有情湖の管理人オオスが博麗霊夢に喧嘩を売った。オオスはまたしても瞬殺された。
後に稗田阿求の編纂した幻想郷の歴史書である『幻想郷縁起』第122季の末、1月20日『第三次オオス事変』に関してはこの一行のみの記載しかない。
同時代の里人等の日記には、光の龍が博麗神社に降臨した等という記載があるが詳細不明であった。
後世で隠蔽された歴史等と言われる異変になるのを誰も知らないが、現在を生きる人々からすれば大体オオスがまたやらかした程度である。
実際、オオスがまたやらかしただけなのである。歴史とは無駄に脚色したがる物であるとその時からすると未来にいることになる稗田☓☓は思った。
今はそんな陰謀論染みたことになるとは誰も知らない未来の話である。
幻想郷の第122季1月20日のオオスは霊夢の全力右ストレートを喰らい気絶していた。
オオスが気絶したが、霊夢は自身のことをペタペタ触ったりとうっとおしい赤い女に翻弄されていた。
「靈夢と殆ど同じだけど…やっぱり靈夢ではないわね」
岡崎夢美は霊夢を現段階で分かる範囲で調べた上でそう分析して言った。
なお、夢美は霊夢からの攻撃を持ち前の身体能力だけで躱しきっていた。
夢美は人間として弾幕ごっこの概念がない幻想郷にて異変を起こしたような人物である。
回避に専念すれば半ギレの霊夢程度なら翻弄できた。なお、オオスは普通に死ぬ。
「さっきからアンタ誰なのよ。霊夢、霊夢ってどこかであったことあったかしら?」
霊夢は本気でないとはいえ、それなり以上には攻撃しても躱す謎の女に対して尋ねた。
オオスの関係者かと思いきやさっき出会ったばかりらしいので、一方的に霊夢のことを知っているのに違和感を抱いていた。
霊夢の勘は夢美が霊夢の動作を知っていて躱していると告げていた。
…霊夢もあったことのない人間に躱されるような鍛え方はしていない。
「…二人とも辞めなさい!」
茨木華扇は手を大きく一拍叩いて、二人に中断するように言った。
仙術で気を制御し、小さな風が暴風となり二人の間に入り込んだ。
…ついでにオオスはそれにより吹き飛ばされた。
「…華扇!危ないじゃないの!!」
霊夢は気絶したオオスを荷物のように掴んで言った。
…拾う義理はないが、慌てて確保しに行こうとした夢美を邪魔したかった。
「っく…まぁ、良いわ」
夢美はオオスのことを忘れて研究者していた自分を恥じたが、オオスに醜態を見られていないのでセーフとカウントした。
なお、夢美はオオスと霊夢が険悪な関係と思っているので気にしていない。
自分への嫌がらせ込みの気まぐれだと解釈した。…大体合っているのだが、間違ってもいる。
「…その人は霊夢ではない霊夢にあったことのある人よ」
華扇は自分の失態を誤魔化すように話を切り替えた。霊夢が混乱しないように説明しないければならない。
そして、オオスがこの役目を華扇へ押し付けたことを悟った。
オオスは口の回る男だが、悪印象を与えた上で夢美のことを説明するよりも華扇が適任だと判断した。
華扇は後でオオスを〆ようと決意した。華扇の仙界へ侵入もそうだが、暴れるだけ暴れて後は任せたである。
怒りを覚えるのも当然だった。…後日、華扇はオオスの口車と菓子でこの時のことを有耶無耶にされることになる。
気絶したオオスをとりあえず神社の一室へ投棄した霊夢は夢美から話を聞いていた。
おおよそわからないが、名前が靈夢という字ではなく霊夢と訂正くらいはした。
「私は魔法が存在しない平行世界の人間というわけでわかってもらえたかしら?」
夢美は学術的なことは抑えて霊夢へ説明した。オオスが準備してくれた手前、あまり熱中しないように本人は勤めていた。
