春、幻想郷は花見の季節となっている。オオスは伊吹萃香をしばき倒す準備をしていた。
だが、花見を楽しむのに無用な喧嘩を吹っ掛けることは無粋である。
オオスは博麗神社が妖怪神社となる桜の月夜の宴に参加していた。中には萃香もいた。
早苗は酒が苦手なようであり、オオスは咲夜に頼んで飲まなくても済むように裏から手配していた。
なお、守矢神社の神二柱は来ていない。どうも忙しいらしい。
早苗はオオスと会ったら後で来るように呼んでこいと言われていた。
だが、今回はめぐり合わせが悪く、中々声をかけられなかった。
中々来られない早苗に絡んでくる人妖達とオオスがあちこち移動するからである。
早苗は信仰も集める為の顔合わせも兼ねているので彼女ら無下にはできなかった。
特に岡崎夢美は守矢神社の巫女に興味津々であり、最も早苗に絡んでいた。
三妖精は早苗へ十字を切っていた。妖精達にとって夢美のマッドはまだ記憶に新しかった。
なお、チルノだけは完全に夢美のことを忘れているようであり、気にしていない。
チルノは最強を名乗るだけあり、何とかマッドから逃げ出せた。その為、覚えていなかった。
オオスは妖精が十字を切る行為を見てそれをどこで覚えたのか気になった。
「それって誰に教わったのかしら?私は十字架は効かないけれど」
悪魔であるレミリアが妖精に十字を切る行為について尋ねていた。
後で聞けるかもしれないとオオスは思いなおした。顔見知りなのか普通に話している。
レミリアは忘れても、側にいるパチュリーには後日聞けるだろうとオオスは判断して挨拶まわりをしていた。
とにかく、博麗神社の宴会となれば、様々な種族が集まる。もう既に鬼がいるくらいである。
香霖堂の霖之助は来ないが、別に宴会が嫌いなわけではないとオオスは知っていた。
烏天狗が嫌だったりするのかも知れないとオオスは勝手に共感したりした。
実際、オオスの想像通り霖之助は酒飲みで面倒な天狗に絡まれたくないので辞退していた。
春は幻想郷ではとにかく宴会するのにあらゆる理屈を考え出す季節である。
香霖堂の側の桜でも霊夢たちは間違いなく何かしら名目を考えて宴会を開く。
霖之助はそちらに参加するつもりではあった。
外来人である早苗がいると知っていたら今回の宴会も参加していたのだが、そこまでは把握していなかった。
「黒いの!アンタが突入して来て逃したから、怒られたのよー。もう」
先日再突入してきた魔理沙とそれに遭遇した『癲狂櫟林』に所属する朱鷺子が絡んでいた。
オオスの部下だが、表向きは違うので他と変わらぬように振る舞っている。
朱鷺子は結構酔っており、発言内容が微妙に危うい時があるので周りは水を飲ませていた。
「何だっけなぁ…どっかで見たことあんだよなお前」
魔理沙は悪意なくふと思い出したかのような言葉を漏らした。
朱鷺子が『癲狂櫟林』に所属する前に会ったことを微妙に思い出せないでいた。
「赤いのが!ヒトの本を奪った時!」
朱鷺子は鳥の妖怪だが、鳥頭でない。今更思い出した魔理沙に激怒していた。
「赤いのって誰だ?霊夢?」
魔理沙は朱鷺子のことをボンヤリ思い出せそうで出せなかった。
朱鷺子が強くなっているので前にしばき倒した妖怪と同一と認識できない為でもあった。
「アンタ、赤いのの親って自称してたでしょ!」
朱鷺子は魔理沙が滅茶苦茶な理論で霊夢の代理で叩きのめされたのを覚えていた。
何故、あそこまで理不尽なことをして覚えていないのかと思った。何か疲れてきた。
「んー……すまん。忘れたぜ」
魔理沙は思い出したが、面倒なので忘れたことにした。
霊夢が楽しそうに本を読んでいるからという理由でボコボコにして取り上げて香霖堂に売っぱらった本の持ち主とまでは思い出した。
「ハァ、ハァ…もう良いわ。良く考えたら私もアンタの名前とか知らないし」
朱鷺子は良く考えたら赤い巫女も眼の前の黒いの、魔理沙の名前も知らないので辞めた。
覚えると憎しみが貯まるとオオスが勧めた為である。信仰対象のオオスの勧めではあったが、強くなったからと言って復讐までやると迷惑をかけると判断した。
オオスは朱鷺子を見習うべきである。オオスは萃香に報復を全力で考えている。
オオスは強くなる為には負の感情も利用出来るならするべきだと思っている。
オオスは目には目を歯には歯を、君が泣くまで殴るのを辞めない精神であった。
霊夢は偶に軽い喧嘩を売るが、萃香には全力で喧嘩を売るつもりであった。
「……そういえば、お前に名乗っていなかったな」
魔理沙は全部思い出したので朱鷺子に名乗っていないことを思い出した。
名乗りを挙げて酒の肴にまた弾幕ごっこでもしようかと思い立った。
「危ないから距離とってやってくださいよ」
オオスは魔理沙を止める気はないので注意した。霊夢が何故か睨んでくるが、オオスは無視した。
弾幕ごっこは映えるので良いと思う。花火大会でも開けたらと思った。
