紫との月見酒の翌朝、オオスは輝夜と妹紅の襲撃に遭った。
二日酔いの状態で放置されたと怒り心頭であった。なお、互いに殺すことで回復したらしい。そこは永琳に薬を頼むとかではないのかとオオスは思った。
オオスとしては喧嘩を仲裁し、飲み比べで収めたと反論した。
その反論にイラッとした二人からボコボコにされた。
息の合う連続コンボを喰らったオオスは二人とも実は仲良いだろと改めて思った。
殴られ終わった後、輝夜からオオスから出された以前の問題の回答が見つかったと告げられた。
輝夜的にはあまり良い回答ではない。真偽はともかく輝夜が何か言いたいのだとオオスは悟った。
ちなみに永琳は輝夜から聞いていた。そのため、今ここで言うつもりなのかという反応をしてしまった。
月の賢者も輝夜には振り回されているとオオスのだなとそれを悟って、蓬莱人のストレス耐性を心配した。誰のせいだと思った永琳は心配するオオスを睨んだ。
思わず口走ってしまった輝夜はどこまで言うか悩んでいた。
今回、見つけた回答は輝夜は使えない。だが、存在することだけは伝えておきたくもあった。
妹紅は何の話かわからないが、昔話を思い出して何となく察した。
かぐや姫の昔話のように難問を吹っ掛ける側になっているのだろうと妹紅は察した。
オオスの難題はとんでもないものだろうと思ったが、見つけたとなれば…妹紅は止めはしなかった。
「今の一瞬に敵う物がないのであれば、私にそれを超える物を見せてください」
オオスは以前言った改めて尋ねた。自分で言うのも何だが、回答は無数にありそうである。
だが、オオスはありきたりな答えなど納得しない。
そして、
「私の口からはとても言えないわ。……でもね」
輝夜は呼吸を整え、オオスの目だけを見ていた。
この時、オオスは輝夜が本当に答えに至ったと確信した。
輝夜はどういう過程であれ真実を確信した者のする眼をしていた。
だが、それを選択するのは輝夜の在り方に反するので放棄したと悟った。
過程と結論が逆になるような答えなのだろうとオオスは推測した。
でなければ、輝夜は今答えを言えば良いだけであった。
「私はそれはしないけど、万が一も有り得るから…その…」
輝夜はこれって男に唾を付けるような事にならないかと急に恥ずかしくなった。
実際、輝夜の答えも懸念も正しいものである。
永琳は輝夜から相談されていたので、本当に悪い男に引っかかったと思った。
輝夜の意思でなければ永琳はオオスをボロ雑巾にでもしていた。
なお、妹紅は宴会で嵌められて二日酔いの原因をボコボコにしようと誘われただけである。
黙ってみているが、最初と今の空気の寒暖差に居心地の悪さを感じていた。
しょうもないことならば帰っていたが、長年の因縁の発端の逆を見ているので関係者としては見過ごせないというのもあった。
輝夜は顔を背けようとするが、赤くなるのがわかったので身なりを整えるだけに留めた。
下手に誤魔化すと返って恥ずかしいと輝夜は知っていた。何故、男に振り回されているのかと思いもするが、過去の罰なのだろうと必死で耐えていた。
輝夜は宴会に参加して状況を察して急いだのが大きかった。
何もわからないオオスは自分が何か悪いことをしている気分になっていた。
そのため、
「……良くわかりませんが、後から回答しては駄目なのでしょうか?」
オオスは輝夜に率直に尋ねることにした。
正直、オオスからすれば意味がわからないからである。
風情も何も輝夜の暴走であるのならば、深く追求するつもりはなかった。オオスは純粋に輝夜を心配して落ち着かせようとしただけであった。
「あっ、おい、馬鹿野郎!」
妹紅は思わずツッコんだ。第三者だが、ツッコまずにはいられなかった。
輝夜の先延ばししたくない乙女心を汲み取れと妹紅は思った。
因縁や憎悪等、輝夜には色々思うところはあるが、一人の女として流石に声が出た。
だが、
「……ふふふ、言ったわね」
輝夜はこの瞬間、この場の誰よりも頭脳が冴えわたっていた。
妹紅が思わずツッコんだお陰である。輝夜より先に罵倒してくれたので一瞬だが、正気になれた。否、正気ではない。
永琳は輝夜に遅れて勘付いたが、それで良いのかと思わず輝夜を二度見した。
「後からの回答で問題ないならば良いわ。この場では引きましょう。ええ…」
輝夜はオオスの言質を取ったことを歓喜していた。憂いはなくなったので他を探すだけである。
「……あれ?これ、ピンチ?」
オオスはなりふり構わない雰囲気の輝夜に背筋がゾクッとした。
直感でしかないが、一番不味いことを言ってしまった気がした。
「……姫様?それは流石にどうかと」
永琳は言質をとったと悪どい顔でそのまま立ち去った輝夜を追いかけた。
ついでに元家庭教師としてそういう考えはよろしくないと嗜めた。
「なんだろうこの終わり方。……私の恨みつらみとか考えて欲しいのだけど」
妹紅は輝夜とオオスの会話に置いてきぼりにされてそう呟いた。
同時に輝夜が場の勢いでとんでもないことを言ったような気がした。
女の勘であるが、輝夜は今の言質で目的を達成したら永遠に後悔しそうだと妹紅は思った。
それはそれで復讐になるのだが、イラッとした。
「はぁ…」
妹紅はため息を吐いた。
妹紅は蓬莱の薬を強奪し、飲んでから1300年以上生きている。
輝夜と再開してから数えれば300年以上になる。輝夜との殺し合いで生きている感覚を取り戻しつつあったかもしれない。
だが、オオスと出会ってから色んな意味でこれまでの人生に無い程様々な感情や経験を得ていると思った。良くも悪くも生きているのは現在だろうと妹紅は感じている。
だが、
「取り敢えず、お前は女の敵ということで殴らせてもらうな」
妹紅はオオスが逃げられないように肩を掴んで言った。
先日酔い潰れた慧音を連れてきたこと、現在の自分のモヤモヤとした感情、宴会で見た面子についでに輝夜の分である。一発で済ませてもらうが逃げるなとオオスへ圧をかけた。
「……最近、殴られ過ぎてあたまがおかしくなっているんですよ」
オオスは妹紅に命乞いをした。実際、最近枷が外れやすくなっている。
自然回復では間に合わないので魔法を使用しているが、自然回復で筋力増強等の鍛錬的に無闇に使用したくないというのもある。
今回、悪いことしたような気もするのだが、殴られ過ぎたオオスは困っていた。
「安心しろ、頭でなく腹にしてやる」
妹紅はオオスに心配するなと満面の笑みで思いっきり腹をぶん殴った。
それは自分の1300年以上の蘇生経験から来る一撃であった。
声も出ず、苦痛に悶え苦しむ打撃であった。
オオスは妹紅の配慮された一撃でしばらく苦しんだ。
妹紅は悶え苦しむオオスを監視していたので回復も使えないし、使うつもりもなかった。
オオスは1300年の民間療法の極意ともいえる一撃を身をもって学んでいた。
妖怪主体の幻想郷では使えない等馬鹿なことを考えながら、3時間程で回復した。
どうでも良いが、妹紅はオオスが耐えきるとは思わなかったので素で驚いた。
なお、訓練された軍人でも苦痛で5分経たないで気絶する。妹紅としては耐えきった人間は初めて見た。
これも新鮮な体験ではあるが、妹紅としてはやはり何とも言えない気分になった。