博麗神社春の大宴会から数日、オオスはある種の違和感を抱いていた。
雨の匂いを感じ取って予想できる人間がいるが、オオスの違和感はそれに近い。
オオスは咄嗟に妖夢の白楼剣を思い出した。
人の迷いを断ち切る刀で、幽霊に対して使えば天界へと成仏させることが出来るという。
迷いの無い人間とは悟りを開いた人間であり、成仏させることになるのでそうなると理解できる代物だった。魂魄家の家宝らしい。
妖夢が幽霊に使ってしまったところをオオスは見たことがある。近いものを感じていた。
後に四季映姫に怒られたそうであり、妖夢は使う時は注意するようになっていた。
妖夢ではないような気もするので、オオスは気の所為とこの時は結論づけた。
流石に天界は存在は知っていてもそこで誰かが何かやらかすとは思ってもいなかった。
数日前、ある天人くずれが天界で緋想の剣を抜いた。
何もかも平穏な天界で秘宝の一つが持っていかれたのだが、騒ぎ立てる者もいない。
閻魔はおろか当事者の天人達も把握していない。
違和感を抱くだけでも凄まじいことであり、オオスが何か言っても誰でも気の所為だと断言する。
幻想郷には何の変化もないのだから下手に騒いでも無駄であった。現在はまだ4月だ。
梅雨明けくらいならば他に違和感を持つものもいたかもしれない。
そんなオオスはアリスに宴会で尋ねられたことに関して魔法の森を訪ねていた。
オオスとイーグルラヴィの面々が管理し、鈴仙も偶に来る庭園は通常通り働いていた。
オオスは永遠亭へ薬草やら何やらを持っていく鈴仙と鉢合わせないように動いていた。
人里の薬売りとして働いている鈴仙は薬の効能はともかく説明が下手と好評である。
オオスは慧音とどちらが下手か子ども達に尋ねたことがあるが、同程度とのことだった。
オオスは鈴仙もまた催眠療法ができる逸材だと確信している。能力的にもおかしくない。
自宅地下にある練習場に放り込みたいが、鈴仙は輝夜のペットなので了承が必要だった。
慧音とは違い叩き込みたいところである。
決して慧音の分の八つ当たりをしているわけではないとオオスは言い訳の思考を辞めた。
「…なるほど、そういうことでしたか」
オオスはアリスと一緒にいる夢美を見て理解した。
時系列が違う気がするが、平行世界が同一なのはあり得なくはない。
夢美は可能性空間移動船にて平行世界の自分と戦い片方が消滅するはずだったと言っていた。
思考が飛躍しているような気がしないでもない。夢美のいた平行世界の幻想郷がアリスもいた同一の世界かは不明である。
「…そういうことよ」
アリスは勝手に納得したオオスを見て推理して返した。
岡崎夢美が平行世界の人間であると確信しているアリスはオオスの過去視の儀式を思い出していた。出来ないかという相談である。
なお、アリスは魅魔がこちらを感知した際にオオスが水晶を叩き壊していたのも覚えているので無理かもしれないと思ってもいた。
「ごめんなさい。私、ここに来いって言われただけなんだけど」
夢美は勝手にツーカーしている二人にツッコんだ。置いてきぼりである。
夢美はアリスに世話になっていたし、オオスにも世話になっていた。
二人が仲良くしているのは今初めて知った。夢美は思わぬ伏兵に動揺してもいた。
「説明して良いですか?」
オオスはアリスに尋ねた。オオスのは推測でしかない。アリスに深くは聞いていないからだ。
その範囲で説明するという意味である。アリスが夢美に説明していない以上はそうなった。
後、八雲紫にオオスは禁じられているのも説明しなければならない。
「…お願いして良いかしら?」
アリスは違和感を抱いたが、オオスに説明を頼むことにした。
そもそも自分の魔法ではないので明かすのも礼を欠く行為というのもあった。
「最初に一つ、今から説明する魔法は使用禁止と言われました。…正直、説明してもぬか喜びさせるかも知れません」
オオスは夢美とアリスに気を使いながら説明することにした。アウトと思えば途中で止める。
とはいえ、儀式魔法みたいな物なので現状の夢美では再現できないだろう。…年月が経過すれば別であり、自分でたどり着くと思われた。
オオスは紫の警告は受けていたが、そこまでは隠す気はなかった。
人の意思を尊重するオオスとしては何でもかんでも秘匿するつもりはなかった。
それこそ夢美と紫で話し合って決めて欲しい。
というよりも紫はどこかでこの会話を聞いているとオオスはほぼ確信していた。
でなければ、宴会のすぐ後にオオスの元へ来ないからである。
「対象の過去を映す魔法ね。…いや、私も出来なくはないけど、魔法でないし偶然性も高いわね」
夢美はタイムマシーンならばギリギリ作れなくもないので理解した。
ついでにオオスの魔法の詳細はわからないながらも自分には出来ないと悟った。
オオス曰く、然程難しい魔法ではないらしいので時間をかければ可能だろうが。
そもそも時空間を弄ればこの世界の『神』に出くわす可能性が高かった。
夢美の世界の平行警察のように罰せられるだろうとは思った。観測できないので現状は仮定でしかないのが残念である。
同時に『八雲紫』がこの事を説明しないのは違和感があった。
推測でしかないが、この世界のどこかにも岡崎夢美が存在するという可能性が高くなった。
平行世界の幻想郷にも助手のちゆりと同一存在がいた。可能性が皆無なわけではない。
その場合の自分はどのような研究をしているのか気になった。
既にこの世界の幻想郷と自分のいた世界の幻想郷の物理法則の違いは観測できていた。
この世界の自分に吸収されることは恐らくない。そして、この世界の未来において平行警察がいない可能性が高い。
…飽くまで可能性なので全て仮説でしかないので夢美は一旦、思考を辞めることにした。
「これ、紫からのメッセージね。悪いことさせてしまったわ」
夢美はオオスが一言も言わない犯人をそのまま告げた。
別に他意はないが、オオスに気を使わせているところが夢美としては減点である。
「えっ、アイツ?」
アリスは八雲紫の名が出てきたので嫌そうな声を出した。
アリス的には紫は胡散臭いのであまり好きではない。
なお、オオスも胡散臭いのだが、別カテゴリーに分類している。
「アイツかぁ…面倒臭いなぁ」
アリスは本心からウンザリしたような声を取り繕いもしない。
最近だとアリスの作成した人形を盗んでいる疑惑があるので、外の人形が欲しいと溢したことがある。
「面倒臭いわよね」
夢美は紫の評価に同意した。オオスは気を使っているようだが、本気で面倒臭い。
「……あー」
オオスは紫の評判の悪さに少し言おうと思ったが、辞めた。
二人の反応的に何か裏があると悟った。オオスも判断材料に欠けるので言いにくい。
なお、当の紫は二人へメッセージがうまい具合に伝わったこと、オオスが何かフォローしようとしてくれたので良しとした。
オオスは結構悩んでいるので放置しないで出てくれば確実に好感度が上がるのだが、紫は自分について深く聞かなかったオオスの判断なので放置していたりする。
三人とも八雲紫が面倒臭いという感情は共有して、その場は流れることになった。
オオスは空気を変えようと菜園のお裾分けと、採れた春の食材を酒のつまみとして軽い宴の席を設けた。
オオスは念の為、紫の分を小分けにして置いた。すぐに無くなっていたので紫がその場にいたことを確認した。
紫らしいのでオオスは軽く流したが、他二人が知れば紫に出てこいと責め立てた。
二人からすれば紫はオオスを利用して自分の妖怪らしさを示しただけだった。
それぞれ違うメッセージは伝わっていたが、胡散臭い妖怪そのものでしかない。
オオスはそれだから紫は妖怪やっていると思っているので別に気にしないのだが。