主にレミリア相手に色々愚痴を溢したオオスは神への呪詛が収まった。
レミリアは盛り上がり過ぎて疲れたので仮眠をすると言って図書館を後にした。
パチュリーは小悪魔に躾をし終えたのと二人がそれぞれ落ち着いたのを確認した。
そして、その間に咲夜が買い出しから戻ってきた。
咲夜はレミリアを確認した後、パチュリーとオオスへ小悪魔の代わりに紅茶を入れた。
今更ながら、小悪魔はパチュリー・ノーレッジの使い魔である。
赤い長髪で頭と背中に悪魔然とした羽、白いシャツに黒褐色のベストと同色のロングスカートで、ネクタイが特徴的な気まぐれなで後先考えないで行動したりするところがある女性の悪魔だ。
小悪魔はパチュリーへ永遠亭から返却された1024冊の本を一人で元の位置に戻す作業をやらされていた。
一見するとただの雑務であり、実際雑務である。普段ならば一人ではなく妖精メイドや咲夜の手伝いもあるのだけが違う。
永琳が鈴仙にさせたお使いの残滓であった。永遠亭は紅魔館の図書館の利用こそ少ないが借りる時は滅茶苦茶であった。
オオスは前回に鈴仙が永琳の使いで借りていった天導編72冊、地導編36冊の時点で次は大変なことになると察していた。
そして、1024冊である。オオスは自分の想像のスケールの小ささを恥じた。どこに恥じる要素があるのかはオオスにしかわからない。
1024冊の本の貸し借りを一人でお使いさせられた鈴仙も大概だが、それらを場所へ戻す作業も相当である。
重視する程ではなく、それなりに内容が被っていたので一つの本棚に纏まっていた。
しかし、今回パチュリーは気が変わったので小悪魔に全部任せることにした。
魔法無しで丁寧に戻せとのことである。小悪魔は泣いた。
オオスはパチュリーの小悪魔への気まぐれを気まぐれと理解した。
小悪魔の作業を手伝いたいがオオスがそれを手伝えばパチュリーの不興を買うだろうし、自分の立場でも部下の行動に第三者からあれこれ言われたくはない。
だが、オオス視点では小悪魔が何か変なミスをしたとも感じられなかったので少しだけ動くことにした。
小悪魔がパチュリーの命令に逆らわずにできるようなオオスにとって些細な手助けである。
「…手伝うのも何か不味いのでこれを」
オオスはパチュリー達の目を盗んで小悪魔にドロマイトの結晶を手渡した。
オオス的にパチュリーの躾に口を挟まないつもりだが、余りにも可哀想だった。
オオスが少し前から部下たちと試行錯誤していた『資源』の完成であった。
ドロマイトは砕く等すれば酸性土を塩基性にし、土砂崩れや作物の養分を満たす肥料としても製鉄、陶器、ガラス工芸等でも使用できる等幅広い資源であった。
国内産出していることもあり安価だが、幻想郷内での確保は少し難しい品でもあった。
オオスはイーグルラヴィの、月の技術である浄化を用いて人工ドロマイトの製造に成功していた。
オオスが渡したのは月光浴で浄化したドロマイトの結晶である。
意思が弱まっている時に活力を与えてくれる効力があり、月光浴によりそれなりに強化された物である。
魔法は使っていないのでバレても大丈夫。オオスは小悪魔を悪魔の口車に乗せた。
小悪魔としては悪魔的な発想からの差し伸べられた手である。
…受け取らないという選択肢はなかった。
なお、オオスの行為は悪魔からすると凄まじい口説きである。
何なら教科書に乗るレベルの所行だ。小悪魔はオオスが悪魔だと再認識した。
オオスの行為は契約の隙間を縫い、契約者の目の前かつ違反しない範囲で、哀れな悪魔に手を差し伸べる高等テクニックに他ならない。
小悪魔は多分、オオスの意図とは違う意味でバレたら大変なことになると思ったが黙って受け取った。
受け取らぬは悪魔の恥である。後先考え無い性格も出ていた。
というよりもオオスが渡した時点で騒げばアウトである。小悪魔は悪魔に翻弄される自分に背徳的なゾクゾクという感情が沸き上がって興奮した。…オオスは悪魔ではないのだが。
小悪魔は自分の地雷足りうる物質をオオスから受け取り、ドロマイトの結晶の効果も相まって意気揚々と仕事を進めていった。
「あれって、そこまで効果があっただろうか?」
オオスは小悪魔の様子を見てドロマイトの結晶にそこまで効果無いよなと思った。
勿論、オオスは誰にも聞こえないように呟いた。
聞こえたら面倒であるのはオオスでもわかるからだ。その方向性がトンチンカンなだけである。
オオスは少し考えた結果、小悪魔の何時も以上の行動力をプラシーボ効果だと結論付けた。
オオスは悪魔ではないので悪魔への口説き等の意図はない。
第三者からは兎も角オオスにとって悪魔は悪魔であるのでその辺りは完全に異文化であった。
パチュリーが別の意味で小悪魔へキレかねない行為という自覚もない。
パチュリーには気が付かれなかったが、メイドは従者として働く以上は違和感を感じ取っていた。
稀に見るオオスのケアレスミスである。咲夜は大分天然であるが、察する能力は高かった。
「…」
咲夜は紅茶を振る舞いつつも、小悪魔の様子から時を止めて観察して理解した。
この男は素で碌でもないことをするとオオスに対して思いつつ、パチュリーには黙っておくことにした。
咲夜からすれば従者として主人に全く文句がないかといえばわからなくもないからであった。勿論、咲夜は小悪魔の手伝いはしない。
何なら小悪魔へ仕事を増やしたいところであるが、パチュリーの従者みたいなものなので下手な理由では干渉しにくい上にバレるだろう。
「…そういえば、美鈴へ仕事がありましたので失礼しますわ」
咲夜は美鈴へ仕事を頼む予定があったと思い出したかのように言った。
実際、咲夜の発言や行動はメイド長として不自然ではなかった。
図書館でまだ話しているパチュリーとオオスに向かって軽く礼をした。
主人に恥じぬような振る舞いで完全で瀟洒な従者は理不尽を伝播することにした。
二人へ仕事などと言って出ていった咲夜だが、実際は美鈴へ頼む仕事等別になかった。
メイド長である咲夜は仕事を増やそうと思えば幾らでも増やせる立場である。
咲夜は美鈴へ仕事を増やすことにした。 理由は何となくだ。理不尽のお裾分けに他ならない。
泥棒対策はオオスがいる間はそれなりに機能しているようなものであった。
少なくとも門番なのに普段から居眠りをする美鈴よりは遥かに効果があった。
紅魔館の門前まで来た咲夜はいつもの光景を見た。
まだ少し肌寒いが暖かな服装と暖かな日差しが目の前の門番の意識を飛ばしたのだろうとわかる光景だった。
「…普段のツケみたいなものね」
咲夜は居眠りする紅魔館の門番、紅美鈴を見つけた。咲夜はナイフを投げつける為に構えを取った。
八つ当たりではなく正当な理由である。
咲夜は気にしないで動作を続け、ナイフは美鈴へ真っ直ぐ向かっていった。