地霊殿でのオオスへの仕置が終わり、少ししてオオスは地上での出来事を星熊勇儀と古明地さとりへ正直に話した。
二人は地底の管理者のような立ち位置である。口外しても問題ないし、そもそもする必要がないのもあってオオスは本音をぶち撒けた。
勇儀はオオスの行為を馬鹿馬鹿しいと思いつつも、それなりに理解した。
鬼の四天王である勇儀はさとりとは別の意味で旧地獄の奴らを纏めるような立ち位置にいるのでオオスの行為に納得した。
オオスが責任者なのに組織のトップではないというのはどうかと思った。
だが、同時にオオスにとっては我慢ならないのだろうと納得した。
そして、地上へ自由に行き来する萃香に関してどうだろうと思いつつ、少しだけ羨ましく思った。
「地上の奴らもまた面倒な喧嘩をするねぇ…」
勇儀はオオスの話の感想を述べた。色々あったが、面倒臭い政争である。
勇儀としては喧嘩してサッパリ決めれば良いと思った。
「面倒ですよね」
オオスも勇儀に同意した。サッパリ喧嘩して決めれば良いのだ。
オオスも政争等という行為はグダグダと回りくどいと思っている。
「貴方がそれを言いますか?当事者でしょう」
さとりは思わずオオスへツッコんだ。
これでオオスは本心から面倒であると思っている。それでやらかしているのだからどうしようもない。
「まぁ、そうなんですが…いや、しかしこちらも雪ですね」
オオスは拷問前に地底のあちこちを挨拶したことを思い出しながら呟いた。
地底に降る雪とそれがか細い光で照らされてキラキラ反射する光景を見つめていた。
オオスはサプライズとして地底の雪に合う景色を用意していた。
「その笛は前にも使っていたが、こういう使い方もできるんだね」
勇儀はオオスの先程の行為を思い出しつつ、地底に浮かぶ月を見上げた。
正確には月そのものではないが、月の光が地底の空から降り注いでいた。
オオスは月の光を以前宴会芸で使用した笛に溜め込んでいたようだった。
地底の妖怪達も少し騒いだが、オオスがやったと勇儀がいえば納得して月見酒を楽しみ始めていた。
以前も来たオオスは笛の音で星空を描き出していた。
妖怪たちとしてもこの光景に納得が行ったし、何だかんだでオオスもあちらこちらで演奏して光を調整しているのを見かけてもいた。
「この笛、闇のフルートは幻想郷に来て作ったのですが、最近使ってあげれていなかったので良かったです」
オオスは自身が以前作成したアーティファクトである闇のフルートをかざして言った。
魔法の森で多少使っていたが、最近は春の剣『春季光星』が便利になったこともあり殆ど使っていなかった。オオスはそれが自身の信仰という事実を無視した。
オオスの作成した闇のフルートは地底以外ではアリスくらいしか見ていないので神具と化していない道具だった。
今のオオスが下手にアーティファクトを作成すると神性は薄いが神具と成りかねなかった。
オオス自身は地獄の業火の影響で無効化できていたが、過去なら兎も角、今のオオスが作成した道具を保持し続ければ干渉してしまう。
なお、パチュリー等との研究開発したアーティファクトでは神性は皆無である。
道具ではなく資源ならば神性は帯びることはない。…ヒヒイロカネ等の失われた金属の精製では帯びるようになっていたが。
オオスは香霖堂の店主である森近霖之助と交渉してヒヒイロカネの製法の書かれた本を借りて暗記していた。
その場で一瞬で暗記し、即座に返却した。オオスは霖之助の要求を最低限に抑えることに成功した。
霖之助はそのことについて、後日例のアイツはケチで碌でもないことをすると霊夢達へ溢していた。
魔理沙達はまたアイツが良く分からないことをしたのかと詳しく聞いてどっちもどっちだろうと思った。
オオス相手に道具の使い方全て教えろと欲張り過ぎた霖之助もだが、頑張って解読するので返却期間で渡す情報量を決めよう等とハッタリをかましたオオスもである。
霖之助が商品の使い道が分かれば非売品にするのはわかり切っているので仕方がないが、オオスの行為は霖之助の所有する胡散臭い書物に記載されている本当かも怪しいヒヒイロカネの情報だけ持っていったような行為である。
