異なる次元の幻想郷から詳細不明の転移をした岡崎夢美が博麗神社預かりになって数日が経過した。
オオスは正気に戻った霊夢に特に意味もなくボロ雑巾にされた。
オオスは霊夢が立ち去ったのを確認した後、月の石を使った治癒により即座に復活した。
パチュリーとの共同魔法研究によりオオスの持つ月の石には多少改良が加えられていた。
月の石に含まれるセレスタイトにより治癒し、カルサイトにより新陳代謝を増幅させる。
月の都にバレないように潜入し、確保した資源は大いに活用されていた。
月の都で行った『浄化』により地球の宝石等よりも純粋な魔法の媒体として機能した。
浄化された鉱石を使っての回復は怪我する前よりも快適な気分になった。
オオスはその効果に依存しないように気をつけていた。オオスは物を大事にするが、基本的に依存は避けるようにしていた。
他方、紅魔館の図書館にオオスが勝手に設置した空気清浄機に月の石を取り付けていた。
夜の種族であるパチュリーやレミリア達は月の波長にリラックスしていた。
人間にも害はないので紅魔館の図書館は非常に快適な環境になっていた。
利用者であるアリス・マーガトロイドも図書館に入り浸る時間がやや増えていた。
なお、アリスはパチュリーを同じ魔法使いとして普通に接するが、パチュリーは何故かアリスに対して棘のある言い方をする時が多い。
純粋な伝統的魔法使いであるパチュリーは人形系統に偏り過ぎているアリスに対して思うところもあるのだとわかるが、それにしてもとオオスは不思議であった。
オオスはアリスから許可を得て魔法の森の土地で菜園場を設けている。
アリスが図書館にいればオオスはその件で軽く礼を言うし相談するのだが、魔法使い二人の関係に深入りはしていない。
アリスも気分を害しているわけではないらしいのでオオスも特に言う必要性を感じていない。
それに関してアリスへ尋ねる程度には気にかけているのがパチュリーにはわかるので余計に面倒なことになっているのだが、オオスはそれを認識していない。
そして、図書館の常連である霧雨魔理沙は体調が良い状態のパチュリーを躱して本を盗むことで鍛えられていた。
死ぬまで借りるということだが、オオス的には泥棒は磔である。
オオスはパチュリーの目が無い時には本当に容赦がない。
魔理沙の能力向上は幻想郷に有益なのである程度は止めないのだが、目の前でやられて止める者(パチュリー等)がいなければ容赦しない。
…魔理沙は本を盗む、もとい借りる時はオオスがいない時を中心に狙っていた。
普段ならオオスに対して魔理沙の圧勝だが、魔理沙が詐欺や泥棒した際に遭遇するオオスは洒落にならない。
魔理沙は年頃の娘に何てことしやがると罵声を浴びせるが、オオスは犯罪者相手には容赦しない。
パチュリーが魔理沙の解放を提案しなければ半日はそのままであった。
話は冒頭に戻り、霊夢にボロ雑巾にされたオオスは紅魔館の図書館で休ませてもらおうと思った。
その前に連絡はしておこうと香霖堂で購入したジャンク品で作成した携帯端末を取り出した。
幻想郷で携帯端末を使用しているのはオオスとその部下だけであるが、外部による盗聴の恐れもあるために盗聴されても良い範囲内での連絡で使用している。
部下によっては能力を使って遠距離で会話ができなくはないので緊急時の連絡網は整備されていた。有力妖怪の出の部下も増えたので組織のノウハウも構築しやすかった。
イーグルラヴィ、鈴瑚達の月の技術は有益だが、オオス的には根本的には仮想敵の月の技術である。その他の連絡手段の構築をオオスは思考錯誤していた。
最も、現段階でそこまでする必要のある種族や組織は不在であるのだが。オオスは現段階では不要なことを対策することに関して徹底していた。
何なら聖徳太子等が幻想郷入りした場合、聞き耳だけで漏れるかもしれないと考えていたりする。
オオスはたとえ相手が聖人だろうが権威を振りかざしそうな権力者は嫌いであった。
そんな脳内であるオオスは自身の管理する有情湖、それと守矢神社のせいで混乱した弱小妖怪達の為に限定で解放している有情地にいる頽馬の美濃吾妻に連絡した。
今日は吾妻達のいる方へ向かうかもしれないと話していたが、霊夢からの襲撃でオオスは行ける精神状態ではないので連絡を入れておいた。
何故かといえば、オオスを神として祀っている祠がある地であるからだ。
オオスは神の下僕たる巫女に理不尽にやられていた。今日は自分が祠で祀られている事実に落ち着いている自信がなかった。
…オオスは自分で自分の祠を破壊する光景が目に浮かんだ。
