幻想郷は春となり、リリーホワイトが春を告げて回っている。
春告精、リリーホワイトが春を告げた場所は雪が残っていようが一瞬で春の気候となる。
春の季節の花々が一瞬で咲き乱れる光景はオオスからすると美しいが、外の世界の常識が滅茶苦茶になる光景でもある。
春の剣『春季光星』を所持するオオスはその気になれば季節を改変できるのでお前が言うなと誰もがツッコむ。
なお、人里にやって来た東風谷早苗はオオスに何かしたのかと尋ねに来た。
異変かと思う程の季節が一瞬で変化したからである。オオスはリリーホワイトの存在を説明した。
神奈子から聞いていないのかとオオスが問い返したら早苗は沈黙した。
「まぁ、私達のような外来人からすれば驚くしか無い光景ですよね。特に最初は」
オオスは早苗の家族を罵倒したくはなかったのでスルーすることにした。
「えっ?…あっ、そうでしたね」
早苗はオオスが外来人であることを思い出して同意した。
オオスは早苗にえっ?とは何だと思った。オオスへの反応は誰でも早苗の味方をする反応である。
「天狗の新聞に自宅を壊されたってありましたけど、大丈夫でした?」
早苗は露骨に話を変えた。そこそこ前の話ではあるが、オオスに聞いていなかった。
「あの小鬼…もとい、近くにできた勢力と勘違いされて殴られまして」
オオスはそういえば早苗に言っていなかったと思い出して露骨な話の変化に追従した。
「…ええ!?」
早苗は暴走族みたいな名前の新勢力を思い出した。
早苗はどこの誰とはわからないのでそれらがオオスの自宅破壊に繋がっているとは思っていなかった。
「…ちょっと声が大きいのでそこの店に入りましょう」
オオスは早苗の大声で他の里人がこちらに注目し始めたので提案した。
なお、その店は鈴瑚の団子屋である。同じ団子屋の清蘭は未だに路上販売である。
清蘭は商才と団子のアレンジレシピで鈴瑚に大きく負けていた。
オオスは弱肉強食がモットーである。清蘭が鈴瑚に勝てない分野で挑み続けているのを止めはしない。
とはいえ、清蘭には良いアイディアがあれば内容次第で投資するとオオスは言っている。
事実、詳細な経営方針等の資料をオオスへ提示してきた鈴瑚へ投資していた。
鈴瑚のプランニングには三途の川手前の死者の通り道である中有の道への出店計画まであった。
オオスは友、因幡てゐが中有の道の出店の半数以上を牛耳っている裏の支配者なので相談はそちらとするように伝えていた。
てゐは詐欺で騙した金を元手に稼ぎ、結果的には詐欺では無くして稼いでいた。
オオスはてゐが飽きてさえいなければ中有の道での権力は閻魔より上回っていたと評価していた。
てゐが飽きたのは根本的には閻魔が怖いのとオオスが乗り気でなかったからだった。
永遠亭には内緒の小遣い稼ぎである。死者や死神その他相手に金を巻き上げている。
早苗達の入った団子屋は真新しい店内は落ち着いた雰囲気であり、個室で食べられるようになっていた。
予想外に二人きりで店に入ることになり、早苗はやや緊張している。
オオスは新メニュー『パッションフルーツ七味団子』が気になって仕方がなかった。
「アンコ2つとパッションフルーツ七味団子を一つください」
オオスは慣れた手付きで店員に注文した。店員は普通に人間である。
落ち着いた雰囲気に合わせた可愛らしい和服である。鈴瑚の意向で女性店員しかいない。
男に黙ってフルーツダンゴを食べられる店がコンセプトらしい。
個室の利用客は人妖問わず女性客が多い。仕切りがあるが、餅を喉につまらせては危ないので完全に見えないわけではない。
…華扇がいたがオオスは無視した。注文し過ぎでひたすら黙々と食べている。
外に面する販売所では男も並んでいる。鈴瑚のは飽くまで外向けのブランド戦略である。
誰も言わないが後ろにいる奴(オオス)が怖い。言いがかり等あれば自主的な磔である。
安心して嫁入り前の娘でも働かせられると店員の家族にも評判である。
「かしこまりました」
2人分のお茶を持ってきた女性店員はオオスの注文をメモに取り、下がっていった。
…この場合のマニュアルは店長に報告である。若い女性店員はバレないように見なかったように相手を確認していた。
オオスは気がついているが早苗は気がついていない。開店してからそれほど経過していないのに実に教育が行き届いているとオオスは感心した。
「…よく来るんですか?」
早苗は手慣れたように変なダンゴまで注文したオオスに尋ねた。
自分以外と来ているのかと探りを入れていた。
「ああ、ごめんなさい。クールミントきなこダンゴとかおすすめです。春の気候に合う爽やかな風味がお茶と合います」
オオスは流れで勝手に注文したことを詫びた。
早苗が呆然としていたので普通のダンゴを注文したが、今からでも追加で頼めると説明した。試作中の期間限定販売パッションフルーツ七味団子は渡さない。
