伊吹萃香に自宅を半壊させられたオオスは善良なる里人が被った損害を伝えた。
オオスは人里に妖怪の恐ろしさを改めて喧伝した。
…オオスの自宅を妖怪が破壊、半壊させた事実は里人の大半にとっては衝撃であった。
オオスを人外と確信している者すら恐怖し、妖怪の畏れが伝播した。
「霧雨魔法店をよろしくだぜ!」
霧雨魔理沙は早速妖怪対策として妖怪避けの壺等を販売していた。
オオスが一応の確認の為に近づくと、魔理沙は逃げようとしたがオオスに捕まった。
オオスは魔理沙の商売を邪魔するわけではないので里人にはバレないような攻防をしていた。
「…前よりは効果があるな」
オオスは魔理沙の商品のクオリティが若干向上しているので良しとした。
なお、費用と効果が釣り合っているかと聞かれればオオスは沈黙を選択する。
魔理沙の商品はオオスから捕縛されない事実により完売した。オオスが怪しい商売人を素通りするのは商品に詐称や偽りがないことへの反証となっていた。実際、オオスの目利きは大手道具屋「霧雨店」の魔理沙の父親が認めるものであるのも拍車をかけていた。魔理沙はオオスと自分の父親に交流があることを知らない。魔法等を嫌う父親が幻想郷ではあの紫に次ぐ胡散臭いオオスと関わりがあるとは思っていなかった。そしてそれに関して魔理沙へ直接言う者もいなかった。
魔理沙は儲かり、妖怪は魔理沙の売上が畏れとしての現れそのものなので両得である。
それ以外にも妖怪退治屋は活性化して仕事が舞い込む等、人里の経済は活性化した。
オオスは畏れをコントロールしていたが、余りにも容易く動揺が広がった。
…そして、オオスの被害で便乗した詐欺師達が里内で磔にされている光景があちこちで見られた。
元詐欺師達はオオスの仕業ではない自分達でやったのだと全力で叫んでいる。
その為、オオス的には全く問題ではない。
阿求に稗田家屋敷に呼び出され、オオスはその件で何故か怒られた。
オオスは阿求へ知らぬ存ぜぬを貫いた。犯罪者が自己批判しているだけである。実に喜ばしい光景ではないだろうかとオオスはほざいた。
「この…恐怖の大王が!!」
阿求はオオスへ向かって自身の肘掛け、脇息を全力で投擲した。
「もう少し物を丁寧に扱ってください」
オオスは元気の良い阿求へ向かって返答した。脇息をオオスは何とか受け止めた。
「妖精苛めしているだけあって普通に強いですよね」
オオスは阿求の投擲の威力を称賛した。外ならプロ野球選手になれるのではないだろうかとオオスは思った。
「くっ…この男!」
阿求はそれだけオオスへ吐き捨てつつ、崩れた姿勢を戻して座り直した。
丁寧な所作であり、こういうところはやはり育ちの良いお嬢様だなとオオスは再認識した。…その前に肘掛けを投擲してくるのはどうかと思ったが。
阿求はオオスの減らず口を叩きのめしたかった。だが、オオスのお陰で虚弱体質が改善しているのもありぐっと堪えた。
オオスと出会った初期ならば怒りのみで体調が悪化したが、最早それすらない。
なお、阿求のいる客間からの怒声と何かを投げる音に新しく来た女中が動揺したが、何時もの痴話喧嘩だと女中頭は他を下がらせた。
オオスはいつの間にかお屋敷で昇進していたいつもの対応している女中頭の発言に対して、それはどういう意味だと内心ツッコんだ。
オオスは阿求の行為を止めろとも思ったが、大声で話さなければ話が漏れないラインを女中頭がギリギリ見抜いているので仕事ができると再評価した。
「…それで?里人辞める気になったのですか?」
阿求は公然の秘密となっているオオスの勢力図を見て尋ねた。
そういう気がないと確信していたので乱暴な口調でため息をついた。
「もう少し振る舞いを気をつけてはいかがでしょうか」
オオスは阿求に苦言を呈した。流石に良家のお嬢様がして良い振る舞いではないと思った。
「…妖怪にでもしてやろうかしら」
阿求はオオスへ言外に霊夢に退治させるぞと脅した。里人が妖怪になるのは最大の禁忌である。
ちなみに妖怪は駄目だが、仙人等になる分には構わない。稀にだが仙人化する里人というのもいた。
そうなると人里から消える類が多いので阿求も前世で見た程度であるが。
「人間である私になんて酷いことを…」
オオスは嘘泣きをして阿求の暴言を悲しんだ。
神とか言わないのでオオス的にはセーフ判定である。
稗田阿求はオオスへ霊夢という弱点を突きつけることで牽制できる人物である。
色んな意味で人里からの権威は増すばかりであるが、抑止力として機能したことはない。
阿求自身はオオスのおまけみたいな反応に苛つきと優越感を感じていたりする。
元々の何世にも渡る経験値に悪女要素が追加されている。オオスが感知できない部類である。
なお、本居小鈴並のクソガキならオオスは余裕で感知できる。霊夢達は小鈴の本性に気が付かないが、オオス的には美少女の皮を被った腹黒、真っ黒な少女である。
小鈴はオオスが指圧の中でも地味に痛いのを選択してお仕置きする程度にはやらかす傾向がある。
オオスは子どもには基本的に優しく接するが、クソガキ相手にはそれなりの対応になる。
「そんなことよりも、どう収集つけるつもりなんですか?アレは」
阿求はオオスが自身の容姿を最大限活かした嘘泣きを無視した。
