オオスが霊夢からボコボコにされて更に数日が経過した。
豆まきの季節が近づいてきたがオオスはそれとは関係なく博麗神社を訪れていた。
オオスは紙芝居屋である。季節の風情を身近に感じさせたり、教訓を伝えたり等様々な内容に溢れている。
オオスが紙芝居からより厳選し執筆、編纂した本は大人から子どもまで冬の間に流行る。
そんなオオスの本は主に貸本屋の鈴奈庵で取り扱っている。
オオス的には紙芝居をするには不安定かつそれなりに危ない季節である為に代わりにと行っていた。
故に本の執筆後は実験や鍛錬、その他等手広くやっていた。オオスの家の周囲は塩湖というには大きい、海となってもいる。
塩屋で塩の製造に使用する等それなりに忙しい。部下は勿論だが、オオスは見えない範囲で単純な作業に関しては妖精を雇って何とかやりくりしていた。
そんな妖精達の陳情の為にオオスは博麗神社に訪れていた。
…言ってしまえば沸いて出てくるような妖精のことである。
オオス以外には相手にされないのが大きかった。
幻想郷でオオス以外にまともに妖精を雇うのは河童くらいだが、ブラック企業も裸足で逃げる待遇である。
紅魔館は衣食住には困らないが、基本的に年中無休の環境である。
…妖精が好き勝手する我儘ばかりの種族でコントロールできないという面も大きい。
オオスは妖精の扱いが上手いと人妖問わず妖精を雇用する側からは有名だった。
ちなみにオオスとしては仕事だが、遊びの延長でやってもらうように心がけていた。
妖精は飽きっぽいのでオオスは楽しくやれる激務を心がけていた。
…普通はそのように扱うのは無理である。 オオス以外が真似をすれば妖精は好き勝手に遊び回り仕事どころか損失しかでないであろう。
また、オオスは妖精の要望は仕事に関係なくある程度聞き入れて対応してくれるので、それなり以上に妖精達側も配慮していた。
オオスがいないと妖精に人権などない。当たり前だが妖精たちへ配慮もない。阿求などは隙あらば妖精達へ日頃の鬱憤をやり返すことを奨励している。
…元々幻想郷で人権思想等皆無なのでオオスも好き勝手にやっていたりする。
今回はそういった陳情への対応、その延長であった。妖精は生命力を扱うことを無意識で行っている。
妖精は幻想郷の自然現象を司っているような存在である。
そして、オオス以外は悪戯好きで気まぐれで虫並にウザいと思っている。
これまではオオス以外に妖精に着目するような存在はおらず、同時にどうされようが気にしないのが大半であった。
今回はオオス以外に人にもあるか怪しい環境で、勿論人権のない妖精に着目した人物の行為であった。
…岡崎夢美である。博麗神社で世話になっていた彼女は神社の大樹に住む三妖精、サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアを早速見つけて研究し始めていた。
人権もなく、生き返る妖精はマッドサイエンティスト的には素晴らしい検体だった。
霊夢は夢美が妖精で遊んでいるようにしか見えず、また遊んでいる間は大人しいので放置していた。
霊夢も魔理沙も当てにならないので、三匹はオオスに泣きついてきた。ついでに他多数の妖精もである。
なお、冬の季節で強いはずのチルノは夢美のマッドから即逃げ出した。強いから逃げ出せたともいうのだが。
オオスは軽い酒の席を博麗神社の境内で行った。突発的な夜の宴会である。
大麦をローストして発酵させたスタウトという酒を持ち出していた。
苦味のあるこの酒は肉料理や濃い味付けの料理と合い、またアルコールもそこそこ強かった。正確には強い物を持ってきていた。
当然のように妖怪が酒の匂いに引かれて幾人かやって来た。妖精も幾人かいた。
魔理沙はオオスへ酒が苦いと文句を言ってきたが、ローストチキンの部位を口に突っ込んで黙らせた。
