オオスが射命丸文から逃げた翌日、オオスは準備は出来たとして少しの期間を設けて地底へと向かった。
オオスとは表向き無関係な謎の組織である。オオスがその行動に関わり過ぎると不自然でもあった。
オオスはその為、一時避難先として地底へ、旧地獄へ避難する。
…地獄へ避難するという発想が出てくるのはオオスくらいであると部下たちは思った。
オオスはまだ雪の季節だが、地底へ行く時期を早めても良い、寧ろ行かなければならないという謎の屁理屈を作っていた。
そんなわけでオオスが不在な時期、とはいえ短期であるが謎組織は多少動くことになっていた。
冬開けが本番であるが、オオスが背後にいる新組織の一応のトップとなった頽馬の美濃吾妻は動いていた。
なお、謎の新組織において幹部は皆平等である。交渉等の際にはややこしいので吾妻が暫定トップとなっている。
組織の名前は『癲狂櫟林』となった。諏訪からの爪弾き者の集まりという意味だ。
どう考えても最近幻想郷へ現れたとある神社へ喧嘩を売っているような名前であった。
誰が考えたのかは不明だが、発案者は神をも恐れぬ奴に違いないと山の妖怪達は動揺した。
それを聞いた麓の妖怪達は純粋に山の妖怪達に喧嘩を売っている名前であると感心した。
発案者の狙い通り、山の妖怪達は麓の妖怪と親密な関係だと推測した。守…特定の神社へ喧嘩を売っている名前だからだ。
妖怪の山の勢力は、分裂理由が麓の妖怪達が妖怪の山への対応で揉めたのだろうと推測した。
射命丸文は沈黙を選んだ。オオスが組織のトップだと言ったところでまるで意味をなさないくらいには状況証拠が揃っていた。
伊吹萃香は細かいことはどうでも良いが、本当に誰にでも喧嘩を売る奴だなと思った。
山の妖怪達からこの報告を聞いた八坂神奈子は中々気概のある奴らだと豪快に笑い飛ばした。
神奈子は武を司る側面もあるので反抗してくる妖怪共に対して問題ないと言い切った。
神奈子は神の威光を示してやるとこれからの計画とその行為に対して奮起した。
洩矢諏訪子は神奈子の様子を見て、自分と神奈子の過去の戦争他を思い出した。
諏訪子が負けてもその信仰が無くならず、神奈子の方が妥協した歴史である。
諏訪子は謎の新勢力に何か裏があると思ったが、流石に報告だけでは何なのかはわからなかった。
…幻想郷に来て間もないこともあり、諏訪子は組織名の発案者のヒントを見逃していた。
だが、早苗に守矢神社が来た影響で変なのが出来たから気をつけるようにと言うだけに留めた。
東風谷早苗は歴史には疎いのもあり、どこが二柱の琴線に触れたのか理解できなかった。
『癲狂櫟林』とは暴走族みたいな名前だと思った。当て字で読めないか調べる程度であった。
麓の妖怪達は自分たちとは袂が別れたとはいえ、山の妖怪達、というか特定の神社へ中指突き立てる所行に同じ妖怪として感服した。
神への信仰心はある意味で人間より妖怪の方が強いが、麓の妖怪達は山の奴らを優遇するような神だと認識していた。
これ以上無く山の妖怪達の背後へ喧嘩を売っている以上は一定の協力関係を築けるだろうと判断した。
だが、『癲狂櫟林』の幹部を殺そうとした元主戦派では彼らと会話も成り立たないと考え、そもそも戦争反対よりの中立の有力者だった人狼の長を交渉相手として派遣することになった。
第三勢力である紅魔館は『癲狂櫟林』の拠点でその正体を察した。
パチュリーは名前からしてもあからさまだと思ったが、外部の反応から特定の第三者には伝わるように仕込んでいるのだと悟った。
美濃吾妻という妖怪が代表として紅魔館へ訪問すると報告があり、一番大事なことはしらばっくれるつもりだと確信した。
オオスは今地底へ行っているとレミリア達は知っていた。本人から聞いていたので間違いない。
遠慮なく交渉してねという意味だとパチュリーは受け止めたが、レミリアはせめて一言くらい相談しろと憤激した。
永遠亭はそもそもが特殊な立ち位置であり、妖怪の新勢力など認知していない。