だが、オオスから使い方を聞き出したという商品は全て非売品になっていたので霊夢達はどっちもどっちと結論づけた。
オオスもこれから見つけてくる道具も含めて使い方を全部寄越せ等と言われなければそこまではしなかった。
オオスはそれだけの価値のある情報であるとは思ったが、霖之助が仮に店を閉めてもオオスへの要求が続きそうであったので辞めていた。
何だかんだで魔理沙や霊夢達の幼い頃から交流があり、それなりに面倒を見ていた長寿で長命の半妖である。ここぞという商機を確信した際はオオスも想定外な程であり、凄まじくガメつかった。
「……闇の能力を持つ妖怪への配慮ですか?春の妖精の仕事を取り上げているような貴方が気にしますか?」
さとりは一瞬で過去に思考がバラバラに飛ぶ久しぶりのオオスに混乱しそうになるが、話を元に戻した。
オオスが闇のフルートの使用を躊躇う最大の原因はそれだと看破した。
だが、
「さとり、また癖が出ているぞ」
傍から聞いていた勇儀がツッコんだ。勇儀もオオスの思考がカオスなのだろうと慮ったが、一秒にも満たない会話のやり取りである。
勇儀からすればさとりの発言の前提がわからなかった。
「…ああ、すみません。闇を操る程度の能力を持つ妖怪に配慮して地上では笛の使用を控えているみたいです」
さとりは勇儀に言われ、謝罪した。思考を読まれるのはともかく言葉で表してくれと注意されていた。
さとりは相変わらず滅茶苦茶な思考回路であるオオスの思考を単純化して伝えた。
関係ない話を脳内で展開するオオスの脳内の情報の取捨選択と要約能力が凄いとオオスは感心した。…お前が感心するなとさとりは思った。
「説明ありがとうございます。読心術はやはり便利ですね」
オオスはさとりの内心のツッコみを知らずに純粋に感心を言葉にだした。オオスは素で褒めている。
「フフフ…そうでしょう、そうでしょう」
さとりは先程のオオスへの脳内に関しての一切を忘れて誇らしげに胸を張った。
さとりは脳内で電波を捲し立てるオオスにより脳が一瞬バグを起こした。
嫌われがちな能力を純粋に褒められていると言うのは嬉しいものである。
「…それを言うのはお前さん達くらいだよ」
勇儀は考えていることを全部バレているのに気にしないオオスとそれを全部知っているさとりを見てボヤいた。
勇儀はこの二人の脳内はどうなっているのだろうかと気になった。
ちなみにだが、オオスは心を空にしてさとりの読心術に対抗出来たりする。それだと攻撃手段がないので直接対面した状態では意味がなかったりする。
さとりとしては空にした状態で仕掛けを設置して地霊殿を爆破出来たりするオオスの能力は恐ろしくもある。お燐を仕事に集中させているのもオオスに下手にちょっかいかけさせないためだった。
お燐はオオスの死体を欲していた。オオスもお燐の耳が気になるので少し解剖してみたいと思っている。さとりの念押し無しで会わせたらどちらも危険だった。
「妹さんに先程挨拶してきましたが、私以外でも認識できそうなのが一人いまして」
オオスはふと思い出してさとりに話を持ち出した。本心から思い出しただけである。
「話をそらしたな、まぁいいが」
勇儀からすればオオスが何考えているのかわからないので流されたと感じた。
オオスもさとりという読心術の持ち主がいるので勇儀と合わせるかさとりと合わせるかで脳内が混雑していたりする。
「……鈴仙さんですか。何か可哀想な人ですね」
さとりはオオスが散々振り回している光景を幻視した。
鈴仙の能力は波長を操る程度の能力であり、狂気を操ることもできる能力である。
オオスの相手では完封されるが誰から見ても汎用性が極めて高い能力の持ち主である。
純粋な肉弾戦ならオオスが負けるだろうが、鈴仙は能力の使用にこだわるようだとさとりは分析できた。
実際、鈴仙からしても自分の長所を封殺してくる相手など納得いかないだろうとさとりは思った。
さとりからすればこいしが、身内がそうなったから予めそういう状況も納得できたが。
「それって私は可哀想でないから良いと思っていませんか?」