だが、勘違いしてガチで異変クラスの技を使いそうなのがチラホラいるのでやりはしない。
オオスは萃香とやれば普通に重体になるので今回はやらない。魔理沙と朱鷺子の二人ならばそこそこで何とか収まるので問題ないと思っている。
なお、他勢力は朱鷺子の存在を魔理沙の再突入で知った。
オオスと出逢うまでは基本的に読書して満足していた中級妖怪なので知られていなかった。
冬の間、オオスが地獄のような特訓に巻き込んだ結果、それなり以上の強さに成長していた。
『癲狂櫟林』の層の厚さの判断材料になっていた。今までそこまで名の知られていない妖怪がオオスの眼により冬の間に強化されていた。オオスは部下の成長を喜んだが、本人は未だに雑魚である。
神霊である神奈子からすればオオスの成長の鈍化は当たり前だと思うような原因があった。
オオスも大体わかっているが、矜持を変えるわけにはいかなかった。
弾幕ごっこが博麗神社に被害が出ないが、見える範囲で始まった。
オオスは因幡てゐが仕切る賭けに朱鷺子へ1円賭けた。魔理沙が勝つと予想が多い。
霊夢は勝手に賭けを仕切り出したてゐにショバ代を請求し始めた。
10:0、9:1と交渉している。なお、霊夢:てゐの取り分である。
最初に全部寄越せという霊夢の横暴に滅茶苦茶だとオオスは思った。
てゐがいるように今回は永遠亭の兎やら宇宙人やらも参加していた。
清蘭達は近くて遠いような立ち位置にいる元同胞の鈴仙と話していた。
ちなみに当初は兎鍋に反対するデモと鳥鍋に反対するデモが衝突した。
結果的にどちらも出すことになった。
「貴方のところにも玉…彼女達がいたわよね?」
輝夜はオオスのどちらにも喧嘩を売るようなおかわりの仕方にツッコんだ。
永遠亭の輝夜は兎鍋を食べないようだが、オオスは鶏鍋も兎鍋も食べている。
「好き嫌いは良くありませんよ。まぁ、普段は気をつけていますし」
オオスは輝夜にそう言って返した。普段の食事は気をつけているから宴会ではチャラである。
その後、妹紅と輝夜が対面して喧嘩になりそうだったのでオオスは止めた。
この二人は死ぬこと前提で戦い出すので危ないからである。不老不死も大概である。
飲み比べで勝負し始めたのでオオスは適当に切り上げた。
永琳はオオスへこれを放置していくなと声をかけたが無視した。
その後、アリスへと向かった時、オオスは奇妙なことを尋ねられた。
「…魅魔って覚えているかしら?」
アリスから前に見た悪霊のことを尋ねられた。オオスは覚えているが、どうかしたかと尋ね返したところ、また今度話があると言われて了解した。
その後、オオスは疲れてきたところで何か芸をしろと無茶振りされた。弾幕ごっこは終了である。
ちなみに順当に魔理沙が勝利した。普段よりも調子の良い朱鷺子は善戦していたが、決め手に欠けたようだった。
オオスは1円(現代換算約2〜3万円)を失ったが、それ以上の価値を得たとして朱鷺子を褒めた。
「お熱いようだねぇ」
萃香がそんなことを朱鷺子とオオスへ言ってきた。
オオスは萃香が朱鷺子をからかったと認識した。
「酒が過ぎるわ。この風来坊め」
オオスはそう言って萃香から伊吹瓢を取り上げて中身を呑んだ。
萃香は呆れた顔をしてオオスを見た。度数が強い酒にむせそうになったオオスは気が付かなかった。
そして、不意打ちとはいえ手札を明かしたとオオスはやってしまったと思った。
心を空にする技の延長だが、萃香にも通じた。二度目は怪しい。
オオスは萃香に伊吹瓢を返しつつも策を練り直すことを決意した。
「こいつ、こんなんだぞ。お前ら」
萃香はオオスが気がついていないのを確認して何名かに指を刺して言った。
朱鷺子に抱きついて褒めたと思ったら急に萃香にキレて来るような奴である。
もう少し異性とか気にした振る舞いをしろという意味である。
何人か眼を向けたがその先にいた奴は度数が強い酒を一気飲みしたのでそれどころではなかった。
少し経ち落ち着いたオオスは春告鳥の別名を持つ鶯を題材にした芸を始めることにした。
霊夢は神社に相応しい物をしろと言うが、オオスは当然のようにそれは無視した。
「鶯のけはひ興りて鳴きにけり」
緊張した空気を冷ますように手拍子が起こり、どこからか鶯の声が聞こえてきた。
「鶯も花の色香に酔い心地、お前もしばしその下蔭で憩えよ」
日本舞踊のようなやわらかな動きで歌い上げる。その先の桜の花に自然と皆目が行った。
「そら、花は土から咲いて土に散る」
桜の木の下にいる酔い潰れた妖怪達や妖精を指して言った。
桜の花びらが散る様と、泥酔した彼女らを花に喩えていた。
「……花の酒がなくてどうして生きておれようか?」
花に酒、生きているからこその風情と滑稽さで締めくくった。
その光景を天より高い位置から見ていた者がいた。
「花は半開を見て、酒は微酔に呑む」
「それが天界に入る者の心得えよ」
地上の民の愚かな問に対して、聞こえもするはずがない距離でその返歌として言った。