「ど、独創的過ぎる…」
早苗はオオスに捲し立てられメニューを見て呟いた。オオスの雰囲気に飲まれて誰と来たとか忘れた。
カレー納豆入り団子、旬の季節ストロベリーバルサミコ酢ダンゴなど様々なメニューがある。
本来なら定番であるアンコ、胡麻、醤油等は隅に追いやられている。
「でも美味しいんですよ。バルサミコ酢と苺はサラダでもある組み合わせですが、団子で再現となると普通は真似できない」
オオスは清蘭に邪道と散々言われている鈴瑚の団子を評価して言った。
なお、純粋なストロベリー団子がないのは鈴瑚曰く清蘭の方が格段に美味いからだそうである。実際、ストロベリー団子単体では清蘭のが上だとオオスは食べ比べて思った。
今回は偶々だが、オオスは基本的に清蘭の店で買っている。アンコや醤油等の普通の団子ならば、混んでいる鈴瑚の店よりも清蘭のが早く買えて美味い。
オオスが本人たちに頼めなくもないが、買い食いの方が楽しいので基本的にしない。
オオスは清蘭が意地張らないで二人で協力すれば良いと思うのだが、清蘭は邪道の極みと一緒にやりたくはないらしい。
オオスも気持ちはわからないでもないので口は出さない。
「…バルサミコ酢ってあのバルサミコ酢ですか!?」
早苗はオオスの言葉に食いついた。早苗は名前くらいしか知らないが外国の酢であることは知っていた。
外の友達が写真に取ったお洒落なサラダを見せて来てバルサミコ酢がドレッシングに使われている等と言っていた。
早苗としては良く分からないが、話を合わせていたのを思い出した。
「伝統的なアチェート・バルサミコ・トラディツィオナーレではないですが、3年程熟成させた物のはずです。……粗悪品ではないですよ」
オオスは痛いところをつかれたと思った。早苗の意図はそこではないが、オオスは無駄に職人気質であった。
現在122季3月でオオスが幻想郷へ来たのが117季の冬だ。4月で123季となるのでややこしい。
オオスが幻想郷でバルサミコ酢を作り始めたのが紅霧異変後の118季の8月である。現在、約3年半の物を鈴瑚の店に提供している。
アチェート・バルサミコ・トラディツィオナーレ、本格的なバルサミコ酢は最低12年間も葡萄を熟成しなければならない。
咲夜の能力を借りればそういった熟成等も早いのだが、まだ始まったばかりの鈴瑚の店である。
オオスは状況を見て紅魔館、というか咲夜に交渉するつもりであった。
「バルサミコ酢って幻想郷にあるんですか…」
早苗は外の世界で昔流行ったことをボンヤリ思い出した。
オオスが製造しているとまでは思わない。早苗はバブリーな衝撃を受けていた。
大量生産品であることが多い外の世界よりもある意味贅沢ではないかと思った。
とはいえ、早苗も人里で信仰を集めるために雪かき等の手伝いをしに来ている。
偶にある例外枠だと納得した。
なお、目の前の男がその例外を生み出しまくっているとまでは思わない。
日本と関係ないような食品の大半はオオスが関与している。
明治頃までの外来品はないこともないが、それ以降の外国産の物は中々ない。
オオス以外では紅魔館か八雲紫である。オオス以前のワイン等の酒類の出処は大体そちらであった。
香霖堂の霖之助が無縁塚で飲食物を拾って売っていることもあるが非常に危ない。
オオスは香霖堂でいつのかわからない中身の入ったコーラ瓶を買ったことがある。
香霖堂では普通に販売しているが、オオスすら無縁塚で拾ってきた飲食物を置くなと思っている。
オオスが買ったのは成分を分析して幻想郷でコーラを量産できないかと思ったからである。
オオスも流石に飲みはしない。霖之助は半妖でも腹は下すはずだが、平気で飲む。
霖之助はコーラの炭酸が抜けているのもあり、薬か何かだと思っている。
「美味しいですね!ここの団子!」
早苗はアンコ二本と追加で注文したクールミントきなこダンゴを食べて喜んでいた。
興味本位で頼んだストロベリーバルサミコ酢ダンゴはまだ食べていない。
オオスのおすすめであった先んじてクールミントきなこダンゴは食べていた。
「それは良かった」
オオスはそう言いつつも、早苗と何を話していたのか思い出していた。
外の世界の話で大分脱線したような気がした。
「ああ、そうだった。…暴走族に自宅を壊されたって本当ですか?」
早苗は話を戻そうとした。そして、微妙に色々混ざっていた。
「…ああ、『癲狂櫟林』のことですか。そちらはほぼ無関係です」
オオスは早苗が何言っているのか一瞬わからなかったが、理解した。
「あちらさんと間違われて被害が来ただけです。今は『癲狂櫟林』に守らせる代わりに土地の一部を貸しています」
オオスはもはや真実と化していることを早苗に伝えた。守矢神社へバレないように牽制する狙いもある。
神奈子が無理に攻め込むことはないだろうが、里人のオオスも巻き込まれかねないぞという布石である。
