嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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夢の支配者と超越者

 

ドレミー・スイートは夢の世界の管理者である。

夢は全ての生き物の根底に繋がる世界であり、国や世界を越えてあらゆる存在が交差する場所だ。

その事実に気がついた者が悪用ないし秩序を乱さぬようにドレミーは監視をする存在でもあった。

 

外の世界では20世紀初頭に夢の世界を科学的に分析する学問が精神分析学として確立し始めたが、古代からあらゆる文明のあらゆる人々は夢の存在に思いを巡らせ思考した。

 

どれほどの言葉を紡いでもなお語り尽くせぬ未知の領域、神秘の宝庫、それが夢の世界であった。

 

ドレミー・スイートはそんな夢の世界の支配者である。

 

夢を喰い、夢を創る程度の能力を持つドレミーはその能力を自己の欲望ではなく、夢の世界の力を乱りに使用するような存在を抑制する為に使っていた。

 

夢の世界では文字通り何でもできる。事実に気がついた者が乱用すればその者の夢だけでなく世界へ影響が侵食することになる。

 

故に、ドレミー・スイートは 『×××××』、オオスと名乗る存在を危ぶんだ。

 

オオスは自分の管理する夢の世界で自分すら知らない現象を何度も起こしていた。

 

八坂神奈子という神を現実のままに引き込み、自分の世界を創造し引き込む所行はドレミーの知る存在を越えていた。

 

 

「…夢の世界の超越者にして狂気を司る者か」

ドレミーは夢の世界を監視しながらオオスの名乗りを呟いた。

オオス、 ×××××は夢の世界に殆どやってこない。だが、直近では妖怪の夢にやって来た。

 

 

「夢を見ない夢の存在?誰しもが見る夢に、だから超越者を名乗っている?」

ドレミーはオオスが夢に現れるのは稀、大抵自発的に夢見をコントロールしているように見えた。

妖怪の、今泉影狼の夢は心の荒れた夢であり、ドレミーも注視していた。

全ての夢に寄り添える夢の支配者は過度な干渉こそしないものの目を配っていた。

 

…そこに邪魔だどけと言わんばかりにオオスが現れ、ドレミーを追い出した。

その後は平穏な夢に戻ったが。余りにも露骨な介入に関してどうかと思った。

 

 

「過度に個人に入れ込み過ぎるのはどうかと思うのだけれども…」

ドレミーは自分の持つ夢手帳を見る。全ての夢の内容が記載された夢手帳にはドレミーが追い出された後の内容も記載されていた。

その内容はオオスが影狼によりそう形で悩みを聞き出し、彼女本来の夢を映し出しただけである。

ドレミーが悪夢を食べてしまう対処療法では中々解決しないであろうやり方である。

そして、悪意を持つ夢見る人の過度な介入というには優しすぎた。

 

ドレミーが手帳を再度読み返していると、ドレミーは誰かが新しく夢の世界へやって来たことを認識した。

それ自体は良くあることなのだが、その夢の持ち主は夢を見守る数多のドレミーではなく直接自分へ向かっているようだ。

 

ドレミーの違和感を極限まで気が付かせない『誰か』は目の前に現れ、堂々と平凡なみせかけを解除した。

 

 

「夜分遅くに申し訳ありません。ドレミーさん、ご挨拶へ伺いました」

ドレミーが頭を悩ませている男、オオスは紳士の礼をもって彼女へ深々と頭を下げた。

違和感を覚えさせない魔法はオオスの得意分野であり、夢への権能を持つオオスが夢で使用した場合更に強まる。

如何にオオスよりも遥かな広範な夢の支配者ドレミーと言えども初見では予測不可能回避不可能な技である。

 

 

「…貴方は夢を見ないのかしら?夢見る手帳にない住民よ」

ドレミーはオオスの接近に気がついていても気が付かない自分に動揺しつつもそれを表に出すことなく、長い髪の帽子を弄ることで誤魔化して尋ね返した。

悩みの種の本人が自分からやってきたのである。直接聞いて確かめることにした。

…ドレミーは同族がいない中で夢の別種族ともいうべき男に興味を惹かれていたのだが、それに気が付かなかった。

 

 

