オオスが博麗神社へ酒とその肴を持って小規模な宴会を勝手に開いた。
真意としてはマッドサイエンティスト岡崎夢美へ妖精に関しての陳情しに行った。
妖精の人権問題は意図せぬ解決で終わった。…些細だが妖精たちには大問題であった。
人権のない自分達に人権のない実験をしてくるマッドサイエンティストである。しかも、異様に強い。
オオスはそれを認識していたので、それなりに覚悟していたのだがシラフではやってられずに想定以上に呑んでしまっていた。
オオスは周囲にバレない範囲で細かい片付けをしていたりしたのだが、宴会途中で泥酔してしまった。
オオスは自分が不覚を取った際、万が一に備え、某烏天狗への対策していた仕掛けがあった。
それに関してそれなり以上に一悶着あったがオオスは知らない。
説明すれば、射命丸文がオオスの仕掛けを利用し返した印象操作を行おうとした。
そして、途中から自分の欲望丸出しになり破綻して周囲にドン引きれた。
酒豪の天狗だが、自分の目的が後一歩というところで酔いに任せて調子に乗ってしまった。
そんな文に対し、岡崎夢美がブチ切れた。それなりの日が経ち手持ちの道具くらいは修復できていた。
その夜、巨大な白い十字架が幾重にも観測された。弾幕ごっこというには殺意が凄まじく、だが美しい光景だった。…人里等離れたところから見る分にはだが。
霊夢すらオオスに同情した程の惨状であり、この件に関しては沈黙を選択することにした。
実際、本当に可哀想になったので割愛する。
結果的に岡崎夢美の名と実力が幻想郷へ伝播した日でもあった。オオスは何時かはバレると思っていたが想定以上に早かった。
弾幕ごっこのない幻想郷、魔界神すら殴りに行く『博麗靈夢』を相手に互角以上に渡りあった夢美の実力は凄まじかった。
偶々宴会に参加していたアリス・マーガトロイドは岡崎夢美に既視感を感じて接近したが、然程目立ちはしなかった。
そんなあらゆる人々の思惑が勝手に進んでいるとは知らないオオスは自宅の寝室で眠っていた。
「…しまったな」
オオスは四時間も眠ってしまったことを確認し、思わず声が漏れた。
オオスの一日の睡眠時間は三時間である。1時間も多く寝たのは数年以上前であった。
ちなみにオオスの一番長い睡眠時間は約1年半である。オオスは一生分は寝たと思っている。
オオスはドレミー・スイートに一本取られたと自らの失態を悟った。
悔やんでも仕方がないし、良い方向へ考えようと気分を切り替えた。この間、一秒にも満たない。
オオスは即座に自身の身の回りを確認した。
自分で戻った記憶がないのに自宅にいるということは仕掛けが起動したのだと気がついた。
オオスは自身に何かあった際への置き手紙が無くなっているのを確認した。
内容は『人生の絶頂から転げ落ちるのはどんな気持ちだ?』という感じの煽り文である。
欲望に反応するように仕掛けてあった。オオスの専門みたいな悪戯だった。
オオスでも本人視点では、このような些細な悪戯に対して悪あがきして自滅した射命丸文や派生したような出来事は想定していない。
「霊夢には後で謝罪するとして…まずはシャワーで良いか」
オオスは起床の合図を出した。昨夜は帰ってそのまま寝室に転移である。
オオスの家に同居している清蘭達が心配するといけないと思いつつも身支度を整えるのを優先した。
部下とはいえ異性の前である。オオスは不潔な格好で出るのは好まなかった。
オオスは緊急が高い状況や水不足などならば仕方がないが、出来るのならば清潔にしたいという現代日本人らしい感性を持ち合わせていた。幻想郷ではかなり贅沢な感性である。
オオスも自重していたがある程度設備が整い、余裕が出来たのでオオスは外の習慣に近づけていた。
自宅の普通の風呂場へ入ったオオスは昨夜の残り湯を再利用することにした。
なお、他に青い光を放つ風呂や血の池地獄を再現した風呂、煮えたぎったマグマそのものな風呂等もある。当然だが、オオス以外の利用者はいない。普通に死ぬからである。
「これで良いな」
オオスは浴槽の温度を確認した。風呂の残り湯をボロナスの炉で加減して再加熱した。
他にも方法はあるのだが、一番手っ取り早く資源も使わないのでオオスの魔力を使用した。
今更ながら、ボロナスの炉や水晶の世界などは本来ドリームランドでしか使用できない魔法である。
オオスの夢の権能があるので現で普通に使用できていた。…神格以外が特に理由もなく日常生活で夢の世界の魔法を使っていた。
夢の神であるヒプノスだけでなく、邪神絶対殺す系女神ヌトス=カアンブルすら苦言を呈していた。
オオスはオオスではない時も性根はオオスなので神の言うことなど聞くはずがなかった。
オオス自身の変化もそうだが、幻想郷の環境では大幅に強化されていた。
ボロナスの炉の最大火力は核融合レベルまで高まっていた。
「多少懐かしいな、これは」
オオスはそう言って魔法により再加熱した湯を浮かせた。
