嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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アポロ11号

 

地獄とは悪人が死後行くような刑務所のような更生施設というだけではない。

 

勘違いされやすいが、地獄とはあらゆる自由が力で許され、成り立っている世界である。

 

閻魔やら鬼神やらが本来の地獄を取り戻すという触れ込みで支配している世界もあるが、そのような新しい秩序に馴染まないものは旧き地獄の世界に留まりその中で自由を謳歌している。

 

そう回想するヘカーティア・ラピスラズリは月、地球、異界それぞれの地獄を司る神である。

 

 

ヘカーティアもかつては地獄を統率していたが、今は好き勝手に様々な世界を回っている。

 

地獄の女神は統治よりも責め苦や怨嗟に満ちた地獄が新体制になって数千年が経過してもなお根本的には同じと悟っていた。

 

ヘカーティアは地獄の統治は他がやれると判断できた。故に誰よりも地獄に詳しい自分が、地獄がより地獄らしくなれる新しい何かを探していた。

 

 

その際に地獄の太陽を破壊した奴の妻、月の女神である嫦娥を恨む同士であり、友人の神霊の純狐と出会うなどそれなりに楽しく過ごしていた。

 

 

とはいえ、ヘカーティアはそもそもの目的をまだ達成していなかった。

 

それで初心に返ろうと地獄の最下層、コキュートスのジュデッカ。その更に下にある地獄の業火を見つめていた際、例のヤバい所行を行うのが発生していた。

 

そいつが自分の目的達成になり得るかもしれないと探していたりしていた。

 

 

地獄の数と時間は無数にあり、ある地獄で数百年経過したかと思えば別では数時間だけしか経過していないということも有り得る。

 

人間の一生も秒に感じる程には異界によって様々であり、ズレがあった。

 

あらゆる地獄を3つの体で見て回れるヘカーティアすらその最果てを理解し得ない程には地獄という世界は様々で広かった。

 

とはいえ、おおよそを知ると大体が似たような感覚に陥る程度にはヘカーティアからすればそれほど種類がない環境でもあった。

 

 

そのような広大さ故に月の都の賢者達は地獄の女神ヘカーティアの存在を知らず、ついでに恨まれていることも知らないでいた。

 

地獄は全てが穢に満ちた世界であるので月の都は余計に無知であった。

 

 

 

とある男はその感覚でいるのを危うんだ。ある意味で自分以上に無知であることを隠さないで堂々と全てに対して傲慢に賢者を語っているのだからどうしようもない。

 

地上と地獄を同一視しているような世界の月の都へ喧嘩を売りつつ、自分なりの警告をしていたが、それが届くには余りにも彼らは傲慢と偏見に満ちていた。

 

…それを地上の者達が崇拝するのだから本当に碌でもない世界だと常々思っていた。

 

 

 

引きこもりで外界を排斥する月の都はヘカーティアはその男の考えよりも月の都の価値は更に下である。

 

最低以下の世界であり、恨みもあるが、無数にある中では優先順位としては低い。

 

月の都は偶々滅ぼされていないだけに過ぎない。それが、友人の純狐と出会いで再燃していた。

 

月の都に空前絶後の危機が迫っているのを今はその首謀者達を含めてまだ誰も知らない。

 

 

 

 

ヘカーティアは体感時間で言えば久しぶりに純狐の下へ遊びに行った。

 

様々な異界への移動による時間の差異は生じて百年ぶりくらいである。だが、永久に等しい彼女らにとっては数週間ぶりくらいの感覚であった。

 

 

純狐は金髪のウェーブがかかった長髪が特徴的であり、服装はチャイナドレスを基調とした中華風の装いであり、振る舞いや言動は妖艶さを感じさせながらも少女のような印象も感じさせた。

 

純狐の種族は神霊であり、嫦娥の夫というか自分の夫でもあった野郎に息子を殺された恨みのみで純化している存在である。純狐自体は自分の種族を仙霊と称している。

 

…例の野郎的には好感度が高い。あの馬鹿者的には親近感を覚えるのが純狐の自称であった。

 

純狐は『純化する程度の能力』というあらゆる存在を名づける前の状態、神を生むに等しい権能を有している。

 

どこぞの野郎はいきなり増大してきたその力を扱いきれていないが、物に神を宿す能力が身につきつつあったりする。その影響で神具が完成したり、成りかけたりしていた。

 

例の野郎は是非とも純狐の能力、その力のコントロールを教えて欲しいと願うに違いない。純狐とは逆に神を生まない方法である。

 

…その能力、年齢、容姿がどれか一つでも欠けていたのなら普通に気に入られ、普通に教えてもらえただろう。最も、まだ二人は対面してもいないので未来の話である。

 

 

 

ヘカーティアは純狐に最近起こった話として地獄の業火で焼かれて無事で済んだ存在がいたことを話した。

 

というかそれを利用して自己強化したように見られる。

 

…弱者的には色んな進化の時間短縮にはなるが、ヘカーティアは馬鹿以上の気狂いか何かの所行であるとほぼ確信していた。

 

 

純狐も有名な神や悪魔を純化していけるかどうか怪しい所行であると確信し、ヘカーティアに同意した。

 

