ドレミー・スイートとの夢の世界での交流から目覚めたオオスは気分良く朝を迎えた。
なお、オオスの自宅に住む清蘭達はオオスが三時間と数分も寝ていたことに動揺した。
三時間以上寝ないオオスがそれ以上の時間を寝るなどこれまでなかった。
何かあったのかと軽く動揺があったが、オオスが気分良く起きてきたので即鎮静化した。
「これから少し寝る時間が長くなるかもわかりません」
オオスは強襲してきた烏天狗を追い払った後の朝食で皆に言った。
何気ない一言なのだが、秒単位で即行動し出すオオスにとっては相当な変化である。
「閣下、何か良いことでもありました?」
清蘭がオオスの様子を見て素直に尋ねた。
誰も口には出さないが、大概トチ狂った行動を仕出すオオスが人間らしい睡眠時間に近づくのは喜ばしいことだった。
オオスがあいも変わらず人間扱いされていないのだが、そこに悪意などないのでオオスはそれに全く気が付かない。
「ええ、良い夢を見たもので」
オオスは夢見が良かったと説明した。
夢の超越者などということは清蘭達に言っていたが、夢の世界を楽しむ余裕が出来たと嬉しく感じていた。
これがドリームランドでは覚醒の世界に物を持っていくなと神が煩くて堪らない。
ズーグワインの折もヒプノスが守護者をけしかけてくるなど無駄に喧嘩を仕掛けてくる。
そんなことをしてこないドレミーはオオスにとって神でもない存在で素晴らしい夢の管理者だった。
「夢見が良いと朝から元気でますよね!」
鈴瑚はオオスの微かな変化に気が付き、声をかけた。何か脳内で地雷を踏んだらしいと即対応した。
オオスは表に出さないが、そこそこ対応してきた鈴瑚は悟っていた。
先程の烏天狗の対応から気分を変えての朝食をそのまま気分良く食べ終えて欲しかった。
オオスに機微を悟らせないように人間の心理学を学んでいた鈴瑚は内心を隠すことに成功した。
「そうですね。いやはやこれまで忘れていたようです」
オオスは鈴瑚の対応に違和感を覚えたが、そのまま乗ることにした。
オオスは朝食後、山茶花のお茶を飲みつつ読書したり、冬の景色を散策したり、寺子屋の子ども達に適当なことを吹き込んで悩ませたりしながらその日は気分良く過ごした。
その日の夜、オオスは気配を感じて自宅の屋根でお茶の準備をした。
また人を避けるように来た存在を感知したオオスはイーグルラヴィの面々等に合図を送り、自分で対応することにした。研究の続きは明日になるとオオスは内心ため息をついた。
オオスは山茶花の練りきりの和菓子を用意した。葉はお茶等に使用され、気分を落ち着かせる等の効能がある。
種は5月頃に油として採取できるが、冷たい季節の肌荒れに効果的である。
花言葉は『謙遜』とオオスが自分自身に相応しい等と欠片もないことを考えていたりする。
月夜に流れるように飛ぶ龍の子に乗り、やって来た客人は茨木華扇であった。
頭にシニヨンキャップ、右腕全体を包帯を巻き付けている仙人はまたしても子ども達へ変なことを吹き込んだ男にお冠である。
オオスとしては前に説明したことをグチグチと思ったが、茶菓子を差し出すと迷いながら食べ始めた。
オオスは仙人が食欲に負けてどうすると思ったが丸め込めたなと内心密かに作戦の成功に喜んだ。
「それで、今日はなんの御用ですか?」
オオスは前回来ないでと言った華扇が和菓子を食べたのを見計らって声をかけた。
持て成したのだからあんまり強く言わないでねという気持ちである。
「…単刀直入にいうけれど貴方、私の家を吹聴したりしてないわよね?」
華扇はオオスに対して色々言いたいことがあったが、持て成された自覚はあったので一番気になることを尋ねた。
華扇はオオスの用意していたおかわり分をどれにするか選びながら聞いていた。
華扇はオオスはそういうことをしないだろうが、やりそうな人物として認識していた。
「しませんよ。何の得があるんですか、それは」
オオスは華扇の言葉を即否定した。なお、オオスは華扇の居場所を妖怪の山にある守矢神社付近で看破していた。
華扇は知らないが重要参考人候補筆頭でもおかしくない立ち位置であった。
オオスは不利益がない限り絶対に吹聴しないが、やると決めたらやる男である。
華扇の読みは外れているようで掠っていた。
「最近、霧が濃いじゃない?」
華扇はオオスの言葉を無視して発言した。謝罪等すればオオスの口車で貸しを作ることになる。
オオスは見ていて不安になる存在であり、かといって関わろうとすれば言いくるめたり誤魔化したりする術に長けていて煙に撒かれる。
華扇は世間話風に誤魔化すことにした。
「話を誤魔化すとは…霊夢さんに何かいえるんでしょうかこの仙人」
オオスは華扇へ喧嘩を売った。自分の行為は全力で棚上げした発言というか挑発である。
「貴方に言われたくありません!」
華扇はオオスの挑発に見事に乗った。
…自分でも挑発だとわかっているが、余りにも自分のことを棚上げした発言であった。
「まぁまぁ、落ち着いて。仙人の家がバレるなんて大変だ。山に向かって遭難者でも出ましたか?」
オオスは華扇の怒気を認識しつつ、話題を変えた。
この仙人、反応が面白いなとオオスは思った。
…決して前に色々ズバズバ言われたことを気にして報復しているわけではない。
「ぐぬぬ…」
華扇はオオスから誂われているのを自覚しつつ閉口した。
実際、自分の家の方向を目指していたような遭難者がいたのでオオスへ尋ねに来たのが大きかった。
「…あれ?当たりましたか?冗談抜きに」
オオスは華扇が遭難者を発見したのだと悟り、思考を切り替えた。
コンマ1秒に満たない速さでの切り替えである。オオスとしても里人に被害があるとなれば一大事であった。
「私の知る限り、そういう話は今日なかったのですが」
オオスは華扇に真剣な表情で問い詰めた。オオスは話の真偽を見分ける為に無意識だが華扇に顔を近づけていた。
「ちょっ…里人ではないのかしら?そんなにすぐに遭難者と判別できるとは思えないのだけど」
華扇はガンガン距離を詰めてきたオオスに慌てつつも、冷静になり問い返した。
オオスが里人との関係が深いことは知っているが、連絡手段の欠ける幻想郷で即座に判断できるとは中々思えなかった。
「…保護はしているのですね?明朝に里へ念の為に確認を入れた後、ご自宅へ伺っても良いですか?」
オオスは断言しきれなかった。ついでに華扇に対して詰め寄り過ぎたと反省した。
そして、明日里で確認と連絡を入れた足で華扇の仙界に直接乗り込むことにした。
なお、言葉では確認をとっているが強制である。
「ええ…えっ?」
華扇は意識不明の女性を保護していた。故に返答したのだが、その後の質問への回答は別だった。
その後、華扇は流石に自宅である仙界にオオスは来ないで欲しいと婉曲に伝えた。
だが、オオスが自分は華扇にここへ来るなと言っているのに対して、確認をとっている分自分の方が華扇より余程常識的であると返された。
…反論したら負けたような気がした華扇はそのままオオスの提案を押し通された。