オオスはさとりが無意識のうちにこいしの問題を自分に押し付けようとしていないかと尋ねた。
「…勇儀さん。どう思いますか?」
さとりはオオスの問に対して言葉が詰まった。
無意識での認識は考えてなかったが、オオスに任せられないかと思っていたのも事実であった。以前、それは断られたのだが。
「言葉が足りなさ過ぎてちょっとばかし理解できないのだが…」
勇儀はこいしのことだとは理解したので補足を求めた。
だが、自分が理解できないだけなのか、言葉が足りないのか少し混乱した。
勇儀は萃香と違って真面目過ぎる程に真面目な鬼だった。
萃香ならうるせえ馬鹿野郎とオオスを殴り飛ばす。なお、萃香的にはさとりは面倒なので無視する。
「ええと…」
さとりはどこから説明したものか少し考えた。
自身の無意識などとオオスに指摘されたのもあり少し言葉を濁していた。
「こいしさんの問題は勇儀さんはご存知ですか?」
オオスはさとりをフォローするように言った。
さとり相手に無意識とか脳内とはいえ尋ねたことを謝罪した。
「ああ、こいしちゃんな。…何となくはわかるよ」
勇儀はオオスの言葉に自分の認識と合致していると理解した。
そして、話を続けさせようとした。
「…ああ、はい。言って大丈夫ですよ」
さとりはオオスがこいしの事情を知っているようだが言って大丈夫かと確認していたので続きを促した。
実際、こいしは無意識であちこち出歩くのでいつの間にか知り合いが多くなっていたりするので今更でもある。
「どうも。…読心術を使えないのはともかく」
オオスは話を続けた。こいしの無意識の行動に関してである。
一番問題というか面倒な点である。姉からしても心配だろうとオオスは悟っていた。
だが、
「いや、使えないこと自体問題なんですが」
さとりはオオスへツッコんだ。読心術を使えないさとり妖怪であるこいしに関しても大事である。
さとりからすればこいしのそれはアイデンティティの欠落に等しい。
「姉目線です。気にしないようにしてください」
オオスはさとりの発言を流した。面倒臭いのでそれに関しては身内でやれと思った。
「いや、思いっきり身内なんだから気にしてやりなよ」
勇儀はオオスへツッコんだ。オオスは一体、誰目線でそれを言うのだろうかと思った。
「まぁまぁ。誰にも心を閉ざしているのはどうなのかという話でして」
オオスは本質的には一番大事なことを改めて示した。こいしは無意識で彷徨うので誰にも認知されていない。
もっとも、目立つ状況があれば別であり、その際に目撃や会話が成立しているに過ぎない。
「うん?…まぁ、そうでもあるか」
勇儀はこいしと会話したこともあったので一瞬考えた。
だが、こいしが不可視になる状態も理解していたので話を続けさせた。
「鈴仙さんというのが地上にいまして、彼女ならこいしさんのこと観測できるよなという話でした」
オオスは鈴仙に話を戻した。普通にこいしを観測できる能力者である。
実に好ましいとオオスは評価していた。鈴仙と仲良くしようとすると避けられるのでオオス的には微妙に悲しい。
「その理屈だとお前さんもだよな」
勇儀は初対面時にも今も観測できているオオスを指して言った。
勇儀は何か面倒になってきたので酒を飲み始めていた。
「あ、そういえばこいしさんのこれって秘密にした方が良いですか?地上に干渉しない約束でしたし」
オオスはこいしの扱いってどうなのと確認した。
この間もなぁなぁで流していたが、黙っていれば良いのだろうか。
「…こいしに関してはまぁ、その」
さとりはオオスに改めて確認されたので勇儀も含めて説明した。
…誰も止められないし、無意識なのでバレなければセーフという感じである。
一応だが、確認も取っている。こいしの能力的にどうしようもないので見ないことにされている。
「なるほど、道理で偶に見かけると思った」
オオスはこいしを最近良く見かけるのを納得した。好き放題できるのではそれは来るだろうと思い出した。
「…えっ?こいし、そんなことをしてたんですか?」
さとりはオオスの脳内で明かされた衝撃の事実に動揺した。