「…妖怪に土地渡しちゃったんですか?」
早苗はオオスを心配して尋ねた。
まさか、早苗を介して自分の家へ情報操作しているとは思っていない。
「ただで渡すわけないですよ。普通に貸しています。というか、妖怪でも神でも私は気に食わないなら追い出しますよ」
オオスは善良なる里人として気に食わないなら誰でも戦うと宣言した。
なお、普通の里人は妖怪は恐ろしいので戦う選択肢はほぼない。
妖怪は殆ど退治屋に任せるしかないし、自分でできる範囲で自衛する他ない。
妖怪の一勢力相手に個人で追い出すとか言える里人はオオスくらいである。
「そう、なんですか…良かった」
早苗は一部オオスの発言にツッコミたいのを抑えつつ、安堵した。
早苗はオオスは神奈子にすら喧嘩を売ると知っていた。
そのオオスが普通に貸しているという以上は本当なのだろうと認識した。
なお、早苗はオオスに何かあった場合、『癲狂櫟林』に攻め込んでいた。
オオスは早苗がそこまですると思っていないので結構危ういことを言っていた。
「…巻き込まれたのは私の落ち度もありましたし、元凶を殴りに行ってあちらに何かあっても文句つけるなと納得して貰ったので手打ちにしました」
オオスは早苗の反応に一部思うところはありつつも続けた。
よく考えたらオオスが苦労しているのも萃香に自宅を破壊されたのも大体守矢神社のせいである。
オオスは早苗にすらすらと嘘ではないが事実とは微妙に異なる言葉を述べていった。
「ええと…小鬼でしたっけ?」
早苗は伊吹萃香を知らないので小さい鬼を想像してオオスに尋ねた。
「ええ、小鬼です。伊吹萃香とかいう奴です。あ、これは秘密でお願いします。
言っても神奈子さん達だけにしてください」
オオスは鬼の四天王に喧嘩を売るつもりだとシレッと言い切った。早苗は良く分からないので適当に流していた。
その後、オオスは早苗の分の料金も支払って分かれることにした。
早苗もオオスに丸め込まれたので奢って貰った。その後、博麗神社にある守矢神社の分社を掃除するなどして晩ごはんの支度をしに帰宅した。
早苗は夕食の際、オオスに会ったこと、色々な勘違いで自宅を破壊された伊吹萃香という鬼に喧嘩を売るつもりらしいことを神奈子達に話した。
神奈子達にまでは口止めされていないので早苗は普通に話していた。
そして、神奈子は天狗達との会合で鬼の四天王の名前を知っていた。なお、諏訪子も千年近く前に外の世界で暴れていたその鬼の名前を知っていた。
二柱とも早苗の話を聞いてむせた。早苗は慌てて背中をさするなどした。
神奈子も諏訪子もアイコンタクトで早苗には相手の情報を黙っておくことを確認しあった。
ついでに次オオスに会ったら守矢神社に来いと伝えるようにと神奈子は言った。オオスが本気だった場合、相手が相手である以上は普通に死ぬからである。
…神奈子からすれば自分が遠因で巻き込まれたとオオスが逆恨みしていないか不安でもあった。
平気で神を侮辱するが、それ以上に価値がある才能の持ち主でもある。神奈子からすると面倒この上ないのがオオスという人間だった。
諸事情で真実を言えないが、事実は逆恨みでも何でもない立場にいるオオスは『癲狂櫟林』という守矢神社に中指立てる組織名にしている。
実際、守矢神社へ思うところがある妖怪達は多かった。麓出身の妖怪もそうだが、弱小妖怪達にとっては住処を追われたそもそもの原因だった。
守矢神社の信仰で力を得た山の妖怪達が力を乱用していた。
今はオオスの部下達は『癲狂櫟林』で纏まっているので問題ない。
オオスが何もせずとも問題なさそうな弱小妖怪達は部下でも何でもないので別である。中には守矢神社を信仰することもあるだろう。
なお、部下達は大恩人であるオオスを勝手に神として祀っている。
オオス的には守矢神社のせいだと思っているが、そこは時間の問題でもあったりするので八つ当たりだと自覚している。
それを除いても色々ありすぎるのでオオスの守矢神社への怒りゲージは溜まっている。
そんな部下たちも守矢神社、山の妖怪達に関して全く気にしていないかといえば嘘になる。
オオスは神奈子に今更何か言われても基本無視するつもりであった。
だが、ここまで来ると流石に一発くらいはくれてやりたいので早苗越しにお見舞いしていた。
早苗は神に仕えてはいるが、基本的に悪くないので仲良くしている。
神の下僕たる巫女博麗霊夢とは違い理不尽にも初対面で攻撃して来ないし、奉っている神である神奈子を敵視していても普通に扱ってくれる良い子であるとオオスは思っている。
実際、オオスは早苗に神罰をくだされても文句は言えない立場であったりする。
オオス視点からすれば守矢神社関係を除けば早苗はかなり好感度が高かったりする。…実家で大幅なマイナス補正入っているのでどうしようもないが。