対象を浮遊させるだけの魔法であり幻想郷に来る前から取得していた魔法だった。
オオスは幻想郷に来てから新しく仙術や魔法等を学んでいた。
オオスが使える元の世界の魔法は無駄に消費コストの高いものが多かった。外の世界にも魔法使いは多数いるが、一般的にはデタラメやまやかしの類いとして扱われ、結果として研鑽された技術体系が消失した。…残されたものには無駄が多かったりする。逆に洗練された魔法もあるにはあるのだが極めて稀である。
そのようなコストの高い魔法はそれ以外に今の所は代用できない魔法以外は使用していなかった。
地味に懐かしさを覚えるくらい使っていないので、オオス自身の自分の能力の点検も兼ねていた。
使える手段は多い方が良かった。現に今使用している魔法である『空中浮遊』は対象が人ではなく物ならばそれなりに低コストで使える魔法でもあった。
現にパチュリーも四番目に効率の良い魔術行使等の無駄に見える魔法を開発していた。
無駄に見えるが時間差のラグで波状攻撃として転用するなど多重詠唱可能なパチュリーならではの使い方がされていたりする。
…魔理沙が見つけてもそういった使い道は出来ない。パチュリーの魔法使いとしての純粋な格の差だった。
魔理沙は人間にしてはかなり魔法が使え、人里の妖怪退治屋と比すれば圧倒的に強いのだが。
魔理沙は魔法だけでなくあらゆる技術等を自己流に取り入れていた。
オオスとしても魔理沙の進化は興味深いが、如何せん自己流にも程がありオオスの参考にはあまりならなかったりする。
なお、パチュリーが開発している効率の良い運動法は百年以上研究を続けているが使われたことはない。オオスがそれを見つけてパチュリーへ使用許可を貰っていた。
…パチュリーは体調が改善しても基本的に引きこもりだった。
「なんだかなぁ…」
オオスは一瞬そういったパチュリーのことを思い出しつつ、魔法の行使を続けた。
やや強引にお湯を自分に浴びせることでシャワーにした。
シャワーといいつつ、お湯を前後左右と自身の体付近で循環させた。
オオスは浮遊させたお湯を三種に分け、一つは前洗い、一つは洗剤洗い、最後は濯ぎ洗いとして繰り返した。
そのオオスの光景は第三者から見ると、洗濯機の中に入っているようになっていた。
幻想郷に洗濯機はほぼ皆無なのでそれを指摘する者はいないだろうが。
ちなみに外の世界にいた頃のオオスは開発した人間用の洗濯機で体を洗っていた。
当時は無駄使い出来るほど魔力が多くない。今回のような魔法の使い方はしていなかった。
手軽に効率の良い清潔感、オオスはそれを試行錯誤していた。
…普通に浴槽等が良いと思ったのでオオスは開発した無駄な製品の特許等は取っていない。
だが、今考えると特許を取っても良かったかもしれないとオオスは思った。勿論、偽名でであるが。
風情に欠けるが、効率重視の現代なら売れたかもしれない。
オオスは顧客のニーズを考える紙芝居屋として働く中で節々でそう思うようになっていた。
オオスは過去の夢を見たこともあってか、他愛もない過去を懐かしみつつ風呂場を出た。
予め用意していた服を着て身支度を整え、昨夜の事情を部下達へ説明しに行くことにした。
オオスの周囲はオオスの睡眠時間が数分多くなっただけで軽く動揺する状況である。
一時間以上の睡眠時間が伸びたことに動揺していた。
そのような鈴瑚達を見たオオスは大げさ過ぎるのではないかと思った。
実際、オオスでなければ大して気にされないので大げさではあった。
非人間的な生活リズムであるオオスの変化が周囲から気にされているという意味では良い傾向でもあるのだが、それを指摘できる者はいなかった。
オオスは多少変な要素はあるが、自分がまともで普通だと思っている異常者であった。
実際、普通の生活とは何かと考えればオオスも普通の生活に該当しなくもないのが余計に認識の齟齬が発生していた。
四季映姫・ヤマザナドゥも余裕が出来ればその辺をオオスへ叱りつけたいと思っていた。
飽くまで四季映姫個人としてである。自身のヤマザナドゥという役職をオオスへ用いた場合、かなり面倒になった。
是非曲直庁の一部の部署はオオスのせいで混乱していたりする。
その事情に関しては映姫の管轄外なのでオオスを叱りたくとも叱れない。
四季映姫・ヤマザナドゥは飽くまでも死後の裁きを管轄し、鬼等を纏める存在である。オオスの種族定義等は管轄外である。
幻想郷が管轄の閻魔である『ヤマザナドゥ』という役職なのでそれなりに融通は聞くのだが。
混乱の元も四季映姫の『白黒はっきりつける程度の能力』を行使すればそれなりにはっきりした答えが出るだろうが、何分管轄外であるので未だに論争が続いている。
…地獄の管理も、是非曲直庁もまた根本的にはお役所仕事であった。
代わりにというのもおかしいが、映姫はごたごたが落ち着くだろう春頃にオオスを説教しに行くつもりであった。
…オオスが自分の種族を人間と名乗るのならばせめてそれくらいは聞けというのが映姫の本心だったりする。