霊夢はオオスへ怒りはしたが、オオスの持ってきたただ酒なので文句はそれなりで飲み始めた。
「夢美さん。妖精に対してあまり酷くしないであげてくれませんか?」
オオスは酒を飲みつつ、夢美に話題を切り出した。
マッドサイエンティストに研究を辞めろとは直接言いにくいオオスは酒で逃げていた。
だが、
「…うーん」
夢美は悩んでいた。オオスの想定外の反応である。
夢美的には妖精の研究は霊夢の許可もとっていたと認識していた。
実際は霊夢が適当に相槌した程度であるのだが。夢美はオオスに止められて少し悩んだ。
なお、酒がなければ結構簡単に頷いたのだが、酒があるので本心から悩んでいる。
夢美が多少なりだがオオスへ融通してくれるとは知らなかった誤算である。
オオスも自分のミスを悟ったが、今更遅いのと夢美が素ならその場は取り付くろって今度はバレないように別の形で巧妙に、影でやっていただろうと判断して続行した。
夢美は小宴会で紛れているので目立たない。魔理沙が誰だこいつという反応をしたが、適当に霊夢が言い繕っていた。
電波二人が体面で話しているが、霊夢の勘は大した内容ではないというので気にしていない。
「…幻想郷の妖精って皆に迷惑をかけているのよね?」
夢美は妖精に根本的に人権のない上に害悪な認識を述べた。
実際、事実である。オオス以外は口を揃えて碌でもないと賛同することは間違いない。
「迷惑というか遊びの延長なんです。特に悪気があるわけではない」
オオスは用意していた仙桃のシロップ漬けを食べながら夢美に返答した。
シロップ漬けにしたところで固さは同じだが、普通に美味である。
甘さを増した仙桃は大麦を焙煎したコーヒーのようなスタウトの苦味には丁度よかった。
「…」
夢美はオオスが少女趣味というかロリコンかと一瞬だけ思った。
夢美はオオスが16歳と知って、18歳の自分からすると年下であると知っていた。
脳がバグりそうになるが、夢美は酒で誤魔化した。
…余りに苦味が酷く感じたのでオオスの桃を取り上げて食べた。
人工的でない自然の甘い香りで夢美は満足した。
「子どもの悪戯のようなものですし、お願いですからもう少し…」
オオスは夢美が一応は貴重な仙桃を食ったことで詰め寄った。
一応交渉の場である。オオスは顔を近づける程度で自分を抑えた。
しかし、 そのオオスの動作は予期せぬ方向へ働いた。
「わ、わかったわ…」
効果はバツグンだった。夢美はオオスがグイグイ押してくるのにやられていた。
オオスは顔だけ見れば儚げな美少女と間違うほどであり、華奢な体付きをしている。
酒に酔って普段ならない妖艶さまで感じる雰囲気である。…夢美ははっきりいってそういう傾向への耐性がなかった。
「ああ!ありがとうございます!!」
オオスは夢美の返答に満面の笑みで感謝した。腕を掴んでブンブンと振り回している。
なお、夢美の方が素の腕力は圧倒的に強いのでオオスに完全に飲まれていた。
オオスは話せばわかってくれると夢美への好感度が上昇した。
実際は特殊事例なだけである。オオスの作戦は奇妙な形で成功していた。
「…なぁ、アレ。止めなくて良いのか?」
魔理沙は霊夢に聞いた。
ほぼ完全に酔っ払っているオオスに当てられて言いくるめられている外来人を指して言った。
魔理沙も忘れていたが、オオスは顔だけは良いのだ。
魔理沙はオオスのことをあまり知らない外来人が変なことを了承していないか不安であった。
「…知らないわよ!」
霊夢は先日の自分の醜態を思い出した。霊夢は酒に逃げることにした。
ついでに魔理沙からローストチキンを取り上げた。肉が黒い発酵酒と合うのだ。
「ああ!この、返せ!」
魔理沙はオオスのこと等忘れて霊夢から取り上げられた肉を取り戻そうと必死になった。
こうして妖精の将来の人権がかかった話し合い。
妖精にとっては一大事な話は適当な宴会で流された。
…この結末は妖精らしい適当さであった。