何も知らない第三者なら動揺するだろうが、中身オオスであるので阿求は毛ほどにも感じない。
…常時その状態のオオスを想像すると少し思うところがあるが。
関係ないことだが、オオスは阿求のことをサディストだと思っている。
「私ではない謎の存在が変な勢力を作っているみたいですね」
オオスは素知らぬ顔で言い切った。そして、それが答えでもあった。
阿求ならば理解してくれるだろうとオオスは確信していた。
「…どこかで破綻するでしょうねぇ。その誰かさんは」
阿求はオオスの言外の意図を読み取りつつ皮肉で返した。
阿求はオオスが自分をトップだと認めないで勢力を維持するつもりらしいと悟った。
阿求は自身の行うだろう根回し等の苦労を考えてオオスへ皮肉の一つでも飛ばさなければやっていられなかった。
「誰かさんも大変ですね。誰かに助けてほしいでしょうね」
オオスは阿求に悪びれもせずに全力で縋っていた。
オオスの発言は『助けて、俺死ぬよマジで』という京都語である。
いかに悲惨な状況でも助けを必死で求めないのが上級京都人の振る舞いである。
「ええ、そうでしょうね。本当に大変ですね」
阿求は他人事のようにオオスへ返した。
阿求は京都語の上級者なのでオオスにさらりと返答した。
今の阿求の発言は京都語で『助けて欲しいなら、出すもんだせや。おら早くしろ』という意味である。
「しかし、まぁ…怪談だろうと百個もあれば変なことが起こるのかもしれませんね」
オオスは阿求へ噂話も集まれば大変だなぁという世間話を振った。
オオスは京都語で『妖怪達のキャパが超えているの、隠すのももう限界なの』と阿求へ慈悲を求めた。
出すもんだせと言われても仕方がないのだが、萃香という突発的な自体はオオスも想定外である。
もう少し先ならばオオスも誠意としてそれなりに用意していたが、昨日の今日で変更したので用意は今ある持ち札だけである。
あまり無理を言われると困るが、妥協してでも取引に乗るしか無い。
個人の喧嘩の範疇ならともかく今回は組織を有耶無耶にするのだからオオスとしても滅茶苦茶だった。オオス的には阿求からの多少の慈悲を期待するしかない。
実際はオオスは阿求及び稗田家に相当恩恵を与えているのでその分をチャラにしてというだけでお釣りが来る。
オオスは個人的な行為に対する見返りという視点が欠落していた。
阿求相手にはオオスは自分で勝手にやったという印象が強かった。
ちなみに、阿求はそれを自覚してオオスへ吹っかけている。
オオスを一方的に追い詰められる機会等そうは無いだろうし、色々と後々の言質を取れるよい機会である。
阿求は上手くオオスの目敏いはずの悪意判定をギリギリで誤魔化しながら利用していた。
オオスはハンデでデバフがこれでもかと掛かっている状況である。それを利用するくらい図太くないと幻想郷で『御阿礼の子』はやっていられない。
そもそも阿求はオオスよりも輪廻分対人交渉に関する経験値は上であり、更には数多の妖怪相手をも散々交渉してきた歴戦の猛者である。
「百物語は面白そうですね。では、今度の祭りで開催してみましょうか」
阿求はオオスの世間話に乗った。発言だけみればそれだけである。
阿求は京都語で『貸し1な。派手に請求するから覚悟しておけ』と発言した。
阿求からするとオオスに何を要求しても用意出来そうな上にこれ以上貰うのも困る。
故に、阿求的には貸しにするのが最大にして最善だった。
そして、ただでやる貸しというのは借金等よりも遥かに重い。
「そうですね。…私も紫さん辺りに声がけしましょうか」
オオスは幻想郷の賢者(妖怪)に怪談話をさせようと笑みを浮かべていった。
オオスは京都語で『わかったけど、支払いの時に上に相談させてくれ。下手したらそのまま死ぬ』と返答した。
実際、オオス目線からすれば何要求されるかわからないのが一番怖い。
阿求も幻想郷を脅かすことは要求しないだろうが、万が一があった。
「…私と話しているのに他の女性の話をするというのは殿方としてどうなんでしょうね?」
阿求はオオスの言葉にむっとした反応をした。ここは結構素である。
阿求は『そこまで要求しねぇよ、私を何だと思っていやがる』と京都語で返答していた。
阿求としては素でミスしたが、オオス的には嬉しい言質でもあった。
「…すみませんでした。おっしゃるとおりです」
オオスは阿求へ紫を持ち出したことを謝罪した。
実際、あまりよろしくない引き出し方だった。
オオスは京都語で『今の言葉取り消さないでね、絶対だぞ』と留めを指した。オオスは最悪は防いだと安堵した。
表面上は謝罪しているが、京都語というのは謝罪しながら別の表現技法が含まれる奥深い言語である。
オオスはそれ以降は京都語を辞め、普通に阿求と打ち合わせし始めた。
阿求にオオスが頼むのはほぼ無理のない範囲でだった。
だが、霊夢関係はオオスも面倒なので丸投げしていたりする。
阿求は一番面倒事を押し付けられたと憤慨した。
女中頭は何時ものことだから気にするなと新入りの女中に言った。阿求の憤怒はその世話係にスルーされた。
実際、下手に内容を聞かれても困るので最適解でもある。
オオスは必要ならば上司すら見捨てる部下の行動に感心した。やたら過保護な自分のところでも教育しようとオオスは思った。