白玉楼も同様である。博麗神社は霊夢の興味がないので放置されていた。
そんな話題の『癲狂櫟林』は有情湖の外れ、魔法の森近くと麓の妖怪達から独立したにしては大分離れた位置に拠点があることになっている。
重大事項に関する会議室には円卓と空白の玉座があり、玉座に座らないことを平等の契としている。
玉座が空席なのかと尋ねれば誰もが沈黙する。第三者からみて真の意味で皆平等な組織である。
勢力名からして自虐する爪弾き者達の中には名の知れた妖怪が幹部となっていた。
麓から離れた際に有情湖近辺の妖怪の一部を取り込んだらしく新勢力のわりにはそれなりに数もいた。
そして、『癲狂櫟林』の表の代表者である美濃吾妻が紅魔館を訪問したという情報が伝播した。
麓の妖怪は一歩遅れたと行動の遅さを悔いた。山の妖怪はやはり麓の妖怪とは既に話がついていると認識した。
吾妻は大丈夫か不安だったが、近場の大勢力として紅魔館への接触に成功してホッとしていた。
吾妻は紅魔館が悪魔の屋敷であること、紅霧異変前の弱体化した幻想郷の妖怪たちに衝撃を与えた記憶が残っていた。
長命な妖怪である吾妻にとってはつい最近の出来事のようなものである。
裏の代表者がいれば心強かったが、失敗しても良いからと不在中の交渉先として指定していた。
麓の妖怪達より近場という無理な理屈付けを何とかする主君の手腕には尊敬の念しかないが、それはそれとして緊張していた。
紅魔館へ通された吾妻は連れの者、ヲロシアに挨拶の品を渡すように促した。
吾妻の主君とは関係ない自分たちの所有物や能力で回収出来る物から選んでいた。
主君からは紅魔館の当主の珍品センサーに反応するから大丈夫と言われていたので多分問題ない。
「…主であるレミリア・スカーレット様がお待ちです」
白銀のような髪の人間のメイドが吾妻達をレミリア・スカーレットの下へ案内を促した。
「…ああ」
吾妻は自らの着物の色、緋色の洋名と同じ名のスカーレット家の当主へ挨拶することにした。
吾妻は当然、身構えていた。主君は今回の件そのものには関与していないので先方は自分達の事情を知らないと吾妻は思っていた。
だが、
「事情は何となくわかるからオオスが帰ってきたら呼んで頂戴、説教するから」
レミリアは吾妻の想定外に友好的に振る舞いつつ、ついでにアレの被害者として哀れんだ。
パチュリーから目の前の妖怪の背後にいる本物の代表を聞いていた。
だが、レミリアはそれを聞かなくともオオスの野郎が妹への土産として碌でもない人形を送ろうとしたことを覚えていた。
『癲狂櫟林』の癲狂とは狂気を意味する。
オオスはかつて狂気の妹フランドールに向けて家庭教師用人形として『 Talking Doll In Lunatic Asylum』を送ろうとしていた。
直訳すれば精神病院の会話人形という意味である。
そして、癲狂院とは江戸から大正時代にかけての精神病棟を意味していた。
レミリアすらオオスが背後にいると察して調べるくらいには連想ゲームにも程があった。
その後、レミリアは吾妻の着物の緋色を見て、自分と同じサイズで作れないかと尋ねたりした。
オオスに関係なしで普通に会話が進み、それなりに仲良くしようと言うことで落ち着いた。
気品も礼儀も実力もある吾妻はオオスには勿体ないとレミリアは思った。
だが、吾妻から地味に狂信者の気配がするので引き抜きなどの提案はしなかった。
…レミリアは500年生きた吸血鬼なので狂信者の地雷を踏んだ時の恐ろしさを知っていた。
レミリアはオオスは今度は一体何をしたのかと心の中で叫んでいた。
もう既にパチュリーが何か調べ始めているのが怖い。レミリアはどうにかして責任取れとオオスへ呪詛を吐いた。
なお、パチュリーは五行で美濃吾妻を占ってオオスとの相性を調べているだけだったりする。
パチュリーはオオスの本名で調べていて勿論、他意はあるが、レミリアの考えているような物騒なことではなかった。