自分は嫌だが、他人へは信教自由を保証すべきという現代日本人の価値観を持つオオスにとっては野蛮の極みのような行為である。
オオスはどうしてああなったのかと思考が行きそうになって無理やり中断した。後悔しても仕方がない。
「はい。わかりました…どうかお気をつけて」
吾妻はオオスの連絡を受け取り、短く返答した。
美濃吾妻は緋色の着物と金の頭飾りを身につけた長い黒髪の美少女のように見える。
その正体は天狗と対となる能力を持つ魔風を操る頽馬である。
妖怪の山に守矢神社が転移する前に勢力均衡の役割を果たしていた麓の妖怪の名家の出である。
守矢神社が転移してバランスが崩れた際に発生した政争により行き場を失い、オオスに匿われて部下をしている。
「はぁ…そうか」
自らの主君が来訪無しというのを残念に思いつつも吾妻は納得した。
吾妻はオオスの秘めた激情を魔風として変換し察せてしまった。言えない何かが合ったのだろうと思い、仕事に戻ることにした。
オオスが現在、世話をしている妖怪達の経歴や種族で記憶している歴史等の編纂である。
オオスは結果的には守矢神社の出現により起きるはずだった麓の妖怪と山の妖怪の戦争を止めた。
その行為の結果として対応できる組織の構築やそれに必要となりそうな知識や技術をオオスは求めており、助けられた側である吾妻達は進んでそれに同意していた。
人間と違い、膨大な時間を生きる妖怪は疎いところはあるが、個人史程度ならばより詳細に引き出すことができた。
…個人による主観が入るので精査が必要であるが、それでもオオスは有益と判断して吾妻達へ依頼していた。
結果的に後世まで残る歴史書として第一級の物にまで仕上がることになるのだが、この時のオオスはまだそこまでの意識はなかった。
稗田阿求から仕事を奪うなと怒られつつ納品した。幻想郷、特に人里の歴史に関係するような歴史は稗田家と共有するようになる。
オオスを稗田家に永遠に関わらせようとする阿求の策略である。
阿求が転生した場合、オオスは転生した人間へ歴史資料を寄越す契約を結ばされていた。
稗田家が『幻想郷縁起』を書き続ける限り、有情湖の管理人オオスは阿求とその転生体から資料を求められればオオスの想定する機密に反しない範囲で必ず提供しなければならない。
そんな諸事情は未来の話である。
現在のオオスは里人としての体面がある。…もうだいぶ怪しいが機能している体面である。
起きるはずだった戦争への干渉などの行為を喧伝することはないし、できない。
流れとはいえ助けると約束した以上はギリギリアウトラインでオオスは奮闘していた。
オオスは幻想郷で懸念されるエネルギーや資源の不足を補う予定を大幅に切り上げた。
実験という体裁を整えることで本来死ぬはずだった吾妻を始めとした妖怪達を保護できていた。
放置すれば麓の妖怪が戦争に大敗北し、妖怪の山一強になりかねない状況だった。
オオスは事前に確保した物量とその権能を以って正体不明の第三勢力として確立してしまっていた。
「それにしても…いや」
吾妻は自分達へ気を使う意味もあり、激情を吐き出しても大丈夫な所に行くのだと悟っていた。
…吾妻としては、いや他の面々もそれが悪魔の住む館であるのはどうかと思うのだが。
誰が何と言おうとも人間を名乗る主君に今更突っ込んでも無駄である。
やはり側室でも良いから手配した方がオオスも落ち着くのではと吾妻は考えた。
…どう考えても激怒するオオスしか思い浮かばなかったので自分の浅慮な思考を恥じた。
ほぼ毎日、どう考えてもオオスを拉致して既成事実を作ろうとしている烏天狗に脳をやられたと反省した。
射命丸文はオオス以外の部下達全員から殺意を向けられ、オオス本人から足蹴にされても全く諦めないどころか自身のトップである天魔すら出し抜こうとしていた。
オオスは向上心がある者が好きなので、文に関しては適当に相手をしていた。
それが文だろうが輝夜相手だろうがオオスは邪念がある者に対しては揺るがない。
…邪念に関しては諦めてくれると嬉しいので、オオスは結構本気で心をへし折りに行く。
しかし、オオスは手を変え品を変え進化する邪念を持つ相手をへし折りのが大好きなサディストである。
邪念だがその努力と進化自体は素直に感心しており、心をへし折った後に相手の努力を素直に褒めていた。
オオスは自分の行為が余計に相手に燃料を与え続けていることに気が付けない。
月の賢者である永琳すらも流石に匙を投げた。輝夜は止めれば止める程悪化する。
輝夜を放置する、静観する等はできないので手伝いはするが、毎回不安になってしまう。
永琳からすればオオスと輝夜達の関係は完全にそういうプレイにしか見えなかった。