…オオスは事前動作無しで情報を明かしてくるので厄介であった。
深く読心すればオオスの表層以外の記憶も読み取れるが、そこまでするとさとりも疲弊してしまう。
「…だから、脳内で会話するな」
勇儀は二人へツッコんだ。何度目かわからないが、さとりが動揺する程度には問題が発生したらしい。
「私が作った組織の玉座に面白半分で座ったんですよ。ルール上、こいしさんがトップになれますよという話です」
オオスはこいしの所行を思い出して勇儀に明かした。
オオスの椅子に座ればそいつがトップとする。気に入らなければそいつを叩きのめせである。
オオスは滅茶苦茶な弱肉強食の理論を一つだけ設けていた。
なお、椅子が破壊されればトップは引きずり降ろされる。その後の代表は多数決で決まる。
そして、オオスは椅子をいつでも爆破できる。オオスの遊び心満載のアトラクションである。
部下達には座ることを推奨しているが、オオス以外一人を除いて座ったことがない。その例外がこいしであった。
「…止めてくださいよ!」
さとりは叫んだ。…地上の組織のトップが地底、地霊殿の主の妹とか洒落にならない。
「お前さん、面白がって止めなかったんだね」
勇儀はさとりの様子を見て悟った。オオスの悪戯心である。
「楽しんでいましたし、部下達も気づいていないので」
オオスはこいしの様子を思い出して言った。
こいしは私が一番偉いとか言い出したので叩きのめして玉座から引きずり降ろした。
「…それは本当に無しでお願いします。というか辞めてください」
さとりはオオスがこいしにやったことは置いておくとしてハラハラして仕方がなかった。
「玉座に座ったらトップ交代っていうことか…私が言うのも…言って悪いが、凄い雑な世代交代が起きそうな組織だな」
勇儀はオオスの組織が実力で黙らせることが可能と理解した。
オオスなら負けそうだが、椅子に座れる時点で問題ないのだろう。
だが、萃香辺りが来たらどうするのだろうと思った。
なお、当然だが、その時はオオスは玉座を爆破するだけである。萃香相手にオオスが勝てるとは思わない。オオスは外部の妖怪がトップになる状況は困ると懇願されたのもあり、爆破装置を取り付けていた。
「その後、私が座り直したので問題ないです」
オオスは勇儀に安心するように言い切った。
こいしが引っつかまれたので驚いてそのまま引きずり降ろされたのを思い出した。
こいしはそのままフラフラとどこかへ行ったから良かったが喧嘩を吹っ掛けられたら死んでたかもしれない。
「…その制度、今すぐ止めてください」
さとりはオオスの脳内の仮定が恐ろしかった。ガチで辞めろとオオスを睨んだ。
「ええ…」
オオスはさとりが余りにも嫌がるので渋々玉座の破壊スイッチを押すことにした。
なお、地上では唐突に玉座が崩壊したので部下達が動揺したのは言うまでもない。
オオスはちょっとした避難訓練としてそのまま放置することにした。
吾妻はオオスの悪戯だと看破し、皆の動揺を抑えた。
吾妻達は玉座を爆破するスイッチを持つのはオオスだけであると知っていた。
オオスの生存をイーグルラヴィに問い合わせてようやく収集が着いた。
鈴瑚は地底にいるオオスとの連絡手段を唯一保持していた。
オオスへあまりそういうことをしないように懇願した。避難訓練だとオオスは言い切った。
オオスはそれを見ていた勇儀に殴られた。根本的に言うとアレだが、オオスが弱いのだ。
部下が心配するのは当たり前であり、振り回し過ぎであると説教した。
…オオスは今回はこれ以上しないと鈴瑚へ報告した。
オオスのいない状況での緊急時の判断力の確認を含んでいる。
その為、余り口を出されたくなかったが、勇儀の言うことも最もだとオオスは反省した。
なお、オオスが言ったのは『今回は』なので別の形でする気はあった。
勇儀もそれに気がついていたが、オオスに対して言い過ぎたとも思ったので今回のようなことでなければまぁよしとした。
さとりはとりあえずオオスの考えた糞みたいなルールを撤廃できたので良しとした。
…こいしが無意識でまた玉座に座り、乗っ取りを宣言でもしたら本当に洒落にならなかった。