オオスが地底に向かったそもそもの理由は第二次月面戦争に関しての報告である。
これが本来は一番大きかった。別件で大幅にズレたが、オオス的にはこの礼は大きい。
第二次月面戦争に関して陰で協力を依頼した星熊勇儀や古明地さとりへ報告した。
更に何故か勢力できたということも報告したのでおかしなことになっていた。
その後は色々グダグダしていたが、最後は勇儀らしくサッパリ酒で流すことになった。
オオスも別に愚痴を吐きに来たわけではない。さとりとしては嘘半分、本当半分と感じた。
グチャグチャな感情入り混じっていたが、勇儀らと話していてそれなりに整理がついていた。
第二次月面戦争でオオスが二人へ依頼したのはいくつかある。
特に星熊勇儀へ依頼した圧倒的な力はオオスの作戦の要だった。
力自体は別で代用できても均一な圧倒的破壊力という点で勇儀の協力は最高だった。
オオスは連動する箱を勇儀に渡し、鬼の四天王である勇儀の圧倒的な力を込めてもらっていた。
具体的には地上のオオス家の周囲が地底近くまで陥没し、月の都で地震が起こる規模である。
揺れを月の都に、オオスの自宅周辺に力を分けることで作戦は成功した。
月の都には地震が発生した事実、オオスの家には奥の手として生命に溢れた海が完成していた。
勇儀の圧倒的な力を借りて月で地震を起こしたこと、それを追加で海を割って誤魔化せなくしたこと。
綿月依姫という八百万の神を降ろせる何でもありな糞チートを月の防衛に専念せざるを得なくすることで分断し、ある意味一番厄介な姉の綿月豊姫を口上と事実を示して動揺させた上でのブラフで一旦退散させることに成功したこと。
最後にブラフを真実にしたので嘘ではなくしたことまでオオスは話していた。
そもそもさとりに作戦概要が脳内から漏れているのでオオス的にはセーフである。
地底は関与はしていないとしらばっくれるのも大きかった。
オオス達は酒の肴に第二次月面戦争へ再度話を戻して感想を語ったりしていた。
「あははは!最後、良い感じに終わりそうなところで神か何かと聞かれて激怒したのかい」
勇儀はさとりが補足したオオスの恥を酒の肴にしていた。
今はもう酒の席であるので、オオスも酔っている。さとりは舐める程度だが付き合っていた。
勇儀はオオスの月の使者相手への口上は感心しただけにあまりにオチの酷さとその落差に爆笑した。
なお、さとりは想起まで使用して当時のオオスの忠実な真似をして煽っていた。
オオスとの初対面時、こいしの盗みを追いかけてきた時の技術等から学んでいた。
オオスの思考に関する技術はさとり妖怪としての格を上げるだけの物が存在していた。
オオスもさとりから読心術を受け、自身の技術を強化している。
さとりとオオスはお互いの持つ能力や技術の悪辣さが増していた。
「くっ、よりにもよって自分の技で煽られるとは…」
オオスは人間の技術まで取り入れたさとりの悪辣さに捨て台詞を吐いた。
さとりからすればお前が言うなと思った。
同時にオオスはさとり妖怪ではないので面倒なことになっているのだなと悟ってもいた。
オオスが心を読めればそれは幸福だろうとさとりは考えていたりもする。
さとりからすればオオスが考えている程オオスは嫌われてはいないと思っている。
オオス以外は直接心を読んだわけではないので半分以上はさとりの推測にはなるが。
とはいえ、オオスがもしさとり妖怪と同じ能力を保有したとしてもこいしのように心を閉ざすのもあるのでさとりとしても難儀だと感じた。
…オオスならば嬉々として使いそうだが。というか条件が揃えば読心術自体は可能でありオオスは使用していた。
さとりからすればオオスの方法はどれもこれも手間がかかり、必ずしも正確ではないところもある。さとりはやはり自分の能力こそ至高だと再認識した。
オオスの思考模写等は興味深いが、さとりからすれば真似事の芸の域である。
オオスの技術を参考にさとりの想起スペル等は強化されたりしていたが、それはそれである。
なお、オオスの支離滅裂な思考の電波汚染は常時展開されている。
さとりも一対一で完全な敵対状態で、思考を読んだ経験が少ない状況かつ初対面で戦った場合は恐ろしいものであると考えている。
実際、オオスが外で出会った思考が読める存在の尽くがその脳内を汚染され強弱問わずに発狂している。さとりは完全に例外である。
さとりもまた汚染された思念に多少弱いがその耐性は強かった。
さとりは妹のこいしが心を閉ざす中でも、引きこもりとはいえ仕事ではその能力を躊躇なく使用している。
さとりは力が全てな価値観の旧地獄で、力ではなく能力と知力にて地霊殿の主にして管理者にまでなっていた。
さとり妖怪で堂々とさとりを名乗り自分の能力を満点以上に評価する妖怪である。
オオスが出会ってきたような読心術を使える程度の存在とは格が違った。
「私も怒鳴り散らした後で不味いこと言ったかなぁって思ってはいました。…話を聞いてくれる相手で悪気はなかったわけですし」
オオスは今なら語れる内心を明かしていた。『神』というワードにキレ過ぎた。
なお、今でもそんなことを言われればキレる。
何とかならないかと愚痴っていた。オオスは地霊殿、地底で漏れないこともあり、酔っ払っている。多少はいつもよりも緩んでいた。
「まぁ、私でも怒り狂うようなこともあるさ。…誰だってそうじゃないかい?」
勇儀はオオスの言葉にそこまで気にしなくとも誰にも多かれ少なかれ地雷はあるだろうと聞き返した。
勇儀は嘘が嫌いである。多少ならともかくその悪意や内容によっては相手を殺すだろう。
「…まぁ、そうですね。貴方のは行き過ぎですが」
さとりもオオスの面倒臭い内心を読み取りつつ同意した。
さとりから見ればオオスのそれは行き過ぎであり、多少語弊もある。
だが、誰でも多かれ少なかれそういう面を持っているものである。
「…うーん」
オオスは二人の意見を聞き、少し考えたが上手く言葉にできなかった。
なので、話を変えることにした。…あの小鬼をしばき倒す相談である。
だが、
「萃香と喧嘩したいって?勝ちたいから何か教えろと言われてもそれは流石に…」
勇儀は鬼の弱点を教えろと正直に尋ねてきたオオスに困惑しながら回答した。
普通に仲間を売ることはできないし、鬼である自分に聞くなと思った。
他の鬼相手ならばそのままぶっ殺されてもおかしくない質問である。
…そういうところは勇儀としても好ましいがそれはそれである。
「…はぁ、私が言うわけないじゃないですか。馬鹿なんですか貴方」
さとりもオオスの余りにも正直な問題発言には呆れて言葉を漏らした。
せめて、勇儀がいないところで聞けと思った。
大体、萃香だってこちらに来ないとも限らないのだ。鬼の四天王の不興を買うような行為はさとりだってしたくない。
「…鬼の国で探せばまぁあるだろうが、その前に死ぬだろうな」
勇儀はオオスの正々堂々か怪しいが、その度胸に免じて一つ回答した。
旧地獄以外の鬼の国へ行けばそれなりに残っているだろうが、オオスは死ぬだろう。
…オオスが最初に来た時に魅せたあの啖呵を知っている鬼達は友好的に迎えるとは思うが。
とはいえ、勇儀からしても流石に自分達の退治、仲間を売るような真似を考えて来られたら別である。
「…それはそうか」
オオスは出鼻を挫かれたが、正論過ぎて納得した。
とはいえ、諦めるようならオオスではない。
「えっ…いや、それは良いですけど」
さとりはオオスの思考を読み取り、それを許可した。
…というかそれは自分に聞かれても困る。
「さとり、一応聞くが…」
勇儀はさとりの目を見て尋ねた。
それは鬼へ喧嘩を売るような行為に加担していないよなという目であった。
「勇儀さん、そんなことは流石に止めますから…」
さとりは慌てて勇儀の認識を訂正した。オオスもオオスであるとさとりは睨みつけた。
「いや、さとりさんではない方に話をつけてくるけど大丈夫か聞いただけですよ」
オオスはさとりとは関係ない別口で念の為に確認しただけであると勇儀へ説明した。
「…普通に断られる、というか怒られると思いますよ」
さとりは勇儀の前で明かすのもどうかと思ったのでオオスにだけ伝わるように言った。
「何だか気になるが…また、碌でもないこと考えていないだろうね?」
勇儀はさとりの反応からオオスが面倒な相手に交渉しようとしているのだと推測した。
酒をあおりつつ、空の酒坏でオオスを指して言った。
「実際、さとりさんの言う通りで聞いてくれるか怪しいです。分の悪い賭けですね」
オオスは生真面目なさとりの上司に該当しなくもない存在を思い出した。
普通に叱られて終わりそうであるが、オオスは諦めるつもりはない。
「…お前さん、そういうの好きだろう?」
勇儀は何を考えているのかはともかく分が悪い賭けを好き好んでやりそうな男へ聞き返した。
基本的に圧倒的格上に怖気づかずにいるオオスの姿勢自体は勇儀としても好ましい。
「ええ。今回は策も何もないですが」
オオスは勇儀の問に笑顔で肯定した。とはいえ、本気でどうしようもない相手である。
なお、オオスは調子に乗っている相手を叩きのめすのが好きなサディストである。
「…それとは別に地底でも念の為に探すようですが。…まあ止めませんが」
さとりはオオスの反骨精神を読み取って匙を投げた。萃香相手に頭を垂れるのが屈辱らしい。
博麗の巫女である霊夢相手もそうであるようだが。
オオスは萃香は純粋に喧嘩を売れると判定していた。そして、嬉々として報復を企んでいた。
取らぬ狸の皮算用とはオオスのことを指すのだとさとりは思った。それを口に出すと面倒なので言わないし、指摘もしない。
…良い機会なので精々怒られてくると良いとさとりは思った。