オオスは悪意の無い存在には極めて優しく接している。
子どもや妖精等の悪戯なら笑って許し、拳骨するかしないかだ。…それは許してはいないのではないだろうかというツッコミは通じない。
なお、オオスも本居小鈴くらいのクソガキならば例外だ。小鈴はトラブルメーカーで臆病だが、懲りないで挑戦を繰り返すクソガキである。
オオスは小鈴のコレクションである妖魔本を何度か燃やそうと考えたこともある。
オオスの出版物の利益を横領して妖魔本を買うことがあり、それも中々懲りない。
博麗の巫女である霊夢は気づけ、そして監視しろと思っているが、霊夢には何故かまだバレていない。
小鈴、正確には鈴奈庵にはオオスにはない収集の伝手がある。
色々やり過ぎているオオスは何でも出来そうだと思われていなくもないが、里人の枠内で好き勝手している。
オオスは飽くまで元外来人の里人である。年月が浅いので本の卸売に直接参加は出来なかった。
稗田家に頼めば出来なくもないが、霊夢辺りが煩くなりそうなのと年下の娘に貢がせているような絵面になる。
オオスはよく阿求に無茶振りをしているが、必要だと思う時だけ同意を得て行っている。
阿求はその構図を強調して、オオスを沼に引き釣り混んでいる。
悪意というよりも善意なのでオオスは感じ取れないが、直感で回避しようとしていた。
そんなわけで小鈴の妖魔本コレクションは役に立つのでオオスもやや黙認している。
小鈴が妖魔本を介して妖怪となった日には小鈴の両親に合わせる顔がないので見張っている。
小鈴の意思で妖怪になってしまった場合、オオスは霊夢と死闘を覚悟しなければならない。
小鈴は自分の都合に相手を巻き込み振り回すようにクソガキレベルが高い。
流石、阿求の友達だとオオスはその潜在能力を高く評価している。人を巻き込み恨まれない立ち回りは才能である。だが、オオスは全部わかってしまうのでクソガキとしか思わない。
霊夢が本を借りに鈴奈庵に来ることもあるのでオオスは小鈴への仕置の際は警戒している。
そんな小鈴がやらかした。オオスが偶々来店し、初期で気がついたので良かった。
妖魔本に記された忘れられた妖怪を利用して小鈴は何かやろうとしたらしい。
オオスは眉間のツボじゃ済まさないと思いつつ、妖魔本への再封印術を唱えていた。
「魂よ返り来え、君之恆幹を去り何為れぞ四方するや、君の楽処を舎てて彼の不祥に離る」
目覚めたばかりの妖怪へ本体である魂は妖魔本に未だあること、肉体を離れて行くことは不幸な目に遭うと警告する。
未だボンヤリとした影しかない妖魔本に記された妖怪は眼の前の言霊を発する者に怯んだ。
怯んだのを看破したオオスは言霊を続ける。
「魂よ返り来え、東方以て託すべからず、長人は千仞惟魂を索む」
留まれば東の方角、博麗神社は幻想郷の東端に位置する、から魂を滅却するような存在がやって来ると警告した。
これは人間の営みの延長であり、後の真実である。オオスは言霊を諧謔し真実を上書きする。
「十日代る代る出でて金を流し石を鑠かす、彼は皆之に習ふも、魂行かば必ず釈けん」
オオスは妖怪に対し、このままではお前の魂は溶けるように恐ろしい事になり、この場にいることは出来ないと断言した。
……今は影でしかない妖怪は男によってその先に有り得た未来によって上書きされる。
権能により諧謔された結末、解決された事実へ収束し、妖魔本に再封印された結果を齎した。
「……で、遺言はあるかな?」
オオスは小鈴が何をしようとしていたかわからないので一応の弁明を聞くことにした。
店内をよく見ればやや傷んでいるような本が並んでいた。先程の妖怪は煙々羅かと推測した。
「煙々羅に字喰い虫を退治させようと、阿求の家の本も字が食べられたり…そうこれは人助けです!」
小鈴はオオスに阿求から預かった本を開いて見せた。小鈴の本の方が多いが。
「字喰い虫となると…確かにただの煙では解決しないでしょう。ですが、他に方法はある筈。香木の類や退治屋に頼むといった…」
オオスは小鈴の安易な発想に対して解決法を提示した。そして、阿求へも説教しに行くことにした。
