宴会が終わり、自宅に帰宅したオオスは月夜で一人考え込んでいた。
当然だが、清蘭達は出てこないように言っている。少しの考え事くらいは一人でしたかった。
5割が伊吹萃香への対抗策である。残り2割ずつが東風谷早苗から言われたこと、アリス・マーガトロイドから言われたことでそちらを優先すべきと思っている。
だが、イラッとして伊吹瓢を取り上げることに手札を一つ使ってしまった。思考の半分くらいそちらに行ってしまっていた。
萃香に1度だけならば現段階で辛うじて勝算のあるプランが出来ていた。
それでも千回やって一回くらいである。勝ちに行きたいオオスは手札の一つでも惜しかった。
まず、鬼の四天王のスペックだけで勝ち筋が薄いのに、萃香の密と疎を操るのは反則級だ。
同じ四天王の星熊勇儀は怪力乱神、鬼の力そのものであり、そちらも凄まじい。
萃香は呪術的な力は上だが、純粋な力そのものは勇儀が上だとオオスは見積もっている。
オオスは勇儀に死なない立ち回りはできてもどうやっても勝てない。体力切れで死ぬ。
勇儀相手ならば戦うよりもオオスは大人しく殴られに行くのを選択する。
その場合、自分が悪いだろうというのが大きい。勇儀から喧嘩を売られたらオオスは負けるとわかっていても当然のように買う。
萃香はオオスの自宅破壊といい、一発お見舞いしないとムカつくので戦うつもりでいた。
その為の準備として、鬼を知ることと立ち回りを脳内で常にシミュレーションしていた。
オオスは自宅半壊という被害にあったが、敵対しているわけではなく個人的報復だ。
萃香は鬼は嘘をつかないと言いつつも少しはあるかもと言葉を濁す。
長年生きた鬼の異端児は狡猾であるが、オオス的には悪とまでは言えない。
…そこまで考えていたところで、オオスは誰かが来たと悟った。
自宅付近の空間への干渉は徹底的に気をつけているのでおおよそ把握できる。
残り1割の憶測だったが、アリスの言葉で動くかもとは思っていたオオスは邪推を辞めて持て成すことにした。
「あら?驚かないのね」
月夜に降り立った八雲紫はオオスの歓迎の姿勢を見て口元を隠しつつそう言った。
…萃香が茶々入れようとしに来たのでスキマを使って入れないようにした。
「宴会では挨拶出来ませんでした。挨拶が遅れて申し訳ありません」
オオスは紫に非礼を詫びた。
宴会に来ていることは何となくわかっていたが、隠れている以上は声をかけづらかった。
「皆、気にしていないから平気よ」
紫はオオスの言葉に自分が好きでやっていることなので気にしないように振る舞った。
紫はできる限り宴会に参加しているが、基本的に誰にも見えないようにしていた。
あまり誇示するものではないし、変に疑われても困るのもある。
「それは宝玉と燕石を比べるようなもの、曖昧な差すら異なるでしょう」
オオスは参加していることをいないことと居ても気が付かないのでは違うと紫に伝えた。
紫がいると思うだけで宝玉の価値がある。いなければ燕石つまり価値も意味もないようなものだと断言した。
「……私が燕石かしら」
紫は思わず思考を言葉に悩んで、精一杯誤魔化した。
オオスはスキマ妖怪である紫を曖昧な差と喩えている。
萃香ではないが、紫としてもどこから言葉が出てくるのかと思った。
なお、この紫の思考停止前に萃香は後で煽る為に頑張っていた。
ネタはもうこれでいいなと思った萃香は紫達にバレない内に退散した。
肝心な事は聞いていないので後で紫と喧嘩になるだけである。
「宝石とした方が良かったですか?」
オオスは言葉選びが不味かったかと思ったので尋ねていた。
勿論、そういう意味ではない。萃香が聞いていたら爆笑してオオスにも存在がバレていた。
「言葉遊びよ。気にしないでくれると助かるわ」
紫は恥ずかしさから目を閉じて、咳払いの仕草をした。仕切り直しである。
「では、話を変えて。何故いらしたか尋ねても?」
オオスはわからないことはわからないので切り替えて尋ねた。
オオスは大体何の用件かは気がついたが、何故現れたのかはわからない。
