嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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胎児の夢

 

オオスは夢を見ていた。ドレミー・スイートの管理する夢の世界である。

 

オオス、『×××××』は外の世界の人間だった。男は過去を夢見ていた。

 

 

その部屋は密室だった。角度を嫌うように四隅を粘土か何かで固めていた。

 

腐敗した死体から蛆が沸いている。蛆の体長と気温から時間経過を観察する。

 

…見知った人間はもはや原型を留めていない。

 

辺り一面が腐敗と腐乱で覆われ、心の中にある『思い出』が狂気で染められる。

 

密室の環境でも何が起きたか類推するには十分な知識を有していた。その場合の時間は当てにならないが…

 

 

そこまで見て、男、オオスは夢が消えたのを自覚した。

 

ドレミー・スイートの夢を喰う能力で自分の悪夢が喰われていた。

 

 

「これはどうも…何か口直しに食べますか?」

オオスはドレミーへ挨拶ついでに提案した。

 

割りと良くある類の事件の夢だったのでオオスは特に気にしていない。

 

平行世界や異界という夢美と話したので少し思い出した些細な事件の顛末だった。

 

 

「…貴方は」

ドレミーは夢を喰われても夢の世界で変わらずに居続けるオオスを見つめていた。

 

夢の支配者にして管理人であるドレミーは悪夢を喰らってもまた悪夢、または別の夢になるという経験則があった。

 

 

オオスが泥酔した状態で見た夢は過去を映し出していた。

 

 

夢の世界は全ての存在と根底で繋がっている。夢は具現化してその人それぞれを映し出す。

 

オオスの悪夢、狂夢は他の夢を狂気を伝播しかねない。ドレミーは即座に喰らう判断をした。

 

 

「今のは5歳くらいの時、親しくなった人でしたので弔いの為に…」

オオスはドレミーへ当時の背景を語りだした。

 

ドレミーの夢の世界では感情の振れ幅が大きくなり枷が外れやすい。

 

故に、普段のオオスならば言わないようなことも語りだしてしまう。

 

 

「5歳当時でも死体だけはたくさん見てきたのですが、異次元に干渉するティンダロスの猟犬には通じるか…っ」

オオスはドレミーの反応を無視して語りだした自分を恥じた。

 

 

オオスにとってはまだ軽い事件だった。この程度ならばオオス的には良くある話である。

 

…オオスはどうにもならない感情を誰かに吐き出したかったのだと悟った。

 

 

「…夢にはかなりノイズが入っているようです。貴方の考える最悪にはなりません」

ドレミーはオオスに言葉を選んで語りかけた。

 

まず、オオスが考えているような最悪、過去の化け物が出てくることはないと断言した。

 

更にいえば、オオスの夢にある知識が与える影響はドレミーが悪夢を消化してしまえばなくなる。

 

 

「私は夢を喰い、夢を創る程度の能力。…貴方の夢を喰らったことで凡そは察しました」

ドレミーはオオスへ過去の断片である夢を理解したことを説明した。

 

悪夢でオオスと似たような物が稀にあるが、現代の日本人となると中々ない。

 

…更にいえばそれが実体験であるというのは根が深い。

 

ドレミーはこの時、正しく目の前の人間の一部を理解した。

 

 

ドレミーは夢の管理者として、オオスが同等の夢の支配者であると理解していた。

 

そして、幻想郷へ来る前も後も、ドレミーの管理する夢の世界へ来ないようにしていた理由がよくわかった。

 

…漏れ出た夢の断片だけで常人の一生分の狂気が存在していた。

 

 

オオス、『×××××』はドレミーですら喰いきれないかもしれない悪夢、否、狂夢を有していた。

 

人々の悪夢を喰らうことで夢の世界の平穏を保つドレミーからすれば脅威でもあった。

 

 

「…」

オオスはドレミーの能力を脳内で演算し、ドレミーと同じ推論にたどり着いた。

 

オオスは自身の枷が外れた時、その行為が及ぼす問題と対処するドレミーの負担を考えた。

 

 

だが、

 

「良いでしょう」

ドレミー・スイートは決意した。

 

その目には力があり、虚勢であろうとも振る舞いは自信で満ちていた。

 

 

「その狂夢、私が処理しましょう」

ドレミーは目の前の男の、謎だらけの混沌の狂夢すら喰らってみせると宣言した。

 

 

そして、夢の支配者は気高く、何より美しく在った。

 

…オオスは無意識に幻想郷の賢者である八雲紫と会話した時に感じた印象をドレミー・スイートに重ねていた。

 

 

「今は眠りなさい。貴方の槐安は今作られる」

ドレミーはオオスへ再び夢見るように宣告した。

 

オオスは夢の世界で20年間国の太守を勤め、目覚めれば何もなかった故事を思い出す。

 

…ドレミーはオオスを受け入れると宣言していた。

 

 

オオスはドレミーへの負担を考えて自身の力で脱出しようとした。だが、ほんの少し、刹那の時、オオスはそれを躊躇した。

 

オオスはドレミー・スイートの夢の世界に囚われた。…不思議なことに穏やかな感情になりオオスは夢に落ちていった。

 

 

 

夢の支配者、ドレミー・スイートはオオスと名乗る男の狂夢を少しずつ解きほぐすことを決意した。

 

僅かな時で膨大な、夢の時間でもってしても、同等の異質な夢の存在であるオオスと名乗る狂気の夢の支配者が相手では槐安の夢の中でも許容を超えてしまう。

 

それ故、オオスがドレミーの世界、こちらへ来る間のみ対応する。

 

…オオスがドレミーの世界の理に従う以上は夢に落ちてもらう。

 

恐らく次はオオスも対策してくるだろうとドレミーは思った。だが、ドレミーの理に従う以上は完全に防ぎ切ることはオオスですら無理だろう。

 

目の前の男は約束を必ず守るというのは今回の夢にあるシナリオとエンディングで判断するには十分だった。

 

夢の世界でドレミー・スイートへの信用を得たいなら自分の理に沿ってもらう。

 

 

ドレミーができるのは飽くまで悪夢を喰らうだけだ。根本的な解決には程遠い。

 

だが、夢の管理人として平等に悪夢を喰らう。夢を見つめ、寄り添うのだ。

 

それを一人だけ別にするという選択肢はドレミーには元々なかった。

 

 

 

オオスはその日、胎児の夢を見た。…オオスは狂気の刹那で僅かにだが、安堵した。

 

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