小鈴が解決すると言って預けたのだろう。恐らくどういう手段で解決するのか知らなかったのだろう、同罪である。
「で、でも、ほら!ここに妖魔本があるわけですし、再封印すれば皆幸せですよ!」
小鈴はオオスがやりそうな手口で訴えた。実際、オオスも再封印できる準備をすれば真似したかもしれない。
字喰い虫相手への対処は必要な物を用意する手間やコストパフォーマンスが高かった。
逆にいえば手間と時間さえあれば出来なくない。
面倒なところである。手早くやってしまいたいという気持ちもわからなくはない。
「……再封印の準備はちゃんとやっている?」
オオスは小鈴の理屈に納得がいったので質問した。オオスも人のことは言えないので多少は多めに見るつもりだった。
だが、
「煙々羅の妖魔本を読めばわかるはずです!」
小鈴はそう自信満々に宣言した。
オオスはこのクソガキ、中途半端な知識で妖怪を呼び起こしやがったと確信した。
「具体的にどうすれば良いかその本に書いてあるか説明してください。私は知っていますが」
オオスは先手必勝で不安定な妖怪に権能である諧謔を使用した。
相手が煙々羅ならば神木なり御札なりを炊き上げした神性な煙で対応すれば良いと鈴奈庵にある別の妖魔本で知っていた。
そうしない場合、煙々羅は火事を起こす煙を発生させる。
煙を水などでただ消すだけでは人伝いで伝播し、別の場所で火事を起こそうとする。
妖怪の煙に神性な煙をぶつければ退治、再封印が可能である。
地味にオオスが適当に何かを燃やして煙を発生させるだけでも退治できた。
正体がわからないので可能性としての霊夢を引っ張り出して諧謔するという奥の手を使用してしまった。
なお、正体がわかっていた場合、神性な煙を出すというのは神性を認めたことになるのでオオスは敢えて面倒な方法で退治する。もしくは霊夢等に任せただろう。
第三者的に見れば煙々羅程度である。本気に成りすぎたオオスは最悪の場合の最良の妖怪退治人である霊夢を頼っていた。…無意識の自分の選択に情けなさを覚えていた。
当たり前だが、オオスの眼の前でやらかした小鈴はその威圧感に怯えていた。自分に向けられた物だと思えば大人でも怖い。
小鈴は必死になって妖魔本の煙々羅の項目を読んでいた。
だが、
「ええと…あ、あれ?」
小鈴は封印の術が載っていないことに気がついた。…せめてもの時間稼ぎに他の頁を読む。ついでにどういうのが弱点だろうかと推理していた。
当然だが、小鈴の無駄な足掻きはオオスにバレていた。
「その妖魔本には封印ないし退治の術は載っていない。…探している間に載っている妖魔本を持ってきてあげたよ」
オオスは親切にも小鈴に目的の品を持ってきてあげた。オオスは小鈴に満面の笑みを浮かべている。
話は変わるが、人は怒りが限度に達すると笑みを浮かべることがあるらしい。
小鈴はその日、すみませんとしか喋れなくなった。一日で終わるだけ有り難いと思えとオオスは思った。
このままだとまたやりかねないと思ったオオスは鈴奈庵を霊夢にも見張って貰おうと決意した。
霊夢ならば妖怪の封印も問題ないと今回、自分自身で無意識に認めていた。
オオスの不在もある中で似たようなことを起こされたら最悪である。どうやって霊夢に自然体で鈴奈庵の妖魔本に関してバラそうかとオオスは考えた。
伊吹萃香への有効打となり得る方法を探すよりも人里が優先である。
オオスは善良なる里人としてクソガキである小鈴に不利にならないように策を練っていた。
オオスは萃香相手に殺る気満々だった。だが、萃香相手に殺ろうとする度に横槍が入らないか不安だった。
どんなに遅くても最悪でも今年の夏までにはできるだろうとこの時のオオスは考えていた。
異変を起こすような可能性があるのは守矢神社くらいだが、妖怪の山関連の信仰を取りまとめている。
また守矢か現象はどうやっても夏までは動かないと推測していた。実際、オオスの推測は正しかった。
現在の状況から未来を完全に予測できる者がいればそれは神の視点を持つものだけだ。
そして幻想郷に関与しない勢力であるはずの場所にいる神に近い存在、仙人達が目指している立場に居る馬鹿者は現在進行系で退屈であった。