「……須臾はプランクを超えると思うかしら?」
紫は言葉を考えて尋ね返した。どこまで推理しているのかということである。
それによっては紫も話すことを変える必要があると思っている。
「私にそれを聞かれるとは…」
オオスは紫の問に関して言葉選びに苦言を呈した。
須臾は10のマイナス15乗、物理学のプランクならばプランク時間であれば5.391×10マイナス44乗である。
オオスはそのままの意図と意味ならば超えると回答する。
須臾を『しばらく』という意味で聞いている謎掛けの類ならば回答を変える。
だが、量子論の父、物理学者のマックス・プランクのことまで考えると別の意味となる。
彼は宗教と科学の対立は有り得ない世界観を唱えている。オオスには微妙に認めづらい。
「ああ、いや、失礼を」
オオスは本質からズレた事を言ったことを詫びた。
どちらも違う問である。オオスは瞬間で可能性を考えて無難な答えで返すことにした。
「夢美さんがどうかされましたか?」
オオスは本題を切り出した。科学で統一された世界の人間である。紫にも伝えていた。
「…ええ、岡崎教授のことで合っています」
紫は口元を隠して回答した。ついでに夢美がオオスに下の名前で呼ばせていると確信した。
「これ以上は邪推になりますので聞きません。しかし、どうするかだけお聞きしたい」
オオスは紫に関して幾つかの可能性が浮かんだが、排して尋ねる。
妖怪相手に正体を看破すること程危ういことはない。曖昧なままの紫でいて欲しいと思っている。
「そう……少し残念ですわ」
紫はオオスが自分を尊重してくれているのを感じ取りつつ本心を漏らした。
とはいえ、それが一番有り難いことには変わらない。
「一つだけ。彼女の過去を開かないように」
紫はオオスへそれだけ告げた。これで意味が通じると判断した。
外の世界を本当の意味で推理してきた過去の持ち主に警告した。
「…なるほど。わかりました」
オオスは紫の言葉を理解した。自分の過去を見たのか、そもそもあの時を見ていたのかはどちらでも良い。
大事なのは、前にアリスへ魔法の森で行った過去視のような術を夢美には使ってはいけないということだ。
オオスも思考の片隅には置いていた。 オオスは異界ならばともかく、平行世界の概念に夢美ほどは詳しくない。
夢美が望むようなことがあればオオスは過去の夢美を観測できる可能性がある魔法に関して説明するつもりでいた。
それは主に3つの意味がある。4つ目はオオスの問により回答不可、不明となっている。
一つは夢美が元の世界の自分に吸収されて消える可能性を危惧している。紫にとっても夢美は有益と判断されているのだろうと一先ずは安心した。
二つは当然だが、繋がる可能性そのものを危惧している。異なる摂理や法則の幻想郷を観測した場合、今度こそ繋がる可能性が高いのだろう。
三つは紫は平行世界の概念を熟知していることを知らせに来た。
それも恐らく『現在の』夢美かそれ以上に詳しい可能性が高い。
スキマ妖怪というからには異空間や異次元の存在も認知できる幅が広い。
少なくともオオスの名の元にした世界、ドリームランドは知っていた。それが平行世界とまでなるとは驚くが、予想はしていた。
「他に質問はあるかしら?」
紫はオオスが理解したことと理解していないことを汲み取って言った。
聞いても今ならば答えても良いのだがそうなると…。
そこまで考えていた紫の思考を遮るような時間、須臾に男は回答することにした。
「月夜に花見、今からでもいかがでしょうか?」
オオスは紫へ提案した。酒が入っているが、まだ飲める。
紫へ無粋な詮索はする気はない。幻想郷の賢者はその在り方が美しいと思っている。
「…ええ、頂こうかしら」
紫は男の誘いに乗ることにした。知りたがりが自分の為に抑えてくれている。
紫はその想いを汲み取って返していた。紫は萃香がいないことに安堵した。
流石に長年の付き合いでなければわからないこともあるからだ。
月夜が沈み朝日が見えるその時まで二人は花見、月見酒の風情に浸っていた。