたたせていた。

その顔には不退転の覚悟があった。

 

「皆、こんなにやる気になってくれたのか…」

慧音は純粋に感動していた。生徒達がやる気になったことを喜んでいた。

 

…だが、慧音は知らなかった。

オオスが生徒達に対して慧音を人質にとり、今冬のカリキュラムを組んでいることを。

慧音を心配させたくない生徒と慧音にバレたくないオオスの心理戦が暗躍していた。

オオス式ゆとり教育、その栄ある第一期生の死闘が今まさに始まろうとしていた。

 

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