「私の夢は他者に与える影響が大きすぎるのです。だから私は自分の夢を制御しています」

オオスは夢の支配者であるドレミーがあからさまに警戒しているのを見て返答した。

オオスはドレミーに黙って神である神奈子を引き釣り込んで転移したり、影狼の夢に一時的に専有したりやりたい放題であった。

それ故に今回、改めて謝罪の挨拶しに来たのだが、ドレミーへ直接謝罪する為に『平凡なみせかけ』の魔法を使ったことが返って逆効果になってしまったと反省した。

 

 

「神の…いや、貴方の力が如何に強大だとしても私の目の前に堂々と現れた意味は誠意ですか?それとも…脅迫ですか?」

ドレミーはオオスという人物像を踏まえて言葉を選んで会話を選択した。

 

ドレミーはオオス本人の夢はわからなくとも他の夢からオオスの情報を探ることはできた。

オオス本人でなくとも関係者、玉兎や幻想郷の住民の夢に出てくる断片だけで知れた情報は相当である。

ドレミーは全ての存在の夢が記載された手帳を持つ。ある意味でこの世で最も広範な情報網を持つ存在であった。

神であろうともドレミーの手帳から完全に身を隠すことは文字通り不可能だ。

オオスという存在が神であること、だが、同時に神であることを拒否し続けている者というのをドレミーは知ることができた。

 

 

「誠意と脅迫は紙一重。私としたことが初歩の初歩を忘れていたようです。…傲慢さをお許しください」

オオスはドレミーに対して誠心誠意の謝罪をした。

ドレミーがオオスの地雷を避けて言葉を選んで対応してくれたというのに関わらず、自分の何たる無礼で無様なことか。

オオスは恥を感じずにはいられなかった。

 

 

「…私は先日夢の超越者などと言いましたが、この世界ではドレミーさんの能力が総合的には上回っています」

オオスはドレミーが信じるかは別として、自身の能力を解説することにした。

月の連中への情報流出は怖いが、誠意としてである。同時にバレても問題ないというのもある。

…どう足掻いても混乱する情報を与えるオオスの口車は無意識に平常運転で働いていた。

 

 

「とはいえ、保有する力を集中することで一時的に上回ることは可能ですが」

オオスは今までドレミーの介入を退けてきた能力を明かした。

ドレミーは全ての生物の夢を監視、管理する存在である。

オオスが一時的に上回ることができるということは同じことがドレミーにも可能だろう。

だが、それは他の夢への管理の放棄である。ドレミーはそれを選べない。

 

ドレミー・スイートという存在だけを調べる必要がある探偵はドレミーの弱点を看破した上で弱点を明かしていた。

実に悪辣極まりない所行である。月の賢者である永琳がそれを聞いたところでどこまでが集中できる力なのかわからない為に対策することは至難、否、不可能に等しかった。

 

全ての存在が対象の能力を持つ存在が一点集中した力の計算等、永琳にすらわからないだろう。

 

 

「本当に誠意と脅迫が表裏一体ね…夢を制御できるのなら、どんな欲望なのかわかりはしないわ」

ドレミーはオオスが本当のことを言っていても自分がそれを選択しないとわかって言っていると理解した。

オオスの持つ欲望がわかれば多少は揺さぶれなくもないのだが、夢の超越者と自称するだけあり、夢の世界で漏れ出るはずの願望等がドレミーですら一切感じ取れなかった。

 

 

「謝罪として、私の創造した夢の世界へ招待しましょうか?…私の欲望の一端が漏れ出ているかもしれませんよ?」

オオスはドレミーへ提案した。オオスは自分でもまだ詳細がわからないので本当に弱点があるかもしれない。

オオスはまだ16歳である。全てを理解した上で地獄の業火に身を焼きに行ったりしているがそれはそれだった。

 

 

勿論、オオスの夢の世界がどこかわからないような仕掛けを施した門を通って貰うが。

オオスとしてはそこまでの危険を犯しても、夢の支配者であるドレミー・スイートとは色々話をしてみたかった。

 

 

「…私は夢の支配者にして管理者のドレミー・スイート」

ドレミーは一瞬悩んだが、自身の役割にして責務を述べた。

ドレミーとしてもある種の同胞とも取れる発言をするオオスという存在が気にならないわけではない。

 

だが、

「私は全ての夢見る者の側にいる者、誰かもわからない相手のお誘いには乗れないわ」

ドレミーはオオスの誘いを断った。オオスの素振りからは決して害意があるとは思えなかった。

しかし、知らぬ間柄である。自分がいない夢の世界で秩序が崩壊する可能性だってある。

ドレミー本体ではなく、分体ともいうべき自分達が見守ってくれていてもその一線は越えられない。

 

 

「…不躾な誘いをしたことを再度謝罪させていただきます。…気高き夢の支配者よ」

オオスはドレミーの、全ての夢に寄り添う者に敬意を抱いた。

オオスはその在り方を美しく感じた。オオスにも守る存在がある。

だがこの世全ての夢を守るこの妖怪の献身には遠く及ばないだろう。

 

オオスはドレミーと出会って何度目かわからない謝罪をした。

 

しかし、今回は本心からの敬意をもって。

 

オオスはドレミー・スイートへこれ以上なく優雅にそして丁寧に礼をした。

 

 

「今後は貴方へ信頼頂けるように来訪させていただきます。…その時が来れば是非、私の世界へいらしてください」

オオスは夢を見ない。オオスは夢という場所をある種の忌避をしていた。

だが、ドレミーが支配する夢ならばきっと優しい世界だろう。

 

 

オオスは影狼を思い出した。多少の介入はしたが、あの美しい夢は影狼自身の持つ夢だった。

ドレミーが影狼の悪夢を吸い取ってくれたことも美しい光景を見れた一因である。

なれば、オオスも心を許してドレミーの世界へ招かれても良いのではないかと思った。

 

 

 

「…え、えっ?」

ドレミーはオオスの言動に困惑した。…オオスの言動は完全に口説いているとしか思えない。

信頼してくれるようにドレミーの管轄する夢へ訪れ、信頼してくれるまで待つという。

…誰がどう考えてもオオスはドレミーを口説いていた。

 

ドレミーは冷静になって手帳を読み込んだ。冷静じゃない行動である。

オオスという人間がどういう言動をしていたか過去の夢、他者の夢から検索した。

東風谷早苗、十六夜咲夜、パチュリー・ノーレッジ他多数。

オオスが口説いているようにしか感じられない言動をしている夢を見ていた。

 

ドレミーはオオスの夢の支配者的な側面での検索をしていなかった。

…改めて見返し、自分へも粉をかけたのか。ドレミーは激怒した。

乙女の純情を返せと喉まででかかったのを抑えた。反応したら負けである。

 

ドレミー・スイートはクールになった。

 

「信頼するかは別として…私は全ての夢に等しく寄り添う存在です。そして、貴方の夢にも寄りそうでしょうが、心を許すかは別問題です」

ドレミーはオオスへきっぱりと断りの言葉を述べた。

ふしだらな、邪な感情を持ち込むことは絶対あり得ないと強調した。

 

なお、オオスはそんなつもりは皆無である。初歩的な勘違いをしたドレミーは夢の支配者として有るまじき醜態を晒しているのだが、お互いそれに気づくことはない。

だが、ドレミーは夢は他人の妄想である一面も考慮すべきだった。

 

 

「ええ、その気高く美しい有り様に心の底からの敬意を」

オオスは公私混同しないドレミー態度に改めて感服して言った。

 

何故か、手帳を流し読みしていたが、広範な夢の世界で何かあったのかもしれないとオオスは思った。

それを手伝うと言い出すのは更に不躾であり、無粋の極みだ。オオスはそう思ってドレミーの邪魔をしないようにだけすることにした。

 

 

 

「残念ながら私は目覚めの時間。また夜にお会いできれば幸いです」

オオスはドレミーへ別れの挨拶をして現に帰還することにした。

オオスの就寝時間は3時間であり、自身の夢の世界の管理もしている。

ドレミーの夢の世界に来るとなると更に短い時間の滞在となる。

 

夢の時間が現実の時間よりも圧倒的に長くとも他者より比すべくまでもなく短いものだ。

 

オオスは紳士の礼の姿勢のまま、ドレミーの真っ赤な顔を認識することなく現へと帰還していった。

 

オオスは異性への機微が人より圧倒的に未熟だった。

 

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