そんな滅茶苦茶な進化など誰もやりはしない。どんな生命体であろうが即死しかねない業火である以上は未知の可能性含めて危険極まりない。それをやった奴は阿呆の極みである。

 

地獄の最下層の業火は死穢の匂いを身に纏った人間なら無条件で殺せる純狐とは別の方面であるが純粋な力の塊である。

 

そもそもが恨みで構成されている純狐でもどこかで引っかかる可能性があり、危険極まりない。

 

純狐ならばその業火を浴びても死にはしないが耐えきったところで何の価値も見いだせない。

 

そのままの意味で地獄の業火である。そいつは純粋な力に耐えきれる要素を持っていると純狐は判断した。

 

少なくとも人間の所行ではないので悪魔や神、その他を探すヘカーティアに異論はなかった。

 

 

「…アポロ11号の船員を思い出すわね」

純狐はその自殺としか思えない行為にかつての人間達をふと思い出した。

 

人間でありながら月へやってきてズタズタになりながらも生還した偉業を成した者達である。

 

とはいえ、そこまでである。純狐としては実に好ましい出来事だったが、人間にヘカーティアが言った所行を耐えきれるとは思えない。

 

 

「あははは!純狐ったら。…気持ちはわからなくはないけど大袈裟過ぎるわ」

ヘカーティアは純狐の言葉を笑い、ついでに一応の言葉を述べた。

 

純狐が人間を評価しているのは知っているし、何ならその件自体は自分も評価している。

 

 

「いかに策を練ろうとも、相手はそれを乗り越えて来る。…そういうのは月の民もまた同じだったな」

純狐は純粋に人間の評価をしていた最中に、月の民のクソどもを思い出した。

 

忌々しいことに自分の行う策を尽く退けるだけの叡智が存在した。

 

純狐としてはヘカーティアと散歩のついでにでも月を消滅しに行きたいが、まだ次の策は思いつかない。

 

 

「月の民…嫦娥の奴に復讐は是非したいところね」

ヘカーティアはあの糞の奴隷達も含めてぶっ殺したいと思い出した。

 

とはいえ、どうしようかと考えてもいた。まだ先でも良いような気がするし、策も万全ではないだろう。

 

 

「そういえば、ヘカーティア。最近、月の連中が何か痛い目を見たらしいぞ」

純狐は月という事で思い出した。どこかの異界があの月の都に痛恨の一撃を与えたらしかった。

 

純狐としてもいつも月の都を見張っているわけではないし、防備もあるので詳細は不明だった。

 

 

「へぇ…中々やるじゃない。私達以外でそういうことをするなんて」

ヘカーティアは純狐の話に興味を持った。

 

月の都は排他的な碌でなしの集まりだが、それを維持できるだけの力を持っていた。

 

それを崩せるとなると純狐クラスでないと無理だろうと確信していた。

 

 

「どこの誰か、どの勢力なのかはわからないが。そういうのは私も誘って欲しかったけれど。…恐らく新参の異界だろう」

純狐はヘカーティアに推測にはなるが多少わかっていることを伝えた。

 

純狐としては糞を叩ける機会に参加したかった。

 

新参なら自分の存在、純狐を知らずにやった、古参なら知っていてやり過ぎたくないという具合だが、古参なら何らかの形でアピールするだろう。

 

 

…幻想郷は数ある異界の中では相当な新参に入るので純狐の予測は正しかった。

 

 

「新参でやるわね…うん?」

ヘカーティアは自分の探していた野郎を思い出した。一応、人間に見えなくもない。

 

容姿が整い過ぎていたので、ヘカーティアとしては邪神かその眷属か悪魔かと思っていた。

 

…悪魔や神ではない可能性もあると認識した。人間とは考えていない。

 

 

「月を滅ぼし、嫦娥へ復讐する。その為にもう少しだけ探してみようかしら?」

ヘカーティアは新参の異界、人間以上の能力を持つ世界を見て回ることにした。

 

純狐との楽しい時間で有意義な情報を得たヘカーティアは何時間か月の都を滅ぼす方法を論じたりしながら今度は地獄ではなく、多様な異界を探してみることにした。

 

 

 

なお、その馬鹿野郎オオスは幻想郷の地底、旧地獄にて土蜘蛛の妖怪である黒谷ヤマメから病を態々感染させて貰っていた。

 

完全な対策をしていたのに寒気がしたので一端中止を願い出たところで星熊勇儀に見つかり、自分自身で行っていた狂気の人体実験に関して説教された。

 

…ヤマメとしてもオオスが心配なのでこれ以上は辞めた方が良いと言いくるめた。

 

オオスは渋々納得してヤマメに感謝して今回は引き下がった。

 

そして、馬鹿は勇儀に殴られてそのまま連れて行かれた。自殺にしか見えない所行である。

 

どうせヤマメに滅茶苦茶言ってやらせたに違いないので、勇儀はヤマメがオオスに施した行為に関しては特に何も言わなかった。実際、その通りである。

 

…オオスを本当に人間としてカウントして良いのかと悩んだヤマメはしばらく悪夢を見る羽目になった。

 

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