死後の世界すら科学的な世界である。夢美の住む世界で魔法等といえば笑いものであり、いつか復讐してやると夢美は決意していた。
だが、
「…わからないんだけど」
霊夢は率直に感想を述べた。靈夢という人物と霊夢を間違えたとかなら何とかわかるのだが、平行世界とか言われてもさっぱりわからなかった。
「…こっちの靈夢は賢そうに見えるけど、理解力はあっちの靈夢のが高いわね」
夢美はゆるふわしている靈夢が思いの外賢かったと思った。…人の話はこちらの霊夢の方が遥かに聞いてくれるが。
「弾幕ごっこという概念がない幻想郷で異変を解決してきた靈夢だからというのもありそうね」
夢美は一人で思考を続けた。わけわからなくても突撃してくるようななのがあちらの靈夢だ。
…こちらの霊夢も大して変わらないのだが、夢美はまだ霊夢をよく知らないので推測した。
弾幕ごっこという枷を外した連中を相手に経験を積んでいることも理解力が高いのだろうと夢美は納得した。
「…そちらの幻想郷には弾幕ごっこがなかったのですか?」
華扇は夢美に思わず尋ねていた。
オオスは軽く流していたが、神等の超越者と直接殴り合いするような世界である。
そんな人間が存在するのかと思った。霊夢は強いが、飽くまでも弾幕ごっこの範囲である。
実際、霊夢は月の神には完敗したと聞いていた。なお、華扇はオオスの月での暗躍蹂躙の件を知らない。
「そっちの私は強いのかしら?」
華扇からの横入りで賢そうに見えたとかいう言葉を忘れた霊夢は夢美に尋ねていた。
実際、目の前の女は人間で、しかも力を封じられたような状況で霊夢を翻弄していた。
霊夢は人外魔境を征するもう一人の自分を想像した。
「強いけど、貴方の方が色々できるみたいね。…素敵だわ」
夢美は靈夢のデータは完全に記憶していたので比較して断言した。
それ故、夢美は靈夢は強いが、こちらの幻想郷の霊夢はあちらよりも色々できると多少の攻防だけで確信していた。
「多分だけど、試行錯誤できる弾幕ごっこの環境と生き死にに直結するあちらの環境の差だと思うわ」
夢美はあちらの平和な幻想郷を思い出して言った。
靈夢は呑気にしていたが、それなりに大変だったのかもしれないと思った。
実際はあちらの靈夢は物理的に神だろうが黙らせられるので平和である。
靈夢以外の幻想郷の住民も物理的に神だろうが創造神だろうがお構いなしに殴りに行く世界である。
夢美が訪れた幻想郷は力があるので神だろうが殴りに行くので皆平和で呑気にやっている世界であった。
…初期のオオスならばその在り方に歓喜する世界である。現在ならば八雲紫等が管理している幻想郷の方に住むとオオスは断言するが。
「だけど、貴方なら…靈夢の出来ない力で靈夢を完封できるかもしれない」
まだ未知数なこちらの霊夢に比べると手数が少ないあちらの靈夢も将来はどうなるかわからない。
「…靈夢、靈夢って、本当にややこしいわね」
霊夢は良く分からないが本心から自分を褒めているような夢美の言葉に顔をそむけた。
オオスの読みどおり、純粋な学者肌の公平な夢美の評価は霊夢に好印象を与えた。
オオスのやり方は粗雑そのものだったが、間違いなくこちらの世界の霊夢の方ができることが多いとオオスは確信していた。
負けても勝っても死なない、死ににくい弾幕ごっこはその場限りの殺し合いになりかねない環境よりも学ぶ素養が多いはずであるとオオスは自身の体験から学んでいた。
弱小妖怪達から妖術を教わったオオスは弱者の知恵も強者の叡智も等しく平等に評価していた。
そんな二人の馴染んでいる様子を見ていた華扇はオオスがどこまで考えていたのかと思考していた。
天道を歩む者である仙人として、人を導く者として。
華扇はやり方はどうあれ結果を残したオオスに対して無意